軽井沢からの通信ときどき3D

移住して10年目に入りました、ここでの生活と自然を写真と動画で発信しています

ヤママユ(3)繭作り

2018-09-28 00:00:00 | 
 5齢(終齢)になり、たっぷりと餌のコナラの葉を食べて大きくなった幼虫は、繭作りのために気に入った枝先を選んで、そこに頭を下にしてぶらさがる姿勢をとる。この時の幼虫の形は紡錘状に見える。


繭作りの準備に入ったヤママユの終齢幼虫(2016.7.10, 18:11 撮影動画からのキャプチャー画像)

 やがて、口から糸を吐き、コナラの葉の表面に十分糸をかけて準備をしてから、周囲の葉をたぐり寄せるようにして体の周りを囲んで、繭を作り始める。40匹ほどの終齢幼虫を飼育していたが、気が付くと葉の陰で繭を作り始めているといった具合で、なかなか繭作りの様子を最初から最後までうまく撮影させてくれない。

 次の写真は、紡錘状にぶら下がったので、繭作りの態勢に入ったと判断して、撮影を始めたのであるが、結局は2枚の葉を手繰り寄せて姿を隠してしまった例である。このようなケースは結構多く、撮影は意外に難しいものであった。


2枚のコナラの葉を寄せて姿を見えなくして、その中で繭を作り始めたヤママユの幼虫(2016.7.12 04:30 撮影動画からのキャプチャー画像)

 次の映像は、そうした中で、運よく最初から繭が出来上がるまでを見せてくれたものである。初めのうちは強力な尾脚で葉柄にぶら下がって糸を吐いているが、繭の形ができ始めると、体をその中にあずけてさらに繭の形を整えていく。繭作りを始めて約11時間弱、だいぶ繭らしくなってきたが、まだ中が透けて見えている。


ヤママユの繭作り(2016.7.10, 18:42~7.11, 05:20 30倍のタイムラプスで撮影したものを編集)

 さらに、2時間ほどして、繭は外からは中がほとんど見えないようになる。繭を作り始めてから、およそ13時間半後のことで、次の写真のように、美しい緑色の形の整った繭が出来上がった。


完成したヤママユの繭(2016.7.11, 08:15 撮影動画からのキャプチャー画像)

 このあと、羽化するまでの間、この外からは見えない繭の中では一体何が起きているのか、興味のあるところであるが、偶然その様子の一部を撮影するチャンスが訪れた。繭づくりに入ったのだが、何故かうまく糸を吐きだすことができず、粉のような白いものを吐いて、繭を作ることができずに飼育ケースの床にころがっている前蛹を1匹見つけた。

 以前、安曇野市天蚕センターを訪問した際に買い求めた、ヤママユの繭があったので、この一部をカットして、その中にこの前蛹をいれて様子を見ることにした。


別の繭の中に入れたヤママユの前蛹1/4(2016.8.5, 10:46 撮影動画からのキャプチャー画像)


別の繭の中に入れたヤママユの前蛹2/4(2016.8.6, 08:07 撮影動画からのキャプチャー画像)


別の繭の中に入れたヤママユの前蛹3/4(2016.8.7, 10:31 撮影動画からのキャプチャー画像)


別の繭の中に入れたヤママユの前蛹4/4(2016.8.7, 17:01 撮影動画からのキャプチャー画像)

 繭の中で蛹化が始まり、脱皮して蛹になると、蛹は激しくあばれて、勢い余って繭から転げだしてしまった。この様子は、カメラで撮影していたが、視野からはみ出してしまうくらいの動きであった。脱皮直後にすでに一部赤茶色に変化していた蛹は、再び繭の中に戻して様子を見ていると、時間がたつにつれてさらに色が濃くなり、2日後には茶褐色に変化していった。


脱皮後、激しく動いたために繭から転がり出したヤママユの蛹(2016.8.8, 06:05 撮影動画からのキャプチャー画像)


蛹化後の蛹の色ははじめ部分的に薄い茶色をしている(2016.8.8, 06:45 撮影動画からのキャプチャー画像)

水平に置いた繭の中で、蛹は器用に身体を回転させながら、だんだん色が濃くなっていく。


蛹の色は濃くなっていく(2016.8.9, 08:11 撮影動画からのキャプチャー画像)

 この蛹は意外にも順調に変態を遂げ、約1か月後の9月8日に無事羽化し、♀のヤママユの成虫が誕生した。この個体の様子を含め、ヤママユの羽化の様子については次回に紹介する予定である。
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ガラスの話(11)ガラスの色とネオジムガラス

2018-09-21 00:00:00 | ガラス
 ガラスは、水晶と比べられるクリスタルガラスの無色透明の美しさととともに、さまざまな色もまたその魅力のひとつに数えられる。3500年ともいわれる、長いガラス工芸の歴史の中で、着色ガラスを得る技術は、すでにその初期の、紀元前15世紀前半にメソポタミア地方で作られた壺や、エジプトで作られた杯や壺に見ることができる。

 今、手元に「世界のガラス3500年史」と銘打たれた、「ぐい吞み」のセットがある。これは、ガラス工芸史の研究者であり、ガラス工芸家でもある由水常雄氏の監修・製作によるもので、これまでの様々なガラス器の製造技法を再現したものである。

 全部で、16種類の特徴あるガラス器の製造技術が再現されていて、紀元前1500年のメソポタミアで作られたミルフィオリガラスから、19世紀の日本で作られた江戸切子や薩摩切子、20世紀前半のアール・デコの時代に現在のオーストリアで作られた、黒色エナメルを被せたものまでが、現代の技術により製作されている。


由水常雄氏監修・製作の「世界ガラス3500年史」ぐい吞みコレクションの全体

 これらのうちから代表的なものを見ていただこうと思う。


古代メソポタミア(前)16世紀「ミルフィオリ・グラス杯」:ミルフィオリ技法


古代エジプト(前)15世紀「トトメス三世杯」:コア・グラス技法


古代中国1世紀「劉勝の耳杯」:パート・ド・ヴェール技法


古代ローマ1世紀「縦稜杯」:特殊吹きガラス技法


ササン朝ペルシャ4~5世紀「白瑠璃杯(正倉院所蔵)」:吹きガラス・カット技法


ビザンチン12世紀「コリント・グラス杯」:宙吹きブラント付技法


イスラム13世紀「エデホールの杯」:宙吹きエナメル絵付技法


ドイツ15世紀「森林ガラス」:ヴァルト・グラス技法
 

アメリカ18世紀「スティーゲル・グラス杯」:型モール吹き技法


イギリス19世紀「銅赤被せカット・グラス杯」:被せガラス・カット技法


日本薩摩19世紀「薩摩切子杯」:被せガラス・カット技法


フランス19世紀末「アール・ヌーヴォー杯」:カメオ・ガラス技法

 
オーストリア1925年様式「アール・デコ杯」:型吹き・カット・エナメル彩色技法

 ほとんどが着色ガラスを使用して作られている。ガラスの着色技術については、現在ではよく理解されているが、主に金属酸化物をガラス原料に添加する方法でおこなわれていて、次のようである(「ガラス工芸」由水常雄著 1975年ブレーン出版発行より)。

 鉄(酸化鉄)・・・青、青緑、黄
 銅(酸化銅)・・・緑、赤
 マンガン(酸化マンガン)・・・緑、赤褐色、黒
 コバルト(酸化コバルト)・・・濃紺
 ニッケル(酸化ニッケル)・・・青紫、紅
 クロム(酸化クロム)・・・橙、黄、緑、暗緑
 ウラニウム(酸化ウラニウム)・・・黄~緑(緑色の蛍光を発する)
 セレニウム(酸化セレニウム)・・・黄、橙、紅、褐色
 金・・・紅、紅紫
 銀・・・黄、赤黄
 硫黄・・・黄~褐
 炭素・・・黄~褐(ただし硫黄分が含まれていないと発色しないという)
  
 これらの発色には、金属イオンによる発色と、金属元素、および非金属元素のコロイドによる発色とがある。コロイド発色は、均一溶解後一旦冷却したガラスを再加熱することで得られるもので、上記中、金による紅・紅紫、銀の黄・赤黄、銅の赤、セレニウムによる紅などが該当する。

 同じ金属酸化物を用いて、種々の色が得られているが、これらはガラスの組成、溶解する(酸化還元)雰囲気、溶解温度などの違いによる。また、上記の主成分のほか少量の添加物の影響もあって、目的の色を得ることはなかなか難しく、経験的な要素もあるとされている。

 リキュールグラスやワイングラスなど、こうした方法で様々に着色され、赤色から紫色までの各色がそろったものが販売されていてなかなか楽しい。


サン・ルイ社のリキュールグラスセット


モーゼル社のワイングラスセット

 古くから知られていた前述の金属酸化物のほかに、20世紀になって新たに希土類元素が着色剤に用いられるようになった。セリウム、ネオジム、エルビウム、プラセオジムなどである。

 酸化セリウムは、酸化チタンとともに添加されると、ガラスを黄色に着色させる。酸化エルビウムは、非常にきれいなピンク色を与える。酸化ネオジムは、可視光の550~590ナノメーター(黄色光)の波長域を強く吸収し、青色域と赤色域とに可視域を分割している。そのうえ、ネオジムで着色されたガラスは、その厚みが薄いと青色が目立ち、厚いと赤色が目立つ吸収を示し、これは二色性と呼ばれている。プラセオジムは単独では淡緑色を与えるが、ネオジムと共に用いると(ジジウム)二色性が最も著しくなるとされる。

 二色性のこのガラスは光源の色調変化によりその色が極めて鋭敏に変化する特徴がある。その様子は次のようである。ここでは、都合で最近発売されたLEDランプと蛍光灯による差を撮影したが、赤色の光をより多く含んでいる太陽光下では、さらに紫色が強く感じられる。


ネオジムガラス製のデキャンタ・セット(左:白色LEDランプ照明、右:蛍光灯照明)


ネオジムガラス製花瓶(左:白色LEDランプ照明、右:蛍光灯照明)


ネオジムガラス製ワイングラス(左:白色LEDランプ照明、右:蛍光灯照明)

 光源のスペクトルが違っていれば、こうした現象が見られるのは当然のことと思われるかもしれないが、酸化マンガンで着色したと思われるアメジスト色のガラス器と比べると、ネオジムガラスの変化が際立っていることが実感される。



酸化マンガン着色(推定)によるアメジスト色のガラス(左、右)ととネオジムガラス(中央)の比較(上:白色LEDランプ照明、下:蛍光灯照明)

 ネオジムが570ナノメーターにピークを持つ強い吸収を示すことと、我々が通常使用している昼光色や昼白色の蛍光灯は、太陽光や、この場合は白色LEDランプに比べて赤色光の割合が少ないことがこの原因であるとされ、一応理解はするものの、なかなか分かりにくい。そこで、CIE色度図の助けを借りて、より直感的に理解できるよう試みた。

 次の図で、ネオジムによる吸収色の位置を【黄〇】で示した。われわれが見るネオジムガラスの色はその補色と考えられるので、太陽光、白色LED、蛍光灯などの白色光源の位置【白〇~青〇】と、【黄〇】とを結ぶライン上の、【黄〇】と反対側のマゼンタから青色になる。今ではほとんど姿を消したが、照明光源に白熱電球を用いた場合には、色温度が3000度程度と低くなるために、ネオジムガラスの色は更に赤く見えることになる。



 ネオジムによる吸収である黄色の補色域は、マゼンタ色と青色のちょうど境界にあり、僅かな光源の色調、即ち図の黒体輻射のライン上の色温度の僅かの違いが増幅される形となり、我々の目には大きな色の差として感じられることがわかる。

 今回使用したものを含め、実際の白色LED光源や蛍光灯光源は波長の異なる光(2ないし3波長)の混色になっているので、図のように単純ではないことに注意が必要であるが、直感的な理解ができるのではと思っているがいかがだろうか。

 このネオジムガラスは、アレキサンドライトガラスとも呼ばれている。宝石のアレキサンドライトは、太陽光下や蛍光灯下では暗緑色を示すが、赤色系スペクトルの強い白熱灯や蝋燭の明かりの下だと色が鮮やかな赤色に変わる。

 これは黄色系スペクトルを吸収するクロムを含有し、また石が反射する光に赤色要素と緑色要素の両方が平均的に存在し、青みが強い光線の元では青色系の色を、赤みが強い光線の元では赤色系の色を反射するためであるとされている。

 ネオジムガラスとはその色変化の様子は異なるものの、類似している両者はとても興味深い。



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ヤママユ(2)2~4齢幼虫の脱皮

2018-09-14 00:00:00 | 
 前回からの続きになる。

 脱皮を繰り返しながら、幼虫はどんどん大きくなる。その様子を見ていると面白いことに気がつく。幼虫の胴体は、脱皮後成長していくが、頭部は固い殻(クチクラ)でできていて、こちらは一度脱皮してから次に脱皮を迎えるまで、大きさに変化は無いように見える。実際に、全く変化しないものかどうか厳密なことは今回観察できていないが、見たところではそのようである。

 それで、脱皮の瞬間を迎えると、内部からひとまわり大きくなった頭部がせり出してきて、それまでの頭部の殻は次第に剥がれて、新しい頭部の口元にぶら下がるようにしてくっついている。まるで、寸法の合わない小さなお面をくっつけているようで、なかなかユーモラスな光景である。


脱皮が始まり、古い頭部の殻を新しい頭部の口元にぶらさげた状態の2齢幼虫(2016.6.3 撮影の動画からのキャプチャー画像)

 古い頭部の殻を脱ぎ捨てて現れた、ひとまわり大きくなった新しい頭部は、はじめ白っぽい色をしているが、時間と共に変色して、次第に脱皮前の茶褐色になっていく。

 このヤママユより少し早いタイミングで成長していくウスタビガを同時に飼育していたが、こちらは脱皮を繰り返すごとに体の色と紋様が大きく変化していき、何齢であるかがわかりやすいのであるが、これに比べるとヤママユは変化が少なく、注意してみないと脱皮したかどうかわからず、今何齢かということも、判りにくい。

 そのせいかどうか、手元においていつも参考にしている「イモムシハンドブック」(2014年 文一総合出版発行)のヤママユの項の齢数は不明となっている。今回私が見たところ、すべての幼虫は4回脱皮し、5齢になると繭を作り始めるのであるが、何か理由があってこのように記載されているのであろうか。ヤママユのページの前後を見ると、カイコとウスタビガの齢数は5齢になっているが、シンジュサン、クスサン、ヒメヤママユ、オオミズアオ、エゾヨツメなど多くの種の齢数も不明と記載されている。

 前回見たように、1齢幼虫は黄緑色の体に縦に黒い縞模様が走っている。また、頭部の後方と尾部の上面に黒班がある。これが2齢になると、黒い縞はほとんど見えなくなる。また、脱皮直後には見えないが、しだいに濃くなってくる黒点も、1齢に比べると位置が変化して、頭部のすぐ後と、尾脚の両脇にみられる。

 このように比較的はっきりとした変化があるとまだ判りやすいが、2齢から3齢への脱皮のばあいは、いまひとつ特徴がつかみづらい。頭部の色は1~2齢では茶褐色であるが、3齢ではやや緑色に変わり、4~5齢では緑色であるとされるが、脱皮直後と次の脱皮直前とでは体の大きさだけではなく、色や文様なども微妙に変化してくるので、よく見ないと今何齢なのかわかりづらいというのも事実である。ただ、脱皮前後の二匹を並べてみると、次のようであり、その違いがわかりやすい。

 最初は、脱皮前の1齢幼虫(左)と、脱皮後の2齢幼虫(右)のツーショット。1齢幼虫の縦縞模様がはっきりしている。


ヤママユの1齢幼虫(左)と、脱皮後の2齢幼虫(右)(2016.5.26 撮影動画からのキャプチャー画像)

 次は、脱皮前の2齢幼虫(右)と、脱皮後の3齢幼虫(左)のツーショット。2齢幼虫の黒斑は、脱皮直後の上の写真では見られなかったが、脱皮直前になるとはっきりと見える。

 
ヤママユの2齢幼虫(右)と、脱皮後の3齢幼虫(左)(2016.6.3 撮影動画からのキャプチャー画像)

 この写真にも見られるが、3齢になると尾脚が大きく発達して、横に張り出すようになる。この尾脚が枝などをつかむ力は強大で、幼虫を移動させようとしてつまんで枝から引き離そうとしても簡単にはいかない。下手をすると幼虫の腹部を破ってしまうことがあるという。
 
 ところで、幼虫の、餌のコナラの葉の食べ方は、1齢の場合は食べる量もごく僅かで、特にこれといった特徴はみられなかったが、早くも2齢になるとヤママユらしさが見られ、葉脈に沿って齧る傾向がみられるようになる。まず2齢幼虫の食餌の様子から見ていただく。
 

ヤママユ2齢幼虫の食餌(2016.5.28, 16:32~33 撮影)

 続いて2齢幼虫が脱皮して、3齢になるところを見ていただく。


ヤママユ2齢幼虫の脱皮(2016.6.4, 12:34~13:48 最初の30秒間は30倍タイムラプスで、その後はリアルタイムで撮影後編集)

 次に、これは常にこうした行動を取るわけではないのだが、脱皮して3齢になった幼虫が、少し経ってから、脱ぎ捨てた殻を食べる様子が撮影できたので紹介させていただく。


脱皮後の殻を食べるヤママユ3齢幼虫(2016.6.5 12:54~13:36 30倍タイムラプスで撮影)

 この場合のように、幼虫にコナラの葉を1枚づつ与えていると、脱皮した殻はそのまま葉の上に残っているが、コナラの枝ごと容器に水差ししている場合には、脱皮後の殻は、下に落下することもあり、幼虫がこれを食べることはできない。幼虫が、脱ぎ捨てた殻を食べる理由は明らかではないが、捕食者に見つからないためだとすれば、殻が落下すればそれでいいわけで、枝や葉に残っている場合にだけ食べる必要があることになる。今回撮影したケースはそれに当てはまるのかもしれない。

 幼虫が、3齢くらいになると食べるコナラの葉の量も増え、エサの確保が次第に大変な仕事になってくる。自宅庭にコナラの木があると問題ないのであるが、近隣のお宅の庭にはあっても、残念なことに我が家にはコナラの木はない。そこで、山地に出かけて、コナラの枝先を採取することになる。たくさんの幼虫を飼育していたので、このコナラ採取作業が数日おきの日課になった。

 自然界では、野鳥などの餌になり幼虫の数は減少していくのであろうが、飼育しているとほとんど数が減ることもなく、幼虫はすくすくと成長していく。このころまで、200匹ほどの幼虫を飼育し続けたが、さすがにこの先のことを考えるとエサの確保が非常に大変なことになるのが目に見えてきたため、対策が必要になった。

 庭先にコナラの木が生えている、ご近所の奥様に妻が話を持ち掛けると、「飼ってみたい!」ということになり、数匹が養子に出た。このお宅では、幼虫がコナラの葉を食べているところを眺めていると、「癒される」のだそうである。最終的に羽化するところまでを見届けていただいた。

 そのほか、軽井沢から少し離れた場所に別荘を持つ友人に幼虫を貰っていただいた。ここは、軽井沢に較べるとやや気温が高く、庭にはコナラのほかクヌギの木も多くあったので、幼虫にとってはより良い環境に移ることができたのではないかと思っている。

 ところで、幼虫の脱皮の始まりから完了まではかなりの時間がかかるため、その様子を撮影するにはタイムラプスで行うことが多くなる。直接目で観察していると、なかなか気づかないのであるが、30倍のタイムラプスで撮影した映像を後で見ていると、脱皮がはじまる少し前から、幼虫の体は波うつような動きを見せる。そして、頭部の後ろの皮膚が破れて、古い皮膚は胸の方へさらに尾脚の方へとたぐり寄せられるように縮んでいく。これは、どの齢の場合も同じであるし、他種の蛾や、蝶の場合でも同様であるが、見るたびに感心させられる。

 孵化から4週間が過ぎ、6月の中ごろになると、3齢から4齢への脱皮が始まった。


ヤママユ3齢幼虫の脱皮(2016.6.16, 14:00~16:44 30倍タイムラプスで撮影後編集)

 4齢の幼虫は、色や外観が次の5齢ととてもよく似ていて間違えそうになるが、頭部の形状と大きさに違いがあり、よく見ると区別がつく。5齢の頭部は前の方がより平坦である。


ヤママユ4齢幼虫の脱皮(2016.6.24, 22:58~23:20 最初の10秒ほどは30倍タイムラプスで、その後はリアルタイムで撮影後編集)

 5齢(終齢)ともなると、食欲はとても旺盛になり、コナラの葉1枚を一気に食べてしまう。その時の食べ方はなかなか几帳面で、先に紹介したとおりである(2017.7.28 公開)。ヤママユの仲間は、この終齢幼虫時に食べるエサがその生活史の最後のものとなる。このあと、大きくなった身体に蓄えた養分だけで、糸を吐いて繭を作り、その中で蛹になり、そしてまゆから抜け出して成虫の蛾になって、次世代の卵を残して死んでいくというすべての活動をおこなう。成虫となった蛾には口がないとされるので、ヤママユ蛾は羽化してからも何一つ口にすることはないのだそうである。繭作りが始まる7月中旬から羽化が始まる8月中旬まで、約1か月余かかる。驚くべき生命力である。

 孵化時の幼虫は体長6-7mmほどで、体重は0.006gであったものが、およそ2か月後の繭を作る前の終齢幼虫では、体長7-9cm、体重15-20gほどにまで成長していた。


終齢幼虫の体長測定(2016.7.9 撮影動画からのキャプチャー画像)

 今回はここまでで、次回、ヤママユの繭作りをご紹介する。
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ヤママユ(1)孵化~1齢幼虫の脱皮 

2018-09-07 00:00:00 | 
 2015年の夏、長野県安曇野にある「天蚕センター」に出かけて、「天蚕」すなわち「ヤママユ」の飼育の様子を見学したことがあった。

 この天蚕センターについては、ウェブサイト(http://azumino.tensan.jp/yamako/yamako.html)に詳しいことが出ているが、我々になじみの「カイコ=家蚕」に対して、この地方では「ヤママユ=野蚕または天蚕」を天明年間(1781~1788)から飼育し始めたとされる。

 繰糸の方法を取得し、機械化も進めて、最盛期の明治30年(1897年)には、年間800万粒の繭を生産し、天蚕飼育の黄金時代を迎えていた。

 しかし、第二次世界大戦により生産が中止され、1943年頃には製繭は途絶えてしまっていた。戦後、長野県蚕業試験場松本支場有明天柞蚕試験地が設置され、ここで天蚕種の保存が続けられた。1973年ごろから飼育未経験の一般農家を説得するなどして、飼育を再開し、1977年には、天蚕飼育の復活及び飼育、繰糸、機織り技術を後継者へ伝承するための拠点として天蚕センターが建設された。

 現在、この天蚕センターでは、天蚕の歴史や生態が大変わかりやすく紹介されており、隣接している安曇野天蚕工房では、手機織りの実演も見学できる。また、敷地内に見学者用飼育ハウスもあり、天蚕の一生も見学できる。

 飼育用のクヌギの木が植えられた畑には全体を覆うようにネットがかけられ、その中で天蚕(ヤママユ)の飼育が行われていたが、ちょうど羽化の時期を迎えていて、ネットには翅を広げた成虫の姿も見られた。


自宅で飼育し羽化したヤママユ♂(2016.8.20 撮影)

 この少し前に、同じヤママユガ科の仲間の、ウスタビガを飼育して、蛹化と羽化の様子を3D撮影したことがあったので、次はこのヤママユを飼育し、孵化するところから撮影してみたいと思い、卵を分けていただけないか相談したところ、春になり、余裕があればお分けしますということであった。

 翌年になって、連絡をとり確認したところ、大丈夫ということになって、2016年春に200個ほどの卵を入手することができた。送られてきた卵は、前年現地で見学したものとおなじで、細長い和紙に、扁平な卵が20粒ほどの塊ごとに、糊で貼り付けられていた。

 このヤママユの養蚕は、明治以降、歴代の皇后が受け継いできた皇室の伝統でもあり、美智子皇后も、皇居で飼育されている。この卵を付着させた和紙を、ホチキスで孵化(ふか)後の餌となるクヌギの葉に留める作業は「山つけ」と呼ばれている。今年も皇居で5月2日に、この「山つけ」が行われたと、新聞各紙が報じていた。

  さらに、7月12日には、両陛下が天蚕の繭を収穫される様子が、各紙で次のように報じられた。「天皇、皇后両陛下は12日、皇居内で野生種『天蚕(てんさん)』の繭を収穫された。両陛下はハサミを使って薄緑色の繭がついたクヌギの枝を丁寧に切り落とし、天皇陛下は担当者に『病気は出ませんか。昔初めて天蚕を飼った時は茶色くなりましてね』と話されていた(日本経済新聞)」。

 さて、我が家に届いたヤママユの卵、まだ孵化までには時間があると思い、そのままにして毎月定期的に出かけることになっていた大阪に行っていたところ、軽井沢の妻から電話がかかり、ヤママユの卵から幼虫が孵化し始めたとの知らせを受けた。

 妻から送られてきたメールに添付されていた写真には続々と卵から這い出して来る幼虫の姿が写されていた。


和紙に糊で貼り付けてあった卵から孵化してきたヤママユの幼虫(2016.5.20, 10:44 妻撮影)


同上の拡大


 留守宅の妻は、慌てて幼虫の餌の木の葉を採りに行き、まだ孵化していない卵は冷蔵庫に入れ、孵化を遅らせる措置をとった。


餌の木の葉を食べ始めたヤママユの幼虫(2016.5.21, 17:05 妻撮影)

 安曇野の天蚕センターや皇居では、幼虫の餌に、クヌギの葉を与えているが、軽井沢では寒冷な気候の関係でクヌギは育たない。そこで、最初に与えた葉は近隣の山地で採ったミズナラであったが、幼虫はコナラの方が好みらしく、両方を与えると一斉にコナラの葉に移動していったので、以後はコナラの葉で育てることとなった。

 冷蔵庫に入れておいた残りの卵は、その後10日ほど経って,私が帰宅してから取り出したところ、また孵化が始まった。こうして、2016年のヤママユの飼育は先行する約100匹の集団と、これに遅れるやはり100匹ほどの集団の二つを育てることになった。

 そのおかげで、先行する集団を観察することで、幼虫の変化の様子をあらかじめ知ることができ、撮影にはとても有効であった。

 これから数回に分けて、ヤママユの成長過程を紹介させていただく。このヤママユは最終的に40頭ほどを自宅で羽化させることができ、採卵も行えたので、翌2017年、さらに今年2018年も同様に累代飼育し観察・撮影を行うことができた。

 まず、冷蔵庫から取り出した方の卵から幼虫が孵化し這いだしてくる様子を撮影した。幼虫は中から卵の殻をかじって穴をあけ、そこから這い出して来る。卵は和紙に糊で貼り付けられているので、容易に這い出すことができるが、撮影用にとまだ孵化していない卵だけを和紙から剥がした場合には、幼虫はしっぽの先に卵の殻をくっつけたまま、しばらく這って行くことになる。しかし、大丈夫、少し苦労をかけたが、どの幼虫も無事殻から抜け出すことができた。

 ごらんのとおり、ヤママユの場合、幼虫は抜け出した卵の殻を全部食べてしまうことはしない。以前紹介したモンキチョウ(2018.6.15 公開)の場合と、この点は異なっている。

 卵の大きさは直径が2.5㎜、厚さは1.9㎜ほどの扁平なもので、出てきた幼虫の長さは6-7mmといったところ。重さは測ったわけではないが、天蚕センターの資料によると0.006gという。この撮影はリアルタイムで行っている。
 

ヤママユの孵化1(2016.6.2, 13:33-35 撮影)


ヤママユの孵化2(2016.6.2, 14:10-13 撮影) 

 餌のコナラの葉を食べ始めると、幼虫はみるみる成長していくように見える。以前紹介した(2017.7.28 公開)ように、4齢から5齢位になると、几帳面な食べ方をするようになるのだが、この段階ではまだ決まった食べ方はしていないようだ。


コナラの葉を食べる1齢幼虫(2016.6.2, 22:14-17 撮影)

 先に孵化していた方の幼虫群は、1週間ほどで長さが倍の12-3mmくらいになると、次々と脱皮し、2齢になっていった。脱皮の少し前から幼虫は葉を食べるのをやめて、葉の上でじっとしている。脱皮後の幼虫は頭がひとまわり大きくなっていて、毛も長くなり黒い縦縞の模様は色が薄くなった。ちょうど2匹の幼虫がいて、一方が脱皮したので、脱皮前後での違いがよく分かる。


1齢幼虫の脱皮(2016.5.26, 23:12-22 撮影したものを編集)

次回に続く






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