Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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Abadie徴候はどのようなときに診察するか?

2024年05月10日 | 医学と医療
カンファレンスでAbadie徴候について議論しました.アキレス腱や上腕二頭筋の腱をつまんだり強く圧迫したりしても痛み(つまりdeep pain)が生じない場合に陽性とします.「どうしてまたこんな診察方法に気がついたのだろう?」と思いますが,原著は1905年「脊髄癆における腱の圧痛の消失,特にアキレス腱の無痛」という報告で,脊髄後索の障害により80%(32/40例)の症例で陽性になると書かれているそうです [文献1].「ベッドサイドの神経の診かた」にも昔から掲載されていて,知識としては知っていましたが,神経梅毒による脊髄癆の患者さんはもうほとんど経験しませんので,私自身は診察で確認することはしていませんでした.

では現代において,どのような疾患で有用かというと,糖尿病性ニューロパチーと副腎脊髄ニューロパチー(adrenomyeloneuropathy:AMN)が挙げられます.とくにAMNについては岩田淳先生らがレポートされていて,他の痙性対麻痺との鑑別に高い感度・特異度を持って有用とのことです(感度は100%,特異度は86%)[文献2].

ちなみにこの徴候の冠名は,フランスの神経内科医Joseph Louis Irenée Jean Abadie先生(1873-1946)の名前に由来します.Charcot先生より50年ぐらい後の時代で活躍したことになりますが,Garrisonの「神経学の歴史」や,過去の文献を調べてみても,Abadie先生の経歴はよく分かりませんでした.しかし古川哲雄先生によると,Abadie先生が種々の患者さんで,アキレス腱を強くつまむと拇趾が背屈するSchaeffer反射を調べていたところ,普通は不快な痛みを感じるのに痛みを全く感じない人が脊髄癆にいることに気が付いたのがこの徴候に着目したきっかけと書かれておりました [文献3].なるほど!と思いました.ちなみにバセドウ病における眼瞼挙筋のスパズムもAbadie徴候と呼びますが,こちらは別人のフランス人眼科医に由来するようです.

1. Abadie JLIJ. L'anagésie tendineuse à la pression et en particulier l'analgésie achiléenne dans le tabes. Gazette Hebdomadaire des Sciences Médicales de Bordeaux, 26; 1905. p. 409–12.
2. Ohtomo R, Matsukawa T, Tsuji S, Iwata A. Abadie's sign in adrenomyeloneuropathy. J Neurol Sci. 2014;340:245-6.
3. 古川哲雄.Abadie徴候.脊椎脊髄ジャーナル 2015;28:268-269.


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