No Room For Squares !

レンズ越しに見えるもの または 見えざるもの

Saxophone Colossus 〜 ありがとうヴァン・ゲルダー

2018-03-10 | 音楽




「貴方の落としたのは金の斧ですか、それとも・・・」。
もしこの二枚のレコードのうち、好きな方をあげると言われたらどちらを選ぶだろうか。一見綺麗な左を選んだ方、それはごく普通の国内再発盤で、中古レコード屋に行けば1000円未満で買うことができるだろう(それでも僕はこの国内版を20年以上聴いてきた)。一方、右側の霞んだ色合いに見えるジャケットの方、これこそ現在は入手困難、正真正銘のオリジナル盤である。価格の話をすると嫌らしいけど、低く見積もっても10万円以上の市場価値があり、程度が良ければ軽く15万円オーバーという代物である。録音日時は1956年6月22日。ニュージャージーにあるジャズレコーディング技師のルディ・ヴァン・ゲルダーのスタジオで行われた。ヴァン・ゲルダーはブルーノートレーベルを含む、ジャズの名盤を数多く録音した神様のような人で、一体どれだけ仕事したんだという数の録音を手がけている。残念なことに2016年に亡くなっている。ソニー・ロリンズは存命しているが、秋田県に住む僕が彼の生演奏を聴く機会はもうないだろう。1956年の空気を閉じ込めた、このオリジナル盤を折に触れ聴くのみだ。このアルバムでは、セントトーマスという曲が好きな人と、ブルーセブンという曲が好きな人に分かれる。でも僕は、ユー・ドントノー・ホワットラブイズのサックスの音の震えに痺れる。その音の震えはオリジナル盤で聴くと凄みさえ感じる。

ちなみにこのレコードは、「完全オリジナル盤」とか「ニューヨークオリジナル盤」と呼ばれる。録音はニュージャージーなのだが、レコード会社のプレステッジの所在地(レコードのレーベルに記載された住所)によって識別するからである。オリジナル盤としての経済的価値は別にして、1956年にプレスされた、そのレコード。当時新発売したものを誰かが買ったレコード。それを60年後に極東の地で聴くなんて、ロマンの塊ではないか。名演奏を残したロリンズのみならず、それを形にした。ヴァン・ゲルダーに感謝する。このレコードは昨年の夏に入手したのだが、国際便の荷物到着が謎の遅延を起こした。それが到着したのは、丁度ヴァン・ゲルダーの死から一年後の命日だった。

追伸:僕の物件は、ジャケット自体は綺麗だけど破れあり、盤もA面の前半はプチノイズ多しで、価値は落ちると思います。でも益々入手困難なので、そのうち更に高騰するかもしれません。


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6 コメント

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アナログ (シュタインメッツ)
2018-03-10 18:22:28
デジタル化の流れは、「ネヴァー・エンディング・ストーリー」の虚無に覆われるシーンを連想します。

ところが最近は、アナログ盤の売り上げが増え、若い人が興味を持ったり、LPプレスライン(工場?)が日本に作られたり、いいですね。

この録音はDSで聴いていますが、超有名盤なので高そうです。自宅の装置では、デジタルよりもLPの方が良いねと音に関心のない奥さんと娘もわかります。

ヴァンゲルダーというと、ヴェートーヴェンの四重奏の録音を持っています。 ジャズではないのでお手頃価格でした。

一関のベイシー、菅原さんは菅野沖彦さんの「レコード演奏家クラブ」でお見かけしたことがあり、一度は行ってみたいですが、音の状態が良い時とそうでない時があるようですね。
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シュタインメッツさん (6x6)
2018-03-10 18:50:07
レコードは音もそうですけど、コレクションしているという実感が良いですよね。
針で聴くという原始的な手法でなぜ、あんなに良い音が出るのか不思議です。
一般的には音が良いとうのは、ノイズがないとか、クリアだとか、そういうことが喜ばれるかと思います。
サキコロのオリジナルは、サックスの音の震えとベースの明瞭さ、そして「ドンッ!!」と来るドラムスのリアルさが特徴かなと思います。ノイズはありますが、音に関心のない人も確かに比較するとこちらが良いと言います。人間の耳も不思議ですね。
ヴァンゲルダーというと、ヴェートーヴェンって知りませんでした。てっきりジャズばっかりと思っておりました。ちょっと興味あります。

追伸:菅野沖彦さんの「レコード演奏家クラブ」に行かれたことがあるのですか?凄い!
ベイシーは菅原さんは色々なところに音のスランプについて書きますが、僕はいつ行っても全く分かりません。杞憂かと思います。
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Unknown (carmenc)
2018-03-12 22:56:24
私にとって大事なアルバム
初めて買ったジャズアルバムです。
普通の喫茶店で客が持って来たのをかけた音を聴いて、衝撃を受けてそのミュージシャンのレコードを買いたいと言う一念で何と言うアルバムなのか分からずロリンズと言う名前を探してやみくもに買ったのですが… 後で名盤だと知ることになったわけですが、その時購入した2枚のアルバムをしょっちゅう聴いてました。
残念な事にジャケットが違うのです。
ただ、そのジャケットにはロリンズにサインをしてもらってるので私には宝物です。
エンジニアの事には無知でした。
この方の録音のを持ってるかもしれないけど、自分で上がれないロフトにあるのでたしかめられませんが、サヴォイのエタ・ジョーンズは確かに持っています。
初めスタジオは家の中に作って、その後に新しく作ったようですね。建物も素晴らしいし環境も素晴らしい。
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carmencさん (6x6)
2018-03-13 07:22:10
サキコロが最初のアルバムですか。それは凄い。最初の一枚がいきなりサックスの頂点ですものね。しかも、事前知識なしに行き当たったことが素晴らしいです。
後年のロリンスさんは、ノー天気に元気なイメージで、二度と聴けなそうなレジェンドを優先した結果、一回も生演奏を聴いたことがありません。一回聴きたいなと思います。サインも羨ましい。

追伸:「Way Out West」のジャケット裏面に、スタジオでロリンズを迎えるヴァン・ゲルダーが写っています。
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Unknown (carmenc)
2018-03-21 01:12:34
厚生年金の楽屋でお会いしたのですが、たまたま居合わせた阿部克自さんに写真を撮ろうって言われて、ロリンズと2人で撮っていただいてます。
そのコンサート、その後の二日間はただで入れる事になって3日間通いました。だからアルバム3枚にサインをもらいました〜♪
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carmencさん (6x6)
2018-03-21 07:34:10
なんと!
あの阿部克自さんにロリンズとのツーショットを撮って頂いた。すごい話ですね。阿部さんのことは当初は知らず、あとで雑誌の特集で知ったときは本当に驚きましたよ。秋吉敏子さんのあの写真が印象的ですよね。

3日間通って3枚のサイン、お宝メモリーですね。
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