82 九時以来--
こう始まった詩の最終蓮。
九時から十二時半。時がたつのははやい、というのはわかる。しかし、「月日のたつのはやいこと」ということばと結びつくとき、驚く。「月日」と比べるのは「月日」だ。九時からずっと、カヴァフィスは「月日」を思い出していた。カヴァフィスの思いの中で動いていたのは「月日」だ。そのことを、最終蓮で静かに語っている。
池澤は、
と書いているが、カヴァフィスはたいてい「きょう」のことを思うのではなく、遠い「月日」のことを思い出していないか。「月日」のなかで繰り返される「きょう」を思っているのだろう。だからこそ「歴史」も題材にする。「歴史」は「月日(年月)」のなかにある「きょう」である。思い起こすとき、すぐそばにやってくる。
省略したが、二連目は、こう始まっている。
カヴァフィスの身体そのものがランプになり、そのなかに火がともる、と錯覚する。官能の火、快楽の火。その火が、カヴァフィスの道を照らす。同じ道を歩く。同じ道だから、「時」が「月日」にかわり、「月日」が「歳月」にかわり、同時に「時」にかわって戻ってくるのがわかる、ということだろう。いつであっても「きょう」だ。
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十二時半だ。時のたつのははやい。
九時にランプの火をともして以来、
ずっとここに坐っていた。坐ったまま何も読まず、
何も話さなかった。この家の中でたった一人、
話そうにも相手はいない。
こう始まった詩の最終蓮。
十二時半だ、時のたつののはやいこと。
十二時半だ、月日のたつののはやいこと。
九時から十二時半。時がたつのははやい、というのはわかる。しかし、「月日のたつのはやいこと」ということばと結びつくとき、驚く。「月日」と比べるのは「月日」だ。九時からずっと、カヴァフィスは「月日」を思い出していた。カヴァフィスの思いの中で動いていたのは「月日」だ。そのことを、最終蓮で静かに語っている。
池澤は、
追憶の形をとる詩篇はカヴァフィスには珍しくないが、この詩のように何に触発されるでもなく、ただじっともの思いにふけるのはあまり例がない。
と書いているが、カヴァフィスはたいてい「きょう」のことを思うのではなく、遠い「月日」のことを思い出していないか。「月日」のなかで繰り返される「きょう」を思っているのだろう。だからこそ「歴史」も題材にする。「歴史」は「月日(年月)」のなかにある「きょう」である。思い起こすとき、すぐそばにやってくる。
省略したが、二連目は、こう始まっている。
若かった頃のわたしの身体の幻が、
九時にランプに火をともして以来、
カヴァフィスの身体そのものがランプになり、そのなかに火がともる、と錯覚する。官能の火、快楽の火。その火が、カヴァフィスの道を照らす。同じ道を歩く。同じ道だから、「時」が「月日」にかわり、「月日」が「歳月」にかわり、同時に「時」にかわって戻ってくるのがわかる、ということだろう。いつであっても「きょう」だ。
カヴァフィス全詩 | |
クリエーター情報なし | |
書肆山田 |
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