ステージおきたま

無農薬百姓33年
舞台作り続けて22年
がむしゃら走り6年
コントとランとご飯パンにうつつを抜かす老いの輝き

素材と出会えば、書けるんだよ!

2018-01-29 09:29:17 | 演劇

 出会いなんだよ、台本書きは。これだっ!って素材にぶち当たりさえすりゃ、ぐんぐんイメージが広がり、登場人物の姿形や性格も浮き上がってきて、ストーリーも繋がって行くんだ。

 一昨年の『女たちの満州』だって、満蒙開拓団青年向けの花嫁学校ってもん知らなけりゃ書けなかった。その前の『お遍路颪』じゃあ、秩父困民党を陰で支えた女たちの生きざまを目にした、ったって本で読んだんだが、ことで仕上がった野外劇だった。良き素材との遭遇、それが本の出来を左右する。舞台の面白さを決定する!

 そう、そいつぁ、小説だって同じこと。なんかいい題材ないもんかい?って最初に手にした『明治乙女物語』、小説だったんだ。まったく、帯にゃ松本清張賞受賞って書いてあんのにな、なんてドジな話だ、評論の類だって思い込んでた。まさか、他人様書いた小説をネタに台本書くわけにゃいかんよ、仕方ない、これはこれで楽しませてもらいやしょう。あんまり期待もせずに、寝転がって読み始めたんだが、おっと、どっこい!こいつぁ、出会えて幸せな小説だった。

 明治の中頃、鹿鳴館華やかなりしころ、いや、軽薄な欧化主義が世間から大顰蹙を浴びて、幕を下ろす直前ころのお話しだ。主人公は、そのころちょうど高等師範に格上げされたばかりの女子師範学校の生徒。そこに関わる混血の車引き、それと当時の文部大臣森有礼だ。森は、女子教育を国つくりの大切な柱と考え、この格上げを指導した。出来立ての高等女子師範の校長は、会津藩士ながら西南戦争で功をなした軍人の山川浩、寮監はその姉の山川二葉、大山巌陸軍大臣の妻となった大山捨松はその妹、もちろん、会津鶴ヶ城攻防戦を戦った人たちだ。

 ストーリーも思いがけなく転がるって飽きさせないし、サスペンス感も満載、スリリングなクライマックスもしっかり準備されている。そこここで語られる国家と個人や、使い捨てられる女たちについての議論も地に足がついていて聞かせるものが多い。お勧めの1冊だ。

 が、ここで言いたいのは、この本の成功の鍵は、良い素材と出会えたねぇ、ってことだ。

 まず、高等女子師範、今のお茶の水女子大学かな、格上げ当初の数年間は、制服も洋装でダンスなど西欧の教養も教科として取り入れられていた。このわずか数年の自由な気風を、作者はしっかりつかんだ。鹿鳴館での取ってつけたような舞踏会は世間から非難の嵐を浴び、自由民権激派からはテロの予告をつきつけられる始末。天長節の祝賀パーティと言うのに、ご婦人方は尻込みばかりで女性が足りない。そこで、目を付けられたのが、女高師の生徒たち!ほらほら、なんと美味しい話に出っくわしたもんじゃないか。こりゃ話しはどうにでも転がるよ。

 さらに、鹿鳴館テロを狙うのが自由民権派の車引きたち?!そうなんだ、車引きにゃ不平士族の成れの果てとかもいたし、当時鉄道馬車の開通で仕事を奪われつつあるって不満も抱えていたから、過激化した人たちもいた、これは史実。しかも、爆裂弾犯人の一人は、羅紗緬、外国人相手の娼婦、を母に持ち、唐人お吉に育てられた混血の青年、どうだい、ここまで材料揃えば、わくわくするような豪華なディナー出来て当然だろ。

 唐人お吉についても巧みに物語に取り込まれている。幕府の命により無理やり米国公使ハリスの愛妾とされ、その後世間から疎まれて酒に溺れ物乞いに身を押落したあと、失意のうちに投身自殺した。

 出来立てで自由な気概に溢れた女高師、その溌剌とした女学生、条約改正のための鹿鳴館舞踏会、それを狙う自由民権派の車引き、それに羅紗緬の母と唐人お吉だ。どれもこれも、それ一つで魅力溢れる題材だ。こんな美味な素材と巡り会えた、いや、探し当てたことが、この小説の一番の決め手なんだってことだ。もちろん、それら歴史的事実を勝手に切り刻んだり、ごてごて味付けしたり、腐らせたりすることなく、それぞれの持ち味を生かし切った調理の技も光っているわけだけど。

 うーん、やられたなぁ!いいもの読ませてもらったなぁ!そうか、良い素材だよな、よしっ、きらきら輝く原石、見つけてやるぞ!って気張ってみたけど、残された時間はわずかに10日、これ、厳しいかも。

 

 

 

コメント
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