松田洋子のアトリエ絵リアル

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第49回日本近代文学館夏の文学教室2012年8月4日Ⅱ時間目 高橋源一郎

2012-09-17 09:32:34 | 文学

             第49回日本近代文学館 夏の文学教室 文学・「土地」の力
                2012年7月30日~8月4日 有楽町よみうりホール
       主催:公益財団法人 日本近代文学館(後援:読売新聞社、協力:小学館)

「根無し草」であること          8月4日(土)Ⅱ時間目 高橋源一郎 

 高橋源一郎の講義は、去年の10月に山口県の小島祝島に行ったときの経験を中心にして、2011年3・11以降の日本という国を考えるといった内容で語られました。


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 今まで40回も引越しをしている自分の中には、ふるさとに属することはないと思う。
 自分のルーツから離れたところで小説のルーツができている。ある意味では根無し草である。


 祝島は瀬戸内海にある小島であるが、30年前に原発反対運動が起こり、今でも続いている。平均年齢は70歳を超える人たちであり、当時は2000人の住民がいたが、今では425人、毎年25人減っているという計算になり、過疎状態にある。


 祝島に行くために宿をとろうと電話をしたときに、たった一人の宿主は病気で寝ていると言う。何も世話ができないが、それでよいなら来てもよいと言ったので、寝るところさえあればと思い、仲間と行った。いざ島に着き、宿へ行くと宿主は寝ていた。しかし、少しすると、隣の人が3人勝手に宿に上がりこんできて、魚も3匹持ってきており、われわれのために夜ご飯を作り始めた。これには最初はびっくりしたものだった。


 漁業が主なため、30年前から続けていた原発反対運動は30年かかって史上初の住民運動として勝利した。あるとき知らないうちに、中国電力側から祝島漁協の口座に大金10億円が振り込まれた。福島の原発の問題は未だに解決されないわけで、そこには当然大金が必要である。祝島の人たちはそれ(金)を拒否した。祝島の人たちはなぜ金を必要としなかったか? 店はなく、すべて自給自足の生活をしている人たちである。かれらは楽しむ術を知っている。ビワやミカン、米などを1人の老人が棚田で1人で作っている生活。その人が亡くなったら原野に戻るのだろうか? 個人にとって土地とは何だろうかという疑問が生まれる。本拠地とは? ルーツとは? 


 都会では失われた共同体というものがそこにはあった。老後の不安などはない。隣同士の当たり前の協力があり、70歳以上の高齢の単身者が多いので、みんな、今だれがどれだけ具合が悪いのかを知っているのだった。高齢だが自給自足のために元気に働き、休憩時間には茶のみ話で楽しみ、夜はみんなで集まり楽しく過ごす。1人で作物を作るというのは老人にとっては厳しい労働であるが、それが逆に体を鍛えることになっているのだろうか。そして、だれに言われるでもなく、当たり前のように人の世話をするのである。


 祝島のホームページがあるので、祝島は孤立しているわけではなく、情報は共有されている。纐纈(はなぶさ)あや監督の映画「祝(ほうり)の島」は原発建設に長年反対している島民や漁師達の闘いを、二年間に亘りじっくりと信念を持って撮影し続けた作品である。この中に出てくるシーンは感動的。


 若者はみんな島から出て行った。例外なく。しかし休暇にはこの島の人口が増える。普段は400人そこそこの老人だけの人口。都会から若い人たちが戻る現象が起きている。若者の中には、都会に住むことの意味がわからなくなり戻ってくるというような、魅力的な島になりつつある。都市でも高齢化は同じだ。この国全体が根無し草になりつつある中で、外から子連れの若い人が移り住むようにもなった。


 祝島は一つの家族のようにやさしい雰囲気に包まれている。今、自分の中に自分で掲げたこわばりを捨て、具体的な固有名詞をもった場所を持ってもよいと思っている。


 この国の近代文学は、土地への呪縛から逃れることできたが、この100年の間に成し遂げられてきたと思う。自分は言葉・小説をルーツにして生きて行けると思ってきたが、その確信が揺らぐシーンがあり、祝島で胸の痛みのようなものを感じた。

 3・11以降、日本の国はどうなっちゃっているのか? 自らの手で切り離してしまったルーツだが、祝島のそのあり様はみんなのふるさとの原型のように思う。そこに新しい力のようなものがあるのではと、祝島に行った。みんな陽気だ。原発反対デモ30年。平均74歳の中で、自分は下から3番目に若いという元過激派という人。昔は60分間のデモだった。今は25分のデモ。雨や風や不幸があるときは休む。それが、デモが続いている理由だ。


 大いなる日常の中にすべてを溶かし込んでいる。かれらは2ヶ月に一度、中国電力本拠地へフェリーで出かけてゆく。


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 以上が、高橋源一郎さんの授業の内容です。たまたま、私も参加している同人誌「地軸」31号(今年6月発行)に同人の一人が書いた作品「映画『祝の島』から」も読んだ後だったので、この講義は興味深く聴くことができました。補足として「原発反対」に関する「ストップ 上関原発」のページの文を転載しておきます。


 (以下転載)
●みんなの力で中国電力の「上関原発建設計画」を白紙撤回させよう!
●原発建設予定地・田ノ浦は祝島の対岸わずか4kmという距離にある。
●瀬戸内海で一番きれいな海域に、中国電力は、無駄な電力を作り、大量の温排水により地球温暖化を促進し、核のゴミを吐き出す原発を建設しようとしています。
 誰も責任を取らない「国策」という名のもとに、そして地域振興という税金バラ撒き政策をエサにして、環境を破壊し、地域社会を破壊し、税金を無駄に使い、子々孫々まで放射能汚染の危険性という恐怖を残す。そんな原発建設を私達は決して許しません。みんなで力を合せて、国と中国電力の魔の手から、この豊かな海とすばらしい自然環境を守り、上関町におだやかな安らぎを取り戻しましょう。



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