さて、三箱はカリスマカウンセラーが引き受けてくれました。
あとの三箱はどうなるのでしょうか?
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猿烏賊母は猿 烏賊父にカリスマカウンセラーが三箱引き取ってくれることを話した。よかったよかったと喜ぶ二人。さてあと三箱をどうしよう。
二人は相談してこう決める。金曜日猿烏賊父は有休を取ってまず三箱と猿烏賊母を公民館へ送る。猿烏賊母はそこで三箱をカリスマカウンセラーに渡し、親の会から振られた会場警備の仕事につく。猿烏賊父は残り三箱を高速で二時間ほど離れた実家に持っていく。
猿烏賊父の実家は田舎にあり、蔵もある。三箱くらい蔵にしまってくれと言ったらきいてくれるだろう。ついでに実家に泊まってくると猿烏賊父は言う。田舎で二人暮らししている両親のことはやはり気になるのだ。
でもなかなか帰れない。帰れなくなったのは息子の障害が発覚してからだ。両親は昔の人間なので、頭のいい孫がなぜ障害者になったのかわからない。なぜ「特殊学級みたいなところ」で学ばなければならないのかわからない。
そしてその特殊学級みたいなところでさえ不登校気味なのに、なぜ母親がそれを認めているのかわからない。子どもが学校に行きたくないと言っても、なんとか行かせるのが親の役目だろう。
祖父母にとって孫は孫。だからごく自然に接してしまう。偏食すると叱るし、じいさんの部屋に無断で入ると怒る。
その度に猿烏賊母は祖父母を睨む。この子は障害があるんです。叱ると二次障害がどうのこうの自己肯定感がどうのこうの。祖父母にはわけがわからない。しつけ不足ではないか、と素直に言ってしまう。
すると猿烏賊母はキレてスマホを持って納戸に行き、ツイッターに、いかにじじばばに障害理解がないか書き込み、沢山のいいねをもらう。帰省のたびにそれが繰り返された。
それが続いてから、息子を連れて帰省することを諦めた猿烏賊父であった。勢い実家が遠くなってしまう。でも老いていく両親が二人暮らししていることは気になっていた。この機会に一泊してこよう。
金曜日、猿烏賊父は公民館に猿烏賊母と三箱を送り、実家にドライブする。祖父母は父の来るのを楽しみに待っていた。箱を運び込むと中が見たいという。トートバッグを見せると洒落てるねえという。
こんな立派な絵を描けるんだ。やはり障害なんかないのではないか。頭のいい子なんだし。あんただって昔は聞き分けがなかったし兄さんは勉強できたけど友だちはできなかった。学校の先生に注意されたこともあったよ。でも二人とも今では立派に働き家族もできたではないか。
このバッグはご近所に配りたいねえ、と祖母は言う。ぜひ配ってくれという猿烏賊父。祖父はいそいそと、囲碁会館に二十ほどトートバッグを持って行った。見てくれこれ。孫の絵がカバンになったんだ。いや、こりゃ大したもんだ。もらってくれて褒めてくれる囲碁の会仲間であった。
こうして哀愁のトートバッグは、思わぬじじばば孝行をした。あの子は大丈夫だ。親子で酒を酌み交わしながら、実家の夜は平和にふけていった。
さて公民館の方はどうなっただろうか?
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禍転じて福。祖父母はトートバッグを喜んでくれたようですね!