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この嘘がばれないうちに 川口俊和

昨年ブレイクした「コーヒーが冷めないうちに」の続編。ある条件の下で過去や未来に行くことができるという喫茶店の話だが、何故そんな条件があるのかは別として、過去にやり残したことがある人や過去のある出来事に決着をつけたいと望む人がその喫茶店を訪れる。本編では、その喫茶店で働く主要人物達の過去もかなり明らかになり、ほぼ完結に近い結末を読むことができる。人気作品としては早すぎる完結のような気もするが、最近ダラダラと続くシリーズ作品が多い中、この終わり方は実に潔い。(「この嘘がばれないうちに」 川口俊和、サンマーク出版)

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物件探偵 乾くるみ

不動産売買を巡るミステリー短編集。不動産を購入しようとしている人、売却しようとしている人、それを仲介する不動産業者、それぞれの事情や思惑が交差しながら、話は進む。著者の初期の作品のようなあっと驚く仕掛けはないし、本格的な悪人や悲惨な事件もないが、ミステリーとしては文句なく面白い。さらに、読んでいて不動産売買の基礎知識や注意点が自然に習得できる気がして、少し得をした気分にもなれる。もし不動産の知識が豊富だったら、不動産物件の新聞チラシを見ているだけで色々面白いのかもしれないと思った。(「物件探偵」 乾くるみ、新潮社)

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草花たちの静かな誓い 宮本輝

著者の本を読むのは久しぶりだなぁと思いながら読み始めた。白血病で亡くなったと聞かされてきた従姉妹が、実は生きているかもしれないと知り、その行方を追いかける主人公。読者としても、直感的に何か悲しい過去がありそうで、主人公と同じ気持ちでためらいながらも真相を知りたいと思う。主人公のとる行動に、やはり自分でもそうするだろうなぁと何度も共感する。この小説の肝は、自分自身がそれを経験しているようなそうした主人公との強い一体感だ。著者の小説は、自分のなかにある別の人生の疑似体験をもたらしてくれる。久しぶりに著者の本を読んで、謎解きとかどんでん返しだけでは得られない読書の醍醐味を思い起こしてくれた気がする。(「草花たちの静かな誓い」 宮本輝、集英社)

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罪の余白 芹沢央

著者の本は4冊目。これまでの3冊は全て短編集だったので、著者の長編を読むのは初めてだ。著者の作品リストを見ると本書が一番最初に載っているので、デビュー作かそれに近い作品なのだろう。内容は、娘の死に直面した主人公が、その真相を追いかけるというもので、特に変わった趣向がある訳ではないが、登場人物の心情が読む人の心に刺さるような重厚な一冊だった。ストーリーに膨らみを持たせるために登場人物がやたらと多くなってしまう小説が多いなか、本書の登場人物はほぼ5人と大変少ない。それが、それぞれの人物の心の動きを読者の心にフォーカスさせる効果を高めているのだろう。内容と構成がうまくマッチした作品だと感じた。(「罪の余白」 芹沢央、角川文庫)

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とにかくうちに帰ります 津村記久子

何でもない職場の日常を切り取ったような内容。その観察眼の確かさとそれを伝える簡潔な文章力。本書の特徴はこの2点に尽きるだろう。著者の本は「浮遊霊ブラジル」に次いで2冊目だが、さらに著者の作品が好きになってしまった。どこにでもいそうな職場の同僚達を女性社員の目で描いた最初の一編「職場の作法」はその観察眼が何とも言えず秀逸だし、どこからどこまでが本当の話か分からないような「バリローチェのフアン・カルロス・モリーナ」という第2編目も、これを小説と言って良いのかどうかと迷うほど独特の作品だ。最後の「とにかくうちに帰ります」は大雨の日に家に帰ろうとする人たちのドタバタ劇だが、ちょっとした映画を見ているような細かい描写が冴えわたっている。それぞれが違う味を出しながら、著者の観察眼と文章力が際立って感じられる。著者の本はまだまだ10冊以上もあるようで、それらがこれから読めると思うと嬉しくなってしまう。(「とにかくうちに帰ります」 津村記久子、新潮文庫)

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鍵のことなら、何でもお任せ 黒野伸一

鍵を巡るお仕事小説であればミステリー要素も多いだろうし、海外では「解錠師」という名作もある。いったいどんな話だろうと読み始めた。冒頭から「町の鍵屋さん」の大変さが分かるエピソードが次から次へと描かれて、本当に大変な仕事なんだなぁと思いながら、物語にグイグイと引き込まれてしまった。当初予想したようなミステリー要素はほとんどないが、展開の早さ、仕事に対する主人公の矜持の自然さ、登場人物の魅力、読後の後味の良さなど、良いところが一杯の一冊だった。(「鍵のことなら、何でもお任せ」 黒野伸一、徳間文庫)

 

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猫には推理がよく似合う 深木章子

著者の本は3冊目だと思うが、前に読んだ2冊がシリアス系とユーモア系と全く雰囲気の違う作品だったので、この作家の本領はどっちなのだろうかと思いながら読み始めた。物語は、ある弁護士事務所で働く主人公の女性の視点で描かれている。その主人公は何故か職場で飼われている猫と話が出来るのだが、その猫がミステリーが大好きでその職場を舞台にしたミステリーを書いては主人公に感想を求める。少し不思議だが、相手が猫だけに何となくほのぼのとした作品だなぁと思っているうちに本当の事件が勃発し、話は正に予想外の展開に。シリアスとユーモアが合体、猫の習性も良く描かれていて、とても面白かった。(「猫には推理がよく似合う」 深木章子、KADOKAWA)

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浜村渚の計算ノート7 青柳碧人

本書もシリーズ8冊目となり、どんな読者に飽きられない工夫をしているのかが興味の中心だったが、本書の場合はそれがみあたらなので、何だかとても退屈な作品になってしまったようだ。ミステリー的な要素も作を重ねるごとに薄くなってしまっているし、奇抜な登場人物とか、思わぬ展開とかもなくなってしまったようで、作品のテンションそのものが最初の頃に比べて落ちている気がする。最後にひとつの謎を提示して終わっていて「次も読んでね」というだけでは安直過ぎるだろう。それでも次に新刊が出ると読んでしまうと思うが、著者には是非新機軸を期待したい。(「浜村渚の計算ノート7」 青柳碧人、講談社文庫)

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ビブリア古書堂の事件手帖7 三上延

ずっと楽しく読んできて、TVドラマも観てきた本シリーズも本書が最終巻とのこと。小さな謎を解く日常ミステリーの場合、限られたシチュエーションの中で質の高いミステリーを作り続けることは、探偵や警官が主人公のミステリーよりも大変だと思う。新しいアイデアが枯渇してくると、取れる方策は、リアリティをある程度犠牲にするか、話の中身を謎解きから主人公を取り巻く人間模様へシフトさせるかのどちらかだ。本シリーズも、こうした流れに逆らえない状況になっているなと感じてきたが、いよいよということだろうか、まだまだ読みたいという気持ちがある一方、引き際としてはちょうど良い感じがしないでもない。本書は、これまで伏せられたり曖昧にされてきた登場人物の来歴や人間関係が次々と明らかにされていき、後味の良いエンディングと言える。そして最後の著者自身によるあとがきで、時系列的な本編は完結だが、スピンオフ作品はまだ書くとのこと。読者へのサービストークかもしれないが、読者としてもそれが丁度いい感じで嬉しい。(「ビブリア古書堂の事件手帖7」 三上延、メディアワークス)

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サンタクロースのせいにしよう 若竹七海

著者の初期の頃の作品だが、ネットですんなりと購入できた。これだけ昔の本が絶版になっていないということは、ずっと読み継がれてきていることの証だろうか、著者の人気が一時的なものではないような気がして少し嬉しくなる。内容は、これまで読んだ作品のなかでは、あまりミステリー要素が強くない部類の話だが、ちょっとしたヒントからある出来事に対する別の考え方が見えてくるという趣向が冴えている。こうした少し脱力系ともいえる作品が、本格ミステリー隆盛だった時期から書かれていたというのはちょっと新しい気がしたし、短編ごとに「名探偵」役が変わっていくというのも目立たないがかなり斬新だと思う。大きなブレイクはないかもしれないが、読書のバラエティをこうした作品が支えてくれているということが実感できた1冊だった。(「サンタクロースのせいにしよう」 若竹七海、集英社文庫)

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雪煙チェイス 東野圭吾

超人気作家の文庫書下ろしという贅沢な一冊。内容は、著者の1つのジャンルにもなっているゲレンデもの・スキーもの。このジャンルは、作家自身の趣味が色濃く反映されていて、どちらかというとミステリー色よりもサスペンス職の強い作品が多かった。読んでみると、予想通り、自分の容疑を晴らすために奔走する主人公とそれを追いかける特命をおびた警察官の追跡劇だ。著者の本だけに、はらはらドキドキの連続だし、スキー場という特殊な場所を上手く物語の展開に織り込んでいて、最後の最後まで読者を引っ張っていく。但し、スキー場で行う結婚式を盛り上げようとする仲間とか、主人公を助ける友人の行動はどうも嘘くさいし、対する警察官の行動もかなり無理が多い。作家自身の趣味は趣味として、著者にはもっとリアリティのあるミステリー要素の強い作品を書いて欲しいと感じた。(「雪煙チェイス」 東野圭吾、実業之日本社文庫)

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京女の嘘 井上章一

昨年の大ベストセラー「京都嫌い」の続編という趣きだが、内容は、作者自身が前書きで述べているように、前作とは全く違う。明らかな2匹目のドジョウ商法だが、それで裏切られたと感じたかというとそうでもない。内容がそれなりに面白かったからだ。話は、京都の女性の「かんにん」という言葉の考察から始まってどんどん予想外の方向に逸れていく。まあ言いたい放題の内容で、「京都嫌い」との最大の共通点はそれに尽きる。各章ごとのタイトルが比較的大きなフォントで印刷されている。内容は至って真面目なのだが、電車で読んでいて隣の人にそのタイトルだけを覗かれると「このおじさんなんて本を読んでいるんだ」と顰蹙を買うこと必至で、かなり恥ずかい思いをさせられた。(「京女の嘘」 井上章一、PHP出版)

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今だけのあの子 芹沢央

最近著者の本を立て続けに読み始めた。本書を読み始めた段階で、既に手元にはあと2冊著者の未読の本を入手済。順番に読み進めていくことにしたい。本書は、著者の本としては3冊目になる。本書では、これまでの2冊とは少し様相が違って、あまり大きな事件は起きない。収められた5つの短編に共通するのは、ある他人の不可解な行動が原因で子ども同士大人同士の人間関係が大きく損なわれるといった、どちらかというと日常の些細ないざこざだ。やがてその行動が持つ本当の意味が明らかにされて、意外な真相に驚かされる。その意外性も楽しいが、本書の真骨頂は、そこに行き着くまでの話の構築の素晴らしさだ。最近読んだ本の中でも、話の構築の丁寧さは色々な作家の中でも群を抜いている気がする。これは、今までに読んだミステリー色の強い作品にも共通している著者の作品の特徴だと思う。次を読むのがますます楽しみな作家だ。(「今だけのあの子」 芹沢央、ミステリ・フロンティア)

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パレードの明暗 石持浅海

今年に入って、偶然には違いないのだが、何故か面白いミステリー短編集に幾つも出会っている気がする。本書もその一つ。書評で面白いと取り上げられていたので期待はしていたが、期待を上回る感じで楽しめた。「警察官の愚痴を聞く男」の物語という触れ込みだが、実際は、主人公が、解決済みの事件の概要を聞いてその裏に隠された本当の事件の姿を推理するという話だ。いずれの話も、ちょっとだけひねりが効いていて、なるほどなぁと感心させられてしまう。本の最後に出版社の刊行案内があり、それを見たら本作はシリーズもので、すでに何冊か既刊になっているらしい。まだいくつもこの短編を読めるのは嬉しい。(「パレードの明暗」 石持浅海、光文社)

 

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ラメルノエリサキ 渡辺優

装丁からすると「ライトノベル」のようにみえるが、そういうジャンルとはかけ離れた書評誌で高い評価を得ていた1冊。ジャンルを超えて評判になっている作品のようだ。内容は、自己愛にこだわる少女が、題名となってる謎の言葉の意味を探っていくうちに、その愛情を他人に分け与えることを少しずつ覚えていくという成長の物語。読んでいて胸にぐっとくるものがある。自分も含めて人の成長というものにはこうした要素もあったなぁと改めて気づかされてくれる1冊だった。本書を読んですごいと思ったのは、主人公の考えが、世間的にはやや不謹慎と思われるものなのだが、それがまっすぐで全くぶれていないこと、それが文章からちゃんと伝わってくることだ。おそらくこれがこの著者の非凡な才能なのだろう。こうした作家を発掘してくれる文学賞の意義の大きさにも改めて気づかされる。(「ラメルノエリサキ」 渡辺優、集英社)

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