夏原 想の少数異見 ーすべてを疑えー

混迷する世界で「真実はこの一点にあるとまでは断定できないが、おぼろげながらこの辺にありそうだ」を自分自身の言葉で追求する

朝鮮半島危機の今後最も可能性の高いシナリオ

2017-09-16 11:58:57 | 政治

 北朝鮮は、ミサイルの試射と核実験を立て続けに行っている。マスメディアはそれを連日にわたって報道しているが、今後の予想されるシナリオについては様々だ。その中で、ネット上や極右の雑誌(例えば、「新潮45」北朝鮮爆撃カウントダウン)で、最も多いのが、戦争が始まるというものだが、それは書いている者の野次馬根性的的願望が現れているだけで、実際にはあり得ないことをだらだらと書き綴っているだけである。海外メディアで意見を述べているほとんどの専門家は、米朝が相手の意図を誤解した時には、偶発的には戦争は起こり得ると述べており、意図的に戦争を起こすことは考えられれないとしている。また、いくら制裁の強化と軍事的な圧力を誇示したところで、北が核・ミサイル計画を放棄することはあり得ないというのが、大方の意見でもある。9月11日、国連安保理は、過去のものより一段と厳しい内容の制裁案を可決し、原油と石油精製品の輸出の制限が含まれる。これは、一見厳しい内容に見えるが、北は既に4月以降石油の備蓄を始めており(BBCウェブサイト2017.9.4)、多数のメディアが密輸が横行していると報じていることから、効果は小さいと考えるのが妥当だ。また、軍事的な圧力については、圧力を加えれば加えるほど、北は核・ミサイル計画を急ぐだけである。9月15日には、安保理の決議に答えるかのように、ミサイル試射を行ったのは、それを裏付けている。要するに、アメリカとしては他に選択できる手段はないので、制裁の強化と軍事的な圧力が有効だと叫んでいるに過ぎない。

 そのような状況で、日本の複数のメディアでも、北の核の容認論がアメリカで出始めたと報道されている。恐らく初めの出どころは、ニューヨークタイムズに載った元アメリカ国連大使のスーザン・E・ライスの寄稿文によるものだろう。

「It’s Not Too Late on North Korea」(2017.8.10)と題されたもので、重要な部分は<History shows that we can, if we must, tolerate nuclear weapons in North Korea — the same way we tolerated the far greater threat of thousands of Soviet nuclear weapons during the Cold War.>という部分だ。

「冷戦期においてソ連の数千という核兵器のはるかに大きな脅威を容認したように、もし必要ならば、北の核兵器を容認できることを歴史は示している」。つまり、アメリカがソ連の核を使わせなかったように、北が核を持ったとしてもそれを使わせないように、伝統的な抑止力で可能だというものだ。この寄稿文は、トランプの予防戦争(先制攻撃をしかねない姿勢)と好戦的なレトリックを批判したものなのだが、北の核を「容認するtolerate」という言葉が、大きな反響を呼んだようだ。

 9月7日には、ロイターもウェブサイトでも、記者の「米政権に残された選択肢、北朝鮮の核保有容認か」という記事を載せている。プーチンは「彼らは、自分たちが安全だと感じられなければ草を囓っても核プログラムを放棄しないだろう」と言った。アメリカ政府も、15日にマクマスター大統領補佐官が「制裁や外交による対応は限界に近い」(ロイター)と述べており、軍事オプションが不可能とは言わないが、現実を認めざるを得ないという方向に向かっている。

 そもそもどう考えても、北は核・ミサイル計画を放棄することなどあり得ないのだ。核・ミサイル計画が自分たちの生存を保証すると信じており、それが彼らの決定だからだ。したがって、アメリカが、(また安保理も)望まないとしても、近いうちにICBM級の核ミサイルの保有国でることを認めざるを得ず、その現実の上でどうするかを考えざるを得ないということだ。それは、北の核よりもはるかに強力な兵器を持っているロシア(ソ連)・中国と交渉してきたことを考えれば、方向性は明らかだろう。北の核を使わせない、使わなくとも済む状況を作り上げることだ。それは、大きな脇組で言えば、軍縮ということになる。長い間、米ソで行われたデタント(緊張緩和)を思い出せばいい。その時も、お互いの体制を正しいと認めたわけではない。しかし、そこに至るにはアメリカが認めなければならないことがある。今までの、経済・軍事の圧力が主体の外交方針は間違いだったということである。アメリカが対話に応じる時は、北は核・ミサイル開発を緩め、強硬に出れば、開発速度を速めたという事実である。さらに言えば、大国が軍事的圧力を強めれば、小国はその恐怖感から核を手にしたいという誘惑にかられるという事実もである。

 朝鮮半島の危機は、相手の侵略行動を防止するために、一定以上の軍事力を持ち、その軍事力を行使する意思を相手方に示すという抑止の論理が、生んだものだと考えざるを得ない。この抑止論の危険性にたびたび軍拡が指摘されるが、朝鮮半島の危機はそれがいびつな形で現れたのである。何故、軍拡に陥るかと言えば、互いに抑止のために、相手以上の軍事力を持とうとするからであるが、米朝の圧倒的な通常兵器の軍事力の差から、弱い方が核兵器に頼らざるを得ないと考えたのである。それは、その考えが、政治的に適切か、倫理的に正しいかという問題とは別のことである。安保理が、いくらそれは間違いだと言ったところで、相手はそのように考えたのである。冷戦時の欧州において、ワルシャワ条約機構軍の陸上戦力がNATO軍より優るので、アメリカは侵略行為には核で応戦することもあり得ると東側に警告していた。それと同じ論理を北は考えたのである。

 アメリカ政府も、日本政府も、マスメディアも、圧倒的な米韓の軍事力にさらされた北の政府と市民の恐怖感については、想像しようとはしない。それは、都合の悪いことはないことにする、考えないことにするという態度そのものである。安倍政権は、北のミサイルが落ちてくると恐怖を煽る。しかし、北のミサイルが日本を攻撃してくるとは、どういう状況なのかについては、まったく触れようとはしない。都合が悪いからである。北が日本を攻撃してくる状況とは戦争が始まったということであり、少なくても数十万人が死ぬということである。圧力を強めれば相手も強硬になり(勿論そこには北が強硬に出れば、アメリカも強硬になるということも含む)、戦争への危険性は増す、という事実を隠すためである。「戦争が始まらないためにどうするのかなんて、そんなことは知ったこっちゃない」という態度にしか、残念ながら安倍政権は見えない。

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