和田浦海岸

家からは海は見えませんが、波が荒いときなどは、打ち寄せる波の音がきこえます。夏は潮風と蝉の声。

随筆と俳諧。

2022-05-10 | 柳田国男を読む
本の読み齧りで、1ページ読んではポンとつぎの本へ。
そんな読み方は、私の日常茶飯事。

さて本題。随筆といえば、思い浮かぶのは徒然草。
寺田寅彦と随筆といえば、岩波文庫「寺田寅彦随筆集 第一巻」の
後記に小宮豊隆氏が記しておりました。

「 寅彦の書くものが『枕草子』や『徒然草』の伝統を承け、
  俳諧の精神を続いで、日本の随筆文学の中でユニイクな
  位置を占めるものである事は、周知の事実である。・・ 」
                  ( p303~304 )

はい。谷沢永一の対談集の山野博史氏との対談に
「随筆ほれぼれする・・この人この一作」と題する箇所があり、
その中に、柳田国男著「木綿以前の事」が紹介されております。
そうです、「木綿以前の事」は日本の伝統の随筆として読むのが
ごく自然な読み方なのだと、あらためて教えられた気になります。
ということで、対談のこの箇所を引用しておきます。

谷沢】 ちょっと時代をさかのぼりますが、大正の終わりごろから
   随筆体で、しかもちゃんと学問的値打ちのあるものを書く
   という二大巨匠があらわれる。これが柳田国男と折口信夫です。

山野】 ・・・・柳田国男は同時代人からさんざん言われて、
   いままた批判する人からも好き勝手なことを言われているんだけど、
   そんなことに動じない、肚(はら)が太くて利かん気なところが
   ないと、悠然たる随筆なぞ、書き続けられるもんじゃない。
   自分の書いているものは、読む人が読めば、
   絶対よろこんでくれるという確信です。

谷沢】 そうですね。私が笑い出したのは、
    新潮社が戦前に出した『日本文学大辞典』。
    全三巻の、分厚いものでしたが、東大を中心とする
    国文学界が全力をあげて書いた。みんな、それはもう
    謹直に書いている。ところが、柳田さんは随筆体で書くわけです。

    その項目だけは漢字が少ない。世間はどうか知らんけど、
    私はこの流儀でいきますというのが出ている。

    ・・・一つの頂点は、昭和13年に創元選書に入った
   『木綿以前の事』です。これは近世期に日本人の庶民の
   生活がどのように変わってきたかを全部類推で書いたもので、
   ほんの小さな、わずかな材料を上手に転がして、
   自分の想像力をふくらましていく。

   とくに茶碗の話は印象的でした。瀬戸物の茶碗が初めて
   普通の家庭に浸透し始めた。それまではみんな、
   汚れの落ちない木の茶碗で飯を食っておった。そこへ、
   前歯に当たるとかすかにかちりと響く、光るお茶碗が入ってきた。
   それで御飯を食べ始めたときの、その家庭の幸福と、こうくるわけです

   ほんまにそうやったかどうかいうことは知らんけども、
   そういうふうに人びとの生活の尊さに思いをはせる気持ちが、
   生涯みなぎっている。そういうことが大事なんだと、
   この人は信じて疑わなかった。

   われわれの日常生活のささいなことをじーっと見て、
   しかも決して陰気なことは書かない。
   
   木の茶碗から瀬戸物の茶碗へ移るという上向きの、
   陰気から陽気へいく一つの右上がりの線を描く。

   この人のそういう気持ちがわかると、読んでいて

   『 本当にありがとうございます。
     よくそういうことをお考えいただきました 』

   と言うて、お礼にいきたいような気持ちになります。


山野】 ほんとに人間が好きでたまらなかった。
    この人は自分のなかに持っているものを出し惜しみしませんね。


 ( P255~257 「人生を励ます100冊・谷沢永一対談集」潮出版社 )

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5 コメント

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こんにちは(^^♪ (のり)
2022-05-10 15:33:38
目からうろこのような柳田邦夫論ですね。 驚きました~~
気分は俳諧。 (和田浦海岸)
2022-05-10 16:39:08
こんにちは。のりさん。
コメントありがとうございます。

座談・対談を読んでると、
切り口がとても新鮮です。

うん。俳諧のたのしみも、
こんな手応えなのかもと、
もう、気分だけでも俳諧。
Unknown (かぐや姫)
2022-05-10 17:24:41
横から割り込ませていただきます。柳田國男ってよく柳田邦夫と間違えられますね。私も勘違いして、柳田国男って、こんな本も出していたんだと注文して読んでから変だと気づきました。その頃、柳田国男の生家に行ったりして柳田兄弟(他の兄弟の姓は違いますが)に関心をもったからでしたが、それでも勘違いしてしまいました。😅
今晩は。 (和田浦海岸)
2022-05-11 19:27:22
こんばんは、かぐや姫さん。
丁寧なコメントありがとうございます。

うん。かぐや姫さんのコメントは
いつも考えさせられ、どう返事をしようか
と思う楽しみがあります。

コメント欄は、ブログ書き込みと違って、
変更が効かないので、私などは、
他人のブログへのコメントを控えております。
うん。ついつい間違ったコメントをしてしまう。

忙しいから、短い手紙は書かないと
たしか、パスカルの箴言にあったような、
気がしております。短いコメントは
誤解を与えてしまう確率が高い。
自分の体験から判断して、

柳田国男を柳田邦男と変換ミスしても、
それよりも、コメントをくださったほうが、
私には大切なことなのでした。

さて、かぐや姫さんが下さった正解コメント
なのですが、俳諧ならば笑えないだろうなあ。

けれど、かぐや姫さんの丁寧なコメントも
わかるわけですので、これからもよろしく。

なんか、おかしなコメントになりました。
またの、コメントをお待ちしております。
Unknown (かぐや姫)
2022-05-12 00:03:14
そうでしたね、余計なことを書いてしまいました。のりさん、失礼いたしました。お気を悪くされませんように!

私は自分が失敗したから、それを書かせていただいただけでした😅。

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