いろはにほへどノオト
山田百合子
イノチミヂカシ コイセヨオトメ、ふん一理ある、
子供は若いうちにつくる(?)べきといわれるのか
、今、私はドーセーしているので心身ともにおよそ
満ち足りていて好き勝手している、ついこのあいだ
は京都山死水汚の都なる鴨川で水上スキーをやって
、四条のランカンをへしおってしまった(これには
説明がいるがメンドーなのでやめ)みたいなヒマを
持ち合わせていると、オクサン アイサレテマスカ
なんて土足無礼なコトバが降ってきて、「風が強い
ですねえ、アラアラ」とインタビューアぁの頬に私
の平手が当たってしまった、とたんにコーヒーもま
ずくなって(元々水がわるいのでこれ以上まずくも
ならないが)プッと吹き出すと、わがダンナの白々
しい顔に当たって、ガミガミ、私はシュンとしてい
るところです、それではと、色は匂へるごとく歩い
てくる、さらばわれも歩き出すナーンちゃって、な
んですか、ああです、こうだろうと、ヒマヒマする
ひとたちの多いこと、「ヒマだなあ、ヒマだし、ヒ
マヒマしょーか?」「やさしくしてくれるならいい
わ」、どだいまちがっている、この発想の貧困さ、
<色は匂へるごとく歩いてくる>てめーら、この深
い味がわからんだろーな一生、ああ哀れなる子羊た
ちよ、「オイオレはジャン荘へいくぞ」とのたまっ
てネギをしょっていった、私はついに救われないの
か、だからときどき、キドータイにナグラレルンダ
ワ、おおサドマゾねえ、もっともそれで目覚めて、
罪深い私をお許し下さい、もっとダンナとあいしあ
うようにしなくっちゃ、くっちゃね、くっちゃねて
、朝日のキララめくまで、そうそう最近わかったが
、ネコはヒトより高貴な精神の持主であるという、
ゴモットモゴクロウサン、当り前じゃないかそんな
こと、カミサンをダシのもとにすることしか知らな
いソクラテスでさえ知ってたのだ、うだうだしい暑
さの中で、つい裸になって道をたずねたユークリッ
ド星座みたいに、とびはなれて遠くから、わいざつ
な声が掛かってくる夜、の灯の螢があちらこちらと
乱舞する、乱舞する夢、夢のように色は匂へど散り
し
ぬる尾、あたしの尾っぽ、けふはしっぽりともたれ
あいながら、ヒマヒマする一方でイソガシイソガシ
するあたし、湯あがりの色、湯揚がりの匂い、モノ
みな黒焦げ、真っ青だ、イソガシイソガシ、ああん
ヒマヒマ、されどあたしの姿はどこに?
山田百合子 戯言集(1979)『死体病理解剖 × ・・・・・ノオト』より
http://www.k4.dion.ne.jp/~rainbow3/yamada/zaregoto.htm