夏原 想の少数異見 ーすべてを疑えー

混迷する世界で「真実はこの一点にあるとまでは断定できないが、おぼろげながらこの辺にありそうだ」を自分自身の言葉で追求する

「アメリカに追随しないフランス、アメリカの言いなりの日本」

2023-04-16 10:06:02 | 社会

マクロン訪中
 4月5日~7日、フランスのマクロンは、中国を公式訪問し、習近平の歓待を受けた。その帰りの大統領専用機内で、メディアのインタビューを受け、その発言が「波紋」を読んでいる。
 アメリカの「ポリティコ」とフランスの「レゼコー」によれば、マクロンは台湾問題を念頭に、「アメリカに追従し、中国の過剰反応に付き合うべきと考えるのは最悪」と語ったという。さらに、「欧州は兵器とエネルギーに関してアメリカ依存を増大させてきた」「米ドルの治外法権的な状態への依存も減らさねばならない」 とも語ったという。「ポリティコ」は、「マクロンは欧州が米中対立に巻き込まれず『戦略的な自立』を確立して、米中に対抗する『第三極』になるべきとの持論を展開した」と説明している。 

 このマクロンの発言は、実に「フランスらしい」ものだ。フランスは、右から左まで、アメリカへの従属を拒否しているからだ。フランスは、ドゴール以来、アメリカ依存から脱却し、フランスの国益を中心とした独自性の追求を外交の基本としている。中道左派より左に位置する勢力の多くはNATOからの離脱さえ主張しているし、日本の右派と正反対に、極右ですらアメリカには追随しない。

 しかしこの「フランスらしい」発言には、すぐに、アメリカ共和党のマルコ・ルビオ上院議員が批判し、同じ共和党のリンゼー・グラム上院議員 などは「中国共産党と習近平国家主席をつけ上がらせるものだ 」と非難した。ヨーロッパでも右派系議員を中心に批判が巻き起こった。例えばドイツCDUのノルベルト・レトゲ ンは「マクロンは完全に正気を失っているようだ」 とまで言った。(以上、時事通信Web.4/10)

 アメリカの共和党に近い論調の「ウォールストリート・ジャーナル」は、社説で「対中抑止力を弱めるマクロン氏」と題し、「台湾をめぐる危機は誰も望んでいない。加速させることはなおさらだ。しかし、それを防ぐためには信頼できる抑止力が必要だ。 」としている。
 恐らくこれが、マクロン批判者に共通する考えだと思われる。この抑止力とは、西側が結束し、軍事力を強化するというものである。対ロシアのウクライナへの対応と同様に、西側は台湾に強大な軍事支援を行い、中国が武力侵攻した場合、西側は結束して、武力で対抗し、中国に制裁を課すという意思を明白にする。それが、中国の台湾への軍事侵攻を思いとどませることができるという考えである。無論、これは一種の脅しである。
 
 当然のように、中国としてはこの「脅し」に屈服するわけにはいかない。台湾周辺で、中国の軍事力を誇示するための軍事演習を大規模に行うことが中国側の目に見える形の「脅し」に対する「答え」である。

バイデンの「民主主義対権威主義・専制主義」の闘い
 西側の中国の台湾武力侵攻必然論と言うべきものの根底には、バイデンの「民主主義対権威主義・専制主義」と世界を分割する戦術がある。「権威主義・専制主義」の「悪い」中国は、ロシアと同様に、軍事侵攻してくるに違いない、というものである。そこでは、「権威主義・専制主義」という観点以外は、すべて排除される。だからマクロンの、政治的には中国を批判しながらも、経済は協調するという立場は容認できないのである。「権威主義・専制主義」の「悪い」中国に対しては、経済の領域でも封じ込めなければならない、と主張されるのである。政治も経済も「デカップリング」できないのである。
 バイデンの持ち出した「民主主義対権威主義・専制主義」との闘いは、かつての冷戦での「平和共存」という主張を完全に排除する。かつての西側の敵である「社会主義国」には、西側内に社会主義者が存在し、社会主義を「善」と見なす少なくない勢力が存在した(現在では、多くの社会主義者はソ連・東欧を真の社会主義だったとは見なしていないが)。ドイツの社民党政権が提唱したように、その社会主義者(社会民主主義者を含む広義の社会主義者)から「平和共存」は生まれ、核戦争の恐怖が「平和共存」を作り上げた。
 しかし、「権威主義・専制主義」は、一部のファシストを除き、それ自体を「善」と見なす者はいない。それは、グローバルサウスも含むほとんどすべての人にとっては「悪」であるからだ。そのことが、アメリカ民主党内左派もしぶしぶウクライナへの軍事支援に賛成しているように、西側の社会主義者も含む左派が、バイデンの「権威主義・専制主義」との闘いに、反対しずらい一つの要因となっている。だがこの「権威主義・専制主義」との闘いは、実際にロシア・中国がどれだけ「権威主義・専制主義」なのか、それと戦う西側が真の民主主義なのかとは、無関係である。バイデンのアメリカが民主主義と見なせば、「民主主義」の味方の国であり、権威主義・専制主義と見なせば「権威主義・専制主義」の敵国なのである。それはバイデンが主催した民主主義サミットで、民主主義とは疑わしい首脳を招待したこでも明らかである。また、4月15日、アメリカの国務長官ブリンケンが、ベトナムを訪問し、関係強化を図っているが、ベトナムも「共産党独裁国家」であり、バイデンの言う「権威主義・専制主義」国家であることは、中国と何ら変わりはない。「民主主義」かどうかなどが問題なのではなく、ベトナムを味方に引き入れ、中国を封じ込めることが、本当の目的なのは明らかである。さらに言えば、ロシアと真っ向から戦うウクライナのゼレンスキー政権は、「都合の悪い真実」だが、野党を禁止し、徹底抗戦から言論抑圧も行っている。言い換えれば、ロシアとさほど変わらない「権威主義」なのである。
 これらのことは、アメリカにとっては、対中国が「民主主義」の問題なのではなく、アメリカの政治的・経済的世界支配力が、台頭する中国によって崩されることが真の「懸念」であることを表している。
 そしてこの「民主主義対権威主義・専制主義」との闘いは、「権威主義・専制主義」は「悪で」あり、妥協すべきでないということから、国家の総力を挙げての戦いという意味をもつ。そもそも「悪」との「平和共存」などあり得ない。だから、政治・経済を「デカップリング」できないだけではなく、結局は軍事力の戦いが最も重要な要素となる。それが、バイデンのアメリカが行っていることなのである。
  
台湾の「現状維持」は、中国の大きなマイナスではない
 台湾の最大野党・国民党の馬英九前総統が、3月27日から4月7日まで訪中し、中国政府から最大級の歓迎を受けた。ここで重要なのは、国民党は、中国共産党支配の中国と台湾の統一を主張しているのではないということである。台湾は既に事実上独立しているのであり、事実上独立した台湾と本土との友好関係を緊密にすべきで、それが両岸にとって利益であるというのが国民党の立場である。それを知りながら中国政府は、馬英九を歓待したのである。
 このことは、中国政府にとって、あくまで本土並みの統一が第一であるとしても、台湾の「現状維持」は、一定の満足であることを示している。中国本土と台湾の経済的結びつきは、中国の輸入相手先首位は2020年、2021年と2年連続で台湾である(ジェトロによる)ことなど、年々強まっており、「現状維持」で、中台ともに利益を得ているのである。
 また、直近の台湾での世論調査でも、「早期に完全独立」は5.2%、「本土と統一」は1.3%に過ぎず、残りの圧倒的多数派は、「現状維持」派なのである(英BBC 2022/8/2)。民進党現政権の性急な独立志向は、多くの台湾住民の支持を得ているわけではないのだ。
 これらのことは、中国政府も理解しているはずであり、少なくとも早急に統一を無理やり推し進める必要性はまったくない。
 中国が恐れているのは、台湾の完全独立であり、それは韓国や日本のようにアメリカと軍事同盟を結び、米軍が台湾に駐留することである。そう考えるのが、最も整合性がある論理である。
 
西側の中での「自立派」とアメリカ「追従派」
 インドやブラジルをはじめ、グローバルサウスはアメリカには追随しない姿勢を明白にしているが、西側の中でもアメリカに追従しない政府はある。その中の一つがマクロン政権なのだが、逆にアメリカに外交政策的に追従する国はいくつかある。まず、英国、オーストラリア、カナダなど歴史的にアメリカと同盟意識が強い国である。これらの国は、政権交代してもアメリカとの同盟意識が強く、外交政策は大きくは変化しない。英国は労働党のブレア政権がアメリカのイラク戦争に積極的に参戦したし、オーストラリアの労働党政権も、それまでの保守連合政権と対中政策に大きな変更はなく、カナダは外交はアメリカと一体化している。
 その中でも特異なのが日本政府である。日本とアメリカは安保条約で軍事同盟を結んでいるが、歴史的には、同盟関係どころか第二次大戦では対戦相手だったのである。これには、第二次大戦後、占領国であるアメリカが、日本の民主化政策から、対ソ連・中国との新たな闘いのために、日本を同盟国とする目的で、戦前からの支配勢力である保守・右派層を擁護する方針に転換し始めたことに起因している。天皇制を存続させたのもその一つなのだが、保守・右派層にとっては、アメリカは守護神なのである。日本の民族主義を掲げる極右までも親米なのは、そのためである。
 勿論、アメリカが与党勢力である保守・右派層の守護神であるという理由だけでなく、アメリカの対外政策が戦後の日本の経済成長を大いに後押ししたということが、多くの日本人の親米感情を育んだことも、指摘しておかなければならない。
 日本の保守・右派層を結集した自民党は、例外的短期間を除いて、一貫して長期政権を築いてきた。そのため、日本の外交政策は、それこそ一貫して守護神であるアメリカに追随するようになった。岸田政権は、アメリカの対中国政策に合わせ、それまでの「専守防衛」をかなぐり捨て、対中国を念頭に、「敵地攻撃能力」までも、持とうとしているのである。
 マクロンはアメリカには追随することを、<vassal>という言葉まで使った。<vassal>とは「➊ (封建時代の)家臣,下臣;封臣.➋ 隷属[従属]するもの,配下」の意味である。<pays vassaux >とは属国と訳される言葉である。まさに、日本は<pays vassaux >属国と表現される国に成り下がったのである。
  
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