透明タペストリー

本や建築、火の見櫓、マンホール蓋など様々なものを素材に織り上げるタペストリー

「此処 彼処」

2009-09-04 | A 読書日記


 日帰り東京するつもりで代休をとっていたけれど、体調不良で取りやめた。まだ街中を歩き回るのは無理だ。終日のんびり川上弘美さんの『此処 彼処』を文庫で読んで過ごす。

具体的な場所についての記憶を綴った連作エッセイ集。タイトルは最初の「此処」と最後の「彼処」を除けば全て地名。うれしいことに「長野」も出てくる。

昔の記憶というのはどうやら物悲しい色に染まってしまうものらしい・・・。どれを読んでもどこか寂しい雰囲気が漂っている。

「高井戸・その3」は電話ボックスの話。**最後にあの電話ボックスにコインを入れた時のことも、よく覚えている。季節と、天気は、なぜだかうまく思い出せないのだが、二つだけ、はっきりと覚えている。一つは、電話ボックスを出たとき、自分が泣いていたこと。(中略)悲しい電話だった。傷つけて、傷つけられて。失って、けれどあきらめきれなくて。(後略)**

そう、これは恋人と別れる時に使った電話ボックスの悲しい思い出の記。いったいいくらお金を投入したか分からないという電話ボックス、その後その電話ボックスを使うことは二度となかったという。

「北千住」、**「帰りたくない」と改札口で言うと、男の子はいつだって必ず「早く帰れ」と言った。「やだ」とごねると、男の子はさっさと背を向けてアパートに向かってしまう。(中略)男の子とはけっこう長くつきあったけれど、最後には別れた。**

川上さんもたくさん恋をしたのだな~ぁ。秋の夜中、窓を開けて、虫の鳴き声を聞きながら読んでいたら、涙が出てきたかもしれない。そう、やはり遠い昔の思い出はなぜか物悲しい・・・。

「えんぱーく」

2009-09-04 | A あれこれ



 塩尻の市民交流センター(愛称「えんぱーく」)の建設現場を路上観察した。

この建築の特徴は、約100枚の壁柱と鋼製デッキの上に現場打ちされるコンクリートの床によって成立させる構造システムだと理解している。空間構成としてはせんだいメディアテークの壁柱バージョンとでも捉えたらいいのかな。でも「せんだい」ほどはすっきりしていないが。


せんだいメディアテークの図書館(撮影日は調べないと分からない)

現在、現場では工場生産された壁柱の建て方が行われている。3層分の通し壁柱、高さは11mちょっと。2階と3階の床の高さのところに、鉄筋がひげのように出ている。壁柱の厚さは200mm位か。コンクリート打設のための鋼製パレットは脱型しないでそのまま壁仕上げとして使うようだ。そのような説明をコンペのプレゼンで聞いた。マグネットが使えるから、掲示に都合がよい。なお、斜めの赤いつっかえ棒は建て方のための仮設。


壁柱のてっぺんが4階の床になる。ここにも鳥が羽を水平に広げたように鉄筋があらかじめセットされている。4階の床の上に更に鉄骨のフレームが部分的に2層分載るはずだ(下の写真)。


塩尻市総合文化センターに展示されていた完成模型

図書館は見通しのきく無柱空間が好ましいという指摘もある。壁柱によって構成される空間がどのようなものか、「知の森」という雰囲気が創出されるのかどうか。壁柱を採用した「真価」やいかに・・・。

これからもこの建築を時々路上観察したい。