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X舵とスターリングエンジン〜そうりゅう型潜水艦見学記

2016-12-18 | 自衛隊

潜水艦見学で、艦長と挨拶をした後一緒に写真を撮ってもらいました。
わたしが艦長に傘を差し掛けていますが、これはもちろん撮影の時だけです。

この艦長がいつから務めているのかwikiを調べてみたところ、
艦長は艤装艦長から現在まで9年間勤務していることになっていました。
9年前ということはこの艦長がまだ確実に20代の頃のことなので、
おそらくwikiの書き換えがまだ行われていないということのようです。

さらに調べると、 wikiで艦長とされる人物はすでに一佐になって幕僚に名を連ねておりました。
 もしかしたらこちらの艦長は、着任されたばかりなのでしょうか。


この後、艦長はいなくなり(どうやら挨拶のためだけに登場したらしい)
説明は当艦の広報担当らしき方、もう一人、

そして写真を撮っていた方、海曹などが同行して艦内に入り、
案外広い(というか妙に落ち着く)士官食堂でレクチャーを終了しました。
 

「以上で説明を終わりますが、何か質問はありますか」

そのときいつもは黙って聞いているだけのTOがなぜか、

「舵がXと+ではどう違うのかもう一度お聞きしてもいいですか」

 

見学したそうりゅう型の潜水艦は、舵が「X」型をしているので
繋留されているときにも遠くから見分けることができます。

X型舵の一番大きなメリットは何と言っても機動性の問題でしょう。
Webを検索すると、必ず、

十字型の舵は、縦が針路を変える、横が姿勢を制御する
(これがスタビライザー?)
と役割分担が決まっているが、
X型なら4枚の舵のそれぞれが両方の機能を併せ持っている。

十字型の艦ではどこか一本が破損したら、艦の回頭や姿勢制御が
不可能となるが、X型は
一部に破損や故障があっても操縦が可能である。

ということが真っ先に書かれています。
そういわれても「はえ〜」としか言いようがないのですが、
これは

「2枚のうち1枚が壊れて残りが1枚になったら役に立たないが、
4つのうち1つが壊れるのなら、残りが3枚もあるのでなんとかなる」

という理屈でよろしいんでしょうかね。 
それと、多分ですが、舵を動かすシリンダーが十字型は二本、
X舵は各一枚に一本ずつ計4本付いているからではと思われます。

 

しかしそれよりこのとき潜水艦内で受けた説明によると、
X舵の方が十字より旋回半径が小さくなることの方が重要な利点なんだそうです。
小回りがきくってことですね。
どうしてXだと回転半径が小さくなるのか、いまいちよくわかりませんが、
X舵の舵力はこのような数式で表されます。

 舵力(舵が効く力)=(1/√2)×4/2≒1.4 
           一舵あたり 

余計わかりませんね。(開き直り)

とにかく(笑)、水中で旋回した場合、「おやしお」型に比べ、
X舵の「そうりゅう」型は30%も旋回半径を小さくすることができ、
深度変換といいまして、浮上するときにも急激に深度を変えられます。
深度変換のとき海底に対して潜水艦の描く浮上の角度は15%も
しお型より広がり、つまり素早く浮上できるってことですね。 

もちろん破損が及ぼす影響が小さいということと、鎮座したとき
舵本体が損傷を受けにくいということもあります。
それから、たとえば岸壁に繋留したとき、十字型だと水平舵が
防舷物に先端を当ててしまうという可能性もありますが、
X舵だとこの可能性も激減します。

そして、これは全く「コロンブスの卵」だったのですが、
十字型舵だと、たとえば鎮座したときを考えると、

潜水艦の直径以上の大きさの舵は絶対に付けられない

のに対し、X型は

海底と干渉しないので潜水艦の直径より舵を大きくすることができる

ってことが大きな理由だったことがわかりました。
 

誰が思いついたのかは知らないけど、いいことづくめのX舵。
どうしてもっと早く取り入れられなかったのかな?

「細かいコントロールが難しいんです。(1枚ずつ動かすからかな)
ですから、コンピュータでの操作が取り入れられるようになってから以降ですね」



そうそう、コンピュータといえば、最初に見学したのが潜望鏡でした。
潜水艦映画でおなじみの、艦長が帽子の庇を後ろに向け、
両手でレバーを握りながら潜望鏡を覗き込み、

「船団発見!」

などと低くつぶやいたりするシーン。
あれもデジタル技術の発達で様変わりしていたことがわかりました。 

「これが潜望鏡の取り込んだ画像です」

大きなモニターに見覚えのある赤れんがが鮮明に写っています。
今ではデジタルカメラで撮影した画像をディスプレイに再現するので、

「全員で画像を見ることができるんです」

今までのは常に一人ずつで、代わりばんこに覗き込んでいましたが、
そのシーンも無くなるということです。 

「どうぞこれを動かしてみてください」

UFOキャッチャーで操作するようなレバーを動かすと画面が移動し、
レバーについているボタンを操作するとズームされます。
かなり鮮明にズームされ、対象物が何か特定するのも容易でしょう。
こういうのを「非貫通式潜望鏡」というのだそうです。

潜望鏡がまっすぐ(貫通している)である必要がなくなったってことです。
 

れでは従来のように覗き込むタイプの潜望鏡はもう使われないのでしょうか。

「そんなことはありません。これがそうです」

言われてみれば、おなじみの潜望鏡も横にちゃんとあります。

「そうりゅう」型は、当初光学式が2本取り付けられることになっていましたが、
一本を非貫通式に変更され、同型艦は全てそのようになっています。
(英タレスUK社製非貫通式潜望鏡CMO10を三菱電機でライセンス生産)

もちろん非貫通式潜望鏡がとても高価だからと言う理由はありましょうが、
万が一デジタル画面がなんらかの故障で見えなくなったときのために
アナログ式手段を残しておくというのは船の基本でもあります。

海図、チャートコーナーにも自動の航跡装置がありましたが、
やはり万が一の場合に備えて天測装置もどこかにあったりするんでしょうか。 

それに、潜水艦乗りにとってあの潜望鏡を除く動作がなくなってしまうなんて、
そんな味気ないことには今後も断じてならないに違いありません。

(と書いてから、今後潜水艦の潜望鏡は全て非貫通型に変わっていく、
ということが書かれているのを見てしまいました) 

 

ところで、いただいたパンフレットにはこんなことが書かれています。 

「本艦は、海上自衛隊初のAIP(Air- Independent Propulusion:
非大気依存推進)機関を搭載するそうりゅう型の3番艦として」

この非大気依存推進という言葉、実はわたし、全然初めてではありません。
バトルシップコーブに展示していた大戦中のディーゼルエンジン型潜水艦
「ライオン・フィッシュ」について調べたばかりだったので、
潜水艦が動力を得るのに大量の酸素を必要とするということを始め、
中を潜航しながらいかにエンジンを動かすかについては頭に入っていたのです。

snorkel、スノーケルって低地ドイツ語の鼻を意味する
「シュノルヒェル」が語源らしいです。
余談ですが、低地ドイツ語といえば、ジャズのスタンダードナンバーで

「Bei Mir Bist Du schön」(素敵なあなた)

というのがそうでしたですね。
普通のドイツ語とどう違うのかまでわかりませんでしたが。


それはともかく、潜水艦のスノーケルというのは潜水艦に
空気を取り入れ換気を行うための器官です。

潜水艦はスノーケルで吸気できなければ中で呼吸ができないのですが、
実際のところ人間が生存のために必要とする酸素など、
エンジンを稼働させるために必要な酸素に比べると微々たるものなんだそうです。

スノーケルによって取り込んだ空気でディーゼルエンジンは発電機を動かし、
モーターを動かして推進力を得ることができるようになるのです。

これが従来の潜水艦の推進の仕組みです。

しかし、ディーゼルエンジンだけでは潜航していられる時間に限りがあります。
潜水艦映画におけるこの「にらみ合い」は、爆弾投下と深度による艦体の軋み、
そして刻一刻と少なくなっていく酸素という生命の危機と直面しながらのもので、
他のジャンルにはない文字通りの息苦しさが画面に否が応でも緊張感を与えるものです。


そこで潜水艦業界では昔から、「非大気依存」、つまり空気に依存しなくても
動かせるエンジンが研究されてきました。

Air- Independent Propulusion System

は直訳すると「空気から独立して推進するシステム」となり、本艦が採用した
「スターリングエンジン」はこのAIP
を可能としたエンジンです。

今回の見学では、このスターリングエンジンもばっちり見せていただきました。
艦内図でもおわかりのように、エンジンは艦尾の方のエンジンルームにあります。

噂のスターリングエンジン、一つ一つは意外なくらい小さな機械が、
ガラス窓から覗くことのできるケース?のようなものに入れられていました。

スターリングエンジンてそれではなんですか、って話ですが、
この時に聞いた説明を一言で言うと、

「部分を温めたり冷やしたりして気体の体積を変化させて動かすエンジン」

だと思います。

写真に撮ってお見せできなかったのが残念ですが、説明を受けた
士官食堂のテーブルの上には、スターリングエンジンの
模型がちゃんと置いてありました。

このグラフィックは、それがどうやって動くかの説明です。
熱い部分と冷たい部分の温度が大きいほど、仕事率は大きくなります。

潜水艦の場合、この気体にはヘリウムを使うそうですが、ヘリウムは
減りうむ、じゃなくて機械の僅かの隙間からも漏れて文字通り減ってしまうので、
この仕組みは密閉性を極限まで高める必要があり、エンジンそのものの単価が
そのため大変高額についてしまうということでした。

日本の潜水艦がもし高すぎて売れないとしたら、このエンジンのせいかも(適当)


ところで、ディーゼルとスターリングエンジンをどちらも搭載しているのはなぜかというと、
スターリングエンジンだけでは出力が弱く、せいぜい4〜5ノットしか出ないので
メインエンジンにはならず、高速航行のときにはディーゼル、と使い分けをするためです。

「このシステムを取り入れて、どれくらい浮上せずにすむようになったんですか」

とわたしはここで思い切って根本的なことを聞いてみました。
すると、説明してくれていた方は、

「あまり大きな声では言えませんが・・・・」

その言葉を聞いた途端、

「あ、これは公表不可だから忘れよう。速やかに忘れねば」

と心の中で思った瞬間、本当に

忘れてしまいましたorz

今マジで思い出そうとしても全くこの後の数字が浮かんで来ません。
自分の記憶力に言い知れぬ不安を感じてしまった瞬間でした。

でも、どうせここに書けないんだから別にいいか。

 

続く。