■『日本の景観 ふるさとの原型』樋口忠彦
単行本(左)で読んだのが1981年、今回文庫本(ちくま文芸文庫)で26年ぶりに再読した。
**広がりのあるところでは背後によるところがないと落ち着かないものである。背後によるところがある場所は、人間に心理的な安心感・安定感を与えてくれる。** と著者は書き、続けて**日本の古くからある集落を見ても、それが盆地や谷や平野であろうとも、ほとんど山や丘陵を背後に負う山の辺に立地している。**と指摘している。
喫茶店のような空間でも地理的なスケールの空間でも心理的な条件は同じ。喫茶店で中央部分の席ではなくて壁際の席を探すのと同様に棲息地も古くは山の辺を求めた、というわけだ。 松本には山辺(やまべ)という地名があるが、地形的な条件にその由来があるのだろう。
著者は別の章で**日本の棲息地の景観、生きられる景観は、凹性、休息性、「隠れ場所」性の支配的な母性的雰囲気をもった景観と位置付けられるわけである。**と結論付けている。
住まいの原初は洞穴、さらに子宮に求めることができるといわれるが、著者も棲息地について同義の指摘をしていると理解できる。
**日本人は自然地形の特性を生活に巧みに組み込むことにより、自然地形と人間生活とがしっくりと調和した景観を生み出してきた、それは日本人の精神的創造物といってよい。**
しかしそれは既に過去のこと。凹性を備えた山の辺の棲息地を離れ平野部に進出して、都市を造った。都市にも山の辺のアナロジーとしての凹型の広場などが安息の場所として必要、ということなのだろう。
そのような観点で例えば「表参道ヒルズ」と「代官山ヒルサイドテラス」とを比較してみると両者の違い、都市環境への貢献度の違いが浮き彫りになる。
うーむ・・・、都市には「子宮」が必要なのだ。
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