みどりの一期一会

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「政治の監視、市民の責任」(湯浅誠)/『反貧困―「すべり台社会」からの脱出』大佛次郎論壇賞に

2008-12-19 08:30:04 | 市民運動/市民自治/政治
「反貧困ネットワーク」の湯浅誠さんの、
『反貧困――「すべり台社会」からの脱出』(岩波新書)が
大佛次郎論壇賞を受賞した。


大佛次郎論壇賞、湯浅誠氏の『反貧困』に

2008年12月14日 朝日新聞

 第8回大佛次郎論壇賞(朝日新聞社主催)は、反貧困ネットワーク事務局長、湯浅誠氏(39)の『反貧困――「すべり台社会」からの脱出』(岩波新書、税込み777円)に決まった。賞牌(しょうはい)と副賞200万円が贈られる。
 ますます深刻さを増す、この国の「貧困」の問題を、どうとらえ、いかに解決すべきか。受賞作は、この課題に正面から取り組む。貧困は、社会と政治に対する問いかけであり、その問いを受け止め、立ち向かえる強い社会を作ろう、という著者のメッセージに、選考委員全員の強い支持が寄せられた。
 贈呈式は、09年1月28日、東京・日比谷の帝国ホテルで、朝日賞、大佛次郎賞と共に行われる。
(2008.12.14 朝日新聞)


    

ちなみに、昨年の「大佛次郎論壇賞」は、
朴裕河(パク・ユハ)さんの『和解のために』(平凡社/2006) だった。
  

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『反貧困――「すべり台社会」からの脱出』は、新書版だけどよみ応えのある本。
共鳴するところも多く、わたしも前にブログで紹介したのでうれしい。

『反貧困─「すべり台社会」からの脱出』湯浅誠著
/『ルポ貧困大国アメリカ』堤未果著(岩波新書)2008-06-19



最近、テレビや新聞で積極的に発言している注目の湯浅誠さん、
12月17日の朝日新聞の「政治の監視、市民の責任」の記事に
とても共感したのでまず紹介したい。

政治の監視、市民の責任 

大佛次郎論壇賞を受賞して
湯浅誠(反貧困ネットワーク事務局長)

2008.12.17 朝日新聞

 今回、大変栄誉ある賞を受賞させていただいたが、率直に言って、複雑な思いがある。『反貧困』という本を書いて、貧困などないと言われてきた日本の貧困の実態を告発し、それに抗する人々の奮闘を描いたわけだが、では状況が劇的に変化したかと言えばしていない。
すでに大量横行している。単なる雇い止めを超えて、違法な予告なしの中途解雇も少なくない。もちろん被害は製造業非正規に止まらず、建設業・サービス業等にも波及し始めている。
 私の所属するNPOもやいにも、相談者が訪れ始めている。キャノンのある工場で働く派遣労働者は、05年から偽装請負→派遣→請負とめまぐるしく雇用形態を変更させられながらも、3年以上まじめに働きつづけてきたが、今月4日から待機を命じられた。期間満了を迎える25日には、あっけなく更新を拒絶され、仕事を失い寮も追い出されるではかと不安のどん底にある。

 今回の不況「人災」
 日本経済にとって、今回の米国発不況は「天災」のように言われることがある。しかし、アメリカン・スタンダードをグローバル・スタンダードと言い換えて、新自由主義的資本主義に無批判に追随してきた経営者団体、規制改革会議、経済財政諮問会議等の責任は大きく、その意味では「人災」である。にもかかわらず、反省の弁は聞こえてこない。結局も自己責任を棚上げする人たちが主張していたものなのだ。私たちが、そんな下劣なものに引きずられる必要はない。
 私たちの取るべき責任は他にある。それは、市民生活が健全に保たれるように政府・企業を監視し、法を守らせ、一人一人の命と暮らしを守る政治を行わせる、という責任である。「お金がないから仕方ない、不況だから仕方ない」と言って、結果的に弱者の命を削ることになる政策を採用しようとする政治家は、いくらでもいる。しかしそまとき、医者は「この患者を見殺しにしろというのか」と、介護ヘルパーは「この寝たきりのお年寄りを放置しろというのか」と、労働者は「今日まで一緒に働いてきたこの仲間を路上に放り出せというのか」と異議申し立てをしなければならない。それが、市民としての責任だ。
 私たちの毎日は、「この人、あの人」と名指せるような家族・友人・同僚らとの身近な関係の中に、その一人が苦しんでいれば心ざわつき、死ねば悲しい。それが私たち市民の日常であり、その平凡な生活を守るのが政治の役割に他ならない。難しそうな顔をして国家財政の危機を語る政治家に、私たちは一瞬もひるむことなく、「この命、この生活を守れないならは、あんたは政治家失格だから退場しなさい」と言っていい。
そうするとすぐに「では財源はどうするのだ」と威嚇されることがある。2年前まで、私たちにとって「埋蔵金」など存在しなかった。しかしそれが「ある」ということになった。私たちに真実は伝えられておらず、したがって正確な判断もできない。それは私たちの責任ではない。「財源問題は、すべてがきちんと整理されて公開してくれるなら検討しますよ」とこたえればよく、そんな威嚇にひるむ必要はない。

 主権は民にある
 結局、私たちはナメられてきたのだ、と思う。自らの責任を棚上げしてところでの自己責任論や、情報公開なき財政危機論で黙らせられる、と見くびられてきた。私たちに責任があるとしたら、そこにこそ責任がある。私たちは、どんな悪政にも黙って付き従う羊の群れではない、と示さなければならない。政権を担う人たちには、私たちを恐れてもらわなければいけない。そのとき初めて社会は健全となり、悪化し続けてきた世の中に、折り返し点がもたらされるだろう。主権は民に在る。私たちはもう一度、その原点を思い起こすべきだ。
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ゆあさ・まこと69年生まれ。
NPO法人自立生活サポートセン
ター・もやい事務局長。著書に
『本当に困った人のための生活保
護申請ママニュアル』(同文舘出版)、
『貧困襲来』(山吹書店)など。

(2008.12.17 朝日新聞)


民主主義は、市民自身が納得できないことに「ノー」というところから始まる。

そう思いながら、わたしも、わたし自身の自由をまもるために、
おかしいことはおかしい、と現状に対して異議申し立てをつづけてきた。


中日新聞も、先日「反貧困ネット」のことを社説で取り上げていたので紹介したい。

【社説】反貧困ネットのその後 週のはじめに考える
中日新聞 2008年11月30日

 米国発の金融危機は実体経済に波及して世界同時不況です。一過性でなさそうなのが厄介ですが、危機こそ人間が試される時、腰を据えなければ-です。
 リストラや企業の惨憺(さんたん)たる中間決算、暗い事件の連続といったニュースのなかで、沈みがちな気分をちょっと明るくさせてくれたのが特定非営利活動法人(NPO法人)「自立生活サポートセンター・もやい」(湯浅誠事務局長)のホームページでした。
 十月一日から始まった緊急カンパキャンペーンの中間報告。まだ二カ月に満たないというのに、寄付金総額が「三千四百二十五万二千三百二十四円」に達したというのでした。

 万灯も貧者の一灯も
 「もやい」はホームレスやネットカフェ難民など生活困窮者の相談や生活支援をしている組織。先月に報じられましたからご記憶の方も多いと思いますが、米国のサブプライムローン不況で大ピンチに立たされてしまいました。年間活動予算の四割の千五百万円ほどの資金を提供してくれていた不動産会社が九月、突如、倒産したからです。
 年末を無事越せるのか。関係者をやきもきさせましたが銀行口座や郵便振替口座への振り込みは予想外でした。もやいメンバーの友人や知人、支援者たちのカンパに加えて、「二百万円」「百万円」といった大口は全く見ず知らずの人からの寄付だといいます。
 長者の万灯も貧者の一灯もことのほか貴重。ホームページには感謝の言葉とともに「今年度及び来年度については活動継続の目処(めど)が立った」とあります。もっとも、永続的な活動のためにはさらに多くの草の根の支援を仰がなければなりませんが、多額寄付金は湯浅事務局長を励まし勇気づけているようです。

 大量離職発生の恐れも
 この湯浅さんらの奔走によって昨年十月、貧困問題に取り組む市民団体、労働組合、法律家、学者たちの初めての組織「反貧困ネットワーク」が結成され、十二月には湯浅さんと首都圏青年ユニオンの河添誠書記長共同企画の「反貧困たすけあいネットワーク」が生まれました。こちらはワーキングプアの若者たちの互助組織。社説で「反貧困に希望がみえる」と期待を込めました。 
 それからほぼ一年、反貧困ネットワークは愛知、岐阜、滋賀にも組織ができて全国に広がっています。政官界への労働者派遣法改正や社会保障費削減方針撤回の働きかけ、貧困問題の存在そのものを世に知らせることも大切な取り組みです。「もやい」への多額寄付は反貧困キャンペーンの社会への着実な浸透の表れでしょう。
 しかし、貧困問題の取り組みは転がり落ちる大石を山頂に上げる刑に処せられたギリシャ神話のシジフォスの運命に似たところがあります。すでに全雇用者の三分の一の千七百万人が非正規労働者、年収二百万円以下のワーキングプアは一千万人。そこに世界同時不況の不気味さが加わります。
 厚生労働省の調査では、この十月から来年三月の間に全国で三万六十七人の非正規労働者が失業の見通しで、うち愛知が最多の四千百四人、岐阜千九百八十六人と続きます。企業業績悪化-雇用削減-消費冷え込み-の悪循環が懸念され、今後のさらなる大量離職発生が恐れられています。
 何とも不可解なのが経済危機の現状を「百年に一度の暴風雨」と表現した当の麻生太郎首相から危機感が伝わってこないことです。二兆円の定額給付金などの景気対策が盛り込まれた第二次補正予算案の今国会提出も見送られました。
 世界同時不況の今後は暗いのかもしれません。明るい予測を語る経済専門家もいません。だからといって貧困との戦いをやめるわけにはいかないでしょう。
 貧困は国や社会の衰退から生まれる病です。失業保障や生活保護、医療や年金といったセーフティーネットの機能不全や優しさや思いやりを欠いた社会からも生まれてきます。人間が人間らしく生きるためにどんな社会にするのか、政治に何を求めていくのか。危機だからこそ国民の一人ひとりが真剣に考える時でしょう。

 一銭の儲けもないけれど
 湯浅さんは著書「反貧困」(岩波新書)で、出会った活動家たちに「深甚な敬意」を表します。
 「知り合いの活動家、労働組合のほとんどがワーキングプア。『もやい』でも月六十万円の人件費を四、五人で分け合う。膨大な相談をこなしても一銭の儲(もう)けにもならないが、彼、彼女たちの活動が、日本社会の生きづらさをこの程度に押しとどめている」
 こんな人たちが支える日本の未来を信じようではないですか。
(中日新聞 2008.11.30)



 「反貧困ネットワーク」HP

反貧困世直しイッキ!大集会―垣根を越えてつながろう//
2千人が集会 派遣労働者やフリーターら(2008-10-21 )


反貧困―「すべり台社会」からの脱出[著]湯浅誠
朝日新聞  [掲載]2008年6月29日
[評者]音好宏(上智大教授)■自己責任論批判 処方箋示す

 この本を最初に私に薦めてくれたのは、「ネットカフェ難民」というコトバを世に広めることになったテレビ・ドキュメンタリストの水島宏明氏だった。自立支援団体を通じて、日本の貧困の現実と向き合い、そこで苦しむ人々への手助けを続ける著者が、その実情と課題、そして希望を語ったのが本書である。
 著者は、いまの日本社会は「すべり台社会」だという。頼れる家族や友人、学歴や技能といった「溜(た)め」がない人ほど、足を滑らせると、すぐさま貧困に落ちてしまうと指摘する。そのような現実があるのにもかかわらず、貧困に陥るのは本人の社会認識のなさや、自らの選択によるものとする「自己責任論」が、行政や財界関係者などから語られることを厳しく批判する。貧困問題を認めつつも、その対応に苦慮している欧米に比べても、その存在を軽視する行政を始めとする日本社会総体は、貧困問題に対して、スタートラインにさえ立っていないと論ずる。そのようななかで、筆者たちは「すべり台社会」に歯止めをかけるべく、「たすけあい」のネットワーク化を進めているという。
 貧困の厳しい実情を語るのみならず、その解消に向けた具体的処方箋(しょほうせん)を数々提示しているところが本書の魅力でもある。

反貧困―「すべり台社会」からの脱出 (岩波新書 新赤版 1124)
著者:湯浅 誠
出版社:岩波書店  価格:¥ 777



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