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循環バスくる梨を見習え

2009-09-19 19:32:27 | 秋田のいろいろ
今回の山陰旅行で訪れた松江市や鳥取市は、秋田市より小さな県庁所在地(いずれも人口20万人前後)だったが、路線バスは充実していた。以前の松江を見習えでは、時刻表などの案内方法を取り上げたが、今度は市街地循環バスについて、鳥取に見習うべき点を感じた。

以前の記事と重複するが、鳥取市の路線バス事情を整理すると
 ・民間の日ノ丸自動車、日本交通の2社が運行している。
 ・鳥取駅から県庁付近などまでの循環100円バスの運行範囲内では、一般路線バスも運賃100円。
今回は砂丘の往復にしか一般路線バスを利用しなかったのでよく分からないが、中心部が100円なのは便利だと思った(区間を越えるといきなり190円に上がってしまうけど)。循環バスを待つよりも本数が多いし、乗客の分散・路線バスの収入向上にもなると思う。エリア内に官公庁、公共施設、高校があるから、需要があるのだろう。そして、
 ・鳥取市が運行する100円循環バス「くる梨」がある。
以下はこの「くる梨」の話。
※「コミュニティバス」という言葉があり、厳密には運行主体などに定義があるようですが、本記事では単に「市街地をきめ細かく走る小型路線バス」程度の意味合いで使用しています。

僕は最初、「くる梨」を「クルナシ」と読んで意味が分からなかったが、正しくは「クルリ」。街をくるりと循環することと、特産の梨をかけた名称だった。
2004年から本格運行を開始し、現在は年間25万人が利用しているという。
左回りの赤コース・右回りの青コースの2ルート(各一周約30分強)があり、近接しながらもほとんど重複ぜずに何度も交差する、つかず離れずの道を通る。また、多くの一般路線バスが通るメインストリートの若桜街道は避け、その東西の道や細い道も通る。停留所は公共施設、病院、スーパーといった市民が利用する施設から、寺院や観光施設まであり、駅北側(一部南側)にあるものはほとんどカバーされているのではないだろうか。
赤と青はそれぞれ20分間隔で運行され、原則として鳥取駅前では赤と青が交互に10分ごとに発車している。赤と青のコースを微妙に変えることで、各施設のより近くに停留所を置けるし、急ぐ時や悪天候時は少し歩いて反対のルートに乗ればいい場合もあるだろう。
1乗車100円、1日券は300円。100円バスにはしては珍しく定期券もあり、1か月3900円。自社ポイントカードと定期券を交換するスーパーもあるようだ。
以上のようにルート、ダイヤ、制度どれもよく練られている。
なお、実際の運行は赤が日本交通、青が日ノ丸自動車にそれぞれ委託されている。車両は原則として赤青各2台の鳥取市所有の専用小型バスが使用される。
これがくる梨(赤コース)の車両
バスというよりワゴン車みたいな車だけど、各地でこの手のコミュニティバスとして使われる、日野自動車「ポンチョ」というノンステップ(段差のない)小型バス。由来は「PONと乗って、CHOこっと行く」コミュニティバスのイメージから。上の写真は2002年発売開始の初代。
こちらは2006年以降現行の2代目で、デザインが違う
初代はフランスのPSA・プジョーシトロエン製のシャーシ・エンジンに国産ボディを付けたもので、長さ5.8メートルで乗降ドアは1つ。座席は12席で、立ち席を含めて20人乗り。
2代目は純国産でエンジンが後部に移動し、バスらしいデザインになった。7メートルと6.3メートルの2タイプがある。座席は10席強、総定員は30人程度。
くる梨用は7メートルの長い方らしく、乗降口が2つ設置できるようになった。
ドアが開くと側面デザインが見えない!
ヘッドライトが軽自動車っぽいなと思っていたら、本当にダイハツ「ムーヴ」と共通の部品を使っている(日野もダイハツもトヨタ系列)そうだ。なお、テールランプは日野・いすゞの大型観光バスと同じ。

梨やウサギ、カニがくる梨のキャラクターとして公募で選ばれ、車体に描かれている。沿線の建物を描くなど、赤と青で異なるデザイン。
 
秋田市の駅東口、南通築地経由、泉山王環状線や、10年ほど前から弘前の弘南バスが中型車の代替として導入している、日野「リエッセ」という小型バスもあるが、それよりだいぶ小さく見えた。でもリエッセは定員が37名程度なので、ポンチョとそんなに違わない。
僕はここ数年、旅行先で、このポンチョをよく見かけている。コミュニティバスがある街はうらやましいが、おもちゃみたいなデザインに抵抗感があった。今回、鳥取旅行の最後で、初めてポンチョに乗る機会があった。

乗ったのは、青コースの新型車。8月に入ったばかりとのことで新車の匂いがするオートマ車だった。(赤コースには昨年導入)
ノンステップで乗り降りしやすいのはもちろん、意外に車内が広いし天井が高い。大型のノンステップ車では、タイヤが大きく車内に出っ張っているが、こちらはタイヤが座席と干渉しない位置にあり、運転席と客席最後部1列を除いてフルフラット。座席配置(オプションで数種から選べる)は横向きと正面向きの混在。
車内の造りも普通の新しい路線バスと変わらないし、明るい。外観もよく見るとかわいいかも。乗ってみたらとてもいい車両だと思い直した。
最後部の座席から撮影
乗った時点では満席で立ったが、途中で空いた。きめ細かく回るので乗り降りが頻繁で、まさに「PONと乗って、CHOこっと行く」。この車両サイズと座席配置でちょうどよさそう。

細い路地もスイスイ走るのは当然として、一部施設では正面玄関の車寄せに入っていくことにびっくりした。鳥取県庁本庁舎もそうで、秋田県庁で言えばスギッチ像がある玄関にバス停があるのと同じ。公道に出入りする専用レーンもあった。秋田市でこのような形式のバス停は、日赤病院くらいだろう。
小型バスだからできる芸当だが、20分間隔でバスが来ることを承知の上、バス停設置を許可した各施設の協力もある。

ところで、日本バス協会が全国共通の注意喚起シールを作って各社が貼っているように、走行中の車内移動は転倒などの事故の元であり、たいへん危険である。ただ、秋田や青森のバス会社は、そのことの周知がまだまだ不徹底だと思う。普段は何も言わないくせに、バス停停車直前に立った乗客に対してだけは待ってましたとばかりに「ほら! 危ないよ!」などと強い口調で言う運転士に秋田や青森で複数出くわした。危ないのは当然で走行中に立つ客が悪いのだが、相手は客なんだし言い方というものがあるでしょうに。

この時の青くる梨は、最後は僕以外の客はお年寄りだけになった。その1人が走行中に立ち上がりおぼつかない足取りで運転席へ行き「○○は通るの?」などと聞きはじめた。某地方のバスなら気まずい雰囲気になりやすいシチュエーションだ。
ところが、この青くる梨の運転士さん(日ノ丸バスの人)、(方言の言い回しは適当です)「××で降りてください。まだ(距離が)あるし、危ないので座って待っといてもえらますか。すんませんなぁ」と非常に丁寧。お年寄りが席に戻ってからも「○○にはバス停がないもんで、××で降りて道路を渡ってもらうことになりますねぇ」などと親切。
しかもこのお年寄り、降りる時にバスの下に荷物をぶちまけてしまった。某地方のバスなら舌打ちの一つでもされそうで、僕が立って行って助けようかと思うか早く、運転士が素早くサイドブレーキを引いて席を離れ、「大丈夫ですか?」と降りて行った。
僕がくる梨に乗ったのはこの1回だけだから、他の運転士がどうなのかは分からないし、地域性なのか、市やバス会社の教育なのか、運転士個人の人柄なのか、分からないが、気持ちよく利用できた。
初代青くる梨
秋田市では、バス会社のせいか、行政のせいか、市民の需要・関心がないのか、100円バスも市街地を循環するバスもない。今では秋田市より小さな街を含む、多くの都市で運行されているのに。
秋田市公共交通政策ビジョンには、路線バスの特定区間の定額化構想はあるようだが、循環バスはあまり具体的でないような気がした。また、再開発組合か何かが中心市街地活性化の一環で、無料「トラム」なるものを運行しようとしているようだが、駐車場や商店の利用者が主対象のようで、くる梨とは性格が違うと思われる。僕が知る限りでは、秋田市をくる梨のようなコミュニティバスが走る計画や構想はない。

でも秋田にまったく需要がないはずはないと思う。主要な路線バスは、ほとんどが秋田駅に一極集中し、正面の広小路・中央通りを直進するので、両通りを越えて南北を結ぶ路線はほぼ皆無。
一方通行なこともあり、停留所配置はあまり中心市街地での乗降を考慮していないものの、駅から乗って2つ目の木内前で降りる人がたまにいる。
また、市街地でもバス停から遠い地帯があり、特に千秋公園裏側(矢留町・北の丸)・南通などの住宅地や病院の多いエリアが該当する。例えば中通総合病院は、駅から1キロで病人やお年寄りには歩くのは辛いが、路線バスは朝に2本だけ。
聞いた話では、通町周辺から中通総合病院に行くお年寄りで、通町から大町五丁目まで路線バスに乗り、後は南通りを歩くという方がいるそうだ。これでは160円でバスに900メートル乗って、降りたらまた900メートルも歩かなければいけない。お年寄りには真冬や炎天下は危険だ。
バス空白地帯同士を横に結ぶ循環バスがあれば、こうした問題は解消できそうだ。

僕は以前から、秋田の街に循環バスが必要だと思っていたが、具体的なイメージが浮かばなかった。でもくる梨に乗ってみて、これこそ、秋田に必要な循環バスだと思った。
秋田市ではエコだと言って自転車利用を推進している(本意は自転車だけというわけではないのだが、取り上げ方が自転車に偏っている)が、寒冷地・積雪地であり、夏はそれなりに暑くて日差しが強い秋田では、年中自転車に乗るのはきつい。自転車に乗れない時は自家用車に乗れと言いたいのかもしれないが、エコという言い分と相反するし、渋滞や市街地衰退に拍車をかける。
それに、少なくとも僕には、将来歳をとってから自転車や車を安全に運転するだけの体力・精神力を維持する自信はないし、その時にタクシー代や運転手を雇えるほどの経済力を持っている自信も保障もない。そんなことを踏まえると、安く手軽に乗れる循環バスは必要だと思う。

以下は僕の完全な妄想に過ぎないが、例えば、以下の略図(東が上。一方通行等は無視しました)のピンクの線のように、
緑が既存バス路線(極端に本数の少ない路線は除く)・ピンクが循環バス一案
秋田駅・手形陸橋周辺・脳研センター・県民会館・木内前/仲小路の病院・通町・千秋公園裏側・秋田北高周辺・保戸野の病院・福祉会館・ドンキホーテ・寺町・横町・楢山の病院・中通総合病院・南通・市民市場・秋田駅
というルートなどどうだろうか。今は1日1本になってしまった路線バス「楢山・手形大回り線」に似たルートだが、定額で、路地や病院前まで行くきめ細かいルートにすることで需要はあると思う。
あくまでも一例であり、くる梨の赤青のように路線を微妙に分けたり、サティ、県庁・市役所、秋田大学付近まで範囲を広げたり、朝は駅から各病院までの直行便を運行するようなパターンも考えられる。

秋田は車社会で公共交通に無関心な市民は多いし、他都市の循環バスの便利さを知らない人がほとんどで、「今のバスでいい」という人もいるだろう。どのくらいの需要があって、事業として成立するかは未知数だが、検討してくれてもいいのではないだろうか。

ただし、日野ポンチョは1台1500万円とのこと。リエッセなどは1000万円あれば買えるので、ややお高い。秋田では積雪時も不安(ポンチョは会津若松市や千歳市に導入事例があり、寒冷地仕様があるそうだが)。
弘南バスの「土手町循環バス」では中古の貸切マイクロバスを転用(バリアフリーでは難ありだが)しているほどだから、ポンチョでなくてもいい。ともかく「足」を確保する必要があると思う。

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4 コメント

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Unknown (住民)
2009-09-19 23:53:57
中心市街地には循環バスは街の構造上導入しにくいと思っていました。具体的な需要についてはアンケートが必要だと思いますが市民が感心を持つことがまずは第一歩でしょう。市営カラー復活でもいいですね。
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中心市街地周辺の在住者ですので (taic02)
2009-09-20 10:14:43
他地域との公平性からして利己的な考えかもしれませんが、外出に苦労している近所のお年寄りを見ていると、循環バスがあればとかねがね思っていました。
市役所には交通局の元運転士も残っていますし、車体塗装を復活して、市営バス復活というのもおもしろいですね。現実的には外部委託でしょうけれど。
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かわいい (あどれ)
2009-09-20 22:29:43
こんなバスだと乗りたくなっちゃう!しかも100円で乗っていられるなんて分かりやすいよねー。
こうして他県のちょっとした市民へのサービスを見ると、色々なアイディアを考えてるんだ、って分かる。
秋田県って何だろう。。。きちんと市民の声をきいてくれてるかな?悲しい現実だね。
返信する
ちょっとそこまで行くのにも (taic02)
2009-09-20 23:01:26
気軽に乗れそうなバスでしょ。
このままだと、秋田は取り残されてしまいそう。でもそんなこと地元住民は知らない(知る機会がない)んですよね。
よそから来た人の意見を聞くとか、行政が積極的に情報収集するとかして、それを元に住民が自分の街を考える機会を与えてくれるといいのかもしれません。
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