メドヴィの居酒屋/世界むかし話 ドイツ/訳・矢川澄子/ほるぷ出版/1979年
古来人間の生活に欠かせない塩。塩にかかわる昔話も多い。
昔、あるところに一人の王さまがいて、娘が三人。
ある晩のこと、王さまが「お前たちのうち、誰が一番私のことを思っていてくれるかな?」とたずねると
一番上の娘は「父さま、私は宝石のように父さまがすきですのよ」
二番目の娘は「あら、私は真珠のように!」
ところが、ローゼという末娘は「私は塩みたいに だいじにおもってますけど」と、こたえます。
これを聞くと王さまは、とんでもないことをいう末娘だと、ひどくお腹立ちで、怒りのあまり、「こんな娘はすぐさま目の前から消えてしまえばいい」とまで言い出します。
そこで、 ふたりの狩人が、ローゼを森につれだして殺す役割をおおせつかりました。
しかし、ローゼは「命を助けてくだされば、もう二度とこの国に姿は見せませんから」と約束し、森のなかをさまよいます。
一方、狩人たちはローゼに同情し、王さまには小犬の舌を切りとり証拠として渡すと、王さまはこれを見て、本当に子どもが死んでくれたものと思いこみます。
ここからは、昔話のパターンで、お城に下働きの女中として働いたローゼが、王子と結婚することに。
結婚式によばれた花嫁の父が、だされた料理を食べると、塩気がなく、あじけありません。ここで、はじめて末娘がいった意味を悟ることになった王さまの前に、広間のとびらがひらかれ、花婿花嫁がはいってきました。
王さまは花嫁を一目見るなり、それはまぎれもない末娘のローゼであることをさとります。わが子を殺そうとした はずかしさと後悔で心臓も破れそうなほどでしたが、ローゼはさっと父王に駆け寄り、心からキスします。
料理に塩を使わぬように命じたのは、花婿の王子でした。
ところで、日本で塩が登場するのは、縄文時代後期から弥生時代初期といい、世界でもメソポタミア文明やエジプト文明といった古代文明発祥のころには、すでに塩は使われていたといいます。 また古代ローマ時代、兵士の給料は塩で、英語のサラリーはここから由来しているというのも興味深い。