情報流通促進計画 by ヤメ記者弁護士(ヤメ蚊)日隅一雄

知らなきゃ判断できないじゃないか! ということで、情報流通を促進するために何ができるか考えていきましょう

NHK記者の証言拒絶認めた新潟地裁決定を支持~東京高裁

2006-03-17 19:24:29 | メディア(知るための手段のあり方)
毎日新聞によれば,14日の東京地裁の判断とは異なるまっとうな判断を高裁がしたという。

以下引用する。

■■引用開始■■
米国の健康食品会社への課税処分に関する報道を巡り、NHKの記者が民事裁判の証人尋問で取材源の証言を拒絶したことについて、東京高裁は17日、拒絶を正当と認めた新潟地裁決定(05年10月)を支持し、会社側の即時抗告を棄却する決定を出した。
 雛形要松(ひながたようまつ)裁判長は「報道機関が公務員に取材を行うことは、その手段、方法が相当なものである限り、正当な業務行為。取材源に(守秘義務違反など)国家公務員法違反の行為を求める結果になるとしても、ただちに取材活動が違法となることはなく、取材源秘匿の必要性が認められる」と述べた。
 同じ報道で、読売新聞記者の拒絶について東京地裁は14日、「取材源が公務員などで、守秘義務違反で刑罰に問われることが強く疑われる場合は証言拒絶を認めない」とする決定を出していたが、この日の高裁決定はこれを事実上否定した。
 高裁決定はまず「報道機関の取材活動は、民主主義の存立に不可欠な国民の『知る権利』に奉仕する報道の自由を実質的に保障するための前提となる活動」と定義。取材源が秘匿されなければ、その後の取材活動が不可能になる性質があり、民事訴訟法上の「職業の秘密」にあたるとした。民訴法は「職業の秘密に関する事項」についての尋問には証言を拒絶できると規定している。
 そのうえで「証言拒絶による裁判への影響は、取材源秘匿により保障される取材活動の持つ民主主義社会における価値に、勝るとも劣らないような社会的公共的な利益の侵害が生じると認めることは困難」と指摘した。
 食品会社側の「取材源は公務員の守秘義務違反を犯し、保護に値しない」との主張は、「取材方法の適否の判断を離れて、取材源の法違反を検討する必要はない」と退けた。
 健康食品会社とその日本法人は、日米の税務当局の調査を受けて97年に課税処分されたと日本で報じられた。会社側は信用失墜などの損害を受けたとして日本の税務当局に協力した米政府に損害賠償を求めてアリゾナ地区連邦地裁に提訴。報道した日本のマスコミ各社の記者らは国内の裁判所で嘱託尋問されていた。【武本光政】
 ◇国民の「知る権利」の重要性、改めて認める
 記者の取材源秘匿を正当と判断した東京高裁決定は、国民の「知る権利」の重要性を改めて認めた。同時に、取材源が公務員の場合に秘匿を認めないとした15日の東京地裁決定の特異性を浮き彫りにした。
 取材源の秘匿と公務員の守秘義務との関係を巡っては、78年の最高裁決定が知られる。報道機関の取材が場合によっては公務員の守秘義務と対立することを認めたうえで、「その手法・方法が法秩序に照らし相当なものとして社会観念上是認されるものである限りは、違法性を欠き正当な業務」と判示しており、高裁決定もこれを踏襲した。
 高裁決定はさらに、取材源秘匿によって守ろうとする対象を、守秘義務を侵す可能性のある公務員ではなく、「報道機関の取材活動上の利益、ひいては民主主義社会の価値ない利益」との判断を明確に示した。これにより「取材方法の適否を離れて取材源の法違反の存否を検討する必要はない」と述べ、取材方法の適否を検討せずに守秘義務違反を重視した東京地裁決定を完全に否定した。
 会社側が特別抗告すれば、民事訴訟の中で報道機関が取材源の秘匿を理由に証言を拒絶することが認められるかどうかの初判断が最高裁で下される可能性があるが、高裁決定は大きな指針となると言える。【武本光政】

■■引用終了■■


「報道機関の取材活動は、民主主義の存立に不可欠な国民の『知る権利』に奉仕する報道の自由を実質的に保障するための前提となる活動」というすばらしい認定だ。メディア関係者は,この「民主主義の存立に不可欠な国民の『知る権利』に奉仕する」ような報道を今後も行っていってほしい。

自衛隊も「匿名発表」大半~どうやって検証するのか?

2006-03-17 07:03:57 | メディア(知るための手段のあり方)
読売新聞によると,【防衛庁や各地の自衛隊が今年2月末までの約半年間に自衛官らの懲戒処分を発表した際、9割近くのケースで氏名を伏せていたことが分かった。】という。さらに【内部でも本人が特定されないよう、年齢や階級すら明かさない例も目立つ。】らしい。これでは,処分の内容について外部の者が検証する手段がまったくないことになってしまう。納税者の皆さん,それでいいんでしょうか?

読売によると,【こうした発表方式は、昨年8月の防衛次官通達に基づくもので、職務関連のすべての処分と私的行為でも降任や停職以上は、発表するよう求める一方、「個人が識別されない内容を基本とする」としている。】ためらしい。

しかし,【通達でも、ベースとなった人事院指針でも、不祥事の内容や被処分者の職責によっては、個別に判断して実名発表が可能だ。】と読売は主張している。

現状は,逮捕や懲戒免職でさえ匿名発表があるといい,その結果,【防衛庁によると、昨年8月15日から今年2月末までに、自衛隊法に基づいて懲戒処分を受け、公表されたのは、陸海空各自衛隊の自衛官453人、事務官28人の計481人。421人は匿名で、実名は自衛官55人、事務官5人だけだった。実名の大半は、警察の逮捕時などに既に氏名が発表されていたケースとみられる。】という状態だ。

 読売が例に挙げているのは,【陸自郡山駐屯地(福島県郡山市)で、事務室から63万円の入った金庫を盗んだ3等陸曹(25)が、昨年12月に懲戒免職になった際は、内部の警務隊が逮捕していたのに氏名、経歴を伏せた。酒気帯び、無免許運転などによる停職処分でも年齢が伏せられた。】という事例のほか,【今月になっても、女子学生へのセクハラ行為で懲戒免職にした防衛大学校助教授(37)のケースでは、「被害者が特定されないため」として、助教授の略歴を明かさず当初は年齢も伏せたが、被害者には処分すら伝えていなかった。痴漢行為で逮捕された防衛庁技術研究本部の陸自幹部(43)の停職処分でも、通常公表する階級を「佐官級」とした。】 という事例だ。

最後の例で,階級すら明確にしないのは,理解不可能だ…。

結果的に匿名で報道されることは構わないし,むしろ歓迎すべき場合もあるだろう。そういう意味では,櫻井よしこ氏の「政治家や公務員は、国民の信頼を裏切った場合は顔を出して責任を取るべきで、匿名にすることが不祥事や失敗がなくならない一因ではないか。」というコメントには,必ずしも賛成できない。

しかし,繰り返すが,匿名で「発表」することは,納税者としては納得できない。