夏原 想の少数異見 ーすべてを疑えー

混迷する世界で「真実はこの一点にあるとまでは断定できないが、おぼろげながらこの辺にありそうだ」を自分自身の言葉で追求する

バーニー・サンダース「民主主義でなく寡頭制」(2)

2023-09-17 10:53:19 | 社会

                                                                        The Gurdian 9/15より
 
 このサンダースの演説は、アメリカの現在の状況を如実に反映している。1970年代以降、新自由主義に変容した政治的統治が、「経済的理性」だけが政治的理性に置き換わり、基本的な政策がすべてそれによって決定される。それが、民主党主流派、共和党の基本的方針となっている。この「経済的理性」とは、言葉の意味としての「経済領域における理性」というものではなく、現状の資本主義システムにおいて経済を増強させることが、社会的に最も必要とされることだというイデオロギーに、多くの人びとがまったく疑うことなく同意するという「理性」なのである。経済の増強は、資本の利潤を最大化することが求められ、それは結果として、新自由主義に基づく政策をすべてに優先させる統治を行なうということに繋がっていく。(これは、西側だけではなく、現在の中国共産党指導部も同じ方向性をもっている。)

 新自由主義は、経済政策の全体を自由市場の肯定という根本原理に合致させるという性格を持つが、その結果、資本の利潤増大が至上命令となり、それによって莫大な富を獲得できる富裕層はより裕福になり、労働者を中心とする庶民階層はより貧困化するという状況が常態化する。
 このことは、ウェンディ・ブラウン(カリフォルニア大学バークレー校教授)の「いかにして民主主義は失われていくのか――新自由主義の見えざる攻撃 」に通じている。ブラウンは、この著書で「民主主義的な国家の平等、自由、統合教育、立憲主義のコミットメントが、今や、経済成長、競争原理の獲得、資本の増大といったプロジェクトに従属させられている」と記しているが、それがサンダースの言う「労働者の収入は減り続けているが、億万長者はさらに裕福になっている」現状を生み続けているのである。

民主主義ではなく、寡頭制
 サンダースはこういった現状を「民主主義ではなく、寡頭制」だと言い続けている。2023年2月に英紙The Guardianのインタビューでこう語っている。
“One of the points that I wanted to make,” he says, “is yeah, of course the oligarchs run Russia. But guess what? Oligarchs run the United States as well. And it’s not just the United States, it’s not just Russia; Europe, the UK, all over the world, we’re seeing a small number of incredibly wealthy people running things in their favour. A global oligarchy. This is an issue that needs to be talked about.” 
 (「私が言いたかった点の一つは、もちろんオリガルヒがロシアを運営しているということです。しかし、どうでしょう? オリガルヒは米国も運営しています。そして、それは米国だけでなく、ロシアだけではありません。ヨーロッパ、イギリス、世界中で、信じられないほど裕福な少数の人々が彼らに有利なことを実行しているのです。それはグローバルな寡頭制です。これは話し合う必要がある問題です。」)
 
 日本も含めた西側は、形式的には言論の自由があり、自由選挙による代表民主主義制度で統治するという制度で成り立っている。経済システムからくる著しい不平等は貧困を増大させるので、選挙で勝利した政権党は不平等の是正処置をとる。これが社会福祉政策なのだが、新自由主義化の現代では、それは不平等を引き起こすシステムをそのまま残した形で行われる。
 第二次大戦後のヨーロッパ諸国での社会民主主義的な高度福祉社会の基本は、スウェーデン社会民主労働党や英国労働党が、経済部門の公有化を目指していたことで示されるように、資本主義システム下においても、できる限りの経済の社会化により、経済成長を図りながらも、完全雇用、所得の平準化、社会的富の平等化を目指していた。これは、ヨーロッパ諸国のみならず、日本など他の先進資本主義国においても、方向性は同じだった。しかし、1970年代以降のインフレと失業率の増加などの経済の低迷から、「経済の効率化」が求められるようになり、規制緩和、公的経済セクターの民営化で象徴される新自由主義化が始まった。
 この世界的な新自由主義化には、デヴィッド・ハーヴェイが言うところの「同意の形成」がの大きな要因となっている。あらゆる政策は、民衆の政治的同意がなければ、政権党は選挙に勝利することができず、実行することは不可能である。それが可能になったのは民衆の「政治的な同意」が必要なのだが、その形成をデヴィッド・ハーヴェイは次のように説明している。
「新自由主義への転換を正当化しうるのに十分な民衆的同意は、どのように生み出されたのか? これに至る回路は多様だった。企業やメディアを通じて、また市民社会を構成する無数の諸機関(大学、学校、教会、職業団体)を通じて、影響力のある強力なイデオロギーが流布された。かつて1947年にハイエクが思い描いた新自由主義思想は、こうした諸機関を通じた『長征』を経て、企業が後援し支援するシンクタンクを組織し、一部のメディアを獲得し、知識人の多くを新自由主義的な思考様式に転換させて、自由の唯一の保証として新自由主義を支持する世論の気運をつくり出した。こうした運動はその後、諸政党をとらえ、ついには国家権力を獲得することを通じて確固たるものになった」(ハーヴェイ「新自由主義」)
 これは新自由主義が確固たるもになった現在でも、新自由主義を維持するために行われていることだ。世論は、カネと権力 のある者が、かれらに都合いい情報を大量に流すことによって、容易につくり出せるのである。その実態を捉えれば、そんなものが民主主義であるはずはなく、「寡頭制」なのである。

主要マスメディア
 情報が量的には溢れる現在においても、世論に最も大きな影響を与えるのは、主要マスメディアがどう報道するか、である。今では、インターネットのSNSなどがあると言うが、SNSは所詮マスメディアが報道したものを、あれやこれやと反響しているものに過ぎない。ロシアのウクライナ進攻を始めた知ったのはSNSを通じて、という者もいるだろうが、もともとのSNSの情報源の始めはマスメディアが報じたからである。
 ロシアによる侵攻に例をとれば、マスメディアは「ロシア100%悪→中国もロシアと同じ専制主義国で悪→悪の中国はロシア同様侵攻してくる可能性がある→悪とは戦わなければいならない」と流布し続けている。このような報道が
当然に自国の軍事力(防衛力)強化を正当化する結論を導き出し、日本だけでなく、西側諸国の世論を形成しているのが実態でる。

 そのマスメディアを「米国では、8 つの大手メディア複合企業が、米国民が見聞きするもの、読むものの 90% を支配している。そして、この種の所有権の集中は世界中で一般的だ。たとえば、右翼の億万長者であるルパート・マードックは、非常に多くの国で主要なメディア媒体を所有している」のである。
 このようなマスメディアが、その所有者に都合の悪いことを報道できないのは、誰の目にも明らかである。

日本はなおさら深刻
 アメリカやヨーロッパ、隣の韓国でも、ストライキを中心とした労働運動は、国民生活の困窮化に抗して激しくなっているが、日本の労働運動は、連合路線に合わせた「戦わない労組」が主流となり、企業利益に貢献し、その「おこぼれを頂戴する」方針が一般的となっている。世界中で、恐らくは中国(ゲリラ的ストライキはあるのだが、公式にはないことになっている。)・北朝鮮についでストライキがない国だろう。
 サンダースの言うとおり、アメリカでは「労働者は反撃」しているが、日本の労働者は、意気消沈し、生活苦にひたすら耐えるているとしか言いようがないのである。

 日本のマスメディアも、政権党と広告主である企業に「忖度」する報道しかできない。その傾向は、メディアの経営悪化からますます強まり、カネと権力に「忖度」する傾向が強まっている。
 例えば、右傾化し、自民党に親密度を増す朝日新聞は、米UAW傘下大手自動車3社労組のストライキにバイデンが理解を示したという記事の終わりの文章は「米国経済に冷や水を浴びせかねない」(9月16日)と、ストライキを否定的な表現で結んでいる。言外にストライキは「良くないこと」と言いたいのは明らかだ。

 日本の一部野党を取り込んだ自民党長期政権は終わりそうにない。公明の次は、国民民主、その後には、維新も控えている。それに合わせ、主要マスメディアは、ますますカネと権力に忖度し、それがさらに自民党長期政権を長引かせる。この悪循環は永遠に続くのか。 

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