読書・水彩画

明け暮れる読書と水彩画の日々

柚木麻子の『BUTTER』

2017年10月16日 | 読書

◇『BUTTER』 著者: 柚木 麻子  2017.3 新潮社 刊

  

   第157回直木賞候補作品。獄中の結婚詐欺師にして殺人罪に問われているカジマナ
(梶井真奈子)に取材を重ねているうちにどんどん変わっていく自分にたじろぐ男性
週刊誌の記者町田里香。

 3人の不審死で殺人罪に問われたカジマナの取材を思い立った里香は、親友の伶子
に「料理好きの結婚詐欺師」と呼ばれていたカジマナには料理レシピを切り口に迫っ
たほうが良いとアドバイスを受け、見事面会に成功する。被害男性ととった食事など
を通じて彼女の人となり、殺人の動機などを探ろうとするが、ガードは固い。

 自ら求める美食が得られないカジマナは、かつて楽しんだ料理を里香に味わっても
らいその感想を聞くことで次第に両者は打ち解けていく。また里香自身次第に料理の
楽しさに目覚めていく。

 ついに里香は独占インタビュー応諾にこぎつけた。カジマナの母親、妹、同級生な
ど関係者との面会も勧められて、伶子と共にその郷里新潟の阿賀野に取材に赴く。

 その連載記事は大反響をもたらした。しかしことは一転する。獄中ながら新しい男
性崇拝者を見つけたカジマナは獄中結婚し、「里香は私に歪んだ感情を抱いて取り入
ってきた」と独占インタビュー記事を否定し、獄中結婚の相手が第二の独占インタビ
ュー記事を書き、さらに自叙伝を執筆を発表するなど里香はまんまと彼女に裏切られ
る。会社も長期休暇を取らされ失意のうちに引きこもりになる。

 しかし料理の楽しさを知った里香は変わった。友人の伶子や同僚などの助けで、カ
ジマナが挑戦しながらもとうとう実現しなかった本物の七面鳥料理を作り、これまで
自分を支えてくれた人たちと分かち合う。 

 2007年当時首都圏連続不審死事件と呼ばれた事件があった。本作はその事件の被告
人木島佳苗がモデルと思われる。バターに異常なほど執着するカジマナの勧めで、作
中いろんな料理やケーキなどのレシピが紹介され、主人公里香を通じてその味わいを
楽しむことができる。

 サイドストーリーとして親友である伶子の不安定な夫婦関係が語られる。終盤伶子
の突然の不可解な失踪が単なる夫からの逃避ではなく、カジマナの不審な殺人事件の
真相に迫るのではという期待を持たされたりしたが、結局は夫婦関係の改善がもたら
されただけという思わせぶりな話になってしまった。いずれにしても女性らしい感性
が発揮されていて楽しく読んだ。
                            (以上この項終わり)

 

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