詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

杉惠美子「茜さす」ほか

2024-02-18 13:55:29 | 現代詩講座

杉惠美子「茜さす」ほか(朝日カルチャー講座福岡、2024年02月15日)

 受講生の作品。

茜さす  杉惠美子
 
夕焼けに染まる海岸線は
一面の古代色

その輝きの静けさと儚さ
遠い光の淋しさと懐かしさ

色となり  影となり
音となり  風となり

消え入るほどに  我をなくす
波音に吸い込まれて  音をなくす

波頭を飛び渡って
静謐の時に溺れている

 「最後の2行が目に見える。色が印象的。ことばが最終行に収斂していく。きれいな、静かな景色が思い浮かぶ」「最初の2行と最後の2行が詩を生かしている」「古代色ということばのインパクトが強い。最終行の結び方が抽象的だが、古代色と静謐の対比が静けさをかもしだしている。途中の変化、対比が少し書かれすぎかも。少し抽象的かもしれない。そのため響いてこない」
 最後の感想は三連目だろうか。この部分を他の受講生は、どう読んだか、聞いてみた。
 「色から静謐への変化が書かれている」「書かずにいられない気持ちがわかる。『私』でまとめられるかもしれない」
 なるほど、「私は色となり 私は影となり 私は音となり 私は風となり」、杉は「私」ではなく4連目で「我」ということばで引き取っているが。
 この3連目は、一種の「飛躍」であり、それを支えているのが「……となり」という繰り返し。リズム(音楽)にのって、ことばが「意味」に縛られずに動く。そして、その「意味」に縛られないことが、逆に、強い印象を引き起こす。「主語」を省略することで、運動だけが強調される。
 2連目は名詞をあらわす「さ」、3連目は「となり」、4連目は「なくす」という脚韻で音楽を作り出しているのだが、2連目の一行目「その輝きの静けさと儚さは」と「は」を補って1連目と「対」のようにしてみるのもおもしろいかもしれない。「対」になることで、一つの動きが生まれ、それがイメージを加速させる。「は」があっても「さ」の脚韻は生きると思う。

休息  青柳俊哉   

 深く靴を踏みしめてジャガイモを覆(くつがえ)す

銀杏(イチョウ)の大木のしたの木目のテーブル 
春の味がする紅茶に
シナモンのリキュールをそそぐ  
来る年の野菜や花の名が空をとぶ

ジャガイモは冬のドイツの
貧しい農民と豚の瞳を明るくした
リキュールはかれらの年輪へおりて生をこえる

素足のくつろぎと ふきよせる黄色い葉

ぬがれた靴はもうこの空間をみたしはじめる
花や野菜の名 素足や黄色い葉を

 銀杏の大木が靴の中に芽ぶいて冬の眠りは畑にしずむ

 この詩の5、6連目には、別バージョンがある。

ぬがれた靴をもうこの空間はみたしはじめる
花や野菜の名 素足や黄色い葉で

 銀杏の大木が靴の中に芽ぶいて冬の眠りへ畑はしずむ

 読み比べながら、受講生の感想を聞いてみた。
 「最初は作者の暮らしを思ったが、ドイツが出てきたので空想を書いたのかとなあと考えた。イメージがわからないところがある。別バージョンの方が好き」「別バージョンの方が、ことばの流れとしてなめらかさがある」「2連目の風景、雰囲気が好き。靴が印象的で、詩のなかで大きな位置を占めている。別バージョンの方がわかりやすいが、最初の詩のわからなさがいい」
 「わからなさがいい」というのは絶妙な批評だが、詩は、わからないことが書かれている方が牽引力(吸引力)のようなものがある。助詞のつかい方は、学校文法的には別バージョンの方が「正確」なのかもしれないが、学校文法を破壊することで「もの(存在)」が自由を獲得し、新しく世界に出現してくる感じがする。読者の意識が解放される。
 ドイツが出てくるが、じゃがいも、靴はゴッホの絵を思わせる。銀杏(黄色)はゲーテの詩、「一枚の葉が二枚に分かれていくのか/二枚の葉が一枚になろうとするのか」を呼び寄せて楽しい。
 2連目も楽しいが、3連目の「豚の瞳を明るくした」の「豚」がとてもいい。豚はきれい好きな動物といわれるが、どちらかというと「汚い」イメージがある。それが逆に「瞳を明るくした」を輝かせる。「靴/ジャガイモ/豚」というの「貧しい/農民」と「紅茶/シナモン/リキュール」という「豊かさ」を感じさせるものがぶつかり合って、そこから複雑な乱反射の輝きが生まれている。強烈な印象が生まれる。
 「休息」というタイトルも、人間の休息と自然の休息(冬)が重なり、象徴的である。

 (15日は、受講生以外の作品も読んだのだが、その作品と感想は省略)

 

 


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