Wein, Weib und Gesang

ワイン、女 そして歌、此れを愛しまない輩は、一生涯馬鹿者であり続ける。マルティン・ルター(1483-1546)

欧州からみる和食認証制

2006-11-03 | 料理
和食の認証制度を導入しようと云う報を得て、限られた情報ながら、そうした政治的動きに対して意見を記す。

欧州での日本食や日本の伝統的懐石について、嘗て幾らか時間を割いて広報・普及に務めていた。また現在の寿司ブームなどの状況を水面下に感知していた立場として、幾つかの要点だけは議論の前提として提示して措く。尚、ここで示す事例などは、ドイツ語圏を中心に中欧を扱うものとする。

先ず現状であるが、日本国農林水産省が趣旨説明で是正点として挙げる「食材や調理方法など本来の日本食とかけ離れた」と云うのは実状である。そしてその中には、日本の米問題が含まれる。それは、その価格と質から、国外への援助物資であるだけで、商業的競争力が無いので、今後とも輸入規制をしている日本から低価格高品質のジャポニカ米が世界市場に出ることはあり得ない。日本の米は、現在の貿易自由化華やかりし時代においても保護されていて、自由化されれば国際競争力は皆無であると 認 識 することが先決である。世界最高級と云われるヒマラヤのバスマッティーライスでさえ 本 物 の流通量はそれほど多くはなく高価ではあるが、日本の米よりも遥かに廉い。香りを求めるならばタイ米が優れているが、キロで小売価格一ユーロほどである。

そこで日本食材として好んで使われていたのが、カリフォルニア産のジャポニカ米で様々な「何やら米」などの銘柄が存在する。しかしこれも先ごろ大西洋越えのための殺虫剤使用のために欧州では輸入が禁止された。その代わりにスペイン産のジャポニカ米が使われたのであろう。どのような料理にしても日本食と銘を打つ限りは米が大きな意味を持つが、実際には寿司飯や一部の料理を除くと、米質に拘る必要は無い。中華料理のように、皿の上にライスを盛り、上から料理をぶっかければ良いからである。日本の丼物や中華風料理やその他の多くの料理には、だから必ずしも日本の米は必要ない。

日本の食事に、中国の陸稲ではなく、この水分を多く含んで粘り気と重量感のある米を必要条件とするならば、日本食は決してインターナショナルではありえないことを先ず知るべきである。つまり日本食の認証制などは、日本人観光客のためにあるように見せかけた、隠された保護主義的政治判断であって、万が一欧州市場での影響が出るとするならば、市場の自由競争を奪う障壁として除去しなければいけない。しかし実際には、その影響は皆無であろう。欧州において、高級日本食ならいざ知らず、普通の日本食にそのような認証などに拘る者は皆無である。日本料理屋などは、今や何処にでもあるアジア人の賄う ま が い も の の店で十分なので、態々選択する必要は無くなった。其処には、以下に示すような差異しか所詮存在しないからである。

例えば、ドイツの寿司ブームがロシアの組織が火付け役だったことを考えると、もし日本の回転寿司チェーンが進出しようが価格で勝負しなければいけない状況がある。グローバルな購買によって質を上げることは可能かも知れないが、既に市場はその局面を過ぎているので、質よりも価格競争となるであろう。よって、「不味い日本食」のブームはこれ以上続かない。以前ブームであったタイ料理は殆ど消え失せた。中華料理でさえ、脳に異常を与えるグルタミン酸ソーダ味と毛嫌いされて、各町村から駆逐されて、その多くは日本料理屋へと転向した。また醤油ですら天然の食料とは見做されていないので、最近巷では危険視さえされている。

更に食材として問題となるのが鮮魚である。勿論マグロなどの冷凍ものは問題はないが、魚は大西洋産のものとなると種類が違う。さらに、新鮮な魚とは云っても、海上での処理管理から流通の全てが異なるため、生で魚を食するようなことは今でも考えられていない。つまり、生で食べる牡蠣類や一部のサケなどの淡水魚を除くと、日本食に適当な魚介類は存在しない。

つまり、日本国外の異なる環境で同じ日本食を提供するなどは論外なのである。それでは、どの様にして多くの日本食店がそれらしきものを提供しているかと云えば、保存料と安定剤をしみこませた保存食材品を使っているだけなのである。これは、重金属類の含有量の高いヒジキの輸入・食用禁止のように、たとえ伝統的食品と云えども、健康上問題になる場合が多い。健康食を売りにする日本食ブームであるからこれは致命的となり得る。

もう一度農林水産省の趣旨説明に目を遣れば、「我が国の食品産業の海外進出を後押し」とある。これは日本人の経営する日本人の調理する日本料理屋も幾らか含まれるのであろうが、もともと日本人板前の人件費が高く、日本食は高級でしかなく普及しなかった背景がある。そして、それらの店はその食材入手の困難さと合わせて、出来る限り日本からの不健康な加工食品の仕入れに頼ろうとした。つまり食品業者にとっては大切なお客さんであったのだが、最近は中国や韓国からのより廉価な食材料などで済ませる日本料理屋の方が遥かに増えているのが実状である。

なにも未知の文化を取り入れて、それを風土や土地や材料や環境に合わせ、クローン化してより良いコピーとするのは日本人の専売特許では無いのである。日本人が器用で、繊細で、柔軟性があるなどと云うのは、そもそも甚だ主観的でただの自惚れでしかない。

日本食は、日本人のために日本人によって提供されるものであるならば、今後とも世界的な食文化としての価値は無いに等しい。他でもない、廉い労働力でそれらしきものが廉く提供されているから一般的になっているだけなのである。近所のスーパーマーケットでも、デュッセルドルフの日本の業者が寿司マシーンで作った寿司が並んでいる。物色している者を見たことがないので、いずれ退却するものと思われる。初めは野菜の横に出来合いサラダと並べられていたのが、魚売り場の前に位置替えした。価格は見ていないが、出来合いのものは冷気にあてられて乾燥してなんととも気持ちが悪いのである。

先日も独日協会の例会で寿司を家族にお持ち帰りした日本のお母さんがいたが、京都出身の韓国人が作ろうが、キムチ手巻き寿司であろうがこれの方が見た目が良い。そのような二年ほど修行した寿司職人(日本食の本物の板前は軽蔑を込めてこう云う)が作るお店であろうとそれの方がここでは本物なのである。

趣旨説明には、「日本の正しい食文化の普及」と書かれているが、これは由々しき言及である。一体、何をもって日本食と云うのであろう?本家カレーライス、米国産肉を使った牛丼、地中海産のトロ握り、冷凍焼き餃子、お好み焼き、冷凍ラーメン、韓国産海苔の弁当、蟹棒が蟹かまぼこ、防腐剤漬けのガリ、缶詰入りの稲荷揚げ、ウインナー入りナポリタン、ジャガイモのコロッケ、カリフォルニア伝来の鉄板焼きなどであろうか。

スターリン体制下のソヴィエト共産党でも食にまで及ばなかった 文 化 政 策 統 制 には唖然とさせられる。少なくとも意味も実体も無い市場保護と正直に云うべきであろう。なるほど、元来新自由主義と云うのは、いつも特定のロビー活動と利権の分け前に預かる者のためにあるスローガンでしかないから、そうしたネオリベラリズムのイデオロギーにも反さないのである。

ソヴィエトの崩壊から学ぶことは多い。保護される文化は必ず滅びる。もしくは、スローフードを隠れ蓑にしたジャパニーズ・ファストフード構想は、日本食文化を徹底的に破壊する。そうなれば、いよいよ効率の悪い日本の水田は必要なくなる。米の自給どころの話ではない。

日本からのドイツへのある旅行者は、「マクドナルドがあると安心して注文して食べれる」と云うのであった。厳密には、コーラのように地域によって味付けを変えていると云う話もあるが、基本的に同じ物がグローバルに世界中で買えると云うのがその良さであるらしい。ここに是非注目して頂きたい。認証される日本食とはこのようなものであるのだ!

農林水産省は、其処まで全てを計算に入れているのだろう。メディアで情報が流されて、それに一般大衆が反応するように、日本食の価値に自惚れている訳では決してないのである。恐ろしいことである。特定産業の業者やその利権争いのお蔭で、日本食文化が破壊されるだけでなくて、自給が出来なくなってしまうのである。一層のこと遺伝子操作で作業効率の良い陸稲を育成するべきではないだろうか。現在のような水稲の白米を日本人が十分に食べれた時代は、歴史的に見てそれほど永くはないとも思われる。水田風景はいずれ過去の原風景となるであろう。

参照:
Yahoo!投票 海外の日本食レストランでの和食、どうでしたか?
今言を以って古言を視る [ 暦 ] / 2006-11-02
MAY I HAVE A KNIFE? [ 料理 ] / 2007-07-13

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6 コメント

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日本食レストラン (MOMO)
2006-11-04 02:46:47
増えています。日本人経営でないおスシ屋さん。
最近は韓国人の進出が激しく、韓国料理が増えました。そして、そこにおスシがメニューとしてあるんですね。中華料理屋でスシがあることはないけれど、韓国料理では、たいていあります。
日本人経営の日本人板さんのおスシ屋さんでも、おスシを握るのは日本人でも、てんぷらやうどんなど、カウンターをはなれ、奥で調理するものは、外国人が作っています。外国人、ドイツ人でもなければ、日本人でもない国籍の人が作っていることが多いです。
MOMOだってクネーデル作りますが、家庭の中だけの話。MOMOもドイツ料理屋を日本でひらくか?
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関西人が想う東京のうどん (pfaelzerwein)
2006-11-04 15:17:40
上述したように日本人の技術を持った職人を使う店は国外では殆どありません。それからすると寿司は比較的簡単にマスター出来るので、問題は少ない訳です

経営者だけは日本人若しくは現地人、作るのはアジア人と云うのも多いです。

中華人は中華料理にプライドがあるから、日本料理などを提供する時には、日本人に化けます。彼らにすれば泣く泣くの選択でしょう。当然と云えば当然でしょうが、なにか現在の中国を象徴しているようです。

味については、関西と関東があれだけ違うのですから、極東と西欧の違いなどに驚いてはいけません。仰るように関西人が想う東京のうどんです。

クネーデルも日本に定着するときは間違いなく和臭が漂います。クネーデル嫌いの日本人妻を見れば、それをハッキリとイメージ出来ます。
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中華料理のプライド (MOMO)
2006-11-06 02:47:26
中華料理のプライドですか・・・
でも、ドイツで食べる中華料理って、豚肉、鶏肉、牛肉だけの差で、味付けはすべてオイスターソース。
みんな同じ味という中華料理屋が多くありませんか?
これではプライドもなにも・・・
だったら、広東料理、四川料理、北京料理云々と専門店をだしてよ!!!
ドイツ人の舌がついていかないか。
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特注やお勧め (pfaelzerwein)
2006-11-06 05:34:25

イタリア人は、ドイツ人がついて来れないと言います。つまり似通った料理(ミラノ風カツとかその他)は売れない。だから出来るだけイタリア風に特注しないと旨い家庭的なイタリア料理はドイツではお目に掛からない。

中華の問題は、ドイツとフランスでは味が違いますね。前者は塩味、後者は油の旨味で食べさせる。但し、ご指摘のように専門料理を出す店も少ないですし、特注やお勧めで取ってもあまり旨くないことが多いです。

均一化した味で考えられるのは、高い「味の素」(おそらく牡蠣油などを含む)依存ではないかとも考えます。フランクフルトの本物らしい汚い店で食べての印象です。
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実際 (ys)
2006-12-10 18:57:42
認証したところで何の実権も無い訳ですから放っとけばいいと思うのですが・・認証されなかった店は営業できないのなんのなら問題でしょうけどね。
日本食に価値がなく、低俗な普及の仕方しかないと考える人でもよく考えてくださいよ。
そういう店もそのまま存在し続けるでしょうが・・
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ミシェランのような本 (pfaelzerwein)
2006-12-10 19:48:03
ysさん、コメント有難うございます。

日本食の価値は、何処にあるかは既に述べましたが、認証制度というのが問題です。必要ならばミシェランのような物好きが参考にするような本が出来れば良いのです。其れも数が多すぎるので、旅行者が情報を持ちよる日本人による日本人のための「地球の歩き方」方式でしか不可能でしょう。

一体こうした認証制度にどれほどの費用が掛かると思いますか?それも永久にです。もちろん正当な寿司バーであるロシアマフィアなどは賄賂攻勢に出るかも知れません。

つまり、何の価値も無いことに投資する不経済でしかありませんね。もちろん、そこに魂胆があるからです。

しかしカレーライスやラーメン餃子を認証するとなると、インド人もシナ人も黙ってはいませんよ。一体、そう云ったものが世界に普及する必要があるのかが、大変疑問です。吉野家の海外戦略にも注目しています。

ご指摘の通り、低俗な日本食は今や日本よりも海外の方が、廉くて旨いかも知れません。
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