■「春樹をめぐる冒険」がようやく終った。
すこし関連本を読んでみようと先ず手にしたのがこの本。著者の藤井さんは中国、台湾、香港の現代文学を研究する大学教授で現在「東アジアと村上春樹」の国際共同研究を続行中だとカバーの折り返しに紹介されている。
本のタイトルのように、村上春樹は中国の影響を深く受けていると著者は指摘する。デビュー作の『風の歌を聴け』の冒頭の一節**完璧な文章といったものは存在しない。完璧な絶望が存在しないようにね**は魯迅のことば**絶望の虚妄なることは、まさに希望と相同じい**に触発されたものだろう、という指摘は中国文学と村上春樹文学の専門家でないと到底できないだろう。
第2章から第4章「台湾、香港、中国のなかの村上春樹」はそれぞれの国の春樹受容の事情の詳細な紹介。国情の違いが春樹受容の違いを招いている。
第5章「にぎやかな翻訳の森」は各国で何種類もある翻訳の差異に関する「研究」。
欧米・ロシアでは「羊高森低」、東アジアでは「森高羊低」、ただし香港では「森羊双高」だという指摘があったりとなかなか興味深い内容で、春樹解説本の最初の本に相応しかった。満足。
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