ベラルーシの部屋ブログ

東欧の国ベラルーシでボランティアを行っているチロ基金の活動や、現地からの情報を日本語で紹介しています

ベルラド研究所について

2011-07-13 | 放射能関連情報
 先ほどの投稿記事でご紹介した松永さんの記事内で、ベルラド研究所のことを民間組織でビタペクトを販売している、と紹介しています。
 つまり、ベルラド研究所は民間組織でビタペクトを販売し、売上金を得るためにビタペクトを販売し、売り上げを上げるためにペクチンが放射能排出に効くという論文を発表しているのだ・・・とも読み取れます。

 私はこれに反論したいです。民間組織イコール利益を求める企業で、その商品を誇大広告する、とは限りません。さらに国立国営の研究所イコール利益を求めていないから、真実だけを話している、とも言えません。

 ベルラド研究所は非国立の研究所です。これはベラルーシでは非常に珍しいです。ベラルーシは研究所に限らず、国立国営がほとんどです。公務員率も高いです。(アイドル歌手すら公務員扱いですよ。) 

 ベルラド放射能安全研究所の公式サイトはこちらなのですが、英語版はあっても日本語版はありませんので、私から簡単にご紹介します。

http://www.belrad-institute.org/


 1990年に非国立系の研究所として西ヨーロッパからの支援を受けながら、ワシーリイ・ネステレンコ教授によって設立されました。
 ネステレンコ教授はチェルノブイリ原発事故が起きた当時はベラルーシ科学アカデミー核エネルギー研究所の所長をしていました。
 事故当時の自分の体験を「チェルノブイリの祈り」という証言集の中で話しています。(スベトラーナ・アレクシエービッチ著。この本は日本語訳され、岩波書店から出版されています。ネステレンコ教授はこの中で何度も「事実をお話したい。事実のみです。」「事実が必要になるのです。」と繰り返しています。)
 この本の中でも証言しているように、核エネルギー研究所が事故の実態調査をしようとすると、圧力がかけられ脅迫を受け、研究所の放射線モニタリング装置が没収された・・・そうです。

 現在でもそうですが、国立の研究所だと、どうしても政府の意向が無理やり通されてしまいます。これについては後で書きますが、結局自由な研究をするには国立の研究所では無理があると感じて、自分たちの手で研究所を設立したと思われます。
 ちなみにベルラドとはBELRADで、BELはベラルーシのこと、RADは放射能のことをさします。名称は国立っぽいですが、国立の研究所ではありません。

 研究テーマは、土壌・水質汚染の測定、食品の測定、人体の測定ですが、その後2000年からは測定と平行してペクチン剤であるビタペクトを開発・製造・販売しています。
 私が代表を勤めるチロ基金は2002年から、日本人協力者の方々からの寄付金でビタペクトを購入し、体内被曝が体重1キロあたり20ベクレル以上だったベラルーシの子どもに無償で配る活動をしています。
 子どもたちの測定費用はSOS子ども村といういわゆる孤児施設(本部はオーストリア)が出しており、そのSOS子ども村内にある保養施設で滞在している、多子家庭の子供が対象になっています。
 このようなベルラド研究所、SOS子ども村、チロ基金という協力関係の中で支援活動をしているのですが、他の日本の団体(ボランティアや大学の研究機関)もベルラド研究所と関係があります。
 チロ基金だけではなく日本の他のボランティア団体もビタペクトを購入し、チェルノブイリの子どもたちにあげています。

 ベルラド研究所は非国立なので国から予算が下りず、経営的には大変だと思います。しかし、日本以外にもアイルランド、イギリス、オーストリア、ドイツ、ベルギー、スイス、イタリア、ノルウェー、アメリカなどの団体から支援を受けています。
 また、ビタペクトを販売して現金収入を得て、研究資金を継続している状態です。
 しかしベルラド研究所がビタペクトを販売して、大もうけをしているとはとても思えません。
 ベラルーシ政府が測定をちゃんとしてくれないので、マイクロバスにホールボディカウンタを載せて、汚染地域の学校へ測定の巡回に行っています。
 それはベルラドが「研究所」であって、「測定代行企業」とか「健康食品販売会社」ではないからです。
 子どもたちを測定するのは研究データを集めるためです。研究所だから当然です。データ提供協力のお礼として、体内放射能値が多かった子どもにはビタペクトをベルラド研究所から無料で渡しています。
 さらにパンフレット「自分と子どもを放射能から守るには」を保護者に無料で渡しています。

 もしベルラド研究所が利益のみ追求している企業なら、ただで子どもにビタペクトを配ったりしないでしょう。チロ基金などがビタペクトを購入している数より、子どもにただであげている数のほうがずっと多いからです。
 大体汚染地域に住む子どもや保護者に「被曝してるんだからビタペクト買って飲め。」と言うのも、酷でしょう。もちろん測定代もベルラド研究所側が負担しています。
 一方で製造したビタペクトの一部は、汚染地域で測定対象になっていないけれど、飲みたいと言う希望者もいるわけですから、そういう人向けに、有料で販売している、ということです。
 それにしても1個300円程度に価格を抑えていますから、良心的です。
 チロ基金もごくごくわずかながら、ビタペクトを購入しベルラド研究所を支えています。この研究所がもしなくなると、ベラルーシでのチェルノブイリ研究は大きく衰退してしまうでしょう。福島の原発で大事故が起きてしまった日本人としてはとても困ります。ベルラド研究所に教えてほしいことが、これからたくさん出てくると思います。
 
 それと間違われるのですが、ペクチンに放射能排出作用があると最初に発表したのはベルラド研究所でも、ベラルーシ人でもありません。ウクライナ研究者からの研究発表によるものです。
 ウクライナはビタペクトより先にヤブロペクトというペクチン剤を作りましたが、ベルラド研究所はドイツの研究機関と共同開発して、ペクチンにビタミン剤を加えたビタペクトを開発しました。
 しかもできるだけ安く、多くの人に飲んでほしい(富裕層だけが飲めるサプリになってほしくなかった)という希望もあって、ベラルーシでたくさん取れるリンゴをペクチンの材料に使っているのです。

 それからペクチンが放射能の排出に有効であることはベルラド研究所だけが言っているのではなく、ベラルーシ保健省、国立の放射線医療・内分泌学学術診療研究所なども、放射能汚染地域の住民に勧めています。(これについてはまた別の記事で、ご紹介します。)
 そんなにペクチンに効き目がないのなら、どうして多くの外国の団体がベルラド研究所を支援しているのでしょうか?
 それは今では非国立のベルラド研究所の存在が貴重なものになっているからです。

 ベラルーシの国立の研究所はどうなったかというと、瀕死状態です。
 何と言ってもベラルーシ政府は経済状況がよくありませんから、チェルノブイリ被災者への福祉政策を縮小したいし、研究所への予算も減らしたいわけです。事故後何十年と経っても国立研究所が
「事故の影響は続いています。深刻です。」
とデータを発表すると政府としては無視できません。なので、国立の研究所への予算をどんどん削っていきました。
 チェルノブイリ問題を環境問題と言う枠組みで扱う学問領域もありますが、国立大学の中の環境学としてのチェルノブイリ関係の研究テーマとする学科は、どんどん人員を減らされています。(募集学生数も、教員数も。)
 こうして研究者たちは予算が削られて、思うように研究ができなくなっていきました。
 ですから最近は詳しいデータが国立の研究所から発表されなくなってきています。 (このブログでご紹介した汚染地図も2004年度版で止まったままです。)
 
 数年前ベラルーシ政府は「国内にあるチェルノブイリ関係の国立研究所は全てゴメリ市に移転すること。移転しない場合は閉鎖する。」という命令を出しました。
 つまり研究機関を汚染地域にある都市、ゴメリ一箇所に集めて効率化を図ろう、という考えです。ところが研究所はミンスクに多くあり、その職員は全員ゴメリに引越ししないといけなくなりました。
 その際の職員の住居は政府が用意するのではなく、個人で準備すること、あるいは研究所が探すこと! になったので大混乱となりました。
 例えば国立の放射線生物学研究所はミンスク市内にあったのですが、職員200人の多くがゴメリへの引越しを拒否。(住むところがないんですから。日本のような単身赴任という考え方もベラルーシにはあまりありません。)
 研究所は結局ゴメリに移転し、今も継続していますが、移転したときゴメリへ引っ越していったのは職員のうち30人だけでした。
 このような状態ではちゃんとした研究が以前と同じようにはできないでしょう。
 実際には政府の狙いは、一極化して便利にすることではなく、このあたりにあったと思われます。

 ベルラド研究所は国立ではありませんから、このような政府の命令を聞く必要はなく、研究を自分たちのペースで進めています。

 国立の研究所がどこも縮小していっているので、チェルノブイリ事故から20年目のときには日本のトヨタ財団が研究費を出し、京大原子炉実験所が直接ベラルーシの研究者に資金援助して、研究してもらっているような状態です。
 そしてその研究成果は当然ベラルーシではなく、日本で発表されているわけです。
 ベラルーシの状況を日本の研究施設のほうが把握している部分もあるのです。

 このような現状です。チェルノブイリ研究に関してはベラルーシはますます減速していくと思われます。
 ウクライナの研究機関に期待したいところです。しかしチェルノブイリ原発事故当時、ベラルーシは風下だったので、汚染地域の面積はベラルーシのほうが広く、被害になった人の数も多いのです。ベラルーシの研究機関がしっかりしてほしいところです。
 そんな中、孤軍奮闘状態のベルラド研究所です。
 ネステレンコ教授が個人的に作って、ビタペクトを売って儲けている企業だか研究所だかよく分からない団体・・・などではありません。
 ベラルーシ国内では最後の頼みの綱のような機関です。
 そうでなかったら、
「日本人のために翻訳してください。」
と研究所が出版した本「自分と子どもを放射能から守るには」を震災後すぐの時期に私にくれませんよ。もちろん無料でくれました。

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