夏原 想の少数異見 ーすべてを疑えー

混迷する世界で「真実はこの一点にあるとまでは断定できないが、おぼろげながらこの辺にありそうだ」を自分自身の言葉で追求する

ロシアの侵略「ウクライナ軍は攻勢に出たが、戦争は継続し、ウクライナ人にはさらなる悲劇が」

2022-09-14 11:28:32 | 社会
 


ウクライナ軍の攻勢
 西側メディアによれば、ウクライナ軍は北東部ハリコフ州のイジウムなど数か所の街をロシア軍から奪還した。ロシア国防省もそれを事実上、認めているので、ロシア軍は劣勢に立たされており、支配地域を縮小させているのは間違いない。
 これは、ウクライナ軍の電撃作戦が成功したのだが、その裏には西側、主にアメリカのウクライナへ供給した兵器システム、軍事訓練、諜報活動があり、それが圧倒的にロシア軍より優れていることを示している。ロシア軍には、弾薬の供給不足と士気の低下が報道されており、このままウクライナ軍は、一定程度ロシアの支配地域を奪還し続けることが予想される。

ロシアは負けるわけにはいかない
 しかし、ロシア側がすんなりウクライナ全土の支配地域から撤退するかと言えば、まったくといっていいほどそれはあり得ない。ロイターは13日、西側軍事匿名当局者の話として「戦争の転機になるか判断するのは時期尚早との見方を示した 」、「厳密に軍事的に考えると、参謀本部が命令した撤退であり、軍の完全な崩壊ではない公算が大きい」 、「ロシア軍が防衛を容易にするために戦線を短縮し、そのために領土を犠牲にした 」と伝えている。要するに、部分的に撤退したが、ロシア軍は今後も支配地域の防衛と拡大を目指すということである。また、アメリカの国務長官アントニー・ブリンケンが、ウクライナ軍の攻勢を喜びながらも、ウクライナにとっては、「困難な冬になる」と言って、西側の軍事支援を維持するよう促したことでも裏付けられるように、戦争はまだまだ継続する、ということである。

 3月の段階では、ウクライナ・ロシア双方に停戦の気運がいくらか見られた。その時は、ウォロジーミル・ゼレンスキーは、ロシア系住民の独立支配地域を認めることを含む「ミンスク合意の地点までロシアが撤退する」ことで、一定の勝利としていたのだが、今では、クリミア半島の奪還まで戦争を辞めないと公言している。勿論それは、西側、特にアメリカの最新兵器の支援を得て、ということである。しかし、ロシアにとっては、ウクライナ全土からの撤退は、それだけでは済まないことを意味していている。ロシアという国家の存続の危機ということを意味しているのである。少なくとも、プーチンとその追随者にとっては、そうなのである。
 ロシア外相のセルゲイ・ラブロフは、1月に「すべての鍵は、NATOがこれ以上、東方に拡大しないことの保証だ」と言ったが、プーチンの軍事侵攻の目的が、ウクライナの軍事的中立化であり、(3月にはゼレンスキーも中立化を容認する意向を示したこともあった。)そのためのゼレンスキー政権の解体であったのは明らかだ。それがほぼ不可能な今は、最低でもウクライナ領土内のロシア支配地域の維持ということになる。ロシアにとって、そこからのさらなる撤退は、ウクライナ全土のNATO化であり、ロシアの国境まで米軍のプレゼンスを許すことになる。元NATO事務総長のアンデルス・フォグ・ラスムッセン は、「この戦争が終わったら、ロシアが二度と侵略できないようにしなければならない。そのための最良の方法は、将来のロシアの攻撃に耐えることができる強力な軍事力をウクライナが持つことで」「ウクライナの同盟国による数十年にわたるコミットメントが必要」(The Guardian13日Long-term military guarantees from west would protect Ukraine – report)と述べている。そのような状況をロシアは受け入れることはできないのである。 
 さらには、西側の多くの政治家や評論家、特にアメリカ政府高官からは、ロシアがウクライナから撤退すれば、それで良しというものではなく、ロシアが二度と軍事侵攻できないところまで、ロシアを弱体化させるべきという意見が数多く出されている。また、バイデンはプーチンを戦争犯罪者であり、戦犯として裁かれるべきだ、とまで言っている。それは、ウクライナを含む西側は、非の打ち所がないほど正義であり、反対に邪悪なプーチン政権は、何度でも侵略行為を繰り返す恐れがある、というロシア悪玉説に基づいている。ロシアの弱体化には、軍事力と経済力が含まれるが、第一次大戦後の対ドイツに対し、勝利した連合軍側の制裁同様に、二度と立ち直れないほどの打撃を与えるということになる。さらには、「戦争犯罪者として裁く」の前提は、第二次大戦の敗戦国並みに、ロシアを占領することが不可欠である。このことを、ロシア側が認識していないはずはない。それは、ロシア側からは国家の存亡の危機と捉えられても、何ら不思議ではない。
 ウクライナと西側にとっては、侵略した側を勝たせてはならない。道義的にも、そのとおりである。しかし、ロシアにとっても負けるわけにはいかないのである。

「核による絶滅の危機」は依然として残る 
 シカゴ大学のジョン・J・ミアシャイマーは、8月17日にアメリカ外交誌Foreign Affairsに「ウクライナでの火遊び」Playing With Fire in Ukraineと題して、ウクライナ戦争の「エスカレーションの結果として、ヨーロッパでの大規模な戦争、さらには核による絶滅さえも含む可能性がることを考えると、さらなる懸念を抱く充分な理由がある」と警告しているが、この「懸念」は、消えるどころか、より深くなっている。この中でミアシャイマーは、ロシアが核を使う場合、「ウクライナ軍がロシア軍を打ち負かし、自国の領土を取り戻す態勢を整えたり」「戦争が膠着状態に陥り、外交的な解決策がなく、有利な条件で紛争を終結させる」ために、「勝利のために核のエスカレーションを追求する」可能性があるとしている。

ウクライナ人にとってのさらなる悲劇
 ミアシャイマーは、ロシアの核攻撃を、ロシアにとって戦局を劇的に有利に転換するために使用する懸念を指摘しているのだが、それはウクライナだけに使用されるということである。それは、その時もアメリカは米ロ直接衝突を避けるために、ロシアには核報復をしてこないだろうと、ロシア側が見ているということである。米ロ直接衝突になれば、アメリカ人に被害が及ぶことになり、ひいては核の全面戦争にもなりかねず、アメリカ政府はそれだけは避けるということである。

 上記の核使用の可能性は高いとは言えないかもしれないが、ロシアは戦局が不利になれば、ほぼ確実に起こるウクライナにとっての悲劇は、かつての大戦やベトナム戦争のように、ウクライナの殲滅というロシア側の作戦である。ミアシャイマーも指摘しているように、ウラジミール・プーチンは、7月に「我々は、まだ本格的な何かを開始していない」と言った。「本格的な何か」について、具体的なことは言っていないが、その意味するところは、ロシアにはまだ余力があり、本格的な戦争は開始していない、ということだと解釈できる。そして本格的な戦争とは、相手国の戦力を完全に無力化することである。
 プーチンは、「ネオナチ」のゼレンスキー政権を打倒し、ウクライナを「解放する」ために「特別軍事作戦」を開始したとしており、ウクライナ全体を殲滅するという作戦はとっていなかった。しかし、ロシアの敗北が予期されれば、そんなことは言っていられない。今まで、行ってこなかった、一晩に10万人を殺害する東京大空襲や、アメリカの枯れ葉作戦のような、徹底した人的被害をウクライナに与え、ウクライナ側の抵抗する気力を失わせる作戦を選択する可能性は大きい。
 その中の一つに、ウクライナのインフラを破壊するというものがあり、実際にそれが開始されたのが、冒頭に挙げたThe Guardianの記事の写真である。ロシアは、ウクライナのインフラを攻撃のターゲットとし、発電所を攻撃し始めたのである。実際に、軍事施設でない発電所や水道施設などは、ミサイル迎撃システムもなく、攻撃はたやすい。さらには、全土に張り巡らされた送電網などは、防衛のしようがなく、簡単に切断可能である。そしてそれは、直接民間人を標的にしていないので、非難も大きくはならないで済む。
 冬が到来するまでに戦争は終わる気配はまったくない。確実なのは、ウクライナ人には、常にロシアの攻撃にさらされる上に、インフラを破壊され、とてつもないほど厳しい冬がやってくるのは間違いない。第一の悲劇は軍事侵攻だったが、第二の悲劇は、生活そのものの破壊ということになるなるのは確実と言っていい。

Anti-Warに戻れ
 世界で「リベラル」はもとより、左派もこの戦争には、単にロシアを非難するか、さもなくば押し黙ったままである。例えば、日本共産党は、最近では、少なくとも赤旗電子版では、この戦争の記事は皆無であり、NATO諸国の軍事支援には言せず、いいとも悪いとも言わない。しかし、このような状況でも、世界の中には、明確にAnti-War反戦を掲げる団体がある。9月11日にはCodePink,Veterans for Peace,World Beyond War ,Peace Actionなどの団体が、「ウクライナに平和を」と世界に呼びかけ、アメリカ主要都市でデモなどの行動を実行している。
CodePink ホームページ
 その主張は、「長期化する戦争を推し進めるのでなく、アメリカ政府と議会は、ウクライナとロシア双方が署名したミンスクⅡの合意に沿った外交的解決策を支持し、ウクライナは(当初ゼレンスキーも是認していた)中立的非ATO圏と宣言し、東部地域には公正な選挙を実施するよう求めるべきだ」というものである。ロシアが悪いという道義的主張だけでは、ウクライナの悲劇は終わらず、世界は、この反戦団体の主張以外には、戦争を終わらせるように仕向けることはできないだろう。
 
 
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