詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

高橋順子『泣魚句集』

2024-01-07 21:49:16 | 詩集

高橋順子『泣魚句集』(思潮社、2023年12月31日発行)

 詩人・高橋順子の『泣魚句集』。「現代詩詩人」の多くがつくるような「現代詩くささ」がないのがいい。もっとも初期の

しらうをは海のいろして生まれけり

夕焼けの桃売りにつきまとはれし

 は、少し「現代詩」の作為を感じさせるが。

腸(はらわた)のごとき鉄管夾竹桃

 も「現代詩」っぽいかもしれないが、どこか初々しさを感じてしまう。やたらと凝っていないところがある。特に、この「腸」は、あ、本当にむき出しになった鉄管を見たんだろうなあという印象を呼び起こす。「正直」があらわれている。
 高橋の現代詩の特徴は、「正直」と「初々しさ」にあるが、それがときどきとても自然な感じで顔を出す。そういう句が、私は好きである。
 次の句は、遍路の途中で詠んだ句か。

一列に烏の歩く春田かな

 きっと高橋も「一列」に歩いているのだろう。だから自然と「一列に」ということばがシンクロして高橋のところへやってきた。なんでもない句のようでもあるけれど、このなんでもないところ、ありまま、というのが句の醍醐味なんだろうなあ。

山笑ふ中に鈴の音まじりけり

 「中に」がぎごちなくて、それがとてもいい。「鈴の音」だけではなく、一緒に遍路しているひとの「笑い」(高橋も含む)が混じっている。「山笑ふ」は春の季語だが、その「笑ふ」を人間の「笑い声」と結びつけている「中に」ということばの力。
 俳句というか、その前身の「連歌」は「場」の文芸だが、「場」の「中に」動くものが俳句の精神だとすれば、知らず知らずのうちに高橋はその「場」の感じを「中に」ということばに呼び込んでいるのかもしれない。
 高橋は自分に閉じこもるのではなく、その「場」を構成する誰かとの「中に」入っていく。その瞬間に句が生まれるという境地に達していると言えるかもしれない。「しらうをは」は、まだ「自己主張」が強いが(だから「現代詩」っぽいと感じるのだが)、「一列に」「山笑ふ」には、「自己」を離れた豊かさがある。

長吉の笠が見えてる麦畑

 「笠が」の「が」が、なんとも無邪気な感じでいい。高橋は、高橋自身を忘れている。「自己」を離れて、広い麦畑、遍路の「場」にいて、その「広さ」のなかで、あ、あそこに長吉がいる感じている。その素直なこころの声が「笠が」の「が」を広々としてものにしている。
 こういう句は、高橋にしか作れないだろう。一句選ぶとしたら、この句を私は選びたい。

 

 


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