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だいじな本のみつけ方 大崎梢

読書が好きな中学生が様々な謎や課題に挑戦する2つの話が収められている。謎といっても小さな謎だし、悪者も全く登場しないヤング向けの毒のない話だが、最初の話などは謎の連鎖がなかなか面白くて、つい引き込まれてしまった。本好きには心地よい話で、本好きと自認する者としては読んでいて何だか照れ臭い感じだ。心地よすぎて、世の中の本離れが深刻になるなか、こうした内輪の持ち上げ合いが果たして良いことなんだろうか、とふと心配になった。(「だいじな本のみつけ方」 大崎梢、光文社文庫)

一週間ほどブログの更新をお休みします。

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おもてなしという残酷社会 榎本博明

日本の行き過ぎた「顧客第一主義」に警鐘を鳴らす一冊。東京オリンピック決定で「おもてなし精神」の向上が叫ばれているが、もともと「おもてなし精神」旺盛な日本でこれ以上向上させる必要があるのか、むしろ弊害の方が大きいのではないか、という問題提起が主な骨子。労働には、頭脳労働、肉体労働の他に、感情労働というカテゴリーがあるという。サービス業全体がそうしたカテゴリーに分類されるようだが、教師・介護・看護・コールセンターなどが特に顕著とのことで、それらの職場の実態を分かりやすく教えてくれる。オリンピックの盛り上がりに水をさすつもりはないが、普段の日本を体験してもらえば十分という著者の意見には説得力がある。(「おもてなしという残酷社会」 榎本博明、平凡社新書)

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江神二郎の洞察 有栖川有栖

著者の本は、新刊が出たらすぐに読むとか、ある時期に一気に読んだことがあるということではないが、それでもかなりたくさん読んでいると思う。そんな付き合い方をいている作家だが、たまたまネットで見かけて面白そうなので読んでみることにした。著者に対するイメージといえば、「新本格の旗手」「日本のエラリークイン」といったところだろうか。本書を読んでまずびっくりしたのは、本書に著者の処女作が収録されていたこと。こうした形で著名な作家の処女作に出くわすとは思わなかった。各短編には、本筋とは別に、様々なミステリー談義がついていて、いかにも「ミステリー研究会」出身という感じの作品が並んでいる。その中で特に面白かったのは、ミステリーのどんでん返しにはきりがないというくだり。確かに名探偵が「これが真相」と言って事件が解決したようにみえても、犯人がそう推理する人間がいる事を想定してそう思わせるトリックを施していたということになれば、確かにきりがない。作家自身が、作家も読者も最終的にどこかで妥協しているという指摘をしているのが面白かった。(「江神二郎の洞察」 有栖川有栖、創元推理文庫)

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やりたい事は二度寝だけ 津村記久子

最近良く読むようになった作家のエッセイ集。小説家のエッセイ集を読むと、今まで読んだ著者の小説の原点ともいうべき考え方、物事のとらえ方、表現の仕方などが色々判るような気がする。朝TVでやっている「星占い」のようなものに対する考え方とか、昔のドラクエをやっていた頃の思い出など、何だか自分と似ていつようで、ついうなづいてしまった。また、著者の作品のなかで色々な「祈り」の姿が描かれているが、そのあたりの感じが「作家自身」の考え方が強くにじみ出ていることも分って大変面白かった。ネットで調べると、著者の書評を集めた本も刊行されているらしい。どこまで共感できるか、直ぐにも読みたくなってしまった。(「やりたい事は二度寝だけ」 津村記久子、講談社)

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ヒトラーの描いた薔薇 ハーラン・エリソン

50年以上前に書かれたSF短編集。最近の書評などでの著者の持ち上げ方をみると、これまで著者の名前を聞いたことがなかったのが、不思議な感じがする。海外での評価と日本での評価にギャップがあって翻訳がされなかったからなのか、海外での評価に変化があったのか、そのあたりはよく分からない。読んでみて思ったのは、どの作品も人間社会に対する絶望に近い暗さ、既存の権威への強い怒りが根底にあるのだが、それでいて最近のSFなどよりもよほど面白いということだ。巻末の解説では、ある作品について「やや古臭いが…」とあったが、個人的には全くそうは感じなかった。自分自身、最近のSFにはついていけないと思うことが多いが、一般的には「古い」と言われるくらいの作品が自分にはちょうど良いのかもしれないと感じた。(「ヒトラーの描いた薔薇」 ハーラン・エリソン、ハヤカワ文庫)

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かくも水深き不在 竹本健治

著者の本は3冊目。本作を読んで、掴み所のない作家というイメージがますます強まった。連作短編集のような体裁だが、内容は完全に1つに長編作品だ。色々な事件が起きて、それぞれにある精神科医が登場するが、それぞれの事件に関連性はないように見える。事件の方はいずれも何となく腑に落ちない終わり方をするのでモヤモヤしたまま読み進めるのだが、最後の一編で驚愕の事実が明らかにされる。じっくり読んでいたら少しは気付いたかもしれないというレベルではない正真正銘のどんでん返しだ。巻末の解説に、読者を煙に巻くことに徹底的にこだわる連城三紀彦との類似性が指摘されているが、面白さや説得力は別にして、構築された世界の複雑さと意外性は連城作品以上だろう。(「かくも水深き不在」 竹本健治、新潮文庫)

 

 

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少年時代 深水黎一郎

音楽の蘊蓄満載の初期作品からユーモアミステリーと着実に作風を変えたり拡げてきた著者の新しい短編集。著者には、ペダンチックな文章の重い内容の作品からユーモアミステリーに進化しつつも、一貫してトリッキィな仕掛け、終盤のどんでん返しを重視しているというイメージがある。「少年時代」という題名もそうだし、最初の1編もそうなのだが、どうもこれまでの著者の作品内容やイメージとは少し違う作品のような気がしながら読み進めた。本作品では、予想通りそうしたペダンチックな内容と文章とユーモアはほぼなりを潜め、著者らしさは最後のエピローグで明かされる大きな仕掛けのみとなる。次の作品がどのような作品なのか、著者の今後がますます楽しみに感じられた。(「少年時代」 深水黎一郎、ハルキ文庫)

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ハリネズミの願い トーン・テレヘン

今年の本屋大賞翻訳部門の大賞を受賞した作品ということで読んでみた。内気なハリネズミが知り合いの動物たちを家に招待しようと招待状を書くのだが、色々な妄想をして結局出せずに終わるという話だ。何かの寓意があるのかもしれないが、それにしては話が単純で、寓意の内容も分かりやす過ぎる気がする。多くの書店員が本書を一年間の翻訳本のイチ押しという理由がよく分からない。本の帯には色々な人の推薦のコメントが載っていて、話題になったのかもしれないが、それだけで選ばれたというのも解せない。翻訳本の市場がどんどん小さくなっていると言われるが、この本が大賞に選ばれることと市場の縮小、どちらが原因でどちらが結果なのか、恐らく両方だろう。少し悲しい話だ。(「ハリネズミの願い」 トーン・テレヘン、新潮社)

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不時着する流星たち 小川洋子

歴史上の人物や出来事にインスパイアされた短編が並んでいるということなのだが、自分が知っている人物や出来事がほとんどなかったので、これらの話を読んでどの程度それらの人物や出来事を想起できるのかはよく判らない。自分の知っている「グレン・グールド」に関して言えば、これを読んで「グレン・グールド」を想起することはできなかったと思う。読んでいて、語り手の年代も境遇も直面している問題も様々で、これらの話の共通点は何なんだろうと考えてしまったが、最後まで読んで題名を見返したところで、これらの話を結びつけるキーワードが「不時着」という言葉なんだと感じた。話からあえて「予定調和」を排除して語られる物語。本書を読んでいて心に迫るのは、予定調和や収まりの良い結末ではなく、何となくここにきてしまったという感覚のような気がした。(「不時着する流星たち」 小川洋子、角川書店)

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これからお祈りに行きます 津村記久子

最初に読んだ作者の作品「浮遊霊ブラジル」と似た雰囲気の中編2編が収められた一冊。作者の妄想のような奇妙な設定と緻密な描写、滲み出るユーモア、独特の語り口、これらが面白くて、癖になりそうだ。まだまだ未読の作品は多いし、エッセイ集も何冊か出ているし、どんどん新作も出そうだし、当分この作者の作品で楽しめるのが嬉しい。(「これからお祈りに行きます」 津村記久子、角川文庫)

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縁見屋の娘 三好昌子

「このミステリーがすごい」大賞の優秀作品(第2位)で、その完成度の高さに各審査員が驚いたというエピソードがあるという作品。確かに読んでいて、ストーリーは淀みなく、謎を引っ張る展開も見事で、これはすごい作品だなぁと感じた。大賞の作品が読者の度肝をぬくトリックでこれぞミステリーという作品だったのに対して、本書はどちらかといえばミステリーというよりも伝奇小説に近い。それでもこの作品が第2位に選ばれたのは、それだけ良い作品だということの証であり、また今年の大賞応募作品が非常に豊作だったということだろう。(「縁見屋の娘」 三好昌子、宝島社文庫)

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無理難題が多すぎる 土屋賢二

久しぶりの著者の本。ツチヤ先生もツチヤ師も健在だ。著者が定年退職したこともあって、話の舞台は今まで以上に狭くなってしまったようだが、面白さは全く変わらないし、読んでいて何故楽しいのか自分でも説明できない不思議さも変わらない。名物の巻末の解説もいつも以上に凝っていて楽しい。期待通りの脱力系読書の極致だ。(「無理難題が多すぎる」 土屋賢二、文春文庫)

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観察力を磨く名画読解 エイミー・ハーマン

本書は、色々な職業に欠かせない観察力を養うセミナーを行っているという著者の本。その方法が変わっていて、「目の前の古今の名画、報道写真などを観察し、それがどういう作品かを他人に伝えることで、観察力を高める」という。本書でも、沢山の絵画や写真が掲載されていて、それを見ながら地の文章を読むことで、著者のセミナーを擬似体験出来るという仕掛けだ。読む前は、観察力を磨くのと同時に、絵画の見方にも色々な示唆があるのではないかと考えたが、本書はあくまで観察力を磨くための自己啓発本だった。豊富な図版と事例が次から次へと紹介され、1つ1つについてじっくり吟味する暇も与えないように講義は進む。画家の主観が介在する絵画なので、それを過不足なく伝えるのは難しい、それだからこそ訓練なるということなんだろうが、絵画をそういう使い方をすること自体、随分即物的・アメリカ的だなぁと感じた。(「観察力を磨く名画読解」 エイミー・ハーマン、早川書房)

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カソウスキの行方 津村記久子

著者の本を立て続けに読んでいるが、その独特の文体がますます好きになってきた。三人称で語られていてもその実態はモノローグで、それが私小説的な内容と合致して、独特の雰囲気を醸し出し、シンパシーを感じる大きな要因になっている気がする。内容的には、仕事や生きることに息苦しさを感じている人々の日常。但し、それぞれが自分自身で少し変わった楽しみを見つけることで、前に読んだ処女作のような厳しい現実からは前向きになっている。心の中で自分にのり突っ込みを入れるさまが、客観的には少し痛ましいのだが、それと同時に微笑ましく、彼女彼氏を温かく見守ってしまう自分を発見する。(「カソウスキの行方」 津村記久子、講談社文庫)

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アメリカ最後の実験 宮内悠介

著者の作品はこれで5冊目か6冊目になるが、大変面白かった作品もあれば、作者の提示するイメージについていけない作品もありで、未だに自分自身の中でも評価の定まらない作家だ。いったい今度はどんな内容なのか? 本書は、突然アメリカで行方不明になった父親を探すために渡米した日本人の少年の話だ。そこで聞かされた父親の行方不明前後の不思議な言動。それに関する不思議な楽器の存在。冒頭から提示される幾つもの魅力的な謎に期待が高まるのだが、楽器の謎は早いうちに呆気なく解き明かされてしまうし、行方不明の父親も突然姿を現し、いつの間にか謎でなくなってしまう。そのうち日本人の少年の話だったはずのストーリーそのものが別の様相を見せ始め、最初に提示された謎の解明は物語の肝ではなかったことが明らかになる。今回も作者のイメージに十分ついていけなかった気がするが、残念という感情は湧かない。また作者の本を見つけたら買って読むだろうなぁと思う。(「アメリカ最後の実験」 宮内悠介、新潮社)

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