情報流通促進計画 by ヤメ記者弁護士(ヤメ蚊)日隅一雄

知らなきゃ判断できないじゃないか! ということで、情報流通を促進するために何ができるか考えていきましょう

共謀罪の与党修正案は,かえって共謀罪適用範囲を拡大する?!~村井教授

2006-04-30 23:04:24 | 共謀罪
共謀罪の与党修正案(末尾で引用)について,批判はした(ここ←)が,まさか,改悪されたという見方ができるとは思わなかった。4月25日発行の「超監視社会と自由」(田島泰彦・斎藤貴男編/花伝社)で,元日本刑法学会理事長である村井敏邦教授(←ここ)が,鋭い指摘をしている。

その指摘は,3点。最初の2点は,修正案では適用範囲を制限することはできないというもので,最後の一つが逆に適用範囲が広がるというものだ。

第1に,与党修正案の①について,一件限定したように見えるが,目的の正当性の判断は,法適用者側にあるという点が問題だと指摘したうえ,正当な目的だと考えていても,犯罪目的だとされる場合があることを考えると,団体の共同目的を犯罪目的に限定したというのは,あまり有効な制限にならないと切り捨てている。具体例としては,これまでも,労働者が賃上げのための正当な活動と考えて,会社の前でスクラムを組み,ピケを張る行為が威力業務妨害として起訴され,有罪となっている例を挙げている。

第2に,修正案①の団体とは,政党や労働組合などの既成の組織それ自体を指している訳ではないということだ。そして,2人以上の人が一定の犯罪を目的として集まり,犯罪をしようという合意が形成されれば,そこに「犯罪を共同の目的とする団体」ができあがると指摘したうえ,具体例として,A政党に属する政治家と秘書らが政治資金規正法違反を犯そうと相談したとすれば,その時点で「その共同の目的が政治資金規正法違反の罪を実行することにある団体」が形成されたことになるという事案を挙げている。結局,この点では,修正前とまったく変化がないと手厳しい。

第3に,修正案の①によって,共謀罪の対象となる懲役4年以上の犯罪だけでなく,「別表第1に掲げる罪」(別表1は末尾)を目的の中に含ませたことによって,修正前よりも目的要件は広がっていると言ってよい,というのだ!!別表第1には,公務執行妨害や強要罪,贈賄罪のように,懲役長期4年以上の罪に当たらない,したがって,共謀罪の対象となっていない罪も含まれているため,会社の役員が政治家に賄賂を送ろうと相談したとすれば,共謀罪の対象となる団体が形成されたことになり,結果的に,共謀罪の対象となる犯罪を目的としない団体でも共謀罪が適用されることになるという指摘だ!!

これは,確かに条文上は,そのように読める…。適用範囲を縮小するようなそぶりをしつつ,適用範囲を拡大する…。恐るべし,与党!!

■■与党修正案引用開始■■

第六条の二
次の各号に掲げる罪に当たる行為で、団体の活動【(その共同の目的がこれらの罪又は別表第一に掲げる罪を実行することにある団体である場合に限る。)】①として、当該行為を実行するための組織により行われるものの遂行を共謀した者は、【その共謀をした者のいずれかにより共謀に係る犯罪の実行に資する行為が行われた場合において,】②当該各号に定める刑に処する。ただし、実行に着手する前に自首した者は、その刑を減軽し、又は免除する。
一 死刑又は無期若しくは長期十年を超える懲役若しくは禁錮の刑が定められている罪 五年以下の懲役又は禁錮
二 長期四年以上十年以下の懲役又は禁錮の刑が定められている罪 二年以下の懲役又は禁錮
2 前項各号に掲げる罪に当たる行為で、第三条第二項に規定する目的で行われるものの遂行を共謀した者も、前項と同様とする。
【三 前二項の適用に当たっては,思想及び良心の自由を侵すようなことがあってはならず,かつ,団体の正当な活動を制限するようなことがあってはならない。】③

修正したのは【】で囲まれたところ3カ所。

■■引用終了■■


■■別表第1引用開始■■

別表第一(第二条、第七条の二関係)

  一 第六条の二(組織的な犯罪の共謀)の罪

  二 第七条の二(証人等買収)の罪

  三 第十条(犯罪収益等隠匿)若しくは第十一条(犯罪収益等収受)の罪又は麻薬特例法第六条(薬物犯罪収益等隠匿)若しくは第七条(薬物犯罪収益等収受)の罪

  四 刑法第九十五条(公務執行妨害及び職務強要)の罪(裁判、検察又は警察の職務を行う公務員による次に掲げる罪に係る審判又は捜査の職務の執行を妨害する目的で犯されたものに限る。)又は同法第二百二十三条(強要)の罪(次に掲げる罪に係る自己又は他人の刑事事件に関し、証言をさせず、若しくは虚偽の証言をさせ、又は証拠を隠滅させ、偽造させ、若しくは変造させ、若しくは偽造若しくは変造の証拠を使用させる目的で犯されたものに限る。)

   イ 第六条の二(組織的な犯罪の共謀)の罪

   ロ 第七条の二(証人等買収)の罪

   ハ 第十条(犯罪収益等隠匿)若しくは第十一条(犯罪収益等収受)の罪又は麻薬特例法第六条(薬物犯罪収益等隠匿)若しくは第七条(薬物犯罪収益等収受)の罪

   ニ 刑法第九十五条(公務執行妨害及び職務強要)の罪(裁判、検察又は警察の職務を行う公務員によるイからヘまでに掲げる罪に係る審判又は捜査の職務の執行を妨害する目的で犯されたものに限る。)又は同法第二百二十三条(強要)の罪(イからヘまでに掲げる罪に係る自己又は他人の刑事事件に関し、証言をさせず、若しくは虚偽の証言をさせ、又は証拠を隠滅させ、偽造させ、若しくは変造させ、若しくは偽造若しくは変造の証拠を使用させる目的で犯されたものに限る。)

   ホ 刑法第百九十七条から第百九十七条の四まで(収賄、受託収賄及び事前収賄、第三者供賄、加重収賄及び事後収賄、あっせん収賄)又は第百九十八条(贈賄)の罪

   ヘ イからホまでに掲げるもののほか、死刑又は無期若しくは長期四年以上の懲役若しくは禁錮の刑が定められている罪

  五 刑法第百九十七条から第百九十七条の四まで(収賄、受託収賄及び事前収賄、第三者供賄、加重収賄及び事後収賄、あっせん収賄)又は第百九十八条(贈賄)の罪

■■引用終了■■


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30 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
越境性 (fttv)
2006-04-30 23:36:47
 例え越境性のあるグループとか犯罪?に限定しても、インターネットで簡単に越境できてしまう時代なのにと思わずにはいられません。
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Unknown (じゅん)
2006-05-01 09:50:10
TBありがとうございます。この指摘と共に、法以下の規定がどのように定められるのかは知りませんが、そこにも大きな問題があるように思えます。
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ヤメ蚊さんに質問と提案 (ジョニー@ふと思った)
2006-05-01 12:01:38
ヤメ蚊さんの記事を読む限り、貴方は『共謀罪絶対反対』では無く,『共謀罪の欠陥を何とかしたら賛成しても良いよ』と言うスタンスですよね?

(事実、貴方は確か民主党の案に賛成していましたし。)



ですから、参考になりそうな海外の共謀罪を規定している法律も読んでみた方が良いと思うのですが、法律の専門家の弁護士であるヤメ蚊さんとしては如何でしょうか?



海外で共謀罪による大きな問題が起きていない(少なくとも伝わって来ていない)以上は、海外の共謀罪については法律に問題が無いと言えると思いますので。



もし賛同して頂けるのなら、『ヤメ蚊さんが与党案で問題があると考えている所と同じ部分』(エントリを読む限り『対象となる犯罪とその数』『対象とする犯罪についての制限(懲役何年以上等)』)について提示して下さい。

流石に全世界の共謀罪の法律に精通しろと言うのは無茶だと思いますので、米英仏独中の内から幾つかチョイスして示して頂ければ幸いです。
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Unknown (ジョニー@訂正です)
2006-05-01 12:04:04
(エントリを読む限り『対象となる犯罪とその数』『対象とする犯罪についての制限(懲役何年以上等)』)



は、



(エントリを読む限り『対象となる犯罪とその数』『対象とする犯罪についての制限(懲役何年以上等)』の2点ですよね)



と読み替えて下さい。

お手数をお掛けします。
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取り急ぎ… (ヤメ蚊)
2006-05-01 14:03:54
海外で共謀罪の適用は問題になっています。http://blog.goo.ne.jp/tokyodo-2005/e/0bcca0e0ad96c40edc67066531a9e521をご覧下さい。



そして,私は民主党案でも取り締まるには十分だとは指摘しましたが,民主党案に賛成するものではありません。



本当に共謀段階で処罰しなければならない犯罪は何か,それを広く国民の間で議論する必要があると思っています。
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Unknown (ジョニー)
2006-05-01 18:38:07
成程。

ヤメ蚊さんのスタンスについては了解しました。

要するに、『如何してもと言うなら民主党の奴が良いけど、出来れば廃案にした方が良い』って事ですね。



>東京新聞



ええと……ソースがコレですか?

東京新聞は矢鱈と左翼サイドに偏った社説や記事を載せるので有名な新聞なのですが。



【参考】http://blog.livedoor.jp/mumur/archives/cat_50003845.html



まあそれは兎も角、記事に載っているのが共謀罪が恣意的に使われた例と仰いますが、



カトリック労働者運動:犯罪行為を行ったのに擁護するのは如何かと。 そもそも実行している時点で同情の余地無し。



マーサさん:実行している時点で上と同じく同情の余地無し。



これら以外:どの様な理由から問題になっているのかが不明。 しかし、全部実行して起訴された犯罪である時点で同情すべきでは無い。



と私は考えるのですが?



そもそも、普通の市民団体は公共の場に血を撒き散らしたり,詐欺や偽証を行ったり,性的虐待を行ったり,企業スパイを行ったり,暴行を加えたりを日常的に行っているんですか?

そんな市民団体ばかりだったら、もっと早期から強力な規制を掛けるべきであったと思うんですが。



ヤメ蚊さんが問題だとしているのは『一般市民が日常で行う可能性がある行為を制限しかねない』と言う点だったと認識していましたが、提示された例が明らかに全て故意犯の物である事に戸惑っています。

(普通、無意識に詐欺を行ったり,偶然企業スパイをしたりするなんて事は有り得ませんよね?)



出来れば、『市民が冗談を言っただけで捕まった』等の事例を提示して下さい。



>『刑期の上乗せの為に共謀罪を使っている』と言う記述



普通、犯罪を犯した場合は全ての罪状で裁かれると思うんですが?



例えば、A・Bと言う犯罪を犯した1と2と言う人がいて、1はA・Bについて裁かれ,2はAだけについて裁かれると言うのはしばしば有り得るのですか?

(私が調べてみた所によると、オウム(アレフ)の麻原が罪状が多過ぎた為に罪状を大幅に端折られたと言う事例しかありませんでした。 ですが、あくまで私は法律については素人であるので、『こんな事例がある』と言う場合には提示して頂ければ幸いです。)
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5月1日付「公明新聞」 (pandra)
2006-05-01 19:55:43
いつも読まさせていただき、応援しています。



5月1日付「公明新聞」の「主張」欄で、共謀罪の与党修正案にかんする見解が出ています。

民主党の修正案への批判も行われています。

http://www.komei.or.jp/news/daily/2006/0501_01.html(公明党ホームページから入れます)

ここまで来ると、「公明党」といかに対峙するかが重要な「カギ」をにぎると考えます。

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実行しているから同情の余地無し… (ヤメ蚊)
2006-05-01 21:32:41
じゃぁ,犯罪者は皆死刑にするっていうことにしたらどうですか?あなたの理想の社会になるのではないですか?



ちょっと極端な話をしましたが,そう思わせる書き方ですね。



人の自由を侵害するような法律を作ろうとするとき,その法律がなぜ必要になるのかは,立法する側が説明しなければならないのです。



いま,共謀罪で取り締まらなければならない犯罪,共謀罪でなければ取り締まることが出来ない犯罪,共謀罪で取り締まる必要性のある犯罪というのは何なんですか?
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Unknown (ジョニー)
2006-05-01 23:08:51
>極論ですが



印象操作みたいな真似はしないで頂けますかね?

私は一言も『犯罪を犯した奴は死ね。』なんて書いていませんけど?



私が言っているのは、公共の場を血塗れにしたり,幼児に性的な虐待をしたり,他者に暴行したりした『犯罪者』と言う特異な例を使って『一般人』を語らないで下さいと言う事なのですが?

貴方が先に提示した例は、さながらカモノハシと言う卵を産む哺乳類と言う特異な例を、『カモノハシは卵を産むから、哺乳類は卵生なのだ。』と言っている様な物ですよ。



あくまで、『海外で一般人が共謀罪で捕まった例』を挙げて下さいと言っているのです。

一般人と言えども意図せず違法行為をする事も勿論あるでしょうから、その日常生活で犯し得る犯罪の例を出して頂けますか?



>メリット



簡単です。

『テロ防止』の4文字に尽きます。



普通の人なら、貴方達反対派が挙げた約600個の犯罪を犯すとは思えませんしね。(だって、対象となる犯罪について良く読んだら詐欺とか不法侵入とかばっかりですしね。)



(続きます)
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Unknown (ジョニー)
2006-05-01 23:18:58
(続きました)



他所にバラバラと書くのもアレですので、此処に纏めて書いておきます。



>共謀罪は冤罪を起こしかねないから問題がある



冤罪・微罪逮捕・別件逮捕を問題にしている人達がいますが、寧ろそれらは運用サイドの問題では?



冤罪を起こしかねない法律が駄目なら、東電OL殺人事件があったから『殺人罪』も駄目ですし,『迷惑防止条例』も痴漢の冤罪があったから駄目ですね。



微罪逮捕を行い得る法律が駄目なら、立ちション(汚い例ですみません)の様な微罪で逮捕される『軽犯罪法』も言うまでも無く駄目ですね。



別件逮捕が駄目なら、狭山事件が起こりましたから『未成年者略取の罪』も当然駄目ですね。



さて、ヤメ蚊さん?

他のエントリで確か貴方は共謀罪の冤罪について言及していましたよね?



もしも冤罪や微罪逮捕,別件逮捕についてを共謀罪の問題とするのなら、勿論これ等についても反対しなければ ダ ブ ル ス タ ン ダ ー ト と言う事になりますが宜しいでしょうか?
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