軽井沢からの通信ときどき3D

移住して10年目に入りました、ここでの生活と自然を写真と動画で発信しています

一時避難施設

2022-06-10 00:00:00 | 日記
 子供の頃、戦後間もないことでもあり、自宅から少し離れた地域に行くと、がけ地などで防空壕を見ることがあって、米軍による空襲の恐ろしさを想像したものであったが、最近はそうした機会もなくなっていた。

 ところが、地元の広報誌「広報 かるいざわ」5月号に、「浅間山噴火、武力攻撃事態における一時退避の協力施設」に関する記事が掲載され、その施設の一つである、旧信越本線横川駅軽井沢駅間トンネルの見学会が行われるとの案内も載っているのを目にし、ロシアによるウクライナへの侵攻の影響により、遠く離れた日本においても、緊張が高まっていることを実感させられた。




広報 かるいざわ 2022年5月号の表紙とトンネル見学会の案内記事

 この5月21日午前10時から12時に予定されているトンネル見学会は、特に予約も必要がないということなので、ショップの営業時間を午後からに変更して参加することにし、駐車場の混雑を避けるために、妻に現地まで車で送ってもらうことにした。妻はこのところ、足腰を傷めているので参加を見合わせたのであった。

 集合時刻の9時半少し前に着くと、広場にはすでに数十名の参加者の姿があり、受付けのテントに行き住所、氏名、電話番号などの記帳をしていると、私の見学グループは第3班で、11時15分スタートになるので、それまでしばらく待っていてください、と案内の若者に告げられた。

 見学のスタートまで、あと1時間45分も待つことになるので、一旦ショップに行き、そこで待つことにしようと思い、妻に電話をかけたが出てくれない。仕方なく歩き始め、何度か妻に電話をかけたがなかなか出てくれない。自宅まで半分ほどの距離を歩いたところで、ようやく電話が通じたが、スーパーで買い物をしていて、気が付かなかったのだとのこと。

 ショップに行くのは諦めて、しばらく自宅で過ごし、時間になったので、今度は自分で車を運転して現地に向かった。着いてみると、広場は閑散としており、見学者の姿はどこにもない。到着を受け付けの若者に告げていると、もう一組の若い母親と男の子が加わって、結局、私たち3名が第3班ということになった。

 こうして、見学会がスタートし、案内係の若者に引率されて、広場から特設の階段を伝って線路に下り歩き始めた。線路にはまだ撤去されずに残されているレールがあり、その間の枕木の上にはゴムシートが敷かれていて、歩きやすいようになっている。トンネルの入り口までは約150mあり、入り口から20m程行ったところに説明員の方がいて、2、3名の人に説明をしていた。ここから先には進むことができない。

案内係の先導で一時避難トンネルに向かう(2022.5.21 撮影)

トンネル内部(2022.5.21 撮影)

隣の下り線のトンネル入り口を見る(2022.5.21 撮影)

 「広報 かるいざわ」の案内には見学時間が10時から12時とあったし、足元の準備についても書かれていたので、トンネル内をかなりの距離歩いて見学するものと想定して、それなりの準備をしていたので、拍子抜けであった。一緒にいた母子も同じ感想を漏らしていた。

 担当者らの説明によると、このトンネルは、軽井沢駅と隣の横川駅(群馬県安中市)との間約11キロにある上り11本と下り18本。緊急事態が起これば、町はまず軽井沢駅から東に1キロ余りの地点にある最も手前の「上り11号トンネル」を使用し、町民らを収容しきれなくなれば、横川駅に向かって次のトンネルに移動させる。所有者の安中市とは、2017年に避難所として使用する覚書を結んであったという。 

 トンネル内は、一部電線などは取り外されているが、枕木とレールは元のまま残されており、今回の指定に伴う新たな改修は今のところなく、今後も照明設備や休息用のベンチなどの設置予定もないとのことであった。一時避難場所はあくまで一時的なもので、突発的な事態が過ぎれば、別の避難場所に移動すると想定されているとの説明である。
 
 この日、渡された次の2枚のパンフレットの1枚には、「弾道ミサイル落下時の行動」についての説明があり、もう1枚には、このトンネルと共に一時避難場所に指定された、町内の40か所の鉄筋コンクリート造りの施設名と所在地が記されていて、裏面にはその場所を示した地図が示されていた。

 これらの施設は、町内のホテル・旅館や企業・学校の保養所、公共施設などで、鉄筋コンクリートなど頑丈な造りで、面積1000平方メートル以上の建物のうち、所有者の同意を得たものだという。町内にある、かのビル・ゲーツ氏の別荘は2000平方メートルの広さとされているが、残念ながら私邸であり、今回の一時避難場所の指定には入っていない。

 ウクライナで起きている戦闘の状況を見ていると、鉄筋コンクリートの建物もあっけなく破壊されているので、こうした施設がどこまで安全な物か疑問であるが、これについては、軽井沢町長が新聞のインタビューに対して、「ロシアの攻撃を受けたウクライナの映像を見ると、頑丈な建物も大きく壊れている。それでも避難できる建物がないよりはいい。町民と来訪者の命を守るため、もしもに備えるのは行政の責務」と答えている( 5/11(水) 配信 毎日新聞 )。
 
弾道ミサイル落下時に備える行動について示した政府のパンフレット


軽井沢町内の一次避難場所40か所を示す町作成のパンフレット

 この日の見学会のことは、すぐにネットで次のように配信され、また夕方にはNHKのニュースで全国に放映された。

 「北佐久郡軽井沢町で21日、非常事態が起きた時の一時避難場所に指定している、旧JR信越本線のトンネルで見学会が行われました。 軽井沢町では、浅間山の噴火や、外国からの武力攻撃に備えて、現在は使われていない旧JR信越本線の一部のトンネルを、一時的な避難場所に指定しています。 21日は、町民に避難場所であることを知ってもらおうと、見学会を開き、63人が参加しました。 町によると、トンネルには上下線合わせて2500人余りが避難できる想定だということです。(テレビ信州 5/21(土) 11:50配信)」

 事前に見学会に参加すると伝えてあった関東在住の友人や知人は、そのNHKのニュースを見て、「君が映っていないか探したが、皆マスク姿なので判らなかった・・・」と後で伝えられた。

 「広報 かるいざわ」の6月号にも見学会の様子と、その前に行われた記者会見の様子が掲載された。


一時避難場所と一時退避施設についての記者会見と見学会の様子を報じる「広報 かるいざわ 6月号」

 ところで、こうした地方自治体の取り組みは国民保護法に基づくもので、正式には「武力攻撃事態等における国民の保護のための措置に関する法律」によって、武力攻撃事態等において、武力攻撃から国民の生命、身体及び財産を保護し、国民生活等に及ぼす影響を最小にするための、国・地方公共団体等の責務、避難・救援・武力攻撃災害への対処等の措置が規定されていて、次のようである。

********************************************
(避難施設の指定)
第百四十八条 都道府県知事は、住民を避難させ、又は避難住民等の救援を行うため、あらかじめ、政令で定める基準を満たす施設を避難施設として指定しなければならない。
2 都道府県知事は、前項の規定により避難施設を指定しようとするときは、当該施設の管理者の同意を得なければならない。

(市町村の国民の保護に関する計画)
第三十五条 市町村長は、都道府県の国民の保護に関する計画に基づき、国民の保護に関する計画を作成しなければならない。
********************************************
  
 内閣官房 国民保護ポータルサイト( https://www.kokuminhogo.go.jp )にはこの詳しい解説がある。

内閣官房 国民保護ポータルサイトより

 これによると、この「国民保護法」は近い将来、ある特定の国が日本を攻めてくるという想定のもとに作られたものではなく、万が一の武力攻撃事態に備えての態勢整備だとされている。

 そうは言いながらも、この法律は北朝鮮による弾道ミサイル発射実験の影響が大きく、想定される武力攻撃の4類型(着上陸、弾道ミサイル、ゲリラ・特殊部隊、航空攻撃)のうち、弾道ミサイルに重きを置いたものとなっている。

 弾道ミサイルによる攻撃を想定するとなると、地上の建物ではたとえ鉄筋コンクリート作りといえども充分とはいえず、地下施設が必要である。

 ロシア軍によるウクライナ侵攻が続く中、日本全国でも有事の住民保護に関心が集まっている。全国のこうした一時避難場所は5万1994カ所登録されているというが、地下施設はわずか約 2.5%(1278カ所)で、態勢整備が追いついていない現状である。

 国民保護法は武力攻撃事態が起きた際に住民を避難させ、救援できる施設を都道府県知事にあらかじめ指定するよう義務付けるものであるが、国は本年度から5年間を集中取組期間とし、コンクリート造りの丈夫な建物や、地下道、地下街、地下駅舎などを緊急一時避難施設に指定するよう促すとしている。

 こうした地下施設数は2021年4月現在で、内閣官房がこのほど公表したところによると、都道府県別では地下施設ゼロが佐賀県、1カ所のみは岩手、島根、徳島の3県。最多は東京都の188カ所で、次いで石川県176カ所、長野県124カ所となっていて、長野県は比較的多い。そのうち、軽井沢町には1か所が指定されているので、公表されている地図をたよりに現地に行ってみると、国道18号線の下を通る地下道であった。ただ、現地にはそのことを示す表示などの設置は無かったので、確証はないが、他に該当する施設も見当たらなかったので、この場所で間違いないであろうと思う。


軽井沢町指定の地下一時避難場所の地下道 1/2(2022.5.24 撮影)


軽井沢町指定の地下一時避難場所の地下道 2/2(2022.5.24 撮影)

 都会とは異なり、地下街などのない軽井沢としては、この場所はなんとも苦しい指定であったと想像できるが、見学会のあったトンネルの一次避難場所としての指定により、これを補うことができる。廃トンネルというのは、恐らく全国的にも珍しい例と思われる。

 さらに、今回のロシアのウクライナ侵攻で、プーチン大統領はしばしば核攻撃を臭わせる発言を行っているし、評論家からもそうした戦術核使用の可能性が指摘されている。

 核シェルターとなると、われわれ日本人には実感を伴わないものとなるが、海外の状況を見ると、普及率はスイスとイスラエルが100%、アメリカ82%、イギリス67%であり、これに対し、日本はわずか0.02%である(NPO法人日本核シェルター協会)。

 ウクライナにおいては、今回激戦地となった東部マリウポリのアゾフスタリ製鉄所がニュースでもしばしば取り上げられたが、ここは地下にトンネルなどを備えた「要塞」のような構造となっている。この製鉄所は欧州最大級の製鉄所の一つでソ連時代に建設され、地上の巨大な構造物に加え、地下にはいくつものシェルターやトンネルがつながっている。

 もともとは設備のメンテナンスや機器を運ぶために建設されたというが、2014年に親露派武装勢力がマリウポリを攻撃してからは、設備を管理し、最大4000人を収容できるように水や食料を備えてきたという。

 ウクライナ危機はこれまで中立政策を堅持してきた北欧の国々にも政策転換をもたらした。その一つ、ロシアと長い国境を接し、これまでにもたびたび紛争を経験してきたフィンランドを見ると、フィンランドの防災法では、建物の所有者に核シェルターの設置が求められていて、550万人の人口の約7割が隠れられる核シェルターがあるとされる。

 こうした施設が本来の目的で使用されることはあってはならないわけだが、「備えあれば憂いなし」である。

 日本は3方を、核保有国であるロシア、北朝鮮、中国に囲まれている。そうした中での現在の避難施設設置の状況である。

 基地問題の専門家は、「ウクライナで最初に攻撃されたのは軍事施設。基地や原発は攻撃を引きつける。」とし、「一時避難施設や国民保護計画はいざ戦争が起きれば役に立たないだろう。」という。

 今朝(6月6日)の新聞を見ていても、「北、弾道ミサイル8発 最多の連続発射」とする見出しがあり、夕方のTVニュースでは、米韓もこれに対応して、同じ8発のミサイルを発射している。

 また、ウクライナについても、「露、キーウにミサイル 2地区で爆発」との見出しがあり、戦闘は収まる気配がない。
 
 軽井沢には自衛隊の駐屯地も米軍基地もなく、攻撃の対象になるとは考えにくいとされるが、国は軍事衝突が起きないよう外交力を高め、自治体や住民は万が一に備え、攻撃を受けた際のリスクや具体的な避難行動をシミュレーションしておく必要があるとの意見があるが、改めてその通りだと思う。

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ウクライナ情勢(5/31~6/6)

2022-06-07 00:00:00 | ウクライナ情勢
5月31日
・ゼレンスキー氏 前線視察 ハルキウ州兵士激励
・ウクイライナ軍 南部奪還へ反撃強化 ヘルソンなど 露軍撤退も
・対露制裁合意 焦点に 石油禁輸 EU首脳会議開幕へ
・韓国調査船 竹島EEZに 2日連続 日本政府は抗議
・北ミサイル非難 G7外相が声明
・南太平洋 中国を警戒 島嶼国 安保協力  合意至らず 米豪 巻き返し急ぐ
・北マケドニアと対露連携を確認 外相会談
・露外貨建て国債 元利金を外貨で 露紙報道
・芸能界 露の排除進む イベント主催者 板挟み 参加なら国際社会批判、認めなければ訴訟恐れ
・歌謡祭トロフィー競売に 優勝のウクライナバンド 収益金で軍にドローン寄贈へ
・露国内 反戦の動き 表面化相次ぐ 議員が撤収要求・出征拒否で除隊処分
・プーチン氏の重病説を否定 ラブロフ外相
・露・ウクライナ大統領と会談へ エルドアン氏、電話で
・NATO加盟で領土の脅威解消 北マケドニア外相
・沖縄、自然、ウクライナ・・・ 重層的なメッセージ 「CHORUS 照屋勇賢展」

6月1日
・防衛力 抜本的強化 骨太方針
・2.7兆円補正予算 成立
・露産石油禁輸 合意 EU、パイプラインは除外
・泊原発 差し止め命令 札幌地裁 「津波対策に不備」
・セベロドネツク 戦闘続く 露側「市内1/3掌握」
・防衛費 増額幅示さず NATO目標 GDP比2%「紹介」
・四季/長谷川櫂 ウクライナ詩人シェフチェンコ詩集「コブザール」から
・「中露の軍事協力深化」 防衛研年次報告 防衛費確保求める
・韓国竹島沖調査 自民内から批判噴出 対抗措置求める声も
・露領攻撃兵器 米供与せず ロケット 射程抑制へ ウクライナ
・親露派地域拘束監視団1人解放
・ウクライナの孤児 露国籍取得簡素化 プーチン氏大統領令に署名
・トルコ大統領 穀物輸出「国連監視で」 枠組み設置を提案
・米議員、蔡総統と会談 台湾訪問 軍事、経済協力伝える
・台湾防空識別圏 中国軍30機侵入
・中国海警船追尾 比が抗議 EEZ内 台湾と海洋調査中
・ユーロ圏物価5月8.1%上昇
・ウクライナ避難民にスマホ ソフトバンク、1年間無償
・避難民 自立へ着々 高森で1か月 保育園、日本語教室参加
・ウクライナ避難学生に聞く 眠れない日々も 今はつらくない
  
6月2日
・空き地の血だまり 消えぬブチャの傷
・安保土地規制へ新組織 30人体制で発足 基本方針 作成着手
・セベロドネツク 露軍、市内中心部を制圧 露国内 核部隊が演習
・米、高性能兵器を供与 ウクライナへ 追加軍事支援900億円
・海自艦、インド太平洋へ 13日から 島嶼国寄港、中国けん制図る
・アジア安保会議出席へ 首相
・「プーチン氏追放模索せず」 米大統領、米紙に 外交解決を強調
・米大統領 中国・ソロモン協定に懸念 NZ首相と共同声明
・「内政不干渉 中国の伝統」 中国外相、トンガ訪問
・「日米・NATO 中国には脅威」 米駐日大使
・急激インフレ 世界不安 米欧、上昇率8% 政府・中央銀 金融引き締めへ
・EU2か国向け 露ガス供給停止 デンマーク、ドイツ
・「人間の所業ではない」 ブチャ 殺された夫 拷問の痕

6月3日
・露 デフォルト迫る 金融機関射「利払い不履行」
・米軍事支援6000億円に ロケット砲供与 露領射程の弾薬 提供回避
・ウクライナ、南部で反撃 へルソン州 知事「20集落以上奪還」
・露総司令官 更迭か 米報道
・米司令官「露にサイバー攻撃」
・北方領への墓参 代替措置を検討 首相意向
・防衛費の増額幅 骨太に「明記を」
・竹森俊平の世界潮流 脱エネ依存 露を弱体化 西側「二つの楔」打ち込む
 EUはロシアに多くのエネルギーを依存している、2027年までにロシア依存ゼロを目指す
・デンマーク EU共通安保 参加へ 露侵攻後 北欧、安保政策転換続く
・ソ連の「母親英雄」表彰復活へ 育児10人で 露、人口減を危惧
・豪、太平洋地域で巻き返し 外相サモア訪問 中国に対抗
・原油追加増産 検討か OPECプラス 露産供給減で
・クロアチア ユーロ導入可能 20か国目 EUが報告書
・県に避難民 新たに3人 
・長引く避難 生計に不安 ウクライナから来日 1154人 就労に言葉の壁 困窮例も
・キーウ近郊 不発弾処理
・尖閣諸島に中国船4隻

6月4日
・防衛力強化「5年以内」 政府修正「骨太原案に明記」
・露、ルハンスク制圧「2週間以内」 英分析 侵攻100日「今後も苦戦」
 ウクライナ軍、反攻狙う
・【社説】OPECプラス 更なる増産で原油価格抑えよ
・【広告】世界の賢人12人が見た ウクライナの未来 プーチンの運命(講談社)
・露「信仰100日」報道禁止 乏しい戦果に注目回避か
・モスクワバレエ出場者急減
・プーチン氏 がん治療か 4月、米紙報道
・島嶼国で軍事的影響力否定 中国、ミクロネシアと外相会談
・制裁 孤立する露経済 ウクライナ侵攻100日 物価上昇や生産停滞深刻
・露国債「支払いの不履行とは」 事実上デフォルト認定
・露大統領の親友 米が制裁対象に 資産管理担当
・ウクライナ金利25%に 大幅引き上げ

6月5日
・穀物輸出、露が条件 仲介のトルコと協議へ
・首相、NATO会議出席検討 インド太平洋 関与強化呼びかけへ
・日米韓防衛相対面で会談へ 2年半ぶり
・石垣島沖EEZ 中国が調査活動
・露艦隊の演習 太平洋で開始 日米けん制
・ウクライナ 避難450万人が帰郷
・ドネツク州 露軍、前線の兵力増強 20大隊2万人規模か
・スキャナー 戦術拙劣 失態続く露 ウクライナ戦線 死者急増 軍事力過信 兵力
 分散・補給軽視 ウクライナ 長期化有利の見方 露 制圧に失敗 戦い方修正か
・【社説】「ロシア化」政策 ウクライナの主権損なう暴挙
・中国3隻目空母 進水延期 香港紙報道 技術的問題発生か
・対露制裁 カバエワ氏も追加 EU発動 石油年内に9割禁輸
・独 連邦軍強化へ 14兆円拠出承認 議会下院
・米 北欧2か国のNATO加盟「支持」

6月6日
・北、弾道ミサイル8発 EEZ外に 最多の連続発射 4か所から2発づつか
・北欧2国加盟「NATO有利」 米軍制服トップ 軍事関与の拡大検討
・露、キーウにミサイル 4月28日以来か 2地区で爆発
・「同時」「多数」能力誇示 北ミサイル8発 日米韓、迎撃難しく 
・反撃能力 検討急ぐ 日本
・露軍性暴力 訴追に壁 世間の目恐れる被害者 人権団体や検察が調査
・「ユネスコから露除外を」 ゼレンスキー氏 教会113か所被害
・占拠 略奪 爪痕深く 家財消え、鏡に弾痕 ウクライナ・ブチャ 「ロシア軍、規律ないのか」
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ルリソウ

2022-06-03 00:00:00 | 山野草
 このところルリタテハ、オオルリシジミと続けて瑠璃色のチョウを紹介したが、今回は瑠璃色の花を咲かせる植物でルリソウ。

 散歩道に沿う場所に毎年咲くルリソウだが、今年最初に気が付いたのは5月11日のことであった。花の大きさは1cm程度と小さいが、なかなか美しい。

 手元の図鑑「山草事典」(1988年 栃の葉書房発行)には「つぼみや咲き始めは淡いピンクであるが、のちに美しいルリ色に変わる。」と説明されているとおり、多くはつぼみの状態でピンク色をしていて、咲き始めると次第に青みが増していき、完全に開くころにはルリ色になる。

 ただ、中には開花してもピンク色のままの花が混じっていたり、株全体がピンク色の花を咲かせるものも見られる。

咲き始めたルリソウ 1/2(2022.5.11 撮影)

咲き始めたルリソウ 2/2(2022.5.11 撮影)

 よく似た種にヤマルリソウがある。八代田貫一郎氏の著書「続 野草の楽しみ」(1969年 朝日新聞社発行)の中の表現を借りると、「ルリソウは優しくて、すんなりと3~40センチの高さになり、二股になって先を曲げた花穂に、丸い5弁化を開く」が、「ヤマルリソウの方は、疎剛で、横に広がって生育する」ということなので、花は似ているが両者の違いはよく判る。

 妻が随分前に入手していた「日本の野生植物」(佐竹義輔、大井次三郎、北村四郎、亘理俊次、冨成忠夫編、1981年 平凡社発行)でルリソウの項を見ると、写真に、「ルリソウ O.krameri  長野県軽井沢 '70.5.31 〔亘理〕」との説明が添えられており、編者のひとりが当地軽井沢で撮影した写真であることがわかる。ルリソウは本州の中部以北の山地と北海道に自生する日本の固有種である。

 この写真が撮影されて50年以上になるが、今もルリソウは軽井沢で同じ時期に咲き続けている。

別荘地の庭に咲くルリソウ 1/2(2022.5.28 撮影)

別荘地の庭に咲くルリソウ 2/2(2022.5.28 撮影)

 次に花色の変化を中心に見ていこうと思う。先ず一般的な花色のルリソウ。

ピンク色の蕾から次第にルリ色に変化するルリソウ 1/5 (2021.5.31 撮影)

ピンク色の蕾から次第にルリ色に変化するルリソウ 2/5 (2022.5.28 撮影)

ピンク色の蕾から次第にルリ色に変化するルリソウ 3/5 (2022.5.28 撮影)

ピンク色の蕾から次第にルリ色に変化するルリソウ 4/5 (2022.5.17 撮影)

ピンク色の蕾から次第にルリ色に変化するルリソウ 5/5 (2022.5.14 撮影)

 次は青色への変化が早く、つぼみが膨らみ始めるとすぐに青くなっていくルリソウ。

つぼみが膨らみ始めるとすぐに青くなっていくルリソウ 1/5 (2022.5.14 撮影)

つぼみが膨らみ始めるとすぐに青くなっていくルリソウ 2/5 (2022.5.14 撮影)

つぼみが膨らみ始めるとすぐに青くなっていくルリソウ 3/5 (2022.5.14 撮影)

つぼみが膨らみ始めるとすぐに青くなっていくルリソウ 4/5 (2022.5.28 撮影)

つぼみが膨らみ始めるとすぐに青くなっていくルリソウ 5/5 (2022.5.20 撮影)

 次に、逆に咲いてからもピンク色を保つ花が、ルリ色の花と混在する株もある。

開花後もピンク色が残る花が混在するルリソウ 1/5 (2022.5. 25 撮影)

開花後もピンク色が残る花が混在するルリソウ 2/5 (2021.5.31 撮影)

開花後もピンク色が残る花が混在するルリソウ 3/5 (2022.5.23 撮影)

開花後もピンク色が残る花が混在するルリソウ 4/5 (2022.5.17 撮影)

開花後もピンク色が残る花が混在するルリソウ 5/5 (2022.5.18 撮影)

 最後は、蕾の時も花が開いてからもピンク色で、青みが全く見られないルリソウ。ピンク色の濃さは株により異なっている。

蕾から開花時までピンク色のルリソウ 1/5 (2022.5.23 撮影)

蕾から開花時までピンク色のルリソウ 2/5(2022.5.18 撮影)

蕾から開花時までピンク色のルリソウ 3/5 (2021.5.31 撮影)

蕾から開花時までピンク色のルリソウ 4/5 (2021.5.31 撮影)

蕾から開花時までピンク色のルリソウ5/5 (2021.5.31 撮影)

 通常の青色の花が咲く株と、ピンク色の花が咲く株とが隣り合っていることもある。


通常の青色の花が咲くルリソウと、ピンク色の花が咲く株とが隣り合う (2022.5.25 撮影)

 我が家でも庭に植えている園芸種のワスレナグサもまたルリソウによく似た花を咲かせているが、こちらは北海道や本州中部の深山に自生しているエゾムラサキを原種として、ヨーロッパで改良されたものだという。

 ルリソウ同様、蕾の時はピンク色だが開花するとルリソウよりも鮮やかな青色に変化する。

園芸品種のワスレナグサ 1/2 (2022.5.31 撮影)

園芸品種のワスレナグサ 2/2 (2022.5.18 撮影)

 ルリソウはムラサキ科に属していて、ムラサキ科の植物は、全体的に多毛で、花弁は5つに分かれ、果実は核果または4個に分かれる分果となる特徴があるとされる。

 ルリソウもまた花は通常5裂した合弁花であり、5回対称の構造をしているのに、花後の果実の写真を見ると4個が正方形を構成するように並び4回対称であって、どういう訳でこのようになるのか、なかなか興味深い。今はまだ花の時期で、ようやく果実ができ始めたところなので、追ってこの分果の撮影ができた時点で写真を追加掲載できればと思う。

 ところで、ルリソウの花の色が開花するに伴ってピンクからルリ色へと変化したり、株によりピンク色のものが出たりするのは、一体どうしてだろうか。

 花の色が変化することで、よく知られているものにアジサイや酔芙蓉があるが、アジサイでは成育場所の土壌のPHが関係していると聞くし、酔芙蓉では花が咲いて初めのうちは色素が無いので白く見えるが、次第に色素が合成され、赤く色づいてくるのだという。

 変化する色ではないが、野の花を見ていても実に様々な色の花がある。このブログでよく取り上げているスミレだけを見ても、花色は白からピンク、紫、水色と多様である。 

 こうした植物の色素はたくさんあるが、赤、紫、青の花の色素の多くはアントシアニンとされる。アントシアニンはこれらの色素の総称で、アントシアニンと呼ばれる分子に糖がついて水溶性になったものである。アントシアニジンにも多数のものがあり、ウィキペディアを見ると、10種が紹介されている。

 花に含まれる色素の場合、アントシアニジンの基本構造上の水酸基の数によって1個のものはペラルゴニジン、2個のものはシアニジン、3個付いているものはデルフィニジンと3系統があって、ペラルゴニジンは橙色系、シアニジンは赤色系、デルフィニジンは青色系の発色をするとされる。青色の花ではデルフィニジン系によるものが殆どである。各色素の分子構造は次の通り(ウィキペディアによる)で、右側の水酸基(OH)の数が異なる。

1.ペラルゴニジン(橙色)
  

 
2.シアニジン(赤色)
  


3.デルフィニジン(青色)
    

 アジサイは、基本的に、酸性の土壌では青い花を、アルカリ性の土壌ではピンクの花を咲かせると言われている。同じ色素のはずなのに、なぜ環境の変化で青から赤に変化するのか、その仕組みが名古屋大学の吉田研究室の研究により最近、明らかにされた⦅化学、76, 23-28 (2021) ⦆と報じられている。

 アジサイは、鉢の株を庭に下ろしただけで色が変わってしまうことがあるが、どうしたら安定して青くできるかを解明しようとした研究は、100年近く前から行われてきた。そして、酸性土壌で育てると土中のアルミニウムイオンが水によく溶けて根から吸収され、萼片はより青くなると考えられてきたが、赤いアジサイも青いアジサイも、含まれる成分は全く同じアントシアニン(デルフィニジン 3-グルコキシド)であることから、アルミニウムの果たす役割をさらに詳しく調べなければならない。

 要するに、青色発色するデルフィニジンを含んでいることは、花が青くなることの必要条件ではあるが十分条件ではないということである。

 詳細は割愛するが、吉田研究室から発表されている論文によれば、アジサイの青色は、単純に(デルフィニジン系の)アントシアニンだけで発色するのではなく、色素にアルミニウムイオンが錯体形成し、さらに、助色素が共存して、これも錯体形成することが必要であることが明らかにされた。

 さらに色素が蓄積する細胞内の液胞のpHによってアントシアン系の色は変化する。青いアジサイもしばらくすると赤色系に変わるのはpHの変化によるものという(アントシアンはアントシアニジンとアントシアニンを含む総称)。

 (はじめから)赤色のアジサイの場合、アルミニウムイオンがほとんど存在せず、従って、アントシアニン・アルミニウムイオン・助色素からなる青色錯体分子が形成されないという結果である。アジサイの色変化は、遺伝子が決定する要因のほかに、環境が支配している要因が大きく影響していることが判る。

 さて、青色の花ということでは、もう一つ興味深い有名な研究がある。青いバラの開発である。

 バラには様々な色のものがあるが、青いバラは存在しない。サントリーの研究所では、このありえないことの代名詞ともなっていた青いバラの開発に挑戦し、成功した研究である。

 数年前、母校の博物館を訪問した時に、この青いバラの実物を見る機会があった。


佐治敬三さんの特別展に展示された、サントリーが開発した青いバラ(2019.11.13 撮影)

 この日は、卒業生の一人、サントリーの元社長である佐治敬三さんの特別展の開催中であり、その関係で博物館の入り口に展示されていたものであった。

 その、青いバラが自然には存在しない理由であるが、バラやカーネーション、キクの仲間にはデルフィニジンを合成する酵素遺伝子が無いために青色系統の花が咲かないと考えられている。

 そこで、サントリーの研究所では、遺伝子操作によりこのデルフィニジンを合成する酵素遺伝子を組込むことにし、パンジーから得た遺伝子を組み込む研究を行って、これを完成させた。

 ただ、青色の色素であるデルフィニジンの導入に成功し、「青いバラ」が誕生したといっても、写真で見る通り、まだ青紫に近い色にとどまっている。アジサイの例でみたように、花の色は色素とともに働くほかの成分の条件によっても左右されるためである。そのため、サントリーでは、より青色に近づける研究が現在も進められているという。

 ここで話をルリソウに戻す。ルリソウに含まれる色素については、通常の植物図鑑を調べても情報はない。ネット検索をしてみたが、今のところそれらしい情報は得られず、ヤマルリソウについて岡山理科大学・生物地球学部・生物地球学科のHPに次の記述がみられたのみである。

 「ヤマルリソウの花には青系の色素と紅系の色素があるのであろう、株によってコバルト色に見えるものから桃色に、あるいはほぼ白色のものがある。株によって色は決まっているようで、遺伝的なものであろう。・・・」

 ここでは、遺伝的に2種類の色素があるのではとの推測をしている。これは、色素アントシアニンの種類として、デルフィニジンを含むものと、たとえばシアニジンを含むものがあるということだろうか、それともデルフィニジンだけを含むが、金属イオンや助色素までを含み、遺伝的に制御されているということだろうか、詳しい説明はない。

 ただ、ここでは株による花色の違いに注目しているが、つぼみ状態から開花するにつれて色が変わるということには言及していない。

 よく似た例の一つにソライロアサガオがあり、その仕組みが調べられている。ソライロアサガオはつぼみの時には赤紫色をしているが、花が開くに従って青い色に変化する。このときの花弁細胞のアントシアニンが存在している場所である液胞内のpHはつぼみの時が約6.6(弱酸性)で、花が開くにつれてpHが上昇し、完全に開花した状態では7.7(アルカリ性)になるが、このとき色素組成に変化はないので、液胞の中のpHの変化により色の変化がもたらされているものと考えられている。

 さて、ルリソウで起きている色変化はどのようなメカニズムによるのだろうか。

追記:ルリソウの種子ができ始めた。5弁の合弁花が咲いた後に、なぜか4個の種子が見える。

ルリソウの種子(2022.6.10 撮影)
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