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「虚構」を参照せよ

2023年01月16日 | 教育ノート
 文藝春秋古本(2011.8)の特集が面白い。1990年前後の講演記録で、松本清張から司馬遼太郎まで大物がずらりと10人並んでいる。なかでも、作家藤本義一の話が心に入って来た。藤本は「日常の言葉というのは、三種類あるんですよ。それは事実の言葉と嘘の言葉そして虚構の言葉、この三つです」と語っている。



 授業参観に行って帰ってきた母親が子どもに声がけすることを例に、その三通りと説明していた。「一番多いのが嘘つきのお母さん」で、教師から言われたことにしてもっと頑張るようにはっぱをかけるのだと言う。そういう場合、子どもの心理としては先生から親への告げ口と受けとめ、徐々にやる気をなくしていく


 「次は、事実ばかりのお母さん」で、そのまま教師の様子に関しても良くも悪くも思ったままに口にする。大人の見方や感覚を押し付けられたままに、子どもは真似ていくという。率直な物言いの良さはあるとしても、好悪の感情のままに評価した先生の様子をそのままこどもに伝えることは、大人はしてはいけない。


 藤本は「虚構でいいんですよ。子どものために文章を、物語を作ってあげたらいい」と語る。古い時代から詩人は「虚構の下に事実はないけれど、虚構の下には真実がある」と歌い続けてきたという。実際の場面であまり言葉はいらない。にこやかに帰ってくる。そして授業参観に行って良かったということを伝える。


 「この頃、とても頑張っている」と先生が肯定的に評価してくれた様子を、さりげなく伝えることによって、子どもの中に物語が生まれ、進むべき道が示される。そこからまたコミュニケーションが深まり、広がっていく。もちろんこの話は親子関係だけでなく、教師と子どもの場合もそっくり当てはまるのだと思う。


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