世界で、この三つの大国が、特別に大きな影響力を持っていることを否定する者はいないだろう。そして、過去の超大国の米ロが衰退し、その合間を縫うように中国が台頭していることを否定する者もいないだろう。
プーチンを狂気に走らせたロシアの凋落
この三国の中でも、特にロシアの衰退が著しい。ソ連崩壊後、経済は壊滅状態となり、その後いくらか持ち直したものの、一般国民の生活は困窮し、ごく一部のオルガルヒだけに富が集中する状況は未だに続いている。
IMFが公表している名目GDPを見ても、1992年71,603百万ドル(世界順位34位)で、その後微増し、1993年196,277百万ドル、2006年1,060,901百万ドル、2013年2,288,428百万ドル(世界順位8位)まで上昇したが、その後は減少し始め、2021年には1,775,548百万ドル(世界順位11位)と低迷し続けている。それは、インド3,041,985百万ドル、イタリア2,101,276百万ドル、韓国1,798,544百万ドルより小さく、アメリカの13分の1、中国の10分の1に過ぎない。もはや、1億4千万人の国としては、発展途上国に近い。
政治的な力も、かつて超大国として東欧に大きな影響力・支配力を持っていたが、ほぼ無力と言っていいほどで、安全保障面では、NATOの東方拡大で西側が東欧を吸収したので、ロシア側から見れば、国土の半分を敵に包囲されているように思えるだろう。
プーチンは、6月9日に「ピョートル大帝は21年間にわたって大北方戦争を展開した。 」、「彼は奪ったのではない、取り返したのだ。 」、「領土の奪還と強化、それが大帝のしたことだ」 、「領土を奪還し、強固にすることは我々の任務だ」 と語り、このことからアメリカのCNNは、プーチンの侵攻目的が「帝国ロシアの復活」であることが明確になったと分析した。 これは、ヒトラーの第三帝国の夢を思い出させる。当時、第一次大戦に敗北し、惨憺たる状況にあったドイツにあって、それを打開するためのヒトラーの狂気と同様な心理が、凋落したロシアのプーチンにも催したと言える。
それに対して、アメリカを筆頭に西側は、「戦争には平和を」ではなく、「戦争には戦争を」で対応する姿勢を崩さない。第二次大戦では数千万人が犠牲となった。ウクライナ侵略では、既に数万人が死亡しているが、終わらない戦争は、さらに大きくの犠牲者を生むのは避けられない状況になっている。万が一、ロシアと西側の核戦争になれば、第二次大戦並みの犠牲者どころか、地球は放射能で汚染され、人類そのものの存亡の危機に突入することになる。
アメリカも衰退の一途を辿っている
ドナルド・トランプは、「Make America Great Again(アメリカ合衆国を再び偉大な国に)」 と、度々叫んでいる。そして、それに呼応するアメリカ国民は数多く、トランプを擁する共和党は、政治紙ポリティコによれば、11月の中間選挙で上院は民主党と拮抗するが、下院では過半数の見通しとなっている。これは、多くのアメリカ国民がトランプの「再び偉大な国に」を肯定している、つまり、「偉大な国」は過去のアメリカであり、現在は衰退していると認めているということである。2017年にトランプは、これら現在のアメリカの状況に不満を持つ層を支持にして大統領選に勝利したが、その状況は何ら変わっていないのである。朝日新聞元政治部長の薬師寺克行は、「分裂」と「衰退」──これらが今の米国を象徴する言葉だ 、と評した(Courrier Japon2022.1.31)が、今さら、データを駆使して「衰退」の分析をする必要はないほど、誰が見てもアメリカは衰退しているのである。
米ロで、トランプの「再び偉大な国に」とプーチンの「帝国ロシアの復活」は共通性があるが、それは偶然なのではない。そこには両者に共通する、衰退する現状を何とか変えなけばならないという焦りがあるからである。そして、この「焦り」から、当然にもバイデンも逃げることはできない。衰退する一途のアメリカの流れを変えなければならないのである。
台頭する中国は、今の流れのままでいい
中国の経済的台頭は、言ってみれば、アメリカ流自由主義貿易の賜物である。中国は、国家管理により、相対的低賃金コストの輸出物を大量に生産し、自由貿易のおかげで、産業資本・金融資本を増大させてきた。その逆に、高コスト・低品質のアメリカ製品は市場から排除され、産業の空洞化を招いた。アメリカの輸出相手国1位はカナダ(約2800億ドル、対中国約1300億ドル、2017年)だが、輸入相手国1位は中国(約5000億ドル、2017年)であることを見れば、それは理解できる。今の流れのままで中国はいいが、アメリカは困るのである。
そのことが、米中の確執を作り出しているのである。台湾問題を見ても、中国の武力を使ってでも統一するという主張は、はるか以前の中国建国からであり、今、言い出したことではない。それを、近年になって敢えて強調するように持ち出してきたのは、アメリカ側である。バイデンは「一つの中国」政策は変更ないと口では言いながら、ペロシなど年々増している民主・共和両党の台湾独立支持強硬派の動きを黙認している。
凋落するロシアは破滅の道を選択したが、衰退するアメリカは?
NATOという敵に囲まれ、凋落する一方のロシアのプーチンは、狂気に見舞われたとしか思えない軍事侵攻という残虐で愚かな選択をし、結局のところ、ロシアの敵を強大化するだけであり、最悪、西側の武力と経済制裁という攻撃によって破滅するかもしれない状況に追い込まれている。そしてその「破滅」に、アメリカの対応いかんで、世界は核戦争という「破滅」に巻き込まれそうになっている。
アメリカの方の、台頭する中国を封じ込め、今の流れを変えなければならないという政策は、経済、政治、軍事の三方面から行われている。経済では、環太平洋連携協定 TPPを提唱したが、挫折し、今度は、インド太平洋経済枠組みIPEFという経済圏構想を作り出した。これらは、アメリカ一国では、経済に限れば「世界の工場」と化した中国に太刀打ちできず、多くの国を巻き込む形になっている。しかし、この二つには大きな違いがある。それはIPEFが、「自由で開かれた」というお題目を掲げていることで分かるように、「自由民主主義対専制主義」というイデオロギー的側面を強調していることである。つまり、経済対立に政治を持ち込もうとしていることである。これは、アメリカを筆頭とする西側の結束を固め、中国に対抗するという政治的経済的封じ込め政策としては、今のところ、成功しつつあるように見える。
これに最も貢献しているのが、ロシアのウクライナ侵略である。ウクライナへの軍事支援によって、アメリカ軍事産業に多大の利益を得させ、さらに穀物、ガスの輸出を増加させたように、経済的利益をもたらしただけでなく、アメリカ政府発信の情報が、さもすべて正しいかのような政治的利益をも、もたらしているからである。今や、西側主要メディアは、ロシアのプロパガンダの反動で、アメリカ政府高官、諜報部門の情報発信を何度も繰り返し報道するようになったからである。それまで、英国のガーディアン、フランスのル・モンド、ドイツの南ドイツ新聞などは、中道左派の色彩があり、アメリカには批判的な記事も多かったのだが、それは一変し、ロシア・中国=悪、アメリカ=正義の記事がほとんどになってしまっている。
しかし、近年のアメリカの「自由民主主義」は、アメリカの世界に対する経済的収奪と政治的支配という帝国主義的野望を隠す隠れ蓑という役割も持っている。それは、中東のサウジアラビアなど王族「専制支配」国や多くの極右政権をアメリカが支援しているという二重基準に端的に表れているが、「自由民主主義」が、それを持ち出して、批判するかどうかが、相手によって変わるのである。アメリカの経済的利益になれば、黙殺し、利益にならなければ最大限の非難をする、というやり方である。そこでは、実際には、民主主義よりも経済利益が優先しているのである。
さらには、政治的対立を煽ることは、新冷戦を加熱させ、軍事的対立からの衝突の危機を増大させる。アメリカ政府、中国政府にともに、軍事的直接衝突を避けてはいるが、中国は、「経済規模に見合った軍事力」を目指し、アメリカは、「軍事ケインズ主義」によって、軍事産業のみが世界一の技術と産業規模となっている。両者ともに、軍事産業が巨大規模になり、その行使へのハードルは下がっている。
また、アメリカは、ロシアがした軍事侵攻という選択を、中国にも台湾軍事侵攻という形でさせ、それを機に、ロシア同様、一気に中国を壊滅させる誘惑に駆られているようにも見える。そのための挑発をペロシやそれに続く議員が台湾訪問という形で実行しているようにも見える。中国側が最も嫌う行為を、わざわざ、実行しているからである。このままでは衰退する一方で、何とかしなければならないというアメリカの焦りが、そこには透けて見える。中国側には、今すぐに台湾を統一しなければならない理由はない。軍事侵攻という選択ならば、今まで、いつでも可能だったからだ。しかし、これまでも、今でも、台湾住民が武力で抵抗するのは分かりきっているから、しないだけである。武力によって中国全土を制圧(中国側の言い方では、解放)できたのは、内戦を経て革命が成功し、その勢いがあったからであり、言うなればその時期特有のもである。
それでも偶発的なものを含め、双方の軍事的衝突はあり得ないとは言えない。両国ともナショナリズムは高まり、軍事力を前面に出すのを控えるのは難しいからである。特に、アメリカ側のネオコンなどタカ派勢力は、バイデン政権の「弱腰」に極めて批判的である。衰退するアメリカもプーチンのように、正気を失うことがないとは言えないのである。
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