スピノザの『エチカ』と趣味のブログ

スピノザの『エチカ』について僕が考えていることと,趣味である将棋・競馬・競輪などについて綴るブログです。

馬場と坂口&共有者数

2018-01-23 19:06:08 | NOAH
 殺人医師が全日本プロレスで仕事をするようになったのは,全日本プロレスが専属的に保有していたネイチャーボーイが新日本プロレスで仕事をするにあたって,全日本プロレスと新日本プロレスとの間で交わされていた協約に基づくものでした。いってみれば外国人選手のトレードだったわけです。
                                     
 プロレスの業界において団体と選手の間の契約でさえあってないようなものです。少なくともそういう時代がありました。ジャパンプロレスの選手の中には新日本から全日本,また新日本と職場を変えたレスラーがいますが,いずれも契約破棄によるもので,団体間では違約金が支払われています。また谷津の雑感⑥で書いたことから,全日本からSWSに選手が移籍した際にも,この種の契約破棄があったのは間違いありません。それでみれば団体と団体との間の協定などは守られる方がレアケースと解しても,当たらずとも遠からずかもしれません。なのでこのときに協定に基づいてトレードが行われたのは,奇跡的といっていいほどの出来事だったのではないでしょうか。
 おそらくこれは,このときの新日本プロレスの社長が坂口征二であったために成立し得たと思われます。馬場は猪木のことはほとんど信用していなかったようですが,坂口は信頼がおける相手と認識していたようです。また,坂口は日本プロレスに入団したのが1967年2月。交渉のために前年の暮れに上京したとき,初めて会ったのが馬場で,入団発表の直後には馬場に連れられハワイに行きました。坂口は猪木とは年の差がないのでライバルとしての敵愾心をもっていましたが,馬場は兄貴分であったと語っていて,おそらくそういう思いが,新日本と全日本に袂を分かってからも継続していたのでしょう。このトレードの後,全日本と新日本とWWFの合同興行が実現したのも,佐藤昭雄の尽力もあった筈ですが,馬場と坂口との間にあった信頼関係の方がより大きかったのだと思われます。
 馬場にしろ坂口にしろ,プロレス団体の経営者として有能であったとはいえないのかもしれません。しかし両者の間には,一般社会でも成立するような信用関係があったのは間違いないでしょう。

 スピノザとアルベルトAlbert Burghの場合は,アルベルトが何を表象しているか,他面からいえばどれだけの人びとが自分が有している地獄への不安metusあるいは恐怖metusを共有していると思い込んでいるかを考慮の外に置くなら,あくまでも一対一の関係です。ですがこうした不安や恐怖というのは,実際に集団的に共有されるようになると,さらに別の,そして強力な排他的思想を産出するようになります。
 たとえばAという国にXという人間が存在するとします。このXが,近隣の別の国家ImperiumであるBが,A国を攻めてくることに不安あるいは恐怖を感じたと仮定してみます。
 このとき,Aという国家の国民のほとんどがこうした不安ないしは恐怖をXと共有しないのであれば,Xは単にあり得そうもないことに怯えている臆病者であると評価されるでしょう。したがってXはB国およびB国の国民に対しては排他的思想を抱くことになるでしょうが,自身の不安あるいは恐怖を共有しないA国の国民に対する排他的思想は,総体的にいうならさほど強いものではありません。いい換えればそれは問題視するにあたるような事象にはなりません。
 もしこのとき,A国の国民の半数ほどがXとともにその不安あるいは恐怖を共有し,残る半分ほどが共有しない場合には,A国の国民は分断されるか,少なくとも分断の危機にあることになります。とりわけその不安ないしは恐怖を共有する側がA国の国家権力を握っている場合は,分断が実際に発生しやすくなります。というのもこの場合は権力側が実際にその不安あるいは恐怖に基づいた政策を実施する可能性が高まり,それを共有しない側の国民はその政策に対して激しく抵抗するであろうからです。そして最悪の場合は,互いが互いに排他的思想を有するようになってしまうでしょう。
 さらにこのとき,この不安や恐怖が国民の大多数に共有されるようになると,それを共有しない少数の国民に対する排他的思想はその分だけ強大化することになります。よって共有しない国民が,非国民とか反愛国者というようなレッテルを張られ,不安や恐怖を共有している多数の国民から攻撃されるというような事態も起こり得るようになります。
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