goo blog サービス終了のお知らせ 

南の海のワナビ

小説家を目指す「南野海」の野望ははたして達成されるのか?

「インシテミル」おもしれえ

2007-09-02 14:21:05 | 読書
 米澤穂信さんの新作「インシテミル」読みました。
 角川や東京創元社で出しているのとはがらりと雰囲気を変えてます。新潮の「ボトルネック」ともまたちがう。
 今まででもっともミステリーらしいミステリーです。
 それにしてもこの人、スニーカー文庫からデビューしたかと思ってたら、いつのまにか新潮や文春で書いてますよ。しかもハードカバー。
 まあ、もともとあんまりラノベっぽくない作品を書いてる人だったんですが……。
 スニーカーで人気でなくて切られるかと思ってたら、いつのまにか売れっ子作家に。

 内容は、クローズドサークルもの。とうぜん連続殺人事件発生。
 ここからしていつもの米澤じゃない。
 ものすごい時給のモニターのバイト(一週間、外界から遮断される)に応募した主人公の結城。彼ら十二人は地下にある暗鬼館に幽閉されます。そこには十二体のインディアン人形が。
 このへんのノリから、これは文春じゃなくて講談社だろう? と思ってしまいます。
 もっとも彼らは変なあだ名で呼び合ったりしませんし、放送に過去の罪を暴露されることもありません。
 ただ、この作品がふつうのクローズドサークルものと違う点は、この中での生活にルールが強要される点です。
 夜の間は自室にいなければならない(鍵は掛からないけど)とかそういうことです。
 破った場合はガードというロボットが制裁をくわえるようになってます。
 さらにただいるだけで手に入る高額なバイト料の他に、さまざまボーナスがあり、その説明がされます。
 つまり、人を殺した場合、殺された場合、探偵をして犯人を暴いた場合と特典が付くのです。
 そして、各自の部屋には殺人のための凶器が用意されています。みな別々の。
 このへんのノリはまさに「バトルロワイヤル」であり、あるいは「カイジ」であり、「扉の外」です。
 要するに「インシテミル」とは「そして誰もいなくなった」に、デスゲームの要素をぶち込んだものなのです。
 「そして誰もいなくなった」の場合、集められたものたちは、その気になれば自室で鍵をかけて閉じこもることも、逆に夜はみなで集まってやり過ごすこともできましたが、「インシテミル」ではどちらも禁止されています。それを強制的に守らせようとするもの(ガード)が存在します。
 その結果、物語は「そして誰もいなくなった」や「十角館の殺人」とどう変わってくるのか?
 それは読んでのお楽しみってことですか?

 それにしても、この米澤穂信っていう人、今まで書いてきた作品から、あまりマニアックなミステリー読みじゃないのかと思ってましたが、かんちがいだったようです。
 全編からミステリーマニアの匂いがぷんぷんします。

インシテミル
米澤 穂信
文藝春秋

このアイテムの詳細を見る



ブログランキングに一票お願いします
  ↓ 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「ボトルネック」はちょっと痛すぎ

2007-08-25 14:18:07 | 読書
 ちょっと前の記事にも書いておきましたが、米澤穂信さんの「ボトルネック」読了しました。
 ううむ。これ、ミステリーじゃねえ。
 そもそもこれに出てくる青春は、今まで米澤穂信が描いてきた青春じゃねえ。
 なんかそういう感想を持ってしまいました。
 なんていうか、痛すぎます。しかもまちがいなくそれを狙ってやっている。
 まあ、版元が今まで書いたことのない新潮社ですから、担当の編集者の意向か、あるいは米澤さん自身が今までとちがうことを積極的にやろうとしたのかわかりませんが、今までの作品の中でもっとも異色です。
 この物語は絶望が漂っています。
 しかも、ラストにそれが消え失せるどころか、クライマックスからラストシーンにかけてたたみかけるように主人公を絶望が襲います。
 これはないだろうと、思わず言いたくなってしまいます。

 っていうか、そもそもこの本の帯にはこんな台詞が書かれてありました。

 懐かしさなんかない。爽やかでもない。
 若さとは、
 かくも冷徹に痛ましい。
 ただ美しく清々しい青春など、どこにもありはしない――。

 まさしくそのとおりの内容です。
 これはある意味、今まで書いてきた他の物語の否定とも取れる言葉で、そういう内容のものにあえてチャレンジしたんでしょう。

 いや、つまらないわけじゃありません。十分おもしろい話だと思います。
 ただ、今までのファンの中には拒否反応を示す人も少なくないかもしれません。
 それほどラストは衝撃的です。

 物語は、主人公がパラレルワールドに移動してしまうことからはじまります。
 そこには自分が存在せずに、かわりに死んだはずの姉が生きている。
 しかしちがっているのはそれだけではありませんでした。
 崩壊した家族が、こっちの世界ではうまくいっている。
 死んだ兄がこっちでは生きている。
 他にも、つぶれた店がやっていたり、なにより、死んだ恋人が生きている。
 そういう話です。
 
 そして、なぜ、世界がそれだけ変わったのか? 自分はなぜこっちの世界に来たのか? その謎がクライマックスに解き明かされます。

 ……痛いです。

ボトルネック
米澤 穂信
新潮社

このアイテムの詳細を見る




ブログランキングに一票お願いします
  ↓ 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

なんか今、米澤穂信がマイブーム

2007-08-22 23:18:58 | 読書
 なんかこの前の「犬はどこだ」に引き続いて、「夏季限定トロピカルパフェ事件」、「さよなら妖精」を読み直してしまいました。
 なんか知らないけど、南野の中でマイブーム。
 一回目に読んだときより、おもしろいと感じたかも。
「夏季限定トロピカルパフェ事件」の方は、ラストのこれからどうなるんだっていう展開が好きですねぇ。続くんですよね、これ?
 次は「秋季限定~」ですか? ちょっと楽しみですよ。

 あと、「さよなら妖精」の方なんですが、これが一番青春してますねぇ。
 キャラも一番作っていないというか、実際にいそうなキャラ使ってますし。(対照的なのは小市民シリーズですね。さすがにいないでしょう、こんなやつら)
 最後のシーンとか、ちょっと泣きそうになってしまいました。
 読み返してみると、これミステリーとしても、ちいさな事件の中に、最後の謎のための手がかりがあちこちにちりばめられているあたり、かなり読み応えがあります。
 まあ、ちいさな事件が最初に何件か起きて、その謎を解いていく。だけど最後の謎の手がかりはちいさな事件の中にちりばめられている。っていうのは、この人の得意技ですね。
 感心してしまうほどうまいです。

 というわけで、文庫落ちするまで待つつもりだった「ボトルネック」をついきょう買ってきてしまいました。
 これはまだ読んでないんで、感想は後日。

さよなら妖精 (創元推理文庫)
米澤 穂信
東京創元社

このアイテムの詳細を見る

夏期限定トロピカルパフェ事件 (創元推理文庫)
米澤 穂信
東京創元社

このアイテムの詳細を見る



ブログランキングに一票お願いします
  ↓ 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

米澤穂信のミステリー最高傑作は「犬はどこだ」だと思う

2007-08-07 22:19:24 | 読書
 角川学園大賞でデビューして、今や青春ミステリーの分野ではトップクラスの米澤穂信さんの最高傑作はなんだろうと考えたところ、キャラクター小説としては「小市民シリーズ」、ミステリーとしては「犬はどこだ」ではないかというのが南野の考えです。

 「犬はどこだ」をちょっと読み返してみたんですが、ふたつの事件が微妙に絡み合いつつ、意外な展開を見せるこのストーリーはすばらしく、密室殺人も、アリバイ崩しも、見立て殺人も出てきませんが、ミステリーとしてはじつにすばらしいと思います。
 キャラとしても、体をこわしてリハビリのために探偵をはじめた(もともとは犬探しのはずだった)紺屋長一郎と、ハードボイルドにあこがれるフリーター、ハンぺー(半田平吉)のふたりのコンビはなかなか楽しいです(美少女成分が抜けてますが)。
 この人のテイストはライトノベルのそれとはやはりどこかずれていて、一般ミステリーの分野に移ってきて正解だったような気がします。
 無理にライトノベルを意識して書いた、古典部シリーズよりも、東京創元社で出しているシリーズのほうが面白いと思います(内容はあまり変わらないという気もしますが)。
 とくに、ミステリーとして見てしまうと、やはり「犬はどこだ」は古典部シリーズなどよりはるかに出来がいいとしか言えません。
 たとえば、第一作目の「氷菓」などは、ちいさな事件の短編集なのですが、やはり小粒な感じがしますし、なによりタイトルになった氷菓の意味が、これはないだろうって感じです。
 もっとはっきり言うならば、おまえは郁恵ちゃんかと?
(若い人には意味不明かもしれませんが、むかし「夏のお嬢さん」という曲がありまして……)

 「犬はどこだ」の主人公コンビは、年齢がすこし上なため、他の作品に比べれば、青春成分が不足かもしれませんが、南野などから見ると、ドロップアウトしたサラリーマン(彼の場合は銀行員)は、ちょっと変な高校生より感情移入できてしまうのです。
 ただ一般的にはキャラのおもしろさとしては、小市民シリーズの方が上かもしれません。ちょっと現実離れしてますが、やっぱりあのふたりは見ていて楽しいですからね。

 ライトノベルから入った十代の読者のかたには、ちょっと取っつきにくい話かもしれませんが、ぜひ読んでみてください。
 おもしろいですから。

犬はどこだ
米澤 穂信
東京創元社

このアイテムの詳細を見る



ブログランキングに一票お願いします
  ↓ 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

今年の直木賞は?

2007-07-18 23:30:52 | 読書
 今年の芥川賞と直木賞が決定しましたね。純文学に縁のない南野としては、芥川賞は無視して、直木賞について語ってみたいと思います。
 受賞者は松井今朝子さん。
 受賞作は「吉原手引草」。
 神隠しにあった花魁(おいらん)のなぞを江戸・吉原の遊郭の住人たちが語っていく時代小説。だそうです。

 う~ん。正直、南野にはあまり興味のない話。そもそも不勉強にしてこの作者の名前を知りませんでした。
 この作品って、時代小説だけど広い意味ではミステリーにはいるんでしょうか?
 だけどミステリー作家なら読んでなくても名前くらいは知ってるはずなんですが。

 南野としては、北村薫、桜庭一樹、万城目学の三人のうちから取ってほしかったところです。
(っていうか、今回の候補者で読んでるのはその三人だけ)
 まあ、三浦しをんさんに引き続き、万城目学さんが受賞したら、さすがにボイルドエッグズがおいしすぎって気もしますが。
 桜庭一樹さんの本はあんまり読んでませんが、それでもラノベ書きとしては応援したいところ。ラノベの地位向上のためにも。
 北村薫さんは、日常系ミステリーの第一人者で、南野も「覆面作家シリーズ」とか大好きです。まあ、一昔前なら、ミステリーの地位向上のためにもって言いたいところですが、最近じゃミステリー作家の受賞はけっこうふつうですからね。

 よくわかりませんけど、やっぱりこういう審査って、格調とか文学性とかを重視するんでしょうか?
 芥川賞はともかく、直木賞はエンターテインメント小説、いわば大衆娯楽小説なんですから、そういうものより、単純におもしろさとか、大衆受けとかで選んで欲しい気がするんですが。
 はっきりいって、ノベルズとか文庫書き下ろしとかからも選んで欲しいところです。
 まあ、賞の権威は今よりちょっぴり落ちちゃうかもしれませんけどね。

吉原手引草
松井 今朝子
幻冬舎

このアイテムの詳細を見る



ブログランキングに一票お願いします
  ↓ 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「塩の街」ハードカバー

2007-06-18 23:19:41 | 読書
 「塩の街」(有川浩・著)読んでみました。
 文庫の方も読んでいたので、正確には読み返したのですが、今回のハードカバーは文庫版とはかなり違っています。
 文庫の方は電撃大賞受賞作で、ふつうに電撃文庫から出ていました。いわゆるラノベ風のイラストが表紙の他にも、挿絵として入っていましたし。
 まあ、表紙の見てくれで言えば、今回のハードカバーの方が格段にかっこいいですね。文庫の時は恥ずかしくて変えなかったおとなも、今回は堂々と買えます。
 基本のストーリーは変わりないはずです。原因不明の塩のかたまりの落下とそれにともなって塩の結晶化していく人間たち。そんな終末感が漂う世界での人間ドラマです。

 文庫の方を読んだ南野がなぜ、あえてハードカバー版を買ったかというと、短編四つが追加されているってこともあるのですが、最大の理由は本編が大幅改稿されているらしいからです。

 後書きを読むと、どうやら、文庫版は電撃文庫の読者に読みやすいようにかなり変更されているらしいのです。今回はそれを元に戻したらしいのです。
 それを知って、ちょっと読みたくなったというか、確認したいことがあったのです。

 こっから先、ネタバレふくみます。





 南野は電撃文庫版の「塩の街」を読んで、どうしても納得いかないところがありました。
 それは秋庭が塩の結晶を爆撃するシーンと、それにともなう真奈の行動についてです。
 噂ではその爆撃シーンそのものがカットされたとか。
 つまり南野が納得いかなかったことが、納得いくように描写されているのかもしれない。そう思ったのです。

 この物語の最大の疑問は、塩のかたまりにロケット弾をぶち込めば、解決することなら、なぜとっととそれをやらなかったかと言うことなのです。
 どうやら、政治的な理由によるものらしいのですが、はっきり言って納得できません。地球が滅亡の危機にさらされているのに、そんなこと言ってる場合じゃないからです。
 トップが決断しさえすれば、むずかしい話じゃありません。動かない塩の柱を爆撃するだけのことなのですから。
 それをクーデターで米軍から戦闘機を奪っておこなうという無茶な設定にする必要があったのか?
 しかも、途中で、それは出来レースで、じつは米軍は納得済みだったことがわかります。
 これを知ったとき、非常に複雑な気持ちになりました。
 米軍から戦闘機を奪うには、それなりの決死の覚悟がいるだろうし、危険でもあるでしょう。ただそれが簡単なことであるのなら、このミッション自体、非常に難度の低いものとなってしまいます。訓練とさほど変わりません。
 つまり、読者のどきどきはらはら感がゼロ。
 しかも、ヒロインの真奈は、秋庭に生きて帰って欲しいから、あえて自分から塩の結晶化を促進させる(人間を塩に変える)部屋に入ってしまい、それを秋庭に伝えます。
 これってただの空回り、というか、ひとりで事態をややこしくしてるだけじゃないですか? 秋庭はただ向こうからは攻撃しない塩のかたまりにロケット弾を打ち込むだけなのに。
 そう思うと、しらけてしまうのです。
 文庫では秋庭が戦闘機でそのミッションを果たす描写がされています。(編集の意向らしいです)
 そのとき、味方の機体のパイロットが塩のかたまりを間近で見て塩になってしまうシーンがあります。なんか唐突でした。
 そんな危険があるんなら、事前にきちんと説明しておけよ、と思いました。そうすれば、もうちょっとこのシーンに入る前にどきどきできたのに。

 どうしてもここが納得いかなかったのです。
 ではハードカバー版ではそれはどうなっているのか?
 基本的には変わりませんでした。
 ただ、爆撃のシーンの描写はあっさりカット。真奈には爆撃したという結果だけが伝えられます。
 そのせいで、かんたんなミッションを必要以上にもったいつけることはありませんでした。
 ただ、真奈の行動はいっしょ。これは恋する乙女の暴走と暖かく見守るべきなのでしょうか?
 やはり、南野としては塩のかたまりを攻撃できないのはたんなる政治的な理由ではなく、なんらかの物理的な理由(つまり、塩がなんらかの防御をしている)があり、とうぜん危険が伴い、それをいかにして打ち崩すかという展開にした方がよかったと思うのです。
 その方が秋庭の出撃が盛り上がりますから。

 ただまあ、作者が書きたかったのは、そういうバトルアクション的なものではなく、破滅に向かう世界での人間ドラマだったということなのでしょう。
 今回追加されたよっつの短編を見ても、それはわかりますし、爆撃シーンそのものをカットしたことからも明らかです。

 南野としては第二弾の「空の中」のほうがよほどおもしろいとは思いますが、先の見えない世界での、年のはなれた不器用なカップルの恋愛と人生のドラマを楽しみたいという人には、おすすめできるかもしれません。

塩の街

メディアワークス

このアイテムの詳細を見る




ブログランキングに一票お願いします
  ↓ 





コメント (4)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

妖精さんと女の子、「人類は衰退しました」田中ロミオ

2007-06-03 22:13:55 | 読書
 ガガガ創刊ラインナップのうち、もっとも売れてるのが「ハヤテ」のノベライズで、つぎがこの「人類は衰退しました」だそうです。

 いままで四冊読んでみて感じたことは、「ガガガ、なんでもありだな」ということでしたが、これを読んで感じたこと。
 「やっぱり、ガガガはなんでもありだ」

 ライトノベルというのは、その中にもいろいろジャンルがありますが、やはり基本はファンタジーとミステリーあたりではないでしょうか。そして内容的にはバトルないし、ラブの要素を含むものがほとんどです。
 今まで南野が読んだガガガのラインナップでも、
 「樹海人魚」にはその両方がそろってますし、
 「武林クロスロード」だってそうです(ラブはかなり非常識ですが)。
 「学園カゲキ!」にはバトルはありませんが、ラブは入ってますし、
 「マージナル」はある意味、もっともラノベらしくないテーマですが、やはり歪んだラブと変則的なバトルがふくまれています。

 で、この「人類は衰退しました」はどうでしょう。
 ファンタジーであることは間違いありません。
 しかしバトルはないし、ラブはある意味満載ですが、それは男女間のものではありません(というか、若い男が出てきません)。
 若い女の子(ひょっとして二十歳超えてる?)と妖精たちの物語です。
 これはひょっとしてライトノベルとしてはかなり特殊なケースなんではないでしょうか?
 妙に見ていて癒される妖精たちと、おっとした女の子のユーモアあふれる交流記なのです。
 読むと、ささくれだった心もついつい丸くなってしまうような話です。

 具体的なあらすじを紹介すると、学舎(高校?)を卒業したての主人公(わたし)が、おじいさんの後を継いで調停官(人間と妖精の間を取り持つ仕事)になる話。
 主人公はけっこう怠け者で、おっとりしている上、人見知りが激しい子。
 そんな主人公と、不思議な力を持っているけど子供みたいに無邪気でかわいい妖精たちとのファーストコンタクトを描いています。
 そこには陰謀も冒険も戦いも恋の駆け引きもありません。
 だけど読み終わると、ほんわかした気分でにやついている。そんな話です。

 派手さはないけど、楽しい。
 そんな話が好きな人はぜひ読んでみてください。

人類は衰退しました

小学館

このアイテムの詳細を見る




ブログランキングに一票お願いします
  ↓ 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

天才詩人か地雷か? 中村九朗の「樹海人魚」

2007-05-29 23:59:05 | 読書
 ラノベ界の天才詩人とも、超絶地雷作家とも言われる、中村九朗先生の作品に初チャレンジしてみました。
 ガガガの創刊ラインナップにある「樹海人魚」。
 読む前から、かなりドキドキです。

 裏表紙のあおり文句を引用してみましょう。

強大な力で街を破壊し、ひとびとを殺し、そのうえ何度死んでもよみがえる恐怖の存在――”人魚”。人間はその怪物を撃退し、飼い慣らし、”歌い手”と呼んで同類退治の道具としていた。歌い手を操り人魚を狩る”指揮者”の森実ミツオは何をやってもさえないグズの少年。しかし、記憶をなくした歌い手・真名川霙との出会いが、ミツオを変える。逆転重力、遅延時空に過不眠死。絶対零度のツンデレ・バービー、罵倒系お姉・由希にみだらなラピット――奇想につぐ奇想と流麗な人魚たちが物語を加速する! 超絶詩的伝記バトル&ラブ。


 だそうです。
 なんかわかりませんが、おもしろそうです。(詩的伝記バトルってなんですか? って気もしますが)

 ただ気になるのは(というより楽しみなのは)、このひとの文章が詩的すぎて意味不明という評判がネット界を駆けめぐっていることです。

 「あれ? なんかけっこう普通の文章じゃない?」
 過剰な期待のせいか、読み始めてそう思ってしまいました(っていうか、南野の感性が変なのかな?)。
 文章が変という意味では、「天帝」の古野まほろ先生の方が上だと思いました。
 むしろ、個性的というか、奇想天外なのは設定の方だと思います。
 まったく頭のどこからこんな変な世界観を作り出したんだ? と思えるほど壊れた設定。やはりこれは才能なんでしょう。南野に足りないのは、案外このへんなのかもしれません。

 敵は存在の記憶をそのものまで消してしまう死花花。
 相手の睡眠を奪って、ゆっくり殺していく睡蓮。
 エリア内の時間の流れを変えるサークル・チェンジ。

 逆に味方の能力は、逆転重力(天井を歩き、空に向かって落ちる)霙。
 まわりを凍りつかせるバービーこと菜々。
 超スピードのラビットなど。

 敵は化け物だけど、味方はなぜか全員美少女。主人公の上官と姉もとうぜん美女。
 
 こんな状況で死闘はくり広げられます。

 そしてクライマックスを迎え、意外な事実が……。
 なんと、じつはこれミステリーだった?

 さすが富士ミスデビューの九朗先生だぜ。予想外でした。

 あれ? そういえば、最後の謎解き部分だけ見れば、まほろ先生の「天帝のはしたなき果実」と大差ない気がするぞ。いや、あくまでも雰囲気の話ですが。

 かなり変わった作品だとは思いますが、けっこう普通におもしろいですよ。
 ここまで読んで、気になった方はぜひチャレンジを。

樹海人魚

小学館

このアイテムの詳細を見る




ブログランキングに一票お願いします
  ↓ 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「マージナル」はちょっとやばい

2007-05-29 00:06:10 | 読書
 ガガガってなんでもありかい?

 これが今回のガガガ大賞、「マージナル」(神崎紫電・著)を読んだとき最初に浮かんだ感想です。
 まあ、「武林クロスロード」が同時に発売されてるからよけいそう思います(こっちは別の意味でですけど)。
 それほど「マージナル」はダークです。
 レーベルによってはカテゴリーエラーということで、一次予選ではじかれた可能性があります。

 もちろん、南野にはこういう話に耐性があります。だからべつに読んでいて不快になることもありません。ただ、ラノベである以上、中学生だって読むわけなんですが、だいじょうぶなんでしょうか?

 陰惨な殺人事件の話でありながら、中盤まではそれほどヤバい雰囲気はありません。というか、作者、計算してそうならないようにギャグをちりばめたりしながらストーリーを展開していってるんだと思います。

 マージナルという言葉は、まともな人間と異常な人間の境界線という意味だそうです。主人公は序盤から中盤にかけては、「マージナル」とは言いながら、「こっち」側にいたようなところがあります。
 南野は最後まで、境界線を踏みながらも、こっちサイドにいるんだと思ってました。そうでないと、読者がついて行けないからです。

 ところが最終的にはもどってくるとはいえ、主人公はクライマックスの場面で向こう側に足を踏み入れます。これはラノベ的にはありなのか?

 そもそも、愛する女を殺すことを妄想することでしか欲情しない男が主人公というのはありなのか?

 通常、この手のサイコミステリーでは、異常な人間は出てきても、主人公はまともであるのが普通です。
 「羊たちの沈黙」でも主人公はレクター博士ではなく、FBI捜査官のクラリスですし、ライトノベルで言えば、「電波的な彼女」でも異常なのは周りの人間で、主人公はまともです(一巻しか読んでませんが、そうですよね?)。そうでなくては、読者が主人公に感情移入できないからです。

 なぜ、この物語では主人公が一番異常なのか?

 もちろん、読者がとうてい感情移入できない悪党を主人公にするジャンルもあります。ノワールというやつです。「不夜城」、「溝鼠」なんかのことですね。
 そういうやつだと、たいていは主人公は最終的にはろくでもない目に合いますが。
 こういう話は、人生の裏側のドラマを楽しんだり、悪党同士がつぶし合う様を喜んだりする側面があります。
 なんか違う気がするんですよね、こういうのとは。
 そもそも主人公、悪党というより異常者ですし。

 たしかにサイコミステリーの型としては新しいかもしれませんし、それをライトノベルでやったことがなおさら斬新です。
 ただ、これって、一般的なライトノベル読者の中高生はついていけるんでしょうか?

 後味の悪さは最悪で、主人公にまったく共感できませんが、そういう話に耐性があって、変わったサイコミステリーを読んでみたい人はトライしてみては?

マージナル

小学館

このアイテムの詳細を見る




ブログランキングに一票お願いします
  ↓ 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ガガガ賞受賞作「学園カゲキ!」

2007-05-27 12:23:34 | 読書
 ガガガでさっそうとデビューした山川進さんの「学園カゲキ!」を読み終わりましたので、これについてちょっと述べてみたいと思います。

 じつはこの作、スーパーダッシュ小説大賞の二次選考で落ちているのですが(タイトルもペンネームもそのまんまですから、まちがいないと思います)、その作品がガガガで賞を取ったということで、単純に作品のおもしろさ以外のところにも興味があります(南野も同じようなことをやって、ガガガでは一次落ちしたのでなおさらです)。

 とりあえず、読み進めてみると、すらすら読めます。
 ど派手なアクションやバトル、ややこしい設定などがない、明るく楽しい学園ラブコメディーって感じでしょうか?
 そう言えば、こういうファンタジー要素の全くない学園ラブコメって、マンガでは普通にありますけど(とくに一昔前)、ラノベではけっこうめずらしいかも。

 まあ、ラブコメとしては、キャラの設定とかかなりべたべたですが、とりあえず楽しく読み進めることができます。

 ところが、最後の方である事実が明らかにされます。
 やっぱり、こうきたのか? と思いました。
 けっこうヒントになりそうな複線を張っていてくれましたから。
 同時に、この作品がスーパーダッシュ小説大賞で予選落ちした理由がわかった気がしたのです。
 なにをえらそうにと、思われるかもしれませんが、あくまでも南野の仮説ですのでそのつもりで聞いてください。

 この作品には、ある仕掛けがほどこされています。
 読者をだますというか、驚かせるというか、まあ、本格ミステリーのトリックのようなものです。
 それがある映画と酷似しているのです。(作者が知っているかどうかは知りませんが)
 それはタイトルをばらせば、それだけで物語の構造がわかってしまい、ネタバレになってしまうのでタイトルはふせますが、それほどマイナーな映画ではありません。
 これはまずいだろうと思いました。
 もちろん、ストーリーなり、キャラなりが既存の作品と似てしまうのはよくあることですし、それだけでパクりと断定することはできません。
 部分的に似ていても、あるいは肉付けをそぎ落としたストーリーの骨格部分が同じでも作者が独自におもしろいものに仕上げれば、読者は文句を言いません(一部でパクりだパクりだとさわぐ人もいるかもしれませんが)。
 しかし本格ミステリーの場合、他作品のトリック(それもかなり有名なもの)をそのまま使えば、パクりと言われてもしょうがないでしょうし、すくなくともミステリーの新人賞でそれをやったら落ちるでしょう。
 「学園カゲキ!」の物語構造のそれは、本格ミステリーのそれに近いものがあると思うのです。
 途中まで表には出ず、水面下で進行していって、最後にそれを明かし読者を驚かせる。そういう類のものですから。
 そして、最後に明かされたとき、その仕掛けが既存のものとまったくいっしょであれば、読者は「パクりじゃん、これ?」と思っても仕方がないと思うのです。
 たとえ、それ以外の設定や、ストーリー進行が違っていても、どうしてもそう思ってしまいます。
 スーパーダッシュの下読みさんが、落としたのは、まちがいなくこれが原因だと思いますよ、南野は。

 では、ガガガの下読みさんなり、編集さんはそれに気づかなかったのか?
 そんなことは信じられません。
 たぶん、ガガガの方は、そういうことよりも全体的なおもしろさを優先したんだと思うのです。
 あるいは、そういうことを抜きにして考えた場合、それ以外の部分で才能があると判断したのかもしれません。
 実際、全体的にはかなりおもしろいものになっていると、南野も思います。

 ガガガとスーパーダッシュのどちらの判断が正しいのか、南野にはわかりません。
 それは作者が今後どんな作品を書いていくかによるのではないでしょうか?

学園カゲキ!

小学館

このアイテムの詳細を見る



ブログランキングに一票お願いします
  ↓ 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

深見汁全開「武林クロスロード」

2007-05-25 22:23:13 | 読書
 小学館のライトノベル新レーベル、ガガガ、ついに始動しました。
 書店で見ると、「ハヤテのごとく!」のノベライズが一番の山盛りに。「ハヤテ」は好きですが、これはマンガで読んでればいいやということで、南野のお目当てはとりあえず、今回の新人賞の受賞作と、深見真の新作「武林クロスロード」。
 う~む。気のせいか「武林クロスロード」が一番山の高さが低いんじゃ……。

 とりあえず、南野が密かに敬愛する深見真先生の新作から読んでみることにしましたよ。
 中身をチラッと見たとき、まず思ったこと。
 「はわわ。イラストがものすごいことになってますぅ」
 いや、表紙はそうでもないんですが、中身、とくに小説の中の挿絵はかなりやばいですよ。
 別のレーベルの本を間違えて買っちゃったかと思いました。
 え? どんなレーベルかって? う~ん。たとえば、美少女文庫とか。

 早い話がエロいんですよ。

 で、まあそれは置いといて。話としてはどうなんでしょう。おもしろいんでしょうか?
 おもしろいです。
 なにせ深見先生、リミッターを解除してますから。
 え? なに? それどういうこと?
 そう思う方のために説明しますと、このブログの最初のほうで、深見先生のネクスト賞受賞作、「アフリカン・ゲーム・カートリッジズ」という作品のことを述べていますが、これはまさに深見汁全開の作品でした。
 これはエロとバイオレンス、そして作者の趣味が全開という意味です。
 ただしこの本は売れませんでした。
 一部の例外を除いて、読者が誰もついていけなかったからです。
 そして深見先生は低迷し、このまま終わってしまうのではないかと思われましたが、徳間ノベルズEDGEの「ヤングガンカルナバル」シリーズで不死鳥のごとく蘇ったのです。
 大多数の読者の嗜好に合わせるために、自分の趣味をすこし押さえ気味にして。

 まったくの想像に過ぎませんが、小学館は仕事を依頼するとき、こう考えたんじゃないでしょうか?
 「深見真の最初の路線が当たらなかったのは、早すぎたのだ。だが、今ならいける。大多数の読者がついていける」
 そうして、深見先生のリミッターを解除してしまったのです、きっと(根拠なし)。

 そうして出来上がったものは、ロリだけど巨乳の目がね少女(ふたなり)と、筋骨隆々で巨乳で美形の最強女(もちろんレズ)というコンビが大活躍する武峡もの。

 もちろんエロとバイオレンス満載です。

 ラノベレーベルなのに、ノベルズの「ヤングガン」よりエロいです。人もたくさん死にます。
 はっきりいってやりすぎです。

 小学館さん、まだリミッターを解除するには時代が追いついてきてないんじゃないでしょうか?
 いや、南野としてはこのまま突っ走って欲しいんですけど……。

 今までの説明を聞いて、「うわあ、おもしろそう」と思った方、必読です。あなたはきっと選ばれた人です。(って、誰に?)
 それ以外の人は、やめておいたほうが無難かもしれません。

武林クロスロード

小学館

このアイテムの詳細を見る




ブログランキングに一票お願いします
  ↓ 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「扉の外Ⅱ」絶好調!

2007-05-13 12:42:16 | 読書
 前に南野が絶賛した、電撃大賞金賞の「扉の外」(土橋真二郎・著)の二巻目がでました。
 ちょっとわくわくして読みましたよ。
 結論、前作以上に、すげえぇえええええ!

 これで終わってしまうわけにはいかないので、解説します。
 ネタバレがいやな人は、こんな記事はさっさととじて、「扉の外Ⅱ」を買って読みましょう。その価値はあります。

 二巻目には、前作の主人公千葉君は出てきません。かわりに主人公になるのは、別のクラスの高橋君。眼鏡をかけた秀才タイプです。
 何者かに拉致された高校生たちの話という点は変わりません。
 前作の最後の方に出てきた上の階が舞台です。

 前作では、クラスとクラスを、国と国に仮想しての戦争を知らないうちに引き起こし、気づいたときにはどうしようもなくなっていた主人公たちの話でしたが、今回は、そんな下界を見下ろす、天界の話です。
 つまり情報統制された偽の真実しか知らない下民たちより、ひとつ上の段階の情報を知り得た特権階級の話なのです。

 とはいえ、彼らが得られる情報も、また限られたものでしかありません。
 そしてここでもふたたび、戦争は起きます。
 ただし国と国の戦争ではありません。
 階級闘争です。

 前作では国(クラス)の中に、リーダーとそれにしたがう者という階級はありましたが、その程度のことでした。権力も限られています。というか、自分では判断できない大衆が、すこしすぐれた者の判断に従っていただけとも言えます。
 事実、簡単に反乱は起きました。

 今回はその反乱。つまり、上位階級と下位階級の戦いをテーマにしています。

 例によってゲームをすることからはじまります。今度のゲームはカードゲーム。
 ちょっぴりカイジのパクりっぽいけど、それには目をつぶりましょう。
 天使のカードと人間のカード、それに悪魔のカードの出し合いです。
 例によって、ルールの説明なしに、巻きこまれます。
 それぞれのカードがなにを意味するのか? それはじっさいにプレイをし、回を重ねるごとに明らかになっていきます。
 ゲームの勝ち負けによって失うものは、ハートとオーレ。
 それがなんなのかは、じっさいに失うまでわかりません。
 そしてついにハートが失われたとき、何人かの腕輪が外れます。
 この世界で、配給を得るために必要な腕輪が。
 つまり、腕輪を外されたものは、腕輪を持っているものに、食料を恵んでもらわなくてはならなくなるのです。
 ただし、そのおかげで手に入ったものもあります。自由です。

 好きなところに出入りする自由。そして暴力を振るえる自由です。

 腕輪をしていたときには制限されていた暴力(ふるうと腕輪に痛めつけられる)がふるえるようになったことで、腕輪が外された生徒たちは、腕輪をしている生徒たちから略奪を開始します。
 ただし、腕輪側にも、抵抗する手段がありました。スタンガンです。
 このスタンガンは、腕輪をしている人間には使えなくても、腕輪を外している人間には機能するのです。
 これはどういうことかというと、同じ階級の人間には暴力を振るえなくても、違う階級の人間に対してはいくらでも暴力を振るえるようになったことを意味します。
 この闘争のすえ、腕輪なしの下層階級民は、文字通り下界(下の階)に堕とされます。
 しかしそれは階級闘争の終わりではなく、むしろはじまりでした。
 天界でゲームをしている(させらている)人たちも、ゲームの勝敗によってはいつ自分の腕輪が外れるかわからないのです。
 さらに人質を取って暴力によって立場を変えようとする下界の住人たち。(つまり、革命)
 そんな中でもカードゲームは続きます(とめられない)。
 疑心暗鬼から、暴走していく生徒たち。
 そして、その結末とは?

 まさに初めから終わりまで、息をつくひまもないほどのおもしろさ。
 電撃文庫の最高傑作(南野による)。必読です。

扉の外 2 (2)

メディアワークス

このアイテムの詳細を見る



ブログランキングに一票お願いします
  ↓ 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「天帝のはしたなき地雷」踏んでみた

2007-05-12 13:13:45 | 読書
 メフィスト賞にはいろいろ思い入れがある南野が、第三十五回メフィスト賞である「天帝のはしたなき果実」を読んでみました。

 じつはこの小説、ネット上の評判では「地雷」の名を欲しいままにする超問題作らしいです。

 まあ、南野はけっこう地雷好きですから、逆に読んでみたくなりました。

 第一章の出だしから飛ばしてくれます。
 いきなり吹奏楽の専門用語が飛び交い、さらにリズムを表すのに、
 タン、タン、ターン、ターン、タ、ターンだの
 ターラータラリラだのといった音が会話にはさまれ、
 ペットにトロンペーテ(何語だそれ?)といったルビが付いたり(他にもいろいろルビの嵐)、相手の心の声が聞こえたり、やりたい放題。
 登場人物の高校生たちは、なぜか会話に外国語をまぜて(それもフランス語だかドイツ語だか)話しますが、誰もそれを不思議に思いません。
 っていうか、普通に日本語話せよ、おまえら。
 しかもいきなり太字で叫んだりするな。

 おまけに最初にかなりの人数が出てきますので、いったい誰が誰やら把握するのに、けっこう時間がかかります。

 そしてこれは一体いつの時代なのか?
 国家警察や軍隊が存在し、華族制度も残っています。
 そのくせ、会話の中に「ドラえもん」だとか、「雉も鳴かずばハーマイオニー」だの「ゼットンは星人じゃありません」だの、現代に近い設定としか思えない会話が出てきます。
 ようやく、この世界はパラレルワールドであることに気づきます。

 このあたりを乗り切ると、それほど読みづらいという感覚はなくなります。
 なんとなく世界観とか、ノリが理解できてしまうから。むしろこの変なリズムや、言葉遊びが楽しみに。

 そしてなんか青春しつつ、連続殺人事件に巻きこまれ、暗号だの、タロットカードで占って、殺そうとする太ったピエロだのが出てきます。
 さらに吹奏楽の大会の最中に顧問の先生が首なし死体で発見。
 彼らはこんなものが発見されたら、せっかく演奏がうまくいったのに、大会が台無しになるから発表まで事件を隠そうとします。
 そしてやってきた刑事(警視正)を半ば拉致し、全員が名探偵のごとく、持論を展開しつつ、推理合戦。
 ありえねえにもほどがあるぅ~っ! と思いつつも、その展開を楽しむ南野。
 だってしょうがありません。南野は推理合戦が大好きだから。
 しかし事件は意外な方向に……。
 さらにそこから、とんでもない方向(というか次元?)に。

 ここはどこ? わたしは誰? 状態です。

 ううむ。これをなんと表現したらいいのでしょう?
 地雷と斬り捨ててしまうのは簡単ですが、それだけではすませない魅力もあります。
 もっとも地雷とはそういうものであり、単につまらないものや、出来の悪いものは地雷とはいいません。

 同じメフィストの「コズミック」しかり、「六枚のとんかつ」しかり、富士見ミステリーの「ブロークン・フィスト」しかり。
 ある種の天才的なひらめきを持った人たちだけが、地雷を生産できるのです。
 そうです。地雷とは、常人に理解できるかできないかの境界線を綱渡りするようなものなのです。さらに地雷にはよい地雷と悪い地雷があります。綱を渡っているうちはよい地雷で、それはある種の傑作です。向こう側に落ちてしまったものは悪い地雷となり、たんなる駄作になってしまいます(南野定義)。
 ただ「コズミック」や「六とん」「ブロークン・フィスト」などが南野のツボにはまった(つまり境界線上の綱の上をしっかり歩いてる)の対し、「天帝」ははっきりいって、向こう側に落ちかけています(かろうじて残ってる)。
 ただその境界線の位置は、ひとによって激しく違います。

 ですから、あなたも綱の上を渡る「天帝」を見てみては?
 綱の上で華麗に舞うか、綱から落っこちるかはあなた次第です。

天帝のはしたなき果実

講談社

このアイテムの詳細を見る



ブログランキングに一票お願いします
  ↓ 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

蘇部健一の最高傑作は「ふつうの学校」

2007-05-02 23:06:58 | 読書
 メフィスト賞作家に蘇部健一というお方がいます。
 この人のデビュー作「六枚のとんかつ」を読んだとき、その衝撃にひっくり返りそうになりました。
 え? ガッツ石松がどうしたって?
 短編集であるこの作品の第一作で、南野はとまどいました。
 そしてそのオチを読んだとき、爆笑し、数秒後にあきれかえりました。

 今度のメフィスト賞はこれできたのか?

 メフィスト賞二作目の「コズミック」のぶっ飛び具合は半端じゃありませんでしたが、三作目の「六枚のとんかつ」もある意味、負けていない怪作だったのです。

 「コズミック」の流水先生も、そうとう叩かれたようですが、蘇部先生もぼろくそに叩かれました。
 ある有名な作家兼評論家の方など、ゴミあつかいしたらしいです。

 でも南野は、密かにすごいおもしろいと思っていました。
 こういう爆笑できるショートギャグを連発できる人は貴重だと思ったんです。

 でもギャグが冴えを見せたのは、この一冊だけでした。
 ネタが尽きたのか、路線を変更しようとしたのかはわかりませんが、その後、どうも調子がよくありません。
 まあ、ギャグ作家というのは、マンガ家でも寿命が短いし、仕方がないのかなあと思っていると、この人、べつのジャンルでとんでもない怪作を生み出したのです。

 その名も「ふつうの学校」。三部作。講談社青い鳥文庫です。

 青い鳥文庫というのは、小学生を中心とした児童文学文庫。
 「六枚のとんかつ」が面白いと思った人でも、まず手は出さないジャンル。
 なぜ南野が読んだかというと、ちょうどそのころ児童文学を書き始めたので、今の児童文学とはどんなものなのか? との思いから、参考にしたかったのです。(まあ、他にもいろいろ買ったのですが、その中にこれが入ってたわけです)
 これを読んだとき、まず思ったこと。

 これって、ありなの?

 南野の子供のころの児童文学は、よい子が活躍したり、ひどい目にあったりするものが多かったような気がします。
 児童文学は親が子供に買い与えるもの。だから、あまりとんでもないものは親が顔をしかめるだろう。
 そういう約束事があったような気がします(江戸川乱歩とかは、かなりとんでもない気もしますが、それでもやっぱり小林少年はよい子です)
 最近はその風潮が壊れ、子供が喜ぶものが売れるらしいというのは知っていました(「かいけつゾロリ」とかもそうらしいですし)。

 で、でも、主人公の少年(小学五年生)がどスケベ、っていうのはいいのか?
 そして、担任の先生がむちゃくちゃというのもあり?
 さらに超美人の先生や、かわい子ちゃん(死語?)ぞろいのクラスメイトたち。

 なんか「ハレンチ学園」を思い出してしまいましたよ。
 いや、あそこまでははじけてないんですが、めちゃくちゃなのは変わりありません。
 主人公、アキラ(すけべ)の担任、稲妻先生は、児童相手からいかさま賭け麻雀(どんじゃら)で金を巻き上げるわ、読書なんてなんの役にも立たないと説教するわ、あげくに朝の読者の時間に、エロ小説をカバーだけ差し替えて児童に読ませるわと、大活躍。
 超美人にして超まじめのルイ先生とはがちバトルをして投げ飛ばされるわ(ルイ先生は強い)、ほんとうに愛すべき先生です。
 さらに学校で変な事件がしょっちゅう起き(例、ブラジャー盗難事件)、それを小学生のくせに妙にひねた六さんが快刀乱麻を断つかのごとく解決します。

 いやあ、南野、子供のころにこんな本読みたかったですね。

 と同時に、書くものが児童文学と言えど、しゃちほこばって考える必要もないんだなという、大事なことを学びました。
 子供のころの気持ちにもどって、書きたいことを書けばいいですよ、きっと。

 ただ、このシリーズ、重版のかかり具合を見る限り、ちっとも売れてないのが気がかりです。
 ひょっとして、親が「こんな本だめよ」と言って、買ってくれないんでしょうか?

ふつうの学校―稲妻先生颯爽登場!!の巻

講談社

このアイテムの詳細を見る

ふつうの学校3 ─朝の読書はひかえめにの巻─

講談社

このアイテムの詳細を見る



ブログランキングに一票お願いします
  ↓ 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「鹿男あをによし」ってなに?

2007-04-30 21:52:02 | 読書
「鹿男あをによし」とは、ボイルドエッグズの新人賞で南野と激しく争ったあげく(南野の勝手な妄想爆発中)、「鴨川ホルモー」でデビューするやいちやく売れっ子になった作家、万城目学さんの第二作目です。
(じっさいには万城目さんは審査員満場一致で受賞。あっという間に売れっ子に。一方、南野はブログで戯言ほざいてます)

「鴨川ホルモー」のときもそうだったんですが、このひと、いったい頭のどこからこんな、アホな設定を絞り出すんでしょう?(いや、褒めてるんですよ。念のために)

 ちょっとしたいざこざから、大学院から女子校の教師になることになった主人公。(なんかこう書いちゃうと、まるでラノベかエロゲのような……)
 そこで出会う美少女(ちょっと魚に似てる)。彼女はなぜかとっても反抗的。(ツンデレ? ますますもって、ラノベかエロゲのような……)
 そんな主人公に鹿が語りかける。(ラノベってレベルじゃねえぞ!)
 鹿が言うには、「目」を取りもどせ。そうしないと富士山が噴火して大変なことになるぞ。
 どうやら、それはみっつの学校で開かれる剣道の大会の優勝盾のことらしい。しかも主人公は剣道部の顧問に。
 そんななか、魚に似た美少女剣士が助っ人を申し出る。しかもめちゃくちゃ強い。

 う~む。あらすじを書くかぎり、ラノベにしか思えませんが、なぜか、この人が書くと青春小説になってしまいます。
 同じネタで南野が書けば、100パーセントラノベになることまちがいなし。
(断っておきますが、ラノベをバカにしてるわけじゃありませんよ。南野はラノベ書きですから)

 しかも、主人公、顔がどんどん鹿になっていき(なぜか他の人からは普通に見える)、元に戻すには剣道大会で優勝するしかない。(いったいどうすればこんなアホな設定を思いつくんですか、万城目さん?)

 おバカな世界観の中でくり広げられるほろ苦い青春は、この人の持ち味。

 ストーリーの方も、剣道大会のあと、一捻りありますが、ネタバレはやめときます。
 文句なくおもしろいので、ぜひ読んでみてください。

鹿男あをによし

幻冬舎

このアイテムの詳細を見る



ブログランキングに一票お願いします
  ↓ 
コメント (3)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする