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その坂までの遠い坂

2012年02月20日 | 読書
 『坂の上の坂』(藤原和博 ポプラ社)

 絶妙なネーミングだと思う。
 副題として「55歳までにやっておきたい55のこと」。著者自身の年齢にかけ合わせた構成の仕方や,さらに普通なら新書かなあと思うような内容を,なんとなく意味ありげな写真を使った装丁でハードカバーに仕上げたところなど,さすがに上手だなあという印象を持つ。

 内容に関しては今までの著書に書かれていたことと大差ない。ただ自らの世代的な特徴の部分がやや丁寧に取り上げられている気がした。
 いわゆる高度成長まっただなかに育った同世代として,存在を一言「サイボーグ」と自分を揶揄してみせたところなど,まさしく納得するしかない点である。

 著者も紛れなく日本社会のトップランナーの一人であるが,同年代は他分野でも大きく牽引している存在が目立つ。
 政治やビジネスの世界ではよくわからないが,大雑把にマスメディアや芸能界,軽音楽界などに数多いような気がする。これはきっと,経済成長やカルチャーの変化と無縁ではないだろう。

 その意味で,これらの著名な同世代人が支持された理由,支持され続けている理由は何だったのかを考えてみることは,個人的には興味深いし,十分に価値あることだと思えてくる。


 本の内容からずれてしまったか…
 さて,著者の目指すものは,あとがきにずばりと書かれている。

 脱「正解主義」の教育です。

 その結論もしかり,仕事上,どうしても教育上のエピソードに目がいってしまう。特に興味深い情報紹介があったのでメモしておきたい。

 一つは,明治維新における学校教育の教科設定のことである。
 言われてみればもっともなのだが,富国強兵策なのである。
 そのすべてが進軍のために意義づけられた,必要とされた学習なのである。音楽も図工もそうだという件には,納得されられた。
 「頑張る学び」はこういう根を持つのである。

 もう一つは,これは以前何かで読んだが,ボランティアが大震災の避難所へ運んだロールケーキのことである。
 その場に避難されている人数とあわないので受け取りを拒否されたこの出来事が,見事にこの国の教育を表していると思うのは,私だけではあるまい。

 当事者だけを責めることはできない。
 そういう凝り固まった発想が蓄積されていく日常を作っていないか,サボらずに振り返ってみよう。
 柔軟にと言いながら,その言葉が,実は柔軟を欠いているような筋道でやってきていることは明らかなのだから。