わたしの魚(ウォ)キペディア 第51回 かじき
カジキといえば給食で出た“カジキマグロの照り焼き”が思い出されます。醤油の下味をつけて焼かれた硬いカジキマグロをさきわれスプーンでほぐして食べ、食パンを食べ、そして牛乳を飲む。いま考えるとすごい組み合わせでした。
それから社会人になるまでカジキと出会うことはほぼなく過ごし・・・。
二十代後半のことです。
いつも行く居酒屋さんで煮込みを頼むと
「カメさん、今日ツキンボあるよ、ツキンボ」
と仕入れ担当の人に声を掛けられました。
黒板を見ると横書きで一番上に『◎突きん棒―めったに入りません!』と書かれていました。
「突きん‥棒?」
冷えた中生ジョッキ片手に首をかしげていると
「マカジキ、マグロや。生やで、めったに入らんよ。ちょこっと切ろか?」
と言われました。十年近く通っていておすすめをされたことなど一度もなかったのに何でこんなに積極的なのかを訊ねると
「うまいしもう二度と入らんかもしれんから」
という返事だったので即座に頼みました。
わさび醤油で食べたそれは本当に美味しかったです。
マグロの色も深く濃いきれいな赤で、身はしっとりとしていました。
帰宅し、生のカジキマグロを食べたことを主人に告げると味の感想を訊かれました。
「わりといい団体旅行の宴会のスタートで、一人に一つずつのお刺身のマグロをハイパーにグレードアップした感じ。私はこの味好き」
静かに頷く主人でした。
店を始めてからは築地市場内で仲買さんから紹介された『カジキ専門店』で、いい部分の塊からほんの少しだけ分けてもらったりしていました。仕入れに携わる人はマカジキをマカ、メカジキをメカと呼ぶというのも知りました。
カジキのファンの方がいらっしゃるというのにも驚きました。本マグロより好きだというお客様もいらっしゃいました。
年に一度か二度はマカジキ・メカジキを仕入れていましたが、通っていたカジキ専門店は数年前に無くなりました。突きん棒漁を続ける人がものすごく減っているのだそうです。