Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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FAST-MAG trialが示したこと

2014年02月16日 | 脳血管障害
1)FAST-MAG trialの概要
国際脳卒中学会(ISC 2014)に参加した.そのなかで,最新の脳梗塞急性期治療の臨床試験の結果が報告された.試験名はField Administration of Stroke Therapy - Magnesium (FAST-MAG) trialである.この臨床試験の特徴は,とにかく早く,救急車内で(!),脳梗塞治療を開始する点にある.脳梗塞発症後,1分間に200万個のスピードで神経細胞が失われることから,Time is brainもしくはTime lost is brain lostという言葉があるが,それを防ぐために一刻も治療を早く開始するというコンセプトである.

このFAST-MAG trialはphase IIIのランダム化比較試験で,Los AngelesとOrange州の60の病院と2,988 人の救急隊員が参加した.2005年から8年間に及んだ試験で,発症2時間以内の1,700人の脳卒中患者(平均69歳)が,救急車のなかで実薬群(硫酸マグネシウム 4g投与後,16gを24時間かけて使用)と偽薬群に割り付けられた.

さて結果であるが,硫酸マグネシウムは,発症3ヶ月後の修正Rankinスケールによる全般機能障害に差を認めず,無効であった.救急車内での治療による病院到着への遅れはなく,診断も正確にできた.最終診断は虚血性脳卒中が73%,出血性脳卒中が23%,脳卒中類似の病態(stroke mimics)はわずか4%であった(たとえ脳卒中でなくても安全なので問題はないという立場である).

2)FAST-MAG trialの意味するもの
本試験は,硫酸マグネシウムの治療効果を示すという意味では失敗に終わったが,2つの意味で興味深い.

① どんなに早く治療を開始しても限界がある

まず硫酸マグネシウムの効果について述べる.マグネシウム・イオンは,血液脳関門を容易に通過し,げっ歯類虚血モデルにおいて保護的に作用する.その作用機序としては,興奮性アミノ酸抑制,カルシウムチャネル抑制,cortical spreading depression抑制,血管平滑筋弛緩作用などが報告されている.すでに心筋梗塞や子癇症の臨床で使用されており,安全性が高く,かつ安価である.

このような薬剤を,golden hourすなわち発症60分以内の超急性期に開始すれば,効果が出るはずだと考えたわけである.これまで神経保護薬の有効性を検討した臨床試験のメタ解析で,症例の92.3%が発症から3時間以上経過したあと治療が行われ,1時間以内に治療が行われたのはわずか0.2%であった.これに対し,FAST-MAG trialでは,治療までの平均時間はなんと45分,2/3の症例がgolden hour内において治療された.

しかしそれでも有効性が示せなかった理由はなぜなのだろうか.おそらく,脳梗塞は,興奮性アミノ酸毒性,アポトーシス,オートファジー,炎症,血液脳関門破綻などの非常に多くの現象が同時に進行するため,どんなに早く治療を行ったとしても,それらの一部だけを治療したからといって予後の改善にはつながらないのだろう.すなわち,低体温療法で言われるような様々な現象への有益な効果(neuroprotectionではないbrain protection作用)が必要なのだろう.また脳梗塞で,血管閉塞が持続している場合は,梗塞巣へ薬剤が十分に届かないという可能性もあり,理想的には超急性期にtPAを先に投与することが望ましい.よって今後,試される治療は,brain protection作用が期待される強力な治療か,もしくはtPAの問題点(血液脳関門破綻やそれ自体の神経細胞毒性)を調整するような治療に限られるのではないかと思う.

② 救急車内での超急性期治療は可能である

本試験は,硫酸マグネシウムの有効性を示せなかったものの,救急車内での超急性期治療は可能であることを示したという意味では成功である.他の有望な治療薬を同様の方法で試すという道を開いた.また将来,テレビ電話による同意取得,救急車内でのCT撮影・tPA投与につながるのだろうと予測されていた.

個人的に本研究で一番,関心があった点は,このようなtherapeutic time windowの極めて狭い疾患における「治療や,治験への参加の同意」はいかに取得するのかということである.この同意取得に関して,別のシンポジウムの中で独立したテーマとして議論されていたが,結論を言えば,「このような特殊な状態であっても,きちんと同意を取得する必要がある」ということであった.ではそれはどのように行うのか?

まず同意は患者本人,ないし法的な代理人から取ることになる(患者はそれどころではないので,大半は法的代理人になる).責任医師は救急車内で,救急隊員を挟んで,携帯電話を用いて,英語,スペイン語のいずれかで代理人に説明を行い,質問を受けつけ,同意を取る.同意書は研究責任者へeFax(ファックスの受送信をEメールで行える)で送信される.説明を行った結果として,同意したのは40.7%,同意が得られなかった人の原因は以下のとおりであった.

時間切れ  18.3%
exclusion除外  14.4%
同意がとれない・代理人なし  14.1%
急速な改善  10.6%
英語・スペイン語ダメ  5.1%
拒否  4.8%

この結果は,将来の脳卒中急性期治療におけるエビデンスの確立に役立つものと考えられ,非常に意義の大きい臨床試験になった.

International Stroke Conference 2014 @San Diego
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