Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

Twitter @pkcdelta
https://www.facebook.com/GifuNeurology/

セリエAのサッカー選手は筋萎縮性側索硬化症(ALS)になりやすい?

2005年02月18日 | 運動ニューロン疾患
 ALSの危険因子として,加齢,男性,外傷,金属への曝露(地下水の金属イオン濃度),喫煙,重労働,植物種子の摂取などが知られているが,確実な根拠となるものは見出されていない.今回,イタリアのサッカーリーグであるセリエAおよびセリエBでプレーをするサッカー選手ではALSの罹病率が高いという調査が報告された.なぜこのようなことが調べられたかというと,イタリアサッカー界の一部で非合法薬剤が使用されていることが問題になった時期があり,検察官Raffaele Gfuariniello氏によりサッカー選手の死因調査が行われたことがある.その結果,1960年から1996年における24000選手のうち,死亡者は375名で,うち8名でALSが死因であったという報告が存在していたためである.ただしこの報告はコーホート選択に関してbiasがかかっている可能性があり,今回,再調査が行われたわけである.結果として1970年から2001年にセリエAないしBに所属した7325名を対象とし(137078人年の経過観察期間),5例のALSを認めた(実際には18名いたが,イタリア人でないケースや1970年以前にプレーしていたケースは除外している).平均発症年齢は43.3歳と若く,うち3症例は球麻痺にて発症.一般のイタリア人統計におけるALS罹病率を用いて罹病率比(SMR; standardized morbidity ratio)を計算すると6.5(95%CI; 2.1-15.1)であった.発症年齢別に見ると49歳以前の発症ではSMRは7.5(95%CI; 2.0-19.2)と高くなり,さらにプレーした期間が長いほど高くなった(5年以上のプレーヤーではSMR 15.2(95%CI; 3.1-44.4)となった).以上の結果,イタリアにおけるプロサッカープレーヤーはALSに罹患しやすいという結果となった.
 この原因として著者らは4つの仮説を挙げている.①単に重労働が発症に関与したもので,サッカー特有の危険因子があるわけではない,②サッカー特有の外傷(例えばヘディングなど)が発症に関与した,③当初心配された非合法薬剤や,治療薬などの使用が発症に関与した,④グランドの化学肥料や除草剤が関与した,の4つである.今後,サッカー選手の環境因や薬物使用なども詳しく検討したprospective studyが必要であると締めくくっている.

Brain 128; 472-476, 2005
この記事についてブログを書く
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 本態性振戦の原因遺伝子の発見 | TOP | 小脳失調とジストニアを呈す... »
最新の画像もっと見る

Recent Entries | 運動ニューロン疾患