Wein, Weib und Gesang

ワイン、女 そして歌、此れを愛しまない輩は、一生涯馬鹿者であり続ける。マルティン・ルター(1483-1546)

想定を超える大きな反響

2017-10-02 | マスメディア批評
峠へと雨露が滴る森の中を駆け上がりながら、二週間前と同じように東京でのコンサートの響きを想い浮かべていた。YOUTUBEにあった「原光」が気になっていた。ネルソンス指揮の演奏があまりに浄化され過ぎているような感じがして、あの交響曲の一楽章と最終楽章のごつごつしたお上手にも芸のある作曲でない第二交響曲からするとおかしいと感じた。マティアス・ゲルネの選曲配置にしても、キリル・ペトレンコが指揮するとなるとそこにもあたって準備している筈だとか考えていた。

今回のアジアツアーの最終公演のこのプログラムの成果の行くへは最も分からなかったものだ。一つには、前半の「子供の不思議な角笛」はこれから一週間後にミュンヘンで演奏されるものであり、同時にNHKのマイクとカメラが入っているとなると、初めての本番でどのように纏めて来るのかは想像がつかなかった。もう一つは、「ヴァルキューレ」で、この指揮者にとっては最も評価が定まらなかった演目で、2014年のバイロイトでも指揮者よりも何よりもアンニャ・カムぺのジークリンデに喝采が集まり、2015年の上演で漸く他の夜と同様に評価を決定的にしたぐらいで、殆んどこの音楽監督には鬼門であった。

それ故にかどうかは分からないが、あのごたごたのあったバイロイトの後の2015年10月には指揮をシモーネ・ヤングに譲って ― その12月の「神々の黄昏」は名演だった ―、より気になっていたのであろう「ルル」の指揮を急遽受け持った。またミュンヘンでも所謂「蓋無し上演」においても完全な評価は得ていないのである。なぜこの楽劇だけがそれほど成功しなかったかにはそれなりの作曲上の理由がある訳であるが、これに関しては何度が言及しているので今は述べない ― しかしその内容を吟味することで音楽創造理解への端緒になることが多く、先月の台湾の作曲家女史の「演奏会に興奮しておらず、勉強しなさい」というのは正しい。その意味からもキリル・ペトレンコの演奏実践には汲み尽くせない教えがあるのだ。

Teaser Bayerisches Staatsorchester and Kirill Petrenko on tour, September 2016 #BSOtournee

Bayerische Staatsoper - Schlussapplaus Kirill Petrenko "Götterdämmerung" (19.12.2015)


そのようなこともあってミュンヘンでの最後の「指輪」上演で「ヴァルキューレ」だけは行きたいと思ってツィクルス券を購入したのだった。そして今までの日本公演での反響を見ていると、なるほど「蓋無し」でも上手く行く可能性が高まったと感じた。それどころかNHKホールでの反響を読むと、明らかにバイロイトの「蓋付き」では出来なかった譜読みをしているようで、更に一月公演に期待が高まった。実際、この作品では「蓋付き」が必ずしも有利な訳ではない。

今回のツアーの評価は、独逸からのジャーナリストの報告などを含めてもう少し時間が掛かるが、凱旋公演となる10月のアカデミーコンツェルトの演奏内容に表れてくると思う。マーラーは、私が聞くのは同じプログラムの四回目公演となるので今度は逆にこちらで間違いなく精度が上がっている予定だ。そこにキリル・ペトレンコにとっては新しい領域であるブラームスも管弦楽団の表現力の向上から期待が高まって来た。そもそもベルリンのフィルハーモニカ―よりもその個性からして音色的にも先ずは好演になりそうだ。そうなると念入りにお勉強しなければいけないのでとても時間が足りない。

放送予定の無いミュンヘンでのコンサートが終わった後でNHKホールでの公演はNHKラディオ放送で聴ける。TV放送の方は直接観れるかどうかは分からないが、先ずは聴けば今回の最終公演の意味合いが確認可能な筈だ。それにしてもバイロイト巡礼者をはじめとする日本からのオペラファンやそのNHKからの放送、そして専門家と称する人々が、今ドイツで起こっている現象を何人も体験しながら本当のことを充分に伝えていなかったのは、なにも個々のジャーナリストとしての素養だけでなく、やはり日本のそれが商業ジャーナリズムの冠をつけたものであるかを示すからではないだろうか。このメディア現象についても関心事なので改めて考察したい。



参照:
ペトレンコ記者会見の真意 2017-09-21 | 雑感
創作の時をなぞる面白み 2015-08-11 | 音

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