ハンセンの乱入があった試合後の乱闘でハンセンの流血が生じたことは,完全なアクシデントであったというのが僕の理解。その根拠をひとつあげれば,この流血は馬場の脳天唐竹割りで発生しました。馬場はほとんどの試合でこの技を出していたと思いますが,それで対戦相手が流血してしまったというシーンは僕には覚えがないからです。したがって,仮にギミックとしてハンセンが流血するのであれば,もっとほかの手段を採用する筈だからです。
当たり所が悪かったために出血してしまったのでしょうが,馬場はチョップの威力を増大させるために,特訓を施していました。あまり知られていないことだと思うのですが,その成果で馬場の右手はとても堅くなっていて,それもこのアクシデントの要因のひとつであったのだろうと思います。
特訓の内容については馬場が『王道十六文』の中で明かしています。これは最初の渡米の前に力道山から受けたもの。馬場が右手をテーブルに載せて,それを力道山が木槌で叩くというもの。やっているうちに手が腫れあがってきて,そのうちに皮膚が破れて血と水が出てくるそうです。しかし特訓というのはここからが本番。さらに同じように続けていくと,最終的には破れた皮膚が固まり,それがタコのようになって,堅い手が出来上がるのだそうです。
これは渡米後に,チョップを武器にするために力道山によって施されたもの。馬場は後にそのチョップを脳天に打ち下ろしたらどうかということを力道山に尋ねたそうですが,力道山はそんなことをすると相手が死にかねないといって許さなかったそうです。実際には馬場は,少なくとも僕のプロレスキャリアが始まった時点では,先述したようにこの脳天唐竹割りをほとんどの試合で出していました。しかしこの事情から察すると,馬場はいくらか加減して打っていたのではないでしょうか。もしかしたら馬場が最も本気で打った脳天唐竹割りというのが,このハンセンとの乱闘のときだったのではないかと思えるのです。
時間的には前後しますが,この日はもうひとつ,しておかなければならないことがありました。
僕は入院中から血糖値測定を自分の手で行うようになり,それと同時に用具も自分で管理するようになりました。このようにいいますと,あたかもこの用具が僕の所有物であるかのようですが,実際にはそうではありません。形式的にいいますと,みなと赤十字病院から借り受けているものなのです。したがって血糖値測定器具一式がよりコンパクトな新しいものになったからには,それ以前のもの,といってもこれは一式のうちの耐久品である測定器と注射器だけですが,これらは返却する必要がありました。それで,これはバッグごとU先生に返したのです。
その後,診察室を出ての帰り際に,技師に呼び止められました。注射器と注射針というのは一体のものであるけれども,古い注射器に新しい注射針を挿入するということは可能で,もしもまだ使う気があるならば,注射器の方は返却しなくてもよいという意味のことを言われました。前にもいったように,針の着脱だけを考えれば,前の注射器の方が利便性は高かったと僕は思っていましたから迷いはしたのですが,この申し出は断りました。すでに使い続けていましたから,新しい注射器の方にももう慣れていましたし,何より,古い注射器は大きいですからせっかくコンパクトになったバッグに収めることができません。つまりこの注射器だけを別に管理しておく必要があり,それはそれで面倒だったからです。
新しい注射器の直方体という形状が,古い円柱型の注射器の形状に比べて優っている点があるとするならば,それは置いたときに転がることがないという点だと思います。転がってどこかにいってしまうような大きさのものではありませんから,仮に転がったとしてそれで困るということはありませんが,おそらくそれを避けるために形状を変化させたのだろうと考えられます。というか,そう考えなければただ不便になっただけで,形状変更の理由が考えられないのです。とくに小さくなっていますから,転がりにくさというのを追求する理由というのは,それまでの大きなものと比べれば,増しているということだけは確かだと思います。
当たり所が悪かったために出血してしまったのでしょうが,馬場はチョップの威力を増大させるために,特訓を施していました。あまり知られていないことだと思うのですが,その成果で馬場の右手はとても堅くなっていて,それもこのアクシデントの要因のひとつであったのだろうと思います。
特訓の内容については馬場が『王道十六文』の中で明かしています。これは最初の渡米の前に力道山から受けたもの。馬場が右手をテーブルに載せて,それを力道山が木槌で叩くというもの。やっているうちに手が腫れあがってきて,そのうちに皮膚が破れて血と水が出てくるそうです。しかし特訓というのはここからが本番。さらに同じように続けていくと,最終的には破れた皮膚が固まり,それがタコのようになって,堅い手が出来上がるのだそうです。
これは渡米後に,チョップを武器にするために力道山によって施されたもの。馬場は後にそのチョップを脳天に打ち下ろしたらどうかということを力道山に尋ねたそうですが,力道山はそんなことをすると相手が死にかねないといって許さなかったそうです。実際には馬場は,少なくとも僕のプロレスキャリアが始まった時点では,先述したようにこの脳天唐竹割りをほとんどの試合で出していました。しかしこの事情から察すると,馬場はいくらか加減して打っていたのではないでしょうか。もしかしたら馬場が最も本気で打った脳天唐竹割りというのが,このハンセンとの乱闘のときだったのではないかと思えるのです。
時間的には前後しますが,この日はもうひとつ,しておかなければならないことがありました。
僕は入院中から血糖値測定を自分の手で行うようになり,それと同時に用具も自分で管理するようになりました。このようにいいますと,あたかもこの用具が僕の所有物であるかのようですが,実際にはそうではありません。形式的にいいますと,みなと赤十字病院から借り受けているものなのです。したがって血糖値測定器具一式がよりコンパクトな新しいものになったからには,それ以前のもの,といってもこれは一式のうちの耐久品である測定器と注射器だけですが,これらは返却する必要がありました。それで,これはバッグごとU先生に返したのです。
その後,診察室を出ての帰り際に,技師に呼び止められました。注射器と注射針というのは一体のものであるけれども,古い注射器に新しい注射針を挿入するということは可能で,もしもまだ使う気があるならば,注射器の方は返却しなくてもよいという意味のことを言われました。前にもいったように,針の着脱だけを考えれば,前の注射器の方が利便性は高かったと僕は思っていましたから迷いはしたのですが,この申し出は断りました。すでに使い続けていましたから,新しい注射器の方にももう慣れていましたし,何より,古い注射器は大きいですからせっかくコンパクトになったバッグに収めることができません。つまりこの注射器だけを別に管理しておく必要があり,それはそれで面倒だったからです。
新しい注射器の直方体という形状が,古い円柱型の注射器の形状に比べて優っている点があるとするならば,それは置いたときに転がることがないという点だと思います。転がってどこかにいってしまうような大きさのものではありませんから,仮に転がったとしてそれで困るということはありませんが,おそらくそれを避けるために形状を変化させたのだろうと考えられます。というか,そう考えなければただ不便になっただけで,形状変更の理由が考えられないのです。とくに小さくなっていますから,転がりにくさというのを追求する理由というのは,それまでの大きなものと比べれば,増しているということだけは確かだと思います。