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2023年9月4日 弁理士試験 代々木塾 商標審査便覧42.107.04

2023-09-04 07:06:18 | Weblog
2023年9月4日 弁理士試験 代々木塾 商標審査便覧42.107.04

商標審査便覧42.107.04 
 歴史上の人物名(周知・著名な故人の人物名)からなる商標登録出願の取扱いについて

1.歴史上の人物名からなる商標登録出願の審査においては、商標の構成自体がそうでなくとも、商標の使用や登録が社会公共の利益に反し、又は社会の一般的道徳観念に反するような場合も商標法第4条第1項第7号に該当し得ることに特に留意するものとし、次に係る事情を総合的に勘案して同号に該当するか否かを判断するこ
ととする。
(1)当該歴史上の人物の周知・著名性
(2)当該歴史上の人物名に対する国民又は地域住民の認識
(3)当該歴史上の人物名の利用状況
(4)当該歴史上の人物名の利用状況と指定商品・役務との関係
(5)出願の経緯・目的・理由
(6)当該歴史上の人物と出願人との関係
2.上記1.に係る審査において、特に「歴史上の人物の名称を使用した公益的な施策等に便乗し、その遂行を阻害し、公共的利益を損なう結果に至ることを知りながら、利益の独占を図る意図をもってした商標登録出願」と認められるものについては、公正な競業秩序を害するものであって、社会公共の利益に反するものであるとして、商標法第4条第1項第7号に該当するものとする。

[説明]
A.歴史上の人物名を巡る現状
(a)歴史上の人物名を巡る諸事情
 周知・著名な歴史上の人物名は、その人物の名声により強い顧客吸引力を有する。その人物の郷土やゆかりの地においては、住民に郷土の偉人として敬愛の情をもって親しまれ、例えば、地方公共団体や商工会議所等の公益的な機関が、その業績を称え記念館を運営していたり、地元のシンボルとして地域興しや観光振興のために人物名を商標として使用したりするような実情が多くみられるところであり、当該人物が商品又は役務と密接な関係にある場合はもちろん、商品又は役務との関係が希薄な場合であっても、当該地域においては強い顧客吸引力を発揮すると考えられる。このため、周知・著名な歴史上の人物名を商標として使用したいとする者も、少なくないものと考えられる。一方、敬愛の情をもって親しまれているからこそ、その商標登録に対しては、国民又は地域住民全体の反発も否定できない。
 このような諸事情の下、周知・著名な歴史上の人物名についての商標登録に対しては、公正な取引秩序を乱し、公序良俗を害するおそれがあるとの懸念が指摘されている。

1.歴史上の人物名からなる商標登録出願の審査においては、商標の構成自体がそうでなくとも、商標の使用や登録が社会公共の利益に反し、又は社会の一般的道徳観念に反するような場合も商標法第4条第1項第7号に該当し得ることに特に留意するものとし、次に係る事情を総合的に勘案して同号に該当するか否かを判断することとする。
(1)当該歴史上の人物の周知・著名性
(2)当該歴史上の人物名に対する国民又は地域住民の認識
(3)当該歴史上の人物名の利用状況
(4)当該歴史上の人物名の利用状況と指定商品・役務との関係
(5)出願の経緯・目的・理由
(6)当該歴史上の人物と出願人との関係
2.上記1.に係る審査において、特に「歴史上の人物の名称を使用した公益的な施策等に便乗し、その遂行を阻害し、公共的利益を損なう結果に至ることを知りながら、利益の独占を図る意図をもってした商標登録出願」と認められるものについては、公正な競業秩序を害するものであって、社会公共の利益に反するものであるとして、商標法第4条第1項第7号に該当するものとする。

(b)審査の状況
 歴史上の人物名に係る商標であっても、具体的な事情に応じて拒絶理由を定める規定に該当する場合には拒絶される。
 しかし、現行の商標法においては、現存する者以外の人物名の商標登録を排除するための明文の規定は存在しない。例えば、人名等を扱う登録要件として商標法第4条第1項第8号が存在するが、同号は人格権保護の規定であって、現存する者の保護を目的とするものに限られる(注1)。また、他人の周知・著名な商標の保護の規定として商標法第4条第1項第10号及び同第19号が存在するが、これらは他人の商品又は役務の出所を表示する周知・著名な“商標”の保護の規定であり、“商標”として周知・著名なわけではない歴史上の人物名からなる商標についてこれらの規定を適用して拒絶することは困難といえる。同第15号も、歴史上の人物名と商品又は役務の関係等を考慮すると、商品又は役務の出所の混同を生ずる場合が多いとは考え難い。さらに、同種の商品又は役務について多くの事業者が慣用している事実があるならば商標法第3条第1項第2号も考え得るが、そのような事実が認められるのはむしろ稀なケースといえる。

B.近時の判決等の動向
 商標法第4条第1項第7号に関する審査基準においては、「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」には、商標の構成自体がそうでなくとも、商標の使用が社会公共の利益に反し、又は社会の一般的道徳観念に反するような場合も含まれるとされている。近時の判決においても、私的な利害の調整や私益に関する紛争は同号の適用に関する問題ではないとした上で、商標自体が公序良俗に反するものでなくても、出願の経緯や目的に著しく社会的妥当性を欠くものがあり、その登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するような場合には、商標法第4条第1項第7号に該当する旨判示するものがある。特に、このような動向に沿った判決として、公共的な観点を踏まえ、公益的な施策に便乗して、その遂行を阻害し、公共的利益を損なう結果に至ることを知りながら、利益の独占を図る意図をもってしたものとして、公正な競業秩序を害し公序良俗に反するとした事案がある(平成11年11月29日 東京高裁平成10年(行ケ)第18号 「母衣旗」事件)。

C.具体的な運用方針
(a)対象となる「歴史上の人物名」
 本取扱いにおける「歴史上の人物」には、現存する者は含まれず、周知・著名な商標法4条1項8号の審査基準においては同号でいう「他人」とは現存する者であるとしている。また、判決でも以下のとおりとしている。
(平成17年6月30日 知財高平成17年(行ケ)第10336号の抜粋)
「商標法4条1項8号は,『他人の氏名・・・を含む商標』は商標登録を受けることができない旨規定する。同号は,『その他人の承諾を得ているものを除く。』と定めているから,同号にいう『他人』は,生存ないし現存するものに限られると解するのが相当である。~(略)~人格権は,一身専属的な権利であって,例えば著作権法60条のような個別の規定がある場合を除き,その者の死亡により消滅するというべきであるから,商標法4条1項8号の立法趣旨が人格権の保護であるからといって,そのことから,同号にいう『他人』に故人が含まれるということにはならない。」

(b)審査の方法
 本取扱いは、例えば、前記A.(b)に述べた他の拒絶理由が該当する案件をも対象にしようとするものではなく、当該他の規定に該当しない場合の取扱いである。 
 商標審査基準では、商標法第4条第1項第7号について「商標の構成自体がそうでなくとも、指定商品又は指定役務について使用することが社会公共の利益に反し、又は社会の一般的道徳観念に反するような場合も含まれるものとする」としている。
 取扱いの1.では、歴史上の人物名からなる商標登録出願の審査においては特にその趣旨に留意し、次の①ないし⑥の事情を総合的に勘案し、商標法第4条第1項第7号を適用すべきか否かを判断することとしている。
 その上で、取扱いの2.においては、近時の判決等の動向を踏まえ、特に「歴史上の人物の名称を使用した公益的な施策等に便乗し、その遂行を阻害し、公共的利益を損なう結果に至ることを知りながら、利益の独占を図る意図をもってした出願」については、公正な競業秩序を害するものであって、社会公共の利益に反するものであるとして、商標法第4条第1項第7号に該当することとしている。

① 当該歴史上の人物名の周知・著名性
 本取扱いは、周知・著名な歴史上の人物名を対象とするものであり、その歴史上の人物名の名声、評価、顧客吸引力の高さに関する貴重な情報であるのはもちろん、さらには、出願人の認識(歴史上の人物名の名声等を承知していたか否か、便乗を目的としていたかなど)を判断するための情報の一つにもなり得るものと考えられる。
② 当該歴史上の人物名に対する国民又は地域住民の認識
 本事情は、特定の一私人の認識というよりも、広く国民や地域住民が全体的にいかに当該歴史上の人物を捉えているかという観点での事情をいう。例えば、広く国民の敬愛を集めている、あるいは、当該歴史上の人物が当該人物の出身地、ゆかりの地等において親しまれている等の事情によって、国民や地域住民全体にあたかも「共有財産」の如く認識されているような場合には、商標登録に対し国民や地域住民全体の不快感や反発を招くことも考え得る。このため、国民又は地域住民が歴史上の人物名をいかに認識しているかは、社会公共の利益や社会の一般的道徳観念に反しないか否かの重要な情報となり得るものといえる。これらは、次に挙げる③の利用状況を通じて明らかになることも考えられる。
③ 当該歴史上の人物名の利用状況
 歴史上の人物名について、例えば、当該人物の出身地、ゆかりの地等における利用状況は、商標法第4条第1項第7号を適用すべきか否かの判断において極めて重要と考えられる。特に、地方公共団体や商工会議所等の公益的な機関が当該人物に関連する祭り・イベントの開催、博物館・展示館の運営、当該人物をシンボルとした観光案内等を行っているなどの事情、さらには、それら機関の振興策の下で当該人物名を使用する事業者が多数存在するなどの事情等は、本取扱いの2.における公益的施策や公益性に関する判断をするための貴重な情報の一つになり得ると考えられる。 
④ 当該歴史上の人物名の利用状況と指定商品・役務との関係
 当該歴史上の人物名の利用状況との関係において、その使用に関係する商品又は役務と指定商品又は指定役務との関係も重要な情報となり得る。例えば、それら商品又は役務が指定商品又は指定役務と同一又は類似の関係にある場合は、上記③に述べた使用に商標権の効力が及ぶ可能性があり、出身地、ゆかりの地における利用への影響が懸念される。また、土産物や当該地域の特産品など観光客を対象としたものといえる商品又は役務等との関係では、特に上記③の利用状況への便乗も懸念されるところである。さらに、指定商品又は指定役務の具体的内容によって、国民や地域住民の不快感や反発も異なってくるものと思われる。このため、これらの事情は、公共的利益を損なうか否か、利益の独占を図ろうとするものであるか否か、さらに、公正な競業秩序を害し、社会公共の利益に反するおそれがあるか否かを判断するための貴重な情報の一つになり得ると考えられる。
⑤ 出願の経緯・目的・理由
 出願人が出願に係る商標を採択した理由、出願人による出願に係る商標の使用状況、その商標としての周知・著名性は、出願の経緯や目的、さらには、その出願又は登録が公正な競業秩序を害するものであるか否かを判断するための背景として貴重な情報の一つと考えられる。
⑥ 当該歴史上の人物と出願人との関係
 当該歴史上の人物や上記③に挙げた使用に係る者と出願人との関係は、出願の目的、経緯のほか、社会公共の利益に反するか否か等を検討する上で、貴重な情報の一つと考えられる。
 なお、その場合には、当該人物が亡くなってどの程度の期間を経過しているのかも総合的に勘案して検討することが必要と考えられる。


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