ミエは唇に手を当てたまま、チョルとキスをした後のことを思い返した。
ありえないことが起こりすぎて、二人ともふわふわと現実感がなかった。
ただ心臓の振動だけが、二人の間の空気を震わせる。
ミエの上唇から、たらりと一筋の血が流れた。
その赤い滴を目にした途端、チョルは現実に引き戻されたようだ。
バッ!
叫び声が、青い空に響き渡る。
「うわああああああ!!!!」
ミエが叫ぶならまだしも、誰よりも大きな声を上げたのはチョルだった。
そのチョルの狼狽っぷりに、ミエもファニもファニの二人の友人も、思わずポカンと口を開ける。
そこからのチョルはすごかった。
叫び、項垂れ、突っ伏し、壁に頭をぶつけ・・。
「うおおおおおおお!!
うわあああああ!!」
ブルブル・・・
「があっ!!うわぁあああ!!」
「ぐああああああああああああああああ!!!!」
ミエは呆気に取られた。
一通り暴れた大魔王は、ギッとミエに一瞥を食らわす。
ダダダダダ!!ドタッ!ゴロゴロ・・
ダダダダ・・・
チョルは叫び声を上げながら、そのまま走って行った。
ミエはなんのリアクションもできないまま、ただその場に残された・・。
半日経って、ミエは気づいた。
チョル、お前ものすごく失礼だぞ、と。
「クソーーーッ!!」
「ふっざけんなっ!!消えろっ!!なんであんたの方がテンパってんだよ!!
暴れ回るミエに、母が一喝した。
「早く布団入って寝なさい!!」
「めっちゃムカつくぅぅぅ!」
その日は夜遅くまで、ミエの叫び声とムンクの鳴き声が響き渡っていた・・。
[16歳、ファーストキスの夜は更けていく・・]
第八十二話③でした。
チョルの狼狽っぷりが・・
小さい頃にミエとからかわれた時も、チョルは叫び声を上げて逃げてましたね。
普段は冷静なチョルですが、ハプニングがあるとこうなっちゃうみたいです
第八十二話④に続きます