みどりの一期一会

当事者の経験と情報を伝えあい、あらたなコミュニケーションツールとしての可能性を模索したい。

福島県6地点の土からプルトニウム検出/配布されなかった安定ヨウ素剤/ベラルーシにおける非ガン性疾患

2011-09-30 20:01:30 | 地震・原発・災害
テレビを見ていたら、衝撃的なニュースが飛び込んできた。

福島・浪江町や飯舘村など3町村6地点の土壌から
島第1原発事故に由来するとみられるプルトニウムを検出したと文部科学省が発表した。
同時に、ストロンチウムも検出されているとのこと。
予想していたとはいえ、ショック。

恐るべき事実は、このように事後的に小出しにされる。
そこに住んでいた人たちの、いのちと健康はどうなるのだろう。
その悲しみと、怒りと、不安は、どれほど大きいだろうと思わずにはいられない。

  飯舘村など プルトニウム検出 
9月30日 19時38分 NHK

東京電力福島第一原子力発電所からおよそ45キロ離れた福島県飯舘村の土壌から、国の調査で、事故によって放出されたとみられるプルトニウムが検出されました。事故のあと、プルトニウムが原発の敷地の外で検出されたのは初めてですが、文部科学省は「濃度は低く、このプルトニウムによる被ばく量は非常に小さい」としています。
調査は、ことし6月から7月にかけて文部科学省が、福島第一原発から80キロ圏内の合わせて100か所で土壌を採取し、プルトニウムなどの濃度分布を調べました。その結果、原発から北西方向の双葉町と浪江町、それに飯舘村の合わせて6か所で原発事故によって放出されたとみられるプルトニウムを検出しました。このうち最も原発から離れた場所は、飯舘村のおよそ45キロ地点で、プルトニウム238が1平方メートル当たり0.82ベクレル、プルトニウム239と240の合計で、1平方メートル当たり2.5ベクレルが検出されました。国の調査で原発の敷地の外でプルトニウムが見つかったのは初めてです。文部科学省によりますと、今回検出されたプルトニウムの濃度はいずれも低く、これらのプルトニウムによる被ばく量は非常に小さいとしています。
核燃料に含まれる放射性物質に詳しい東京大学大学院の長崎晋也教授は「揮発してガス状になりやすいヨウ素やセシウムと違って、プルトニウムは粒子で存在し質量も大きいので、45キロも離れたところまで飛ぶとは思わなかった。ただ、粒子が非常に小さければ気象条件によって遠くに運ばれることはありえないことではない。メルトダウンして溶け出した燃料に含まれるプルトニウムの小さな粒子が水蒸気などと一緒に大気中に出て、風で運ばれたのではないか」と話しています。


 文科省、福島県の3町村の土壌からプルトニウム検出 原発事故が由来か


文科省は、福島・浪江町や飯舘村など3町村の土壌から、福島第1原発事故に由来するとみられるプルトニウムを検出したと発表した。
プルトニウムが検出されたのは、福島・双葉町、浪江町、飯舘村の6地点の土壌からで、福島第1原発事故に由来するとみられるという。
今回検出されたプルトニウム238の最大濃度は、浪江町で1平方メートルあたり4.0ベクレル(Bq)だという。
福島第1原発の事故が由来するとみられるプルトニウムが、原発の敷地外で検出されたのは、これが初めてとなる。
(09/30 18:58)FNN


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こんな取り返しのつかないことも、今になって明らかになっている。

配布されなかった安定ヨウ素剤―福島原発事故後の混乱で

2011年 9月 29日 ウォールストリートジャーナル日本語版

 【東京】東京電力福島第1原子力発電所の3月11日の事故による放射線のリスクを最小限に抑えることができた可能性のある錠剤が数千人の地域住民に配布されていなかったことが、政府の関連文書で明らかになった。
 今回の開示で、東日本大震災後の混乱した日々に政府が緊急処置を怠ったことがまた裏付けられた格好だ。
 世界中の原発周辺地域の大半と同様に、福島第1原発周辺地域にも十分な安定ヨウ素剤の備えがあった。これは比較的安全な薬剤で、甲状腺癌の予防に効果がある。甲状腺癌は大きな原発事故の場合、最も一般的かつ深刻な影響と考えられている。
 政府の防災マニュアルでは、原発の周辺地域はこうした薬剤の服用に関し、政府の指示を待つことが規定されている。原発の安全性に関する国内の一部の専門家らは錠剤の即座の服用を勧めたが、政府は3月11日の事故から5日目まで錠剤の配布、服用を命じなかったことが今回の関係文書で明らかになった。
 その時までには、10万人近い避難住民の大半はさらに安全な場所に避難しており、福島第1原発からの放射線の放出量も当初のピーク時から減少していた。
 放射性ヨウ素が甲状腺に侵入するのを防ぐ安定ヨウ素剤は放射線にさらされる直前、もしくは被曝後2時間以内に服用するのが最も効果的だという。放射線が放出されてから何日も経って服用してもほとんど効果がない。
 複数の政府および地方自治体の当局者らと助言者らは、ウォール・ストリート・ジャーナルとのインタビューで、東日本大震災の様々な面の責任を負う異なる政府機関の間でコミュニケーションの行き違いが続いたことを指摘した。
 指示の遅延については、事故直後の政府の突然の動向の変化にも言及されている。その時、地方自治体の当局者らは個人が安定ヨウ素剤や汚染除去による安全措置を受けられる放射線の基準を大幅に引き上げた。
 福島第1原発から30キロ余りの距離にある川内村の村役場の井出寿一総務課長は、「そんなものを飲まなければいけないなんて、殆んど誰も知らなかった。16日に役場に届いたときには、もうみんな避難した後だった」と語った。

 井出課長は、川内村の3000人の住民用の安定ヨウ素剤の入った箱はいまだに、住民が後にした村役場にあると話す。
 福島原発周辺の町にはこうした薬剤の備えがあり、双葉町と富岡町の2つの町は、政府の指示を待たずに住民にこうした薬剤を配布した。また、福島原発からやや離れたいわき市と三春町も独自の判断で住民に錠剤を配布した。いわき市の住民は政府の指示を待つよう言い渡されたが、三春町の住民は渡された錠剤を服用し、その後、県から回収するよう注意を受けたという。
 国内の放射線の専門家らは、福島県の住民のその後のテスト結果で、薬剤なしでも甲状腺の病気を引き起こすほどの著しいリスクにつながるほどの放射線量を被曝した住民はほとんどいないことが示唆されたとしている。
 しかし、2つの政府系機関――原子力安全委員会と原子力安全・保安院――の当局者らは、特に子供に効果の高いと考えられている薬剤がなぜ地域住民に与えられなかったのか互いに問い正している。
 原子力安全・保安院の関係者は、同院がこのケースについて調査を行っていることを明らかにした。
 国際医療福祉大学クリニック院長で原子力安全委員会の緊急技術助言組織のメンバーである鈴木元氏は、「我々のような専門家にとって、一番防御しなくてはいけないのは、小児甲状腺ガンのリスクだということは明らかだった」と述べた。さらに、「肝心な住民は安定ヨウ素剤を当然飲んでいるはずだと思っていた」と続けた。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(以下略)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


参加しているメーリングリストからの情報。

 ===以下、転載======
Thursday, September 29, 2011
■チェルノブイリ事故による放射性物質で汚染されたベラルーシの諸地域における非ガン性疾患 Y・バンダシェフスキー教授 
Non-cancer illnesses and conditions in areas of Belarus contaminated by radioactivity from the Chernobyl Accident: Prof. Yuri Bandashevsky Click here to open the original text in a PDF file.


ユーリ・バンダシェフスキー教授は、チェルノブイリ事故汚染によるベラルーシ地域の汚染被曝の影響について広範囲な研究を行ったベラルーシ人の科学者です。その功績に対して2009年欧州放射線リスク委員会(ECRR)レスボス会議からエドワード・ラッドフォード記念賞を授与されています。この受賞にあたって博士が寄与した、放射線核種のセシウム137の内部被曝による非ガン性影響に関する論文の日本語訳をご紹介します。

バンダシェフスキー教授は豊富な実験データを提示し、「セシウム137が人体に与える影響の特徴は、生命維持に重要な臓器や臓器系統の細胞内の代謝プロセスの抑制だとみられる」とまとめています。さらには「セシウム137により人間や動物の体内に引き起こされる病理的変異をすべてまとめて“長寿命放射性物質包有症候群”(SLIR)と名付けることもできそうである。」といい、その症候群は心臓血管系、神経系、内分泌系、免疫系、生殖系、消化器系、尿排泄系、肝臓系における組織的・機能的変異によって規定される代謝障害という形で表れると書きます。

SLIRを誘発する放射性セシウムの量は年齢、性別、その臓器の機能的状態により異なることを明記したうえで、「子どもの臓器と臓器系統では、50Bq/kg以上の取りこみによって相当の病的変化が起きている。しかし、10Bq/kg程度の蓄積でも様々な身体系統、特に心筋における代謝異常が起きることが報告されている。」という指摘を行っています。

バンダシェフスキー教授は2001年、ベラルーシ政府によって8年間の刑期で投獄されました。これは表向きには収賄容疑でしたが、国際的な人権団体であるアムネスティ・インターナショナルが同氏を「良心の囚人」(暴力を用いていないのに、自らの信条や信仰、出自、肌の色などを理由に、政府によって拘禁されたり自由を制限されたりしている人)と認定し、釈放を求めるキャンペーンを行った結果、2005年に釈放されました。
(田中泉 記)
参考:http://www.amnesty.org.au/news/comments/2406/ 

=====以下本文=====
■チェルノブイリ事故による放射性物質で汚染されたベラルーシの諸地域における非ガン性疾患 ユーリ・バンダシェフスキー教授
ミコラス・ロメリス大学(リトアニア、ヴィリニュス)

生態学的な環境は人体に影響をあたえ、人間社会の発展を支える。世界で環境保護(そして人々の健康)に関してかなりの全体的進歩があったことを見ようともせずに深刻な環境問題を抱えている国々がある。その先頭を行くのが旧ソ連諸国である。旧ソ連政権は、西側諸国の軍事的・経済的発展に追いつき追い越せという願望のあまり新しい産業技術を導入したが、それは環境、ひいては人びとの健康に致命的な影響を残した。何よりもまず、ソ連による核実験について考える必要がある。

1960年代以降、ベラルーシ、リトアニア、ラトヴィア、エストニア、ウクライナ、ロシアにまたがる広範な範囲が放射性物質で汚染されたのがその直接的な影響である。これらの国に住む人々は放射性物質があることに関して何の情報も持っていなかったので、当然その影響から身を守ることができなかった。

●ベラルーシにおける放射線と生態系にかかわる問題
1960年代初頭以降、これら旧ソ連諸国の住民が消費する食材から放射性核種セシウム137が非常に多く検出されている。[1]
チェルノブイリ事故によるベラルーシの汚染は有名だが(図1)[訳注:図1は見当たらず]、対してそれ以前に核実験の放射性降下物(フォールアウト)による汚染があったことはあまり知られていない。図2.2~2.4に旧ソ連における汚染の証拠資料をいくつか提示する。図2.2は、チェルノブイリ事故が起きる前の1960年代、セシウム137のレベルは非常に高かったが、1963年に大気圏核実験が禁止された後は着実に減っていった様子を示している。

たとえば、ベラルーシやバルト諸国の人びとが日常的に摂取する産品のうち、高レベルのセシウム137が含まれていたものの1つが牛乳である。[図2-3は]1967年から1970年にかけての「牛乳-セシウム 汚染地図」である。放射性核種セシウム137が最も多く観測されたのはベラルーシ共和国ゴメリ地方だった。
・・・・・・・・・・・・・・(略)・・・・・・・・・・・・・・・・

986年のチェルノブイリ原発事故は、多くの欧州諸国の住民、とくにベラルーシ共和国の住民に対し、すでに存在していた放射性物質の影響をいっそう強めた。
チェルノブイリ事故後、1992年*のベラルーシにおける放射性核種セシウム137の沈着量を示す地図(図2.1、図2.4)[訳注:図2.1は1987年の地図である] は、1960年代のベラ
ルーシにおける同様の放射性核種沈着の地図にほぼ符号している(Marey A.N.ら共著1974年)。1986年のチェルノブイリ事故
後、ベラルーシなどの国の人びとの健康に放射線が与えた影響について語ることができるようになったが、これはひとえに西側諸国の大衆の関心が高まったことによる。

1986年4月26日のチェルノブイリ事故は、その規模と影響からみて人類史上最大の人災と考えられている。その社会的・医学的・生態学的影響は、詳細な研究を要する。ベラルーシは欧州全体で最大の被害をこうむった国だ。チェルノブイリ原発4号炉で起きた事故の結果大気中に放出された放射性物質の約70%はベラルーシ共和国の領土の23%以上に当たる部分に降下し、そこを汚染した。

この地域では現在、子ども26万人を含む約140万人の住民が暮らしている。いまだに放射能汚染について大きな問題を抱えている地域が散見される。最も危険なのは放射性物質セシウム137とストロンチウム90を含む食材の摂取である。これらの放射性核種が内部被ばくに寄与する割合は70-80%に達する(バズビー&ヤブロコフ 2009年)。死亡率の上昇と出生率の低下により、
1993年以降のベラルーシの人口は、2002年は-5.9‰、2003年は-5.5‰、2005年は-5.2‰と、マイナス傾向になっている。
・・・・・・・・・・・・・・(略)・・・・・・・・・・・・・・・・

ベラルーシの住民の死因のうち主なものは心臓病と悪性腫瘍である。最大死因である心臓病が統計的に有意な増加を示していること、中でもチェルノブイリ原発事故の後処理に関わった人びとの間で増加していることには不安を禁じえない(図2.9)。
食物から永久的・慢性的に摂取される状況下において、放射性核種セシウム137は甲状腺、心臓、腎臓、脾臓、大脳など、生命活動のために重要な臓器に蓄積される。これらの臓器が受ける影響の度合いは様々である。
・・・・・・・・・・・・・・(略)・・・・・・・・・・・・・・・・

セシウム137の取りこみにより、高分化細胞の代謝障害と変性・類壊死性のプロセスが進行する。それらの傷害の重症度は、生体内および上に挙げた臓器内のセシウム137濃度によって左右される(セシウム濃度の関数である)。傷害プロセスの強度ともたらされる組織傷害は並行する。通常、いくつかの臓器が同時にその有毒な放射線の影響にさらされると、全般的な代謝障害が誘発される。注意すべきなのは、生理的状況下において細胞増殖が無視できるほど少ないか全く起きない臓器や組織(例:心筋)が最も被害をこうむることである。

生体内に蓄積された場合、セシウム137は代謝のプロセスを阻害し、細胞膜の構造に影響を与えるとみられる。このプロセスは多くの生命維持に重要なシステムの組織的・機能的障害を誘発する。その主たるものが心臓血管系である。心筋における組織的・代謝的・機能的変異は放射性セシウムの蓄積と相関関係にあり、その毒性の影響を証明する。エネルギー産生系システムとミトコンドリア系システムが侵される。セシウム137の蓄積量が増えることによって細胞において重大かつ不可逆的な変化が起こると、類壊死のプロセスが発生する。エネルギー不安定性の影響でクレアチン・フォスフォキナーゼという酵素の抑制が表れる(図2.14)。
・・・・・・・・・・・・・・(略)・・・・・・・・・・・・・・・・

セシウム137の影響が最も激しく現れるのは、成長中の生体の心臓血管系である。小児の心筋における10Bq/kg以上の放射性セシウム蓄積は、電気生理学的な諸プロセスの異常をもたらす。1986年以降に生まれ、セシウム137による地表汚染が15Ci/ km2(訳注:55万5千Bq/㎡)以上蓄
積する地域で継続的に暮らしてきた人びとには、心臓血管系の深刻な病理的変異を反映する症状と心電図異常が現れる。学齢期の児童では、放射性核種セシウム137の取りこみにより、心拍の障害をもたらす心筋の電気生理的な障害が引き起こされる。生体内の放射性核種量と不整脈発生率との間には、明らかに相関関係が見受けられた(図2.15)。
・・・・・・・・・・・・・(略)・・・・・・・・・・・・・・・・

症状はかなり臓器毎に特異である。図2.17は腎臓における影響を示している。微小循環系の組織構造が異なるため、放射線被ばくによる病理変化も臓器によって異なる特徴を示す。腎臓の放射性疾病でネフローゼ症候群が伴うことはごく稀だが、通常の慢性糸球体腎炎に比べて重く、経過が早いという特徴がある。後者の場合、悪性がしばしば早い時期から発症することが多い。2-3年のうちに放射性腎臓障害は慢性腎不全や脳卒中、心臓病などを併発するようになる。生体中に代謝性に蓄積し、それが心筋やその他の臓器に有毒な影響をもたらし、高血圧を発症させることに加え、腎臓の破壊は、セシウム137の主要影響の1つである。

ゴメリにおける突然死の89%はこの種の全般的な臓器の破壊を伴っており、その状態は生前には記録されていなかった。また肝臓の深刻な病理的変化も重要である。肝臓において顕著な細胞蛋白の破壊と代謝性変容を伴う中毒性変性が進行すると、類脂肪物質が生成され、それが脂肪肝や肝硬変などの深刻な病理的進展をもたらす(図2.18)。
・・・・・・・・・・・・・(略)・・・・・・・・・・・・・・・・

図内分泌系もまた、取り込まれたセシウム137の影響にさらされる。それから副腎も取り込まれたセシウムに影響を受けると見られる。コルチゾールレベルは体内セシウム濃度に左右される。母親の胎内(特に胎盤)に相当量の濃縮されたセシウム137が蓄積されていた新生児においては、コルチゾール生成の変異が特に顕著にみられる(図2.19)。これらの胎児たちは子宮に適応できないことでよく知られる。この影響は、セシウム137が与えられた母親を持つラットにみられる(図2.19、2.20)
・・・・・・・・・・・・・(略)・・・・・・・・・・・・・・・・

女性の生殖系の疾患は内分泌系統の異常で起きる。放射性セシウムはまた、妊娠可能な女性では性周期のさまざまな時期における黄体ホルモン-女性ホルモンのアンバランスの原因ともなる。これが不妊症の主たる要因となる。胎盤その他の内分泌系の臓器に取り込まれた放射性セシウムは、母親の生体にも胎児にもホルモン障害を増加させる。

特にセシウム137の濃度が高まるとテストステロンや甲状腺ホルモン、血液中のコルチゾンの含有量も増加する。放射性セシウムにより母子の生体内でホルモンバランスが乱れると、妊娠期間が遷延し、分娩合併症と新生児の発育障害が増加する。母乳を与える場合、放射性セシウムは子の生体中に移行する。従って、母親の放射能が減った分、子の生体はセシウム137により汚染される。この新生児期にからだの諸器官が形成されるが、放射性セシウムは子の生体に対して極めて否定的な影響を与える。

放射性元素の取りこみに最初に反応するのが神経系である。28日間オート麦を介して放射性セシウムを40-60Bq/kg投与したラットでは、脳の様々な部位、特に大脳において、モノアミンおよび神経刺激性のアミノ酸の生合成に顕著なアンバランスが起こる。これは平均致死線量(訳注:細胞の生存率を37%まで減らす線量。哺乳類では1~2Sv)あるいはそれを越える線量に被ばくした場合に見られる現象である。このことは自律神経の様々な障害に反映される。

放射線汚染地域に住む児童に白内障が増加した件についても触れられるべきだ。この疾患の検出頻度は、他の疾患と同様に、生体内の放射性核種セシウム137の量と直接関係性がある(図2.21)。

まとめると、長寿命の放射線核種セシウム137は、多数の生命維持に重要な臓器や身体系統に影響を与える。その結果、放射性セシウムの濃度に依存するプロセスとして高分化細胞が悪影響を受ける。エネルギー産出系統の破壊を基盤にしたこのプロセスは、蛋白の破壊へとつながっていく。この繋がりにおいて、セシウム137が人体に与える影響の特徴は、生命維持に重要な臓器や臓器系統の細胞内の代謝プロセスの抑制だとみられる。これは毒性組織(窒素化合物)の直接的な影響と効果、および心臓血管系の障害による組織発育の阻害とによるものである。

セシウム137により人間や動物の体内に引き起こされる病理的変異をすべてまとめて「長寿命放射性物質包有症候群」(SLIR)と名付けることもできそうである。この症候群は生体に放射性セシウムが取り込まれた場合に表れる(その重症度は取り込まれた量と時間で決まる)。

そして、その症候群は心臓血管系、神経系、内分泌系、免疫系、生殖系、消化器系、尿排泄系、肝臓系における組織的・機能的変異によって規定される代謝障害という形で表れる。SLIRを誘発する放射性セシウムの量は年齢、性別、そしてその臓器の機能的状態により異なる。子どもの臓器と臓器系統では、50Bq/kg以上の取りこみによって相当の病的変化が起きている。しかし、10Bq/kg程度の蓄積でも様々な身体系統、特に心筋における代謝異常が起きることが報告されている。

●結論
チェルノブイリ原発事故から23年、長期間に渡って放射性物質に汚染された地域に生活しこれらの放射性核種を摂取してきたベラルーシ共和国の住民たちは、心臓病と悪性腫瘍の発症リスク増加に見舞われてきた。これらの病気が事故後23年間着実に増加し続けたことにより、住民の死亡率が出生率を2倍以上上回るという、人口統計上の大惨事といえる状況がもたらされた。現在の状況は、チェルノブイリ事故の被害を受けた地域に暮らす市民の健康を守るための対策を速やかに講ずるための国レベルおよび国際レベルの決断を必要としている。
[1] (Marey A.N. 共著 1974年、ルシャーエフA.P.共著 1974年、テルノフV.I., グルスカヤN.V. 1974年).

翻訳:田中泉 翻訳協力:松崎道幸
(以上、転載終わり) 


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