「宿題は順調?」
小声ではあるが、ファン・ミエが学校で声をかけて来たことに驚いたチョル。
なんとなく、普通に返事をしてしまった。
「あ・・う・・ん」
はっ
気がつくと、ほとんどのクラスメートが自分たちの方を見ていた。
チョルは思わずバッとミエから視線を外す。
すると、後ろ席の男子がチョルの背中を指でトントンと叩く。
「あのさ」
「サッカーの予選、相手決まったよ。2組」「あ・・」
「後で話そうね」
その子はそう言いながら、チョルと、チョルと会話をしていたミエを交互にチラチラと見た。
同時に先生が教室に入って来たので、チョルは前を向く。
「はい、本開いてー」
顔面蒼白なチョルは、急いでノートを取り出すとバババッと文字を書いた。
”慌てんな!!!”
それは”友人”になったものの、こんなにすぐに距離を詰められると思ってなかったチョルの最大の抗議だったのだが、
案の定ミエにその意図は伝わらなかった・・。
<大したことない?>
休み時間になると、ミエはユンヒ達に呼び止められた。
朝、キム・チョルに話し掛けた件についてである。
「なになに、あんた大魔王と挨拶したん?!」「だって一緒に宿題するし!話もするし挨拶もするでしょ!」
そんな”大魔王”はというと・・・。
化学室にて、一人悶々としていた。
机の上には、ファン・ミエにもらったクリームパンと、ハン・ソンイにもらった手作りクッキー・・。
[キム・チョルは・・胃もたれしそうであった]
[正直重たい・・]
元々甘いものが得意ではない彼にとっては、甘いパンもクッキーも少々負担だそうだ。
「あ、おう!」
すると廊下にて、モ・ジンソプにばったり出くわした。
「明日サッカーやるんだって?俺も見にいくよ!うちのクラスとも、もうすぐ対戦かな?俺も出るよー。
お前、サッカー上手なんだってね」
「なぁ、これ・・」
チョルが言うより早く、ジンソプはそう言ってクッキーをひょいと取り上げた。
「あぁ、前作ってたの見たんだよ。お前去年同じクラスだったんでしょ?」
「あの子・・本当にコツコツタイプだよね」
「誠実で、親切で・・」
丁寧に成形されたクッキーは、ハン・ソンイの人柄そのものだ。
モ・ジンソプは、このクッキーがチョルの元へ渡った時の経緯を目にしている。
どことなく不自然な動きをするチョルを見つけてついて行ってみると、
そこでハン・ソンイと話をしていた場面を見たのだ。
「私おかしくなってたみたいで・・せっかく作ったのに断られると悔しくて・・
「それはチョルになの」
「本当に優しいね」
そう言われクッキーを受け取ったチョルのことを、
モ・ジンソプは物陰から見ていたのだ。
自分に気がある女の子が、自分用に作ったのと同じものをチョルに渡した———・・。
メラメラと心の中で燃える炎はお首にも出さず、モ・ジンソプは笑顔でチョルにこう言った。
「渡してくれてサンキュー」
「ありがとうって伝えとくわー明日がんばってねー」
ソンイの気持ちを手に持ち、軽い調子で去っていくモ・ジンソプ。
チョルは去年、こんな光景を目にしたことがあった。
「モ・ジンソプに断られたの?」
ハン・ソンイがモ・ジンソプに気があることは知っていた。
それもあってか、チョルはモ・ジンソプにどこか不信感を持っていたのだった。
渡しはしたけど・・。
これで良かったのだろうかと、胸の内はどこか落ち着かない。
先ほど食べたクリームパンで、胃がもたれているせいかもしれないが・・・。
第四十二話①でした!
チョルがミエに筆談した”慌てんな!”ですが、
四十一話①で二人で宿題をした時、”友人”となったミエに念押ししていた言葉です。
「慌てんじゃねぇ」
「うん、うん!慌てない、慌てない!」
ここでは「慌てるな」と訳してますが、本来は「ゆっくりと」「徐々に」といった意味合いだそうですので、
日本語訳版を作るならその場に合わせて変えればいいんでしょうが、
同じ言葉を何度も使ってるのが面白いので、そのことを皆さんに知っておいてもらいたかったのです。(なんか文章長・・
第四十二話②に続きます!