DIARY yuutu

yuuutunna toki no nikki

アポリネール(1880-1918)堀口大学訳「ミラボー橋」『アルコール』(1913年、33歳):「日も暮れよ/鐘も鳴れ」と私は自分を持て余す。「恋が流れ」去ったのに、「わたしは残る」しかない。     

2016-12-06 14:38:01 | 日記
 ミラボー橋

ミラボー橋の下をセーヌ河が流れ
    われらの恋が流れる
  わたしは思い出す
悩みのあとには楽しみが来ると

    日も暮れよ 鐘も鳴れ
    月日は流れ わたしは残る

手と手をつなぎ 顔と顔を向け合おう
    こうしていると 
  二人の腕の橋の下を
疲れたまなざしの無窮の時が流れる

    日も暮れよ 鐘も鳴れ
    月日は流れ わたしは残る

流れる水のように恋もまた死んでいく
    恋もまた死んでいく
命ばかりが長く
希望ばかりが大きい
                                         
    日も暮れよ 鐘も鳴れ
    月日は流れ わたしは残る

日が去り 月がゆき
    過ぎた時も
  昔の恋も 二度とまた帰って来ない
ミラボー橋の下をセーヌ河が流れる

    日も暮れよ 鐘も鳴れ
    月日は流れ わたしは残る

《感想》
①マリー・ローランさんとの6年間の恋。その終りの時に書かれた詩。
(1)
②「われらの恋が流れる」。恋の終わり。流れ去る恋。
②-2「わたしは思い出す/悩みのあとには楽しみが来ると」。恋は、苦悩を伴うが、その苦悩を凌駕する喜びの到来が恋である。
(1)-2
③ 「日も暮れよ/鐘も鳴れ」!時よ流れよ。晩鐘も鳴れ。 
③-2 「月日は流れ/わたしは残る」。時間が流れる。しかし生きる私は、残り続ける。
③-3 時間は流れ去るとともに、常に生まれる。時間はやってくるのでない。時間とは、《今》が生れ続けること。その生れ続ける《今》(=《存在》=《有》)と共に、《私の存在》も発生し続ける。
③-4 《私の存在》を除くすべての出来事、例えば、終わった恋は、過去に流れ去る。だが、私が生き続ける限り、《今》の到来とともに、常に《私の存在》が到来する。かくて、「わたしは残る」。
(2)
④「二人の腕の橋の下を/疲れたまなざしの無窮の時が流れる」。思い出される恋。その恋の永遠の《今》。イデアとしての恋。
④-2 恋に結ばれた「二人の腕」。その「二人の腕」が形作る橋。その永遠の下を、流れゆく「無窮の時」。しかし時の「疲れたまなざし」、つまり時の無力。なぜ、時は無力か?
④-2 二人が恋する時、恋はイデアとして《永遠》である。
④-3 これに対し、《時》においては、新たに《今》到来するのでないすべての出来事は、《今》であることをやめ、《今》から遠ざかり、《流れ》ゆき、そしてやがて消え去る。《時》は無力である!
(3)
⑤恋が終わる。「恋もまた死んでいく」。
⑤-2 それは、「流れる水のように」死んでいく。なぜか?
⑤-3 終わった恋は二重である。一方で、終わっても、恋そのものは、《イデア》として永遠である。
⑤-4 他方で、この世では、終わった恋は、過去に流れ去り、《今》において存在しない。この世は、流れゆく時間に支配される。過去に流れ去るとは、恋の終了・死である。
⑤-5 詩人は、ここでは、恋の永遠性について語らない。恋の終了・死についてのみ語る。
⑤-7 「流れる水のように恋もまた死んでいく」。恋という出来事の《時間的な新たな出現(=継続)》がない限り、時間(=水で喩える)が過去へ流れ去ることは、終了(=死)である。
(3)-2
⑥「命ばかりが長く/希望ばかりが大きい」。仏教的に言えば《煩悩》。キリスト教的には、この世に執着しすぎることは《被造物》崇拝であり、罪である。
⑥-2 死んでゆく恋への深すぎる哀惜は、罪である。
(4)
⑦「日が去り/月がゆき」、そして、「過ぎた時も/昔の恋も/二度とまた帰って来ない」。
⑦-2 だが、「わたしは残る」。すなわち、新たな《今》の到来とともに、《私の存在》が、常に到来する。
⑦-3 「ミラボー橋の下をセーヌ河が流れる」。つまり、河の水が流れ去るように、時間が流れ去る。
⑦-4 「日も暮れよ/鐘も鳴れ」と言いつつ、私は自分を持て余す。「恋が流れ」去ったのに、「わたしは残る」。
⑦-5 詩人は、生きる。だが、「残る」わたしに耐えられず、命を絶つ道もある。恋の終りと共に、自殺することもある。 

THE MIRABEAU BRIDGE

Under the Mirabeau Bridge, the Seine River flows, and our love flows.
I remember that after sufferings, there comes delight.
May night fall! May the bell ring! Time flows, and I remain.

Keep hand in hand, and keep face to face.
While doing so, under both’s arms like a bridge, eternal time with tired eyes flows.
May night fall! May the bell ring! Time flows, and I remain.

Love also dies as water flows. Love also dies.
Life is exclusively long, and hope is exclusively big.
May night fall! May the bell ring! Time flows, and I remain.

The sun leaves away, and the moon goes away.
Both passed time and old love will never come back again.
Under the Mirabeau Bridge, the Seine River flows.
May night fall! May the bell ring! Time flows, and I remain.
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