<下村・矢倉神社 しもむらやぐらじんじゃ>
下村・矢倉神社へと続く石段は、
これまで訪れた無社殿神社の中でも、
とりわけ長くて急峻な参拝道でした。
ゆるいカーブを描きながら、
神社のある深い森の中へと
吸い込まれるようにして伸びるその様子は、
熊野古道の雰囲気ととてもよく似ています。
「石は人の思いを溜める」などと言いますが、
こうして無社殿神社の石段を登っていますと、
近年作られたコンクリート製の階段では感じられない、
古代の人々の思いが足元から伝わってくるようです。
全国各地から熊野の地を目指して人々が集まるのも、
そんな「古い記憶」に触れたくなるからなのでしょう。
古の時代、この祭壇を築き上げた人々は、
どんな思いを込めながら石を積み上げ、
どんな思いを込めながら神と向き合ったのでしょうか…。
もしかすると、千年後に訪れるであろう日本の様相や、
千年後に訪れるであろう私たちの心の中まで、
はっきりと見透かしていたのかもしれません。