グリム童話 ミリー 天使に出会った女の子のお話—— /ヴィルヘルム・グリム・原作 モーリス・センダック・絵 神宮輝夫・訳/ほるぷ出版/1988年初版
グリム童話集にはのっておらず、グリム兄弟の弟、ヴィルヒルム・グリムが母をなくしたミリーという少女にあてた手紙にそえられていた物語で、ながらく少女の一家に所有されていて、1974年に売却され1983年に出版社にわたったといいます。
ある村はずれに、夫に死に別れ子どもたちもつぎつぎに死んで、小さい娘がひとりだけになってしまった女の人。女の人はこの子をそれは大事にしていて、娘も気立てのよい子で、毎日寝る前と朝起きたとき、必ずお祈りをしていました。
この子のすることはなんでもうまくいき、花壇にスミレの苗をうえたり、ローズマリーを挿し木すればしっかり根付いて見事に育っていました。
しかし母と子のしあわせな暮らしは長くは続きませんでした。激しい戦が国中に広がったのです。
小さい子の命を守るため、母親は日曜日食べたケーキの残りを娘のポケットに入れて、森の中で三日の間じっとまって、もどっておいでといいます。
やがて森にでかけた子は、イエスのお世話をなさった聖ヨセフと森の中でしか見えないという女の子にであいます。
女の子は森でとれる草や木の根で料理をつくります。もうひとりの女の子は、いい根のある所をおしえてくれたり、花を摘んでくれたりと、やさしく気をつかってくれます。
三日たって母親のところにお帰りという聖ヨセフは、蕾のバラを一本わたしてくれていいます。
「蕾が開くとき、また、わたしにあえる」
もとの村にかえっていくと、村はよそよそしい感じでした。見たこともない家があり、戦争の傷跡もみられません。村は平和そのものです。
自分の家に近づいていくと、たいへんなおばあさんの姿がみえます。
母親は女の子をみて胸にだきしめます。
聖ヨセフとくらした三日間は、じつは三十年だったのです。女の子は母親がなめたおそろしさと苦しみを知らずにすごしたのでした。
その夜、親子は楽しく語り合いますが、翌日村の人がきてみると・・・・。
守護天使が森の中を案内してくれたり、千年以上もいきている聖ヨセフがでてきたりと、キリスト教の影響が色濃く感じられます。
最後親子とも息を引き取りますが、バラが花びらをいっぱいにひらいていましたから天国にいったのでしょう。
現生では苦しく辛い日々だった親子は幸せだったのでしょうか。来世での幸せとは?
子どもたちを前に、横たわって指揮棒をふっている音楽家はなに者でしょうか。