軽井沢からの通信ときどき3D

移住して10年目に入りました、ここでの生活と自然を写真と動画で発信しています

禁酒

2024-02-23 00:00:00 | 日記
 20年ほど前、上越市の会社に勤務していたころにお付き合いのあったMEさんから寒中見舞いの手紙が届いて、その文の中に次のような記述があった。

 「さて、私事になりますが、無事古希を迎えることができました。・・・
すこぶる健康なのですが、ここで大好きなお酒を止めることとしました。これまでの人生の中で、何よりも大切なのは健康であると痛感しておりますので、”時すでに遅し”と感じつつも、残りの人生を元気に過ごす端緒となればと思っています。今のところ禁断症状もなくあっさりしたもので、我ながら驚く次第です。・・・」

 この決断には拍手を送りたい。そういえば、最近出席している同期会や同窓会の席でも、お酒は飲みませんという人が次第に増えているように感じていた。ドクターストップの人は当然というか、仕方ないにしても、自らの意思で禁酒する人が、だんだんと増えているということなのだろうか。

 よく禁酒・禁煙と言われるが、禁煙の方は、明らかにたばこの害が言われていて、一般的にも理解が進んでいるが、酒の害となると、よく分からないし、改めて考えたこともなかった。

 実際のところどうなのか。昔から長い間、酒は「百薬の長」と言われていることもあり、適量の飲酒はむしろ健康のためには良いのではと思ってきたのだが、考え直してみることにした。 

 厚生労働省のホームページ(健康日本21・アルコール)から、我々世代の者についてのアルコールとの関係性についての記述を引用すると次の様である。

 「はじめに:我が国においてアルコール飲料は、古来より祝祭や会食など多くの場面で飲まれるなど、生活・文化の一部として親しまれてきている。一方で、国民の健康の保持という観点からの考慮を必要とする、他の一般食品にはない次のような特性を有している。

 (1)致酔性:飲酒は、意識状態の変容を引き起こす。このために交通事故等の原因の一つとなるほか、短時間内の多量飲酒による急性アルコール中毒は、死亡の原因となることがある。
 (2)慢性影響による臓器障害:肝疾患、脳卒中、がん等多くの疾患がアルコールと関連する。
 (3)依存性:長期にわたる多量飲酒は、アルコールへの依存を形成し、本人の精神的・身体的健康を損なうとともに、社会への適応力を低下させ、家族等周囲の人々にも深刻な影響を与える。

 アルコールに関連する問題は健康に限らず交通事故等、社会的にも及ぶため、世界保健機関では、これらを含め、その総合的対策を講じるよう提言している。 
 アルコールに起因する疾病のために、1987年には年間1兆957億円が医療費としてかかっていると試算されており、アルコール乱用による本人の収入減などを含めれば、社会全体では約6兆6千億円の社会的費用になるとの推計がある。これを解決するための総合的な取り組みが必要である。」

 ここまでは、アルコールのマイナス面が挙げれれている。ところが、『基本方針』の『アルコールと健康について』の項目を見ると一転、次のように述べられている。

 「わが国の男性を対象とした研究では、平均して2日に日本酒に換算して1合(純アルコールで約20g)程度飲酒する者が、死亡率が最も低いとする結果が報告されている。諸外国でも、女性を含め、近似した研究結果が出ている。
 これらのアルコールと健康との関係について正確な知識を普及することが必要である。」

 むしろ適切なアルコール類摂取の勧めととれる内容である。続く『現状と目標』の『節度ある適度な飲酒 』では実際に適量のアルコール摂取を勧めている。

 「前述したわが国の男性を対象とした研究のほか、欧米人を対象とした研究を集積して検討した結果では、男性については1日当たり純アルコール10~19gで、女性では1日当たり9gまでで最も死亡率が低く、1日当たりアルコール量が増加するに従い死亡率が上昇することが示されている。
 従って、通常のアルコール代謝能を有する日本人においては『節度ある適度な飲酒』として、1日平均純アルコールで約20g程度である旨の知識を普及する。
 なお、この『節度ある適度な飲酒』としては、次のことに留意する必要がある。

 1) 女性は男性よりも少ない量が適当である
 2) 少量の飲酒で顔面紅潮を来す等アルコール代謝能力の低い者では通常の代謝能 
    を有する人よりも少ない量が適当である
 3) 65歳以上の高齢者においては、より少量の飲酒が適当である
 4) アルコール依存症者においては適切な支援のもとに完全断酒が必要である
 5) 飲酒習慣のない人に対してこの量の飲酒を推奨するものではない 」

 飲酒が身体的、精神的、社会的な害があるとしながらも、むしろ健康で、正常な代謝能力のある者については、健康のために適量の飲酒を勧めているというのが日本の現状であることが判る。

 この適量は、1日当たりのアルコール飲料の適量の摂取量の目安として次のように具体的に示されている(一部筆者が計算)。

  ビール・・・・・・・・・・・中瓶1本500ml/アルコール量20g
  清酒・・・・・・・・・・・・1合180ml/アルコール量22g
  ウィスキー・ブランデー・・・ダブル60ml/アルコール量20g
  焼酎・・・・・・・・・・・・1/2合90ml/アルコール量25g
  ワイン・・・・・・・・・・・1杯240ml/アルコール量24g

 そうはいっても、厚労省のホームページの別の箇所(アルコール関連問題の予防、独立行政法人国立病院機構久里浜アルコール症センター 樋口 進氏)の記述には、ややニュアンスの異なる内容も紹介されているから、話はややこしくなる。

予防の大前提
この世からアルコール(酒)をなくすことはできない
米国における禁酒法の失敗が物語っている
酒とうまく付き合っていくしかない

 この原稿を書いているところで、厚労省から「健康に配慮した飲酒に関するガイドライン」が発表された(2024年2月19日付)と新聞やNHKなどの報道機関が一斉に報じた(2月21日)。余りのタイミングの良さに驚いたが、17ページにわたるこのガイドラインを読むと、当然ながら基本的な考え方は上記の内容と変わるところはない。

 ただ、今回のこのガイドラインには、より具体的に疾病ごとに発生リスクが高まる飲酒量を示した表が添付されているので、引用する。

厚労省「健康に配慮した飲酒に関するガイドライン」より(P6, 表1)

 次の表は同時に公表された海外のガイドラインで、表1とは数値の基準が異なるが、参考にはなる。


厚労省「健康に配慮した飲酒に関するガイドライン」より(P7, 表2)

 他方で、少し前になるが、海外の報道の中には、1日にわずか1杯でも飲酒をすると、寿命が縮まる可能性があるとした研究結果を報じるものもあるので、比較してみる必要があるようだ。( 2018年4月13日、BBCニュース )

 「・・・飲酒する60万人を対象に調べたところ、1週間に5杯から10杯のアルコール飲料を飲むと、寿命を最大6カ月短くなる可能性があると判明したという。

 研究によると、寿命を縮めるリスクはアルコール消費量が多くなるにつれて高まる。1週間に18杯かそれ以上を飲む人は、寿命を最大で5年失うという。

 専門家はこの研究が、軽い飲酒は健康に良いという説に異議を唱えるものだと話している。・・・」

 こうなると、本当はどうなんだろうかと疑いたくなるのだが。さて、先の厚労省のサイトでも触れられているように、過去を振り返れば、飲酒を国家が統制しようとした例が多く存在するし、もちろんよく知られているように宗教上の理由で、現在も飲酒を禁じている国は多い。

 アメリカでは1920年頃には有名な禁酒法が制定された時代があった。そのほかにも古くは17世紀にオスマン帝国で禁酒令が制定されており、かのソ連でも禁止されたことがあって、これまでの国家による禁酒法制定や、禁酒令には次の様なものがある。


過去に禁酒令の出された国とその期間

 こうした禁酒令や禁酒法はどのような理由で決められたのであろうか。アメリカ(米国)での禁酒法について見ると、背景には宗教の戒律で飲酒を禁じているケースもあって、もともと道徳的な面で禁酒する風土は存在していたとされる。

 これに加えて禁酒運動の盛り上がりがあり、その目的は、多くの禁酒派団体が訴えていた、アルコール中毒や犯罪などのトラブルの発生を減らすことや、家庭内暴力や健康被害、治安悪化を減らすことなどであった。

 こうした強い圧力のもと、1917年12月、禁酒法を施行するために、アルコール飲料全般に関する禁止事項を記した憲法修正第18条の追加が議会で可決され、その後、各州の批准や法律の具体的な内容の調整が行われ、禁酒法(ボルステッド法)が1919年に確定公布、1920年1月より施行となった。

 消費のためのアルコールの製造、販売、輸送が法律により全面的に禁止された。しかし、ボルステッド法はアルコールの販売を禁止したが、法律を強制することはほとんど行われなかったとされる。

 一方、飲酒に対する国民の要望は根強く、またよく知られているように、無許可で酒を製造販売することで、マフィアの資金源となるなど、 社会的な弊害のほうがむしろ多くなるといったことから、この法律は1933年に廃止されるに至っている。この法律制定が失敗と評価される所以である。

 世界各国の一人当たりのアルコール消費量と国民の平均寿命を調べてみたが、直接的な相関は見られず、正常な範囲での飲酒はやはり個人の判断に委ねられるべきものと言えそうである。


国の一人当たりのアルコール消費量と国民の平均寿命(公開資料を参考に筆者作成)

 酒は飲むべし、飲まれるべからず

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雲場池の水鳥(27)オナガガモ

2024-02-16 00:00:00 | 野鳥
 冬の野鳥観察の楽しみの一つに、コハクチョウの観察がある。軽井沢に移住を決めた頃、安曇野方面にドライブに出かけて、初めて「白鳥湖」と呼ばれる場所のことを知り、これまでに、もう5回ほど出かけている。

 この犀川白鳥湖に2回目に出かけたのは2014年末のことで、年末に大阪から母が来ていて、ハクチョウを見たいというので一緒に出かけたのであった。

 この白鳥湖の近くにはもう1か所、やや下流にある「御宝田遊水池(ごほうでんゆうすいち)」という場所があり、ここにもコハクチョウが来ると現地で教えていただいて、そちらにも回ってみた。御宝田遊水池にはコハクチョウの他にも多数の水鳥が来ていたが、この時、数ではオナガガモが一番多く見られた。

御宝田遊水池のコハクチョウとオナガガモなどの水鳥(2014.12.31 撮影)


御宝田遊水池で餌に集まるコハクチョウとオナガガモなどの水鳥 (2014.12.31 撮影)


母の手から餌を食べるオナガガモ(2014.12.31 撮影)

 安曇野ではこのように多くのオナガガモを見ることができるが、朝の散歩に出かけている軽井沢の雲場池には、これまでその姿がなく、やってこないものだと思っていた。

 ところが、昨年9月25日の朝、まだ他の水鳥の姿もまばらな時期に、マガモ♂エクリプスやコガモに混じって、見慣れない2羽の水鳥がいるのに気が付いて撮影した。

 帰宅後、写真を確認したところ、嘴の色や、僅かに見える翼鏡やこれに沿った羽色などから、オナガガモのペアだと思えた。2羽の羽の色などはよく似ているが、1羽は♀、もう1羽の方は♂エクリプスで、こちらは安曇野で見た冬羽のオナガガモとは随分違っていた。次のようである。

オナガガモ♀(2023.9.25 撮影)

オナガガモ♂エクリプス(2023.9.25 撮影)

オナガガモのペア 1/3(2023.9.25 撮影)

オナガガモのペア 2/3(2023.9.25 撮影)


オナガガモのペア3/3(2023.9.25 撮影)

 しばらく見ていると、♂エクリプスの方が羽ばたいてくれた。

羽ばたくオナガガモ♂エクリプス 1/5(2023.9.25 撮影)

羽ばたくオナガガモ♂エクリプス 2/5(2023.9.25 撮影)

羽ばたくオナガガモ♂エクリプス 3/5(2023.9.25 撮影)

羽ばたくオナガガモ♂エクリプス 4/5(2023.9.25 撮影)

羽ばたくオナガガモ♂エクリプス 5/5(2023.9.25 撮影)

 オナガガモのペアを見ることができたのはこの日だけで、それ以後姿を見ることはなかった。 

 いつもの「原色日本鳥類図鑑」(小林桂助著 1973年保育者発行)でオナガガモの記述を見ると、次のようである。

 「形態 ♂は頭頸部暗かっ色で黒色の長く尖った尾羽が顕著。嘴峰44~57mm、翼長230~282mm、尾長♂177~210mm、♀37~47mm。跗蹠37~47mm。背は灰色で白色の小さな虫食い状はん密に散在す。肩羽は長く後方に延びて黒色にて白い縁がある。翼鏡は緑黒色にてその上縁は赤かっ色、下縁は白。下面は白色にて頭側では白色部上向している。♀は上面黒かっ色で黄白色の羽縁がある。下面は白でかっ色はんがある。尾羽は♂より著しく短い。

生態 欧亜大陸及北米の中部以北で繁殖し、わが国には秋期多数渡来する。北海道では旅鳥として春秋渡りの際にのみ出現し冬季は本州中部以南に多い。

分布 北海道・本州・八丈島・四国・九州・対馬・種子島などに渡来。」

 雲場池では、完全に冬羽に換羽した♂を見ることができなかったので、安曇野で撮影した姿を以下に紹介する。


オナガガモ♂(2023.1.6 撮影)

集まってくるオナガガモ(2023.1.6 撮影)

去っていくオナガガモ(2023.1.6 撮影)

オナガガモ♀(2023.1.6 撮影)

オナガガモ♂(2023.1.6 撮影)

 次は♂のはばたく様子。サーモンピンクの美しい縞模様が翼鏡に沿って観察できる。

羽ばたくオナガガモ 1/4(2023.1.6 撮影)

羽ばたくオナガガモ 1/4(2023.1.6 撮影)


羽ばたくオナガガモ 1/4(2023.1.6 撮影)


羽ばたくオナガガモ 1/4(2023.1.6 撮影)

コハクチョウとオナガガモ(2023.12.30 撮影)

首を長く伸ばし、警戒している様子のオナガガモ(2023.12.30 撮影)



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不思議なサークル

2024-02-09 00:00:00 | 軽井沢
 天気予報の大雪警報のとおり、関東地方にも久々の雪が降ったとニュースが伝えていた。長野市も、観測史上最多の2014年に並ぶ、10年ぶりの積雪となったようで、ここ軽井沢でも2日間で30cmほど雪が積もった。

 雪は5日の昼前から降り始めて、午後には次第に強くなっていった。夕方4時ごろになると、お向かいのご主人が主要道路からの私道部分の雪かきを始める姿が見えたらしく、妻が出て行って玄関先から表の道路周辺の雪かきを始めていた。

 2階でパソコンに向かっていて、ようやくこうした事態に気が付いたので、私も外に出ていき、妻と交替して自宅周辺の雪かきの続きを行った。この時は約15㎝ほど積もっていて、車はすっぽりと雪で覆われた状態になっていた。

 その後も雪は降り続いて、最後に車の雪を全部おろしてからそれを庭の隅に積み上げ終わったころには、先に除雪した玄関前の通路には再び数センチ程の雪が積もっていた。

 翌朝外に出てみると、昨日雪かきをする前と同じくらいの雪が降り積もり、玄関先から道路までは、再びすっかり雪に覆われ、車も同様、また雪の中にあった。

 雲場池もきれいな雪景色に変わっているだろうと思いながら、日課の朝散歩に出かけた。主要道路はすでに早朝から除雪車が通ったと見え、きれいになっているが、両脇の歩道部分は、通学路になっている片方は除雪されているものの、反対側は手つかずの状態になっていて、その上に道路から排雪された雪が積もっていて、長靴を履いていても、靴の中に雪が入り込んでくるので、歩道を歩くのを諦めて車道の端を歩いていった。

 雲場池に着いて見ると、入り口の小池は真っ白になっていた。この池は、もうだいぶ前から氷が張っていて、その上に小石や枯れ枝などが投げ込まれ、散乱していたのであったが、今は雪が降り積もったのですっかり隠れてしまい、真っ白くきれいになっていた。


全面が結氷した上に雪が降り積もった雲場池入り口の小池(2024.2.6 撮影)

 雲場池の傍には観光客らしい5人の若者がいて記念写真の撮影中であった。一人がカメラマンとなり4人が並んで写真を撮ってもらっている。中の一人が足元の雪を両手で掬い上げて、これを上空に向けて放り投げた瞬間を撮影していた。言葉の様子から中国系の観光客らしかった。

 彼らが横に移動したので、私はいつもの定点に立って雲場池の写真を撮ろうと柵に近寄ったところ、雲場池の表面は真っ白な雪で覆われているが、ところどころに雪が溶けた黒いサークルがたくさん目に入った。

雲場池に現れた不思議なサークル 1/10(2024.2.6, a.m.7:33 撮影)
 
 いつもこの場所では、スマホで先ず通常の撮影を行い、続いてパノラマ撮影をするのがルーチンである。

雲場池に現れた不思議なサークル 2/10(2024.2.6 撮影)

雲場池に現れた不思議なサークル 3/10(2024.2.6 パノラマモードで撮影)

 この後、池の周辺を歩きながら、水鳥などの撮影を行うのであるが、この日は、このサークルのことが気になり、池を1周しながら様々な角度からの撮影を行った。以下の様である。

雲場池に現れた不思議なサークル 4/10(2024.2.6 撮影)


雲場池に現れた不思議なサークル 5/10(2024.2.6 撮影)


雲場池に現れた不思議なサークル 6/10(2024.2.6 撮影)


雲場池に現れた不思議なサークル 7/10(2024.2.6 撮影)

雲場池に現れた不思議なサークル 8/10(2024.2.6 撮影)


雲場池に現れた不思議なサークル 9/10(2024.2.6 撮影)


雲場池に現れた不思議なサークル 10/10(2024.2.6 撮影)

 これまで、5年ほど雲場池の周辺を散歩しながら撮影を行ってきた。冬季期間も水鳥が増えるので、同様であったが、このように多くのサークルが出来ているところに出会った記憶はない。

 なぜ、こうしたサークルができるのだろうか、池の底からの湧水が影響しているのだろうか、あるいは時々見かけていたが、池の底から立ち上る泡が原因となっているのだろうか、それとも池底に棲息している生物が関係しているのだろうかなどと、池周辺を歩きながら考えてみたが、うまく考えがまとまらない。

 帰宅後、ネット検索で類似の画像を探したところ、よく似た円形のものや、放射状のものが見つかった。それによると、この種のパターンは「氷紋」と呼ばれていることが分かった。

 この話を、我が家の検索エンジンである妻にしたところ、早速いろいろと調べて、10年前の日本雪氷学会誌「雪氷」に関連論文が掲載されていることを見つけてくれた。次のようである。

解説:
結氷した湖面などに形成される氷紋
ー放射状紋、同心円氷紋、懸濁氷紋の生成過程ー
東海林明雄(とうかいりん あきお 北海道教育大学名誉教授)
日本雪氷学会誌「雪氷」、76巻5号(2014年9月)355-363 頁

要旨:
 「結氷湖面や池の氷面に降雪後、放射状氷紋、同心氷紋、懸濁氷紋と呼ぶ 3 種類の氷紋が現れる。こ れらの氷紋の形成メカニズムの研究は 20 世紀の初頭以来、世界中で行われ、多数の論文が発表されてきていたが、何れも推測された根拠に基づく理論ばかりで、確実なことは解っていなかった。筆者は 結氷湖面における観測と、その結果に基づく結氷湖面と低温室での氷紋人工生成実験により、その形 成の基本原理を解明した。つまり、氷紋は結氷面上に積雪がある時に氷に孔があき、氷の下の水が噴出することによって形成されるのである。放射状氷紋は、氷板上の積雪中を噴出水が雪を融かし、ヒトデ状または蜘蛛ヒトデ状の水路を作りながら拡散する時に形成される。同心円氷紋は、放射状氷紋のヒトデ状模様に多重の同心円が積み重なってできる氷紋で、この同心円は積雪板の陥没によってで きる。懸濁氷紋の形成原理は放射状氷紋と同じであるが、噴出水が懸濁粒子を含むことが生成条件で ある。これらの発見は、それまでに一世紀近く世界中で続いていた論争への解答となった。」

 当該論文によると、私が雲場池で撮影したサークルは、円形浸水斑とされるものによく似ており、形成メカニズムから、上記の3種の氷紋分類の中の、放射状氷紋の一種として説明されている。論文中の次の図にこうした氷紋の生成メカニズムと分類が示されている。

 
氷紋が生成されるメカニズムを示す図(日本雪氷学会誌「雪氷」、76巻5号 p361より)

 要旨と重複するが、この論文では、氷紋の生成プロセスを本文中で次のように説明している。

 「氷紋形成の条件は、・・・整理すれば次のようになる。 結氷の上に雪が積もり、氷が雪の重みで水中に押されて、水位が結氷の表面を越しているとき、 何らかの原因による孔が結氷板にできると、この 孔から氷板の下の水が噴出する。噴出水の温度 は、一般に摂氏プラス数度の比較的高い温度であ る。従って、噴出水は噴出口付近の雪を融かす。噴出水は雪を融かして氷板上の積雪中に水路を形成しながら放射状に流れて、(上図の下左端に示すような)模様が でき上がる。・・・」

 なるほどと、よく理解できる説明である。では、池に張った氷に孔ができるのはどのような理由によるのだろうか。論文には、この氷紋噴出孔についての説明もなされている。

 「氷紋噴出孔の生成原因として、まず、結晶の三叉境界の融解があげられる。氷板の氷は多結晶なので、三つの単結晶が接する三叉境界が存在する。氷板を零度に保つならこの三叉境界で氷が融解し、孔ができることが解っている。・・・
 この他に、氷紋の噴出孔には、氷板の割れ目、湧水や湖底からのガスの噴出による、湖水の対流等の原因によるものがある。・・・」

 私が、散歩中にぼんやりと考えていた湧水や泡なども理由の一つとして考えられているようである。雲場池に現れた氷紋の場合、こうした理由のどれに該当していたのだろうか。

 普段、水温が高く結氷することのまれな雲場池の様子を見ている私には、もう一つ別の可能性も思い浮かんでいる。それは、「結氷」➡「降雪」➡「噴出孔形成」の順序ではなく、「降雪」➡「部分結氷」という順序の可能性はないだろうかということである。

 先に雲場池が全面結氷しているところに雪が降り積もったのではなく、大量の雪が降ってきたために、池表面に雪が層状に浮かび、これが凍り始めたのではないか。その時、池の底から泡などが上り、微小な対流が起きることで、池表面にやや温度の高いスポットがあるとすれば、この部分に降った雪はすぐに溶けてしまうので、氷が張ることはない。従って噴出孔形成というプロセスを考える必要もない・・・。 

 そんなことを考えているうちに、この日の雪は6日午後には止んで、それ以上積もることはなかった。翌朝は青空も広がり、道路の雪もだいぶ解けて、黒い地面も見えるようになってきた。

 前日見た雲場池の不思議なサークル「氷紋」は、どうなっているだろうかと思いながらいつもの朝散歩に出かけたところ、雲場池は普段通りの景色にもどっていて、池の氷は完全に溶け、氷紋も跡形もなく消えてしまっていた。

氷が解けていつもの状態に戻った雲場池(2024.2.7 撮影)

 氷紋のその後の変化の様子が見られるかもしれないとの期待は残念ながら外れてしまった。
 
 次回、もし同じような現象が見られたら、その時はもう少しこまめに観察してみたいものと思う。

 尚、参考までに氷紋が出現する前日朝の雲場池の様子を示しておくと、次の様である。池に氷は張っていなかった。


氷紋が発生する前日の雲場池(2024.2.5 撮影)



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ウインターフェスティバルと氷彫フェスティバル

2024-02-02 00:00:00 | 日記
 軽井沢町では、昨年11月25日からウインターフェスティバル2024が開催されていて、最終日の今年2月29日までの間、様々なイベントが催されているところである。

 期間中、町内各所でイルミネーション装飾が行われる他、白糸の滝ではライトアップが行われている(2月12日まで)。スポーツでは、少年アイスホッケー大会(12月9日、10日)やスケート競技会(12月24日、1月20日、21日)がすでに開催されており、今後オープンカーリング大会(2月17日、18日)も予定されている。

 大賀ホールでは12月17日にクリスマスコンサートが行われた。

 
軽井沢ウインターフェスティバル2024のパンフレット表紙

 そうした中、松本市では氷彫フェスティバル2024が行われることをTVニュースで知り、写真撮影も兼ねて出かけてきた。軽井沢でも、かつては氷彫刻国際展が行われていたと聞くが、いつの間にか中止されているので、少し離れているが久々に松本城を見たかったこともあり出かけたのであった。

 軽井沢から松本まで行くには、上信越自動車道・長野自動車道を経由するルートと、国道18号と254号を通るルートがあるが、所要時間はそれぞれ1時間51分と1時間53分であり大差がない。一方キロ数ではそれぞれ112㎞と74㎞ということなので、迷うことなく一般道を通るルートを選択した。

 このルートは、軽井沢と松本とを、ほぼ最短距離で結ぶもので、三才山トンネルが無料開放されたこともあり、とても便利に使うことができるようになっている。また、冬の今の季節でも安心して通行できる。

 この氷彫フェスティバルは正式には国宝松本城氷彫フェスティバル2024となっていて、主に松本城公園内堀沿いに氷彫刻が展示されるが、他に松本市美術館、大手門枡形跡広場、中町蔵シック館、松本駅前広場にも展示される。松本市に入ってから、妻と私は松本城を目指し駐車場を探したが、城北側の駐車場は12時時点ですでに満車の赤い表示が出ていた。仕方なく、城の西側に回り込むと、幸いにもここに小さめの新しい駐車場があって、1台分だけ空きスペースがあり、停めることができた。


メインの会場となった松本城(2024.1.28 撮影)

 目指す氷彫刻は堀の南側に沿って配置されていた。今回は3D撮影が主目的であり、早速、全国氷彫コンクールチャンピオンシップ参加作品を松本城を背景に入れながら撮影していった。これらの作品は、氷彫師が夜を徹して午前5時までに制作したものというが、いずれも2mほどの高さのある立派なもので、次のようであった。
  


  
松本城と氷彫刻作品の3D写真 1/13・鶴〈夜明け〉(上:平行法、下:交差法 2024.1.28 撮影)
 



松本城と氷彫刻作品の3D写真 2/13・天下の大将軍(上:平行法、下:交差法 2024.1.28 撮影)



松本城と氷彫刻作品の3D写真 3/13・優美【銅賞】(上:平行法、下:交差法 2024.1.28 撮影)


松本城と氷彫刻作品の3D写真 4/13・闘鶏(上:平行法、下:交差法 2024.1.28 撮影)




松本城と氷彫刻作品の3D写真 5/13・天空(上:平行法、下:交差法 2024.1.28 撮影)




松本城と氷彫刻作品の3D写真 6/13・人魚姫と海の仲間達(上:平行法、下:交差法 2024.1.28 撮影)



松本城と氷彫刻作品の3D写真 7/13・深海のうたげ【金賞】(上:平行法、下:交差法 2024.1.28 撮影)




松本城と氷彫刻作品の3D写真 8/13・まだ見ぬ世界へ【銀賞】(上:平行法、下:交差法 2024.1.28 撮影)




松本城と氷彫刻作品の3D写真 9/13・その先へ(上:平行法、下:交差法 2024.1.28 撮影)




松本城と氷彫刻作品の3D写真 10/13・炎翔【特別賞】(上:平行法、下:交差法 2024.1.28 撮影)




松本城と氷彫刻作品の3D写真 11/13・アスクレピオスの杖(上:平行法、下:交差法 2024.1.28 撮影)




松本城と氷彫刻作品の3D写真 12/13・未来に向かって(上:平行法、下:交差法 2024.1.28 撮影)



松本城と氷彫刻作品の3D写真 13/13・ASTERISK(上:平行法、下:交差法 2024.1.28 撮影)

 作品中、No.2の「天下の大将軍」は軽井沢からの参加で、「軽井沢プリンス・万平ホテルチーム」によるものであった。 

 今年のテーマは「未来」「躍動」とされ、金賞に選ばれた作品「No.7 深海のうたげ」はクラゲを彫ったもので、たくさんの細い触手が見事に彫られているものであった。次に再掲する。


チャンピオンシップ金賞作品【深海のうたげ】(2024.1.28 撮影)

 夜間、完成後は赤や青にライトアップされ、プロジェクションマッピングで飾られた松本城と合わせ、さぞかし美しい光景が楽しめたものと思われるが、私たちは2時間ほど鑑賞・撮影の後、昼食をして帰宅した。期間中の松本の最低気温は氷点下6~7度台で、出場者は「良いコンディションだった」と話していたという。

 この祭りは、1980年頃に始まり、今回が37回目である。回数がやや合わないのは、途中で一旦終了が決まったり、コロナ禍で中止になったりしたことがあったためと思われるが詳しいことはわからない。

  ところで、軽井沢ではこの松本市の氷彫祭りに先立つこと十数年、昭和44(1969)年に軽井沢スケートセンターを会場に、第1回氷まつりを開催し、ここで氷像を制作し、人気コンクール投票を行っている。

 次の写真は第2回の軽井沢氷まつりのものであるが、大きな氷像が制作されていたことがわかる。観客数は第1回が3万5千人余、第2回が5万3千人余と記録されている(軽井沢町HP)。


第2回軽井沢氷まつり(幅 北光編「思い出のアルバム軽井沢」1979年 郷土出版発行より)

 この後も氷像制作は続けられ、昭和59(1984)年の開催時には、団体臨時列車「軽井沢氷まつり号」が上野ー軽井沢間に運行されている。

 翌、昭和60(1985 )年の第17回には「第1回氷彫刻」が開催され、第29回では軽井沢氷彫刻国際大会’97として国外13名・国内37名の氷彫刻家が参加、第30回には軽井沢氷彫刻国際大会’98として国外9か国35名・国内50名が参加するイベントに成長している。

 平成10-11(1998-1999)年に、「軽井沢氷まつり(第31回)」から現在まで続く「軽井沢ウィンターフェスティバル(第1回)」へ名称が変更されたが、氷彫刻大会は3本柱の1つとして継続され、平成14-15(2002-2003)年には「軽井沢氷彫刻(国際)大会」から「軽井沢氷彫刻国際展」に名称変更され、この年には町民有志による団体戦も行われた。

 ところが、平成19‐20(2007-2008)年の第10回では「氷彫刻国際展」の開催が見合わせられ、これ以降現在まで氷彫刻祭りも国際展も開催されていない。前年の第9回では、アメリカからナショナルアイスカービングアソシエーション会長のグレン・モトリー氏を招待し、海外選手アメリカ5名、ロシア2名、マレーシア2名、イタリア1名の参加で行われているので、休止には唐突な感じがする。

 理由は温暖化との説があるが、詳しくは判らない。実際、今回の松本城氷彫フェスティバル2024では、1月28日の1日限りの氷彫刻の展示であり、前夜から制作した氷彫刻は午後には一部溶けて崩れるものも出始めていたから、そうした可能性もあり得る話である。

 軽井沢は冬の寒さでは定評があるのだが、実際のところどのように気温が変化してきているのか、データを見ておこうと思う。

 次の図は気象庁のHPに記載されている軽井沢の1983年から2023年までの、10年ごとの年間の気温変化データである。




1983年から2023年までの軽井沢の気温(気象庁HPより) 

 このデータをもとに、8月、12月、1月、2月の10年ごとの平均気温の経年変化を図示すると次の様である。地球温暖化が叫ばれる中、確かに真夏の軽井沢の気温は上昇してきていると体感しているし、実際に8月の気温の上昇はデータからも読み取れるのであるが、冬季の気温はというと1983年から2023年までの40年間の変化は真夏ほどではなく、特に軽井沢で「氷彫刻国際展」の開催が見合わせられた2007年から2008年にかけての12月から2月の気温は、それ以前と比べて上昇は見られないと言えるのではないか。

 仮に温暖化が中止の主な理由でないとすれば、再び軽井沢ウインターフェスティバルで氷彫刻展が復活する可能性はあるのだろうか。期待したいところである。

1983年から2023年までの8月の軽井沢の気温(気象庁HPのデータから筆者作成)


1983年から2023年までの12月の軽井沢の気温(気象庁HPのデータから筆者作成)


1983年から2023年までの1月の軽井沢の気温(気象庁HPのデータから筆者作成)

 
1983年から2023年までの2月の軽井沢の気温(気象庁HPのデータから筆者作成) 

 
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