ビデオは一時停止していた。
しんとした静寂がリビングに広がる。
チョルとミエは、接触の衝撃にしばし目を瞑っていた。
「うう・・・」
「う・・頭が・・」
パチッ
目を開けたその瞬間、数センチの距離にお互いの顔がある。
二人は額をぶつけたまま、ピントが合わない相手の顔を見つめた。
ドクン、ドクン、と跳ねる心臓の振動が伝わるようだ。
相手の瞳に、
自分が映っているのが見える。
そして唇と唇が、かつてないほどの距離で近づいている——・・・・。
すると次の瞬間、静寂を切り裂くような電子音が響いた。
鳴り響く電話の音に、ようやくチョルの正気が戻った。
ひいっ!!
「わあっ!!!!」
チョルは衝動的にミエを跳ね除けた。
ミエはそのままゴロゴロと、台所の床を転がって行く。
「ちょ・・あんた・・」
「出てけーーーーーっ!!」
[結局事故が起こった]
叫ぶ大魔王、転がって行くミエ、事態は急速に進行中・・・。
<スピード>
電話は鳴り続けていたが、チョルはそれどころではない。
ミエの背中をグイグイ押しながら、玄関まで追いやって行く。
「へ?いやまだビデオ全部観てな・・・」
ポイッ
「出てけ」
チョル・・・もとい大魔王は、おどろおどろしいオーラと共にミエを締め出した。
「二度とくるな。この変態変人サイコパス」
あんぐり
バタン、と背後で玄関のドアが重々しく閉まる。
ミエは靴も履かずにその場に座り込んだままだ。
ガチャッ
すると数秒後、再びドアが開いた。
チョルはズンズン進んで行く。
「ど・・どこ行くの?」「お前んち」
??
「うち?」
なんとチョルがミエの家に行くと言う。
それは限界を迎えた、
<大魔王の怒り>
であった。
「え?なんでうちに?」「お前の親に話す」「??」
「お前が変態で変人だってな」
へ?
ミエが事態を把握するまで、数秒かかった。
なるほどチョルは、もっともミエがダメージを喰らう方法を知っているのだ。
「ちょっ!!ちょっと待って!!なんなん?!
ちょい待ちちょい待ちちょい待ち!!」
[ファン・ミエの人生最大の危機、1分前]
ミエは靴も履かないまま、超速でチョルを追いかけた。
第八十一話②でした。
なんと!!接触はおでここっつんことな!!
かなり痛そうですが、大丈夫なのか・・!?けど痛みとか感じる暇がなさそう二人とも・・
チョルの狼狽っぷりがすごいですね!しかも親に話すの、一番ミエが困ること・・
チョル、分かってるな!w
第八十一話③に続きます