Wein, Weib und Gesang

ワイン、女 そして歌、此れを愛しまない輩は、一生涯馬鹿者であり続ける。マルティン・ルター(1483-1546)

地域性・新教・通俗性

2006-12-18 | 
バッハのクリスマスに纏わるカンタータの会がフランクフルトのパウルス教会であった。英国人の団体による演奏は、改めてバッハの真価を発見する契機であった。

単刀直入に云えば、そのようなバッハ解釈では三位は一体化しない。会場の多くの人が、技術は別とすると、バッハ演奏会会員の自らの方が遥かにその真価を良く知っていると思ったことだろう。

その団体と指揮者は、受難オラトリオなどで馴染みがあるが、比較的初期のバッハのカンタータからローカルな色合いを切り捨てる事は出来ない。

例えば、あまりにも有名なリフレーンが繰り返される「心と口と行ないと営みと、BWV147」の一部と二部の終曲合唱の„Wohl mir, dass ich Jesum habe“と、„Jesu bleibet meine Freude“, „Jesus wehret allem Leide“の各々の最後のシラブルの歌わせ方にその違いが顕著に出る。二拍目がリフレーンに ― 永続する騙し絵の如く ― 巧妙に付き添われるのだが、その始まりは終わりとなりつまりアルファとオメガとなり、それは音楽的にも宗教的にもその全曲構成の意味するものを伴って解釈出来る。しかし、そこでなんと云っても気がつくのがその一曲目前節の„habe“ のアクセントであり、拍子感ではないだろうか。要するに、その部分のニュアンスの処理は言語からすると明白であって、不自然であって良い筈がないと誰もが考える。

複文の中の動詞が最後を占めるのはドイツ語の特徴であるが、その言葉の表情を考えると、このフレーズの終わりとリフレーンの始まりは大変目立つ。つまり、この気になる箇所が上手に処理出来るかどうかは重要である。嘗てバルテーザー合唱団がアンコールで演奏したのものは秀逸であった。もちろん、今回はそれと比べるまでもないが、意識して表現していただけにアプローチの誤りのようなものであった。ハンブルクでの活動歴もあり後輩のラトル氏より流暢なドイツ語で曲順変更をアナウンスしていた指揮者だが、その思惑の違いは埋め合わせようがない。

まさにこれはバッハの音楽が、ドイツ語圏で「福音」となってきた証拠のような現象である。そして同様にバッハのヴァイマール・ライプチッヒ時代の名曲として数知れず編曲されて有名な曲「目覚めよと、呼ぶ声あり、BWV140」が演奏された。

その中の終曲„Gloria sei dir gesungen“などは非常に一般的な教会コラールで、プロテスタントのドイツ人にとっては体に染み付いている歌い回しと云うほかないであろう。力強く強起で始まるこれほど単純な音楽もない。これも、高尚な芸術だけでなく宗教改革の音楽要素を受け入れて現場で苦心した、バッハの教会音楽師としての側面である。だからこそ、中途半端に会衆の前で芸術を示してもあまり意味を成さない。

その前にソプラノとバスのかけあいの二曲に挟まれるように„Zion hört die Wächter singen“がテノールで歌われるが、特に今回はこの曲のあり方には注意を向けられた。なぜならば、今回は六人ほどの小合唱でこのアリアが歌われたからである。そこで「魔笛」や「パルシファル」やメンデルスゾーンを思い浮かべても不思議ではない。バッハがドイツ近代ホモフォニー音楽の祖となった一面である。

我々は、そこからストコフスキーの編曲を思い出して、また三曲目に演奏された「いざ来たれ、異教徒の救い主よ、BWV61」に心を奪われて、それらを口ずさみながら、店仕舞いしている小雨のクリスマス市を横切って駐車場へと向かうのである。

どのような思惑であってもそれがドグマとして映らない限りは、暖かく迎え入れる素地はある。「目覚めよ、祈り、つねに備えよ、BWV70」で始まった会は、その間眠る事もなく、随分と冷静な聴衆の反応をもって終わった。

そしてなによりも、こうして調べると、旧教の賛歌に因むカンタータが演奏されたクリスマスの催しとして、忘れていた最も素晴らしいものを思い起こさせてくれた。



参照:
J.S. Bach's Church Cantatas
世にも豊穣な持続と減衰 [ 音 ] / 2006-12-09
ファウスト博士の錬金術 [ 音 ] / 2006-12-11
われらが神はかたき砦 [ 文学・思想 ] / 2005-03-04

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