情報流通促進計画 by ヤメ記者弁護士(ヤメ蚊)日隅一雄

知らなきゃ判断できないじゃないか! ということで、情報流通を促進するために何ができるか考えていきましょう

NHK番組改編事件最高裁弁論の一部をご紹介~政治家の関与について避けては判断できない!

2008-04-25 11:15:35 | メディア(知るための手段のあり方)
【戦時下の性暴力に関するNHK番組の取材に協力した市民団体が「政治的圧力で番組を改変された」としてNHKなどに賠償を求めた訴訟の上告審弁論が24日、最高裁第1小法廷(横尾和子裁判長)で開かれ、結審した。NHK側は、200万円の支払いを命じた2審・東京高裁判決(07年1月)の破棄を求め、団体側は上告棄却などを主張した。判決は6月12日】(毎日新聞)という事件で、担当した弁論をご紹介します。この事件は、NHKらからの上告受理申立と市民団体であるバウネット側からの附帯上告受理申立と両方が審理されており、まったく予断を許さない状況だ。編集権のあり方、知る権利の保障を十分に考慮した判断が出ることを期待したい。

【第3 結語~最高裁判所に望むこと 
 ご存じのとおり,現代社会では,情報の流通は,マスメディアによるところが極めて大きいのが実態である。インターネットの普及などによって,個人による情報発信も増えてはきたが,集合住宅などの増加により,直接各戸を訪問したり,文書を配布することが困難になるなど個人による直接的な情報発信がより困難になっている局面もあり,情報流通におけるマスメディアの役割は決して小さくなってはいない。
 それゆえに,マスメディアの編集権は強く保障されなければならない。しかし,本件番組は,すでに飯田弁護士らが述べたとおり,一審被告NHKの上層部が,官房副長官と面談し,同副長官からいわゆる従軍慰安婦問題についての一般論を聞いた後,同副長官らがかねて主張していた一般論に従ったかのように改変された。そのような「改変」された編集権は保障される必要はない。そのような編集権を保障することはかえって情報の流通を阻害することになる。だからこそ,原審は,本件の番組について,「一審被告NHKの本件番組の制作・放送行為については,前記認定のような編集過程を経て本件番組を完成させ放送した行為であることに照らすと,前記のとおり憲法で尊重され保障された編集の権限を濫用し,又は逸脱したものと言わざるを得ず,取材対象者である一審原告らに対する関係においては,放送事業者に保障された放送番組編集の自由の範囲内のものであると主張することは到底できない」(62頁),「一審被告NHKは憲法で尊重され保障された編集の権限を濫用し,又は逸脱して変更を行ったものであって,自主性,独立性を内容とする編集権を自ら放棄したものに等しく,一審原告らに対する説明義務を認めても,一審被告らの報道の自由を侵害したことにはならない」(65頁)と認定した。

 そして,さらに,この番組が放送される当日の午後,伊東番組制作局長が海老沢会長と面談した後,放送用のオンラインテープを直接3分間もカットするという異例の編集がなされた。通常,編集は編集用のテープを使って行い,最後に劣化していないオンラインテープでの編集がなされる。このオンラインテープが直接編集されることはまさに異常で考えられない事態である。
 そして,この海老沢会長は,政治部出身で,本件を含む一連の不祥事で会長を辞職した後も,NHK会長であるがゆえに任命されたはずの横綱審議会の委員をいまも辞職しようとせず,逆に同審議会の委員長にまでなっている人物である。この人物と伊東番組制作局長との面談後,オンラインテープが3分間もカットされた。そのことは軽視されてはならない。

 同じ第2次大戦敗戦国のドイツでは,憲法裁判所が,公共放送の受信料制度について,放送行政を管轄する州政府の恣意的な意向が反映される可能性がある制度になっているとして違憲であるという判断を示した。この判決で,憲法裁判所は,州政府による受信料に関する影響力について,「たいてい発見することもできず,決定の結果においても読み取ることはできないので,その影響は事後的にも修正されえない。」(鈴木秀美「放送の自由」260頁)と述べ,当時の制度を違憲と判断した。ドイツでは,番組内容に間接的な影響をもたらす受信料の決定過程についてさえ,このような厳格な判断をなしている。ましてや,本件では,直接的な番組内容への政治家の影響力が事実認定された事案です。本件のような政治家の影響力のもとでの編集についてまでも憲法21条の保障下にあるとして一審原告らの法的利益をないがしろにすることは,憲法21条の意義をねじ曲げるものでしかない。最高裁判所が現代においてマスメディアに求められている役割を十分に考慮した判断をなされることを願い,弁論を終えたい。】

※写真は、http://www.courts.go.jp/saikosai/index.htmlより




★「憎しみはダークサイドへの道、苦しみと痛みへの道なのじゃ」(マスター・ヨーダ)
★「政策を決めるのはその国の指導者です。そして,国民は,つねにその指導者のいいなりになるように仕向けられます。方法は簡単です。一般的な国民に向かっては,われわれは攻撃されかかっているのだと伝え,戦意を煽ります。平和主義者に対しては,愛国心が欠けていると非難すればいいのです。このやりかたはどんな国でも有効です」(ヒトラーの側近ヘルマン・ゲーリング。ナチスドイツを裁いたニュルンベルグ裁判にて)
★「News for the People in Japanを広めることこそ日本の民主化実現への有効な手段だ(笑)」(ヤメ蚊)
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1 コメント

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流石、ヤメ蚊先生! (田仁)
2008-04-26 23:44:06
この裁判の弁護士さんでしたか!有名裁判ですね!凄い。
でも、ヤッパリこの件は脅迫とかB層右翼議員の職権乱用とか言論弾圧とかと思っちゃいますが!期待権より。
実際に左遷させられた方とか、本来の内容なら良い宣伝になって名も揚がり寄付も集まったって、民事ならOKなんでしょうか?
本当なら刑事の筈なのに…、って思いが消えません。
悔しいから、元々のをどこかで放映/上映出来れば良いのに。
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